カテゴリー: ジョブローテーション

ジョブローテーションとキャリアチャレンジは、社員にとって担当業務が変わり、経験の幅を広げるチャンスになるものです。一方でこの2つには、結果に至るまでのプロセスに「会社の意思として伝えられる」のか、「自分の意志を表明する」のかという大きな違いがあります。

ジョブローテーション
今回はジョブローテーションとキャリアチャレンジについて、仕事へのモチベーションとの関係を踏まえて説明します。人事異動やキャリア構築の手段を検討する材料として、参考にしてください。


①ジョブローテーションはモチベーションアップに繋がるか

ジョブローテーションとは企業が一定期間の勤続経験を持つ社員に対して、配置換えを行う仕組み。企業としては社員1人1人に様々な経験を積み、キャリアの可能性を広げてほしいという期待を込めて運用しているというのが一般的です。


対象になるのは新卒社員や幹部候補などがあげられます。そのうち、新卒社員にジョブローテーションを実施させるのは、多くの企業が採用時に実力よりもポテンシャルを見込んで、新社会人を組織に受け入れているためです。


能力・適性が不確かな新人にいろいろな業務を経験させ、最適な配置を見出すという意図から、半年~1年で繰り返しローテーションを実施する場合が多いでしょう。


一方で幹部候補に対するジョブローテーションは、将来会社の重要な役割を担うにあたり、会社全体の仕事を広く経験させるためのものです。さらに、各部署での人脈を作るという目的を果たす意味でもジョブローテーションは有効な機会となります。


幹部候補の場合は新卒社員よりも長期間でローテーションを実施することが多く、おおむね3年前後でそれぞれの仕事を経験していくというのが一般的です。このように企業としてはジョブローテーションに明確な目的を持って、社員に対してその機会を設けています。


さらに企業側の視点で見ると、1人の社員が長期間同じ仕事を担当し続けることには、業務の属人化を招くリスクがあります。企業には業務の一般化を行う意味でもジョブローテーションを活用したいという思惑もあるのです。


しかし、ジョブローテーションを経験する社員の思いは複雑です。場合によっては、ローテーションによって経験することになった新しい仕事よりも、一定期間経験を積んだもとの仕事に対して「戻りたい」という感情を抱くこともあります。


慣れた仕事に対する愛着は理解できますが、ジョブローテーションが必ずしも社員のモチベーションアップにつながるものではないという点は無視できるものではありません。会社の期待と社員の反応がマッチせず、頭を悩ませる企業・人事担当者も少なくないはずです。


このようなジョブローテーションをうまく機能させるには、どのように実施すればいいのか。まずはジョブローテーションとモチベーションアップの関係について、いくつかの事例を見ていきましょう。

 

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②ジョブローテーション成功事例

・株式会社ニトリ
<出典/https://www.nitori.co.jp/recruit/newgraduate/>

新卒採用ページトップに「配転教育」という言葉を掲げる同社では、様々な部門をまたいで経験を積んだ若手社員が活躍しています。入社後は半年に1度キャリアプランの見直しをする機会があり、その内容も踏まえてジョブローテーションを実施します。 ジョブローテーションの成果としては、どの部署の社員であっても店舗やWebを通じて商品を購入するお客様の姿を見据えた顧客主義は醸成され、現場スタッフとその他スタッフ双方のモチベーションアップにつながっています。


・株式会社WOWOW
<出典/https://corporate.wowow.co.jp/recruit/system/>

同社も新卒採用ページに「ジョブローテーション制度」についての説明を設けています。強調しているのは「携わったことのない仕事を知ることで、キャリアの可能性が見えてくる」ことと、ジョブローテーションはあくまで「育成の観点」で実施しているという内容です。


非常に高い専門性を持つスタッフが働くWOWOWでは、ジョブローテーションによって、異業種ともいえるような他の仕事の理解が促進されています。互いに仕事へのプロ意識に触れることで刺激が生まれ、モチベーションを高められる機会となっています。


・その他事例
他にも、ロッテやパイロット、ヤマト運輸、富士フイルムなど、様々な企業がジョブローテーションを実施し、自社の公式サイトでその内容を紹介しています。


これらの企業に共通するのは社内に様々な事業部やポジションがあることと、会社が社員に多くの経験を積ませたいと願っていることです。ジョブローテーションは複数の事業を展開し、長期的な目線で社員を育成しようとする組織でこそ有効な仕組みだといえるでしょう。


③失敗事例

失敗事例に共通しているのは、責任のあるポジション、つまりは管理職がジョブローテーションを行う場合の準備不足です。管理職は仕事の中で部下の相談にのり、懸案事項を決裁する立場。そんな管理職が他部署から突然新参者として加わると、既存メンバーの負担が大きくなります。


たとえば、それまではなかった「未経験の業務に慣れていない上司への説明」という余計な仕事によって、部下が疲弊するという事態になりかねないのです。また、管理職本人にとっても、業務知識の習得と同時にイチから信頼構築をすることが大きなストレスになります。


結果として、管理職のジョブローテーションは機能せず、「早くもとの部署に戻りたい」、「早くもとの上司に戻ってきてほしい」というネガティブな思考につながります。こうなってしまうと、本人や周囲のモチベーションを低下させることは避けられません。


管理職にジョブローテーションを実施する場合には新人が異動する場合よりも、周到に準備をし、十分な引継ぎを行う必要があります。ジョブローテーションによる異動であっても、上司が新しい部署での仕事を「なにも知らない」という状態にならないよう、注意が必要です。


④モチベーションアップとはそもそもどういうものか

ここまでジョブローテーションとモチベーションアップの関係をみてきましたが、そもそもモチベーションとはどういったものなのでしょうか。アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した欲求5段階説を参考に考えていきましょう。
<出典/https://www.ac-illust.com/main>


まず、上記の 5段階欲求をわかりやすく分解すると下記のような状態への欲求を指します。
▼生理的欲求/生きるために必要なものがそろっていること。
▼安全欲求/安全・安心して生活できること。
▼社会的欲求/社会に必要とされていること。
▼承認欲求/属している集団から承認・尊重されていること。
▼自己実現欲求/自分の能力を最大限発揮できていること。

上記においてモチベーションとは承認欲求と自己実現欲求に該当するものです。自分が所属する組織、つまりは企業や部署で必要とされることが感じられ、そこに自分の能力を最大限発揮できる環境があれば、人は高いモチベーションで仕事に取り組むことができるのです。


一方でどんなに今いる場所で必要とされ、努力や成果を賞賛されたとしても、それが本来やりたいことと違う仕事であれば、個人の自己実現欲求は満たされません。企業が社員のモチベーションを引き出す際に注目すべきはこの点です。


⑥離職・欠勤がなぜ起こるか

組織において、離職や欠勤は予見できるものとそうでないものがあります。離職を予見できればなにか打ち手を打つことも可能ですが、特にダメージが大きいのは、組織として期待をかけ、熱心に指導していたメンバーの突然の退職相談です。


このような事態が発生するのは、会社が満たそうとしている欲求と本人が満たしたい欲求にズレがあるからです。たとえば会社がジョブローテーションを実施することで、ある社員に幅広い経験を積んで成長できる環境を提供したとします。


一方でその社員にとっては今いる場所で専門性を高めていくことが、仕事の最も大きなやりがいだと感じていました。このような背景があった場合、ジョブローテーション後のミスマッチは避けられず、その社員がモチベーション高く働くことは難しくなるでしょう。


優秀な人であればあるほど、たとえ気持ちが落ち込んでいても、周囲からは高いパフォーマンスを発揮しているように見えます。しかし本人は「自己承認欲求」が満たされていないことにギャップを感じ、目の前の仕事に対して不満を高めていきます。


そうするうちにモチベーションが低下していき、欠勤やミスが増え、最悪の場合離職を考えてしまうという事態に行き着くのです。このような形で優秀な人材が社外へ流出していくことは企業にとって大きな痛手に他なりません。


そしてそのような事態を避けるために最近注目を集めているのが、キャリアチャレンジという考え方です。


⑦キャリアチャレンジとは

キャリアチャレンジは人材の持つ力を最大限発揮できるようにするための方法です。ジョブローテーションでは実現が難しいモチベーションアップと、組織内でのキャリアチェンジを両立する新しいキャリア構築の手法として企業に導入され始めています。


キャリアチャレンジの導入企業としては、人材系大手のパーソルキャリア株式会社や情報サービス大手の株式会社サイバーエージェントなどが一例です。今回はサイバーエージェントの「キャリチャレ」についてフォーカスしたいと思います。


サイバーエージェントでは1つの部署で勤続1年以上の経験を積むと、希望する他部門またはグループ会社への異動希望や社内留学を申請できる社内公募制度があり、これを「キャリチャレ」と呼んでいます。


オープンになっているポジションは300以上。その詳細は社内版求人サイトの役割を担う「キャリバー」にアップされ、更新されています。同社の社員は社内で募集がかかっているポジションを自由に見て、自分の希望をもとに新たな仕事にチャレンジできるのです。


一方で、同社にはジョブローテーションがないわけではありません。同社の社員には「キャリチャレ」によって自分のやりたいことにチャレンジするチャンスがあると同時に、会社から声をかけられる機会もあるのです。


同社ではこのようなキャリア構築のチャンスを「意志のキャリチャレ、(会社からの)期待のジョブロ」と呼んで両立することで、社員がモチベーション高く働き続けられる環境を作っているのだといいます。


⑧まとめ

ジョブローテーションは社員が様々な経験を積む機会を作ると同時に、仕事へのギャップを生んでしまう恐れがある制度です。近年生まれたキャリアチャレンジという考え方は、このようなジョブローテーションの難点を補うことができるでしょう。


一方で会社からの期待によって社員の思わぬ適性が開花することもあります。ジョブローテーションが劣っていて、キャリアチャレンジが優れているというわけではありません。サイバーエージェントのように2つの機会を両立させることが理想的なのかもしれません。


<参考文献>
https://www.persol-career.co.jp/recruit/workplace/career-challenge/
https://hcm-jinjer.com/media/contents/b-contents-composition-carryber-0329/

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