カテゴリー: 労働問題

2019年10月13日。日本自動車工業会の会長会見で、トヨタ自動車の豊田社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べました。

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この発言は様々なメディアで取り上げられ、ついに終身雇用時代の終焉がすぐそこまできていることを多くのビジネスパーソンに知らしめることになりました。今回はこの「終身雇用を守っていくのは難しい」発言を中心に、企業におけるシニア人材活躍と終身雇用の在り方について考えていきたいと思います。

①トヨタ自動車 豊田社長の「終身雇用を守っていくのは難しい」発言について

近年、日本社会で崩壊したといわれる「終身雇用制度」。トヨタ自動車 豊田章男社長が語った「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」という言葉から、大手企業も例外ではないということが浮き彫りになりました。

豊田社長はさらに「今の日本をみていると、雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘。経団連の中西宏明会長も「企業からみると(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」と同調する姿勢を示しました。

一方で雇用される側である労働組合幹部は豊田社長の発言に対して、「これまでのやり方では生き残れないという危機感の現れだと思っている」と反応。雇用側・経済団体・働き手、三者が旧態依然的な終身雇用という制度に限界があるという認識を示しています。

▼上記内容についての詳しい情報は下記をご覧ください。
「終身雇用難しい」トヨタ社長発言でパンドラの箱開くか
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/051400346/

●トヨタが対策を進めるシニア人材問題

終身雇用という企業と従業員の関係の在り方にトップ自ら言及したトヨタ。内部では大きな変革期を迎えているといいます。

日経新聞の取材に答えたトヨタの人事制度に詳しい関係者は「『やる気のない社員は要らない』という強烈なメッセージだ。ガラガラと崩し始めた人事制度を見れば、その真意が分かる」と語っています。

さらに、トヨタは今年1月、管理職制度を大幅に変更。55人いた役員を23人に半減し、常務役員・常務理事・部長級の基幹職1級・次長級の基幹職2級を「幹部職」として統合。「事実上の降格」を断行しました。

このような動きに対し、社内からは「ぶら下がっていただけの50代は評価されない。これから降格も視野に入るだろう」、「勤続年数や年齢ではなく、それぞれの意欲や能力発揮の状況をより重視する方向だ」など、様々な声があがってきているといいます。


▼上記内容についての詳しい情報は下記をご覧ください。
「終身雇用難しい」発言の舞台裏 トヨタ社長が焦るワケ
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00246/


●各社で露見する「50代問題」

トヨタへの取材の際にちらついた「50代」というキーワード。その他にも富士通やKDDIといった大手メーカーへの聞き取りのなかでも、1つのポイントとしてあらわれています。


たとえば事業売却を進めてきた富士通では、間接部門で50代が飽和状態にあるといいます。成長年代の人材を育成していくために配置転換をすると、50代の社員は環境変化についてこられず退職するという事態も少なくありません。50代が組織にとって活用しにくい人材層になりつつあるというのです。


また、通信サービス大手のKDDIも50代社員の意識改革の必要性を強く感じているといいます。というのも、50代の総合職社員の割合は現状で3割超、10年後には5割に急増する見込み。今後大量に抱える50代社員の生産性が課題になることが目に見えています。


こうした状況を受け、同社は50代の活躍推進を目指す社長直轄チームを発足し、社内調査を実施。明らかになったのは、「もう50代」という感覚といいます。同チーム室長は「現状に満足して安住している。これからバリバリ働きたいという『まだ50代』という人は少なかった」と厳しい顔で振り返りました。

▼上記内容についての詳しい情報は下記をご覧ください。
「終身雇用難しい」発言の舞台裏 トヨタ社長が焦るワケ
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00246/


②人材の停滞に悩む企業

大手各社が抱えるシニア人材問題に対して、さらなる抜本的な改革を実施したのはキリンでした。キリンHDとキリンビール株式会社は、キリンビール株式会社で最高益を記録した業績好調なタイミングで、早期退職者募集を発表。45歳以上の社員を対象に、人材整理の動きを見せたのです。


このような動きの背景には、事業構造の転換があります。キリンHDは2019年2月に2027年に向けた長期経営構想をまとめ、飲料1本から、「医と食」に関する領域への展開を明らかにしました。


「既存事業にとどまっていたら負ける。そのために一足先に人員を整理するということだ」という認識がグループ内にあると、関係者は語ります。


企業にとって社内に人材が停滞するということは新しい挑戦を行う際の妨げになるという見解があります。多くの企業が変革を行う背景には、今すぐに課題になるという認識ではなく、今後の景気変動に対応していくために、今から組織を身軽にしようとする意識だといえるでしょう。

●シニア人材を動かすことで若手人材を抜擢しやすく

企業の動きを妨げないためにという目的で、組織にメスを入れたのがパナソニックです。パナソニックはトヨタの改革を参考にしたとしていますが、目指したのは若手人材の抜擢・活躍でした。

パナソニックは2019年10月1日、執行役員数を3分の1に削減することを決定しました。そのうえで、執行役員から外れた人材や社内カンパニーの副社長、常務、参与をまとめた約240人からなる「事業執行層」を新設。これについて、同社幹部は「若手を抜てきしやすくなる」と説明しました。


年齢・経験の異なる人材を同じくくりでまとめ、競わせることで、危機感やライバル心をあおる狙いがあるといいます。この改革によって組織が活性化し、新たな活躍人材の突出に期待しているということです。このような措置は社内外に対して、会社の意図として伝わっていくことでしょう。

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「終身雇用難しい」発言の舞台裏 トヨタ社長が焦るワケ
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③新しい終身雇用の形

多くの企業が「終身雇用」を担保しないスタンスをとろうとするなかで、サントリーHDは新しい終身雇用の形を示そうとしています。同社が行っているのは、シニア人材にも手厚い教育を行い、より長期的に活躍できるようにするための地盤づくりです。


サントリーHDは2013年に定年を60歳から65歳に引き上げ、グループ全体でシニア年代の社員を正社員で雇い続けることを決めました。それまでは60歳以降は1年ごとの嘱託契約でした。そして、定年の延長に伴ってシニア人材に課したのが、1泊2日の宿泊研修だったのです。


社員が58歳になると、川崎市の研修所で泊まり込みの研修を開催。実は社内で参加必須の研修では唯一の宿泊型だといいます。グループに分かれて宿泊する研修中、参加者同士で社歴を紹介し合う時間があります。


海外で工場設立を経験した人、出向先企業で社長を務めた人、出産・育児をしながら仕事を続けた人、いろんな人がいることに参加者は驚くといいます。そういった多様性を知るコミュニケーションを通じて、集まった58歳の社員が「皆、自分以上に頑張っている。自分はまだまだ」だと思うそうです。

●シニア人材のモチベーションを上げて「リバイタル人材へ」

現在、サントリーHDのシニア人材に対する活躍支援は合計5つの研修として機能しています。上記の58歳時の宿泊研修は、「リバイタル(生気を取り戻す)」がテーマ。目指すのは60歳以降での活躍です。


その他の研修では国家資格を持つコンサルタントの座学や参加者同士の体験講座、懇親会での交流という形で、機会を設けています。2016年は全6回で計124名のシニア人材が参加しました。


これほどまでに手厚い環境について、ヒューマンリソース本部の課長は「一生成長したい、まだまだ戦力として働き続けたいという意識を改めて持ってもらう」ことが目的だと話します。


▼上記内容についての詳しい情報は下記をご覧ください。
60代、戦う覚悟はあるか シニア活躍の条件
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25990800S8A120C1X11000/


●「どちらが正しい」と切り分けられないシニア人材問題

日本は今後ますます少子高齢化が進み、社会全体、ひいては企業内で高齢化が進んでいくことになります。今回は豊田社長の発言に始まり、いくつかの大手企業のシニア人材問題への対処法を見てきましたが、その中にどれか1つの正解があるわけではありません。


人材を入れ替えて組織の若返りを図ろうという動きと、人材を再教育して高齢になってからもパフォーマンスを発揮してもらおうとする動き。それぞれにメリットがあり、それぞれに難しさがあるものです。


また、企業のなかにも、すでにシニア人材や終身雇用についての課題を抱えている組織もあれば、これから抱えることになる企業もあるでしょう。まずは様々な企業の取り組みや対処法を知り、自社でその知識が必要になった際にうまく参考にできる事例を集めておくことが大切なのではないでしょうか。

④まとめ

日本を代表する大手企業のトヨタですら限界を示した、終身雇用という企業と従業員の関係。副業やパラレルワークといった言葉を耳にする頻度が増えてきた昨今、企業としても従業員との付き合い方を見直さなくてはならない時期にさしかかっているのかもしれません。


これから働き手が大幅に減少していく時代が訪れるのは確実です。これまでの在り方に固執せず、組織と働き手、双方にとって良い形を目指していける企業こそが、今後も生き残っていくことができるでしょう。大手・中小問わず、様々な企業の対処事例を知り、備えるべきです。

 

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