人手不足は、日本社会における深刻な問題です。本記事では、人材不足の原因や影響、さらには業界や職種ごとの問題と対策について紹介します。高齢化や少子化など、社会構造の変化により、労働力の供給が減少しており、特に医療・介護業界やIT業界、物流業界などで人材不足が深刻化しています。また、働き方の多様化や需要の高まりも人手不足の要因となっています。これらの課題に対して、政府や企業がどのような対策を取っているのか、具体的なデータや動向とあわせて解説します。
目次
- 日本における人材不足とは
人材不足と人手不足の違い
目前に迫る2025年問題 - 日本における人手不足の現状
少子高齢化による若手の不足
非正規雇用の割合が増加 - 人材不足・人手不足が問題視されている業界や職種
医療・介護業界
IT業界
物流業界 - 慢性的な人材不足・人手不足の原因とは
働き方の多様化と一部業界・職種への需要の高まり
外国人材の獲得が難しい - 人材不足・人手不足による悪影響
生産性が低下する
1人あたりの負担が増え続ける
社員のモチベーション低下 - 人材不足の対策
教育とスキル開発の強化
リクルーティング戦略の見直し
労働条件の改善
外国人材の活用
テクノロジーの活用
フリーランスなど外部人材の活用
サーベイツールの活用 - まとめ
日本における人材不足とは
日本は長らく経済発展と高度な技術力で知られてきましたが、近年、人材不足、人手不足が深刻な社会課題となっています。まずは人材不足と人手不足の違いや、2025年問題との関連について解説します。
人材不足と人手不足の違い
人材不足と人手不足は、似ているようで異なる概念です。
人材は「才知ある人、役立つ人」、人手は「働く人」の意味を持ちます。
つまり、人材不足は特定の職種や分野において、必要なスキルや資質を備えた適切な人材が不足している状態です。一方、人手不足は業界や地域において、業務をおこなうのに十分な労働者を確保できていない状態を指します。
目前に迫る2025年問題
出典:厚生労働省 今後の高齢化の進展~2025年の超高齢社会像~
2025年問題とは、団塊の世代※に生まれたすべての人が後期高齢者に達し、社会保障費(医療・介護)の負担増や人手不足、人材不足が深刻化される問題のことです。
※1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)の間に生まれた世代
厚生労働省が公表している「今後の高齢化の進展~2025年の超高齢社会像~」によると、2025年には高齢者人口が約3,500万人になると推計されています。
人手不足の解決には、2025年問題に対する適切な対策が不可欠です。これには、高齢者の労働参加促進や働き方改革、外国人労働者の積極的な受け入れなどが含まれます。政府、企業、労働者が協力して、将来的な人手不足に備えるための戦略的な取り組みが求められています。
日本における人手不足の現状
現在も日本国内で人手不足が問題視されています。少子高齢化や非正規雇用の増加など、考えられる要因について解説します。
少子高齢化による若手の不足
日本は少子高齢化が進み、労働市場に深刻な人手不足をもたらしています。高齢者が増加する一方で、若年層の労働人口は減少しているため、企業は新たな人材を確保するのが難しい状況にあります。
出典:帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)
2023年4月の日本帝国データバンクの調査によれば、正社員の人手が不足している企業は51.4%、非正規社員は30%といったデータが出ています。
企業の多くが若手労働者の不足を認識しており、これに対する対策として人材採用や育成プログラムの充実化が課題となっています。また、若手の不足は、特に技術や専門知識が求められる職種において深刻な問題となっており、これが企業の成長を妨げている実態が浮かび上がっています。
非正規雇用の割合が増加
厚生労働省が公表している【「非正規雇用」の現状と課題】では、非正規雇用は2010年以降、増加が続き、2020年・2021年には減少したものの、2022年には再び増加しています。
また、非正規雇用者を年齢別で見たときには65歳以上の割合が増加しています。雇用形態ではパート・アルバイトが増加していることから、以下のことが考えられるでしょう。
- 定年後も働きたい、または働かざるを得ないシニア層が増加している
- 物価の高騰や働き方の多様化により、子育て世帯が家庭との両立のため非正規雇用を選択している
組織の成長や生産性向上ため、若手の正社員の定着率をあげたい企業側と、働きたい人の年齢層や環境、ニーズに乖離があると考えられます。
人材不足・人手不足が問題視されている業界や職種
日本全体で人手不足や人材不足が懸念されていますが、高齢者の増加によって今後の罹患(りかん)率や要介護者の増加が考えられる医療・介護業界、日本の成長に欠かせないIT業界は特に人材不足が深刻化しています。
また、社会インフラとして不可欠な物流業界では人手不足が加速しています。ここからは、それぞれの業界の人材不足、人手不足の現状と原因について解説します。
医療・介護業界
医療業界では、医師や看護師、技術者などの資格を要する職種において人材不足が深刻になっています。高齢化社会の進展に伴い、医療ニーズが増加している一方で、それに対応する医療従事者が確保できない状況が続いています。
介護業界も同様に、高齢者の増加に伴って職員の需要が急増しています。しかし、介護の仕事は身体的・精神的な負担も大きく、適切な人材確保が難しい状況にあります。
厚生労働省の「令和4年版 厚生労働白書」によると、2040年における医療・福祉分野の就業者数は約96万人不足すると試算されています。現在の推移より労働者の確保が進む前提であれば974万人の就業者が見込めるものの、少子高齢化が今後も進み、就業者を確保できなければ実質的には1,070万人が必要となる見立てです。
特に介護職は超高齢化社会となる日本にとって、最も需要の高い職種となっています。
しかし、労働者の負担の大きさに対して待遇が改善されないことから人手が集まらず、労働者の確保が課題となっています。
IT業界
IT業界でも人材不足に陥っています。経済産業省の「IT人材育成の状況等について」によると、2030年には約40〜80万人のIT人材が不足するとされています。
特にIT技術の急速な進化とデジタルトランスフォーメーションの進展により、想定よりも需要が伸び続けている傾向があります。そのため、需要の増加を3つの段階で見込み、シナリオ別で見ると、最大で2030年には80万人以上の人材不足になることが予想されています。
さらに、ただ人手不足であるというわけではなく、人材の要件にも変化が現れています。
例えば、IT人材といっても「IoT」や「AI」といった高度な技術を活用できる人材の需要が高まっていたり、様々な技術を導入する企業が増えたりしたことによって「情報セキュリテイl」に精通する人材の需要も高まっています。
適切な専門知識を持つ人材が不足しているため、企業が求めるプロフェッショナルの確保が困難な状況といえます。
物流業界
物流業界では、商品の需要増加やeコマースの普及により、物流担当者やトラックドライバーの需要が拡大しています。しかし、ドライバーの不足や物流施設の適切なスタッフ確保が難しい状況が続いているのが現状です。
物流は国土が狭い日本の経済発展に寄与しており、現代の重要なインフラであるといっても過言ではありません。しかし、トラックドライバーの供給推移と不足の予想をみると、2025年から2028年のわずか3年で7万人以上も不足すると懸念されています。
この要因としては、大きく3つ挙げられます。
- EC市場の成長
- 人口減少と高齢化による生産人口の不足(2024年問題)
- 働き方改革の施工による残業時間の短縮
2025年問題として知られる日本の人口構造の変化、需要の増加に加えて、これまでよりも働く時間が制限されることから、物流業界への影響が大きいと懸念されています。
特に新規のドライバーの担い手が不足している原因としては、介護職などと同様に1人あたりの業務量が多いことや、雇用形態や待遇に課題があると考えられています。
慢性的な人材不足・人手不足の原因とは
人材不足や人手不足を解消するには、根本的な原因を知る必要があります。
「なぜそのような事態になってしまったのか」「どのような原因で人材不足(人手不足)を引き起こしているのか」を知ることで、これからの対策方法が見えてくるでしょう。
ここでは、参考として日本全体の傾向から考えられる人材不足、人手不足の原因を2つ紹介します。
働き方の多様化と一部業界・職種への需要の高まり
働き方の多様化と一部業界・職種への需要の高まりは、日本における慢性的な人材不足の一因として考えられます。労働市場の変化や社会構造の変遷に伴い、人々の働き方が多様化したために、従来の雇用慣行にとらわれず、柔軟な働き方を望む人が増加しています。
特に、若い世代はワークライフバランスの重視や創造性を発揮できる職場を求め、従来の働き方に対する抵抗感が高まっています。
外国人材の獲得が難しい
もう一つの原因として挙げられるのは、外国人材の獲得が難しいことです。人手不足の解消策として、様々な産業で外国人労働者の積極的な受け入れが進んでいます。
厚生労働省の統計を見ても、年々外国人労働者数は増加傾向にあり、その内訳として技能実習や資格外の業務に留まらず、専門職や技術職の資格を持った人材の活用も高まっています。
しかし、言語や文化の違い、労働環境への適応などの課題があり、外国人材の採用が進んでいません。また、ビザの取得や法的な制約も障害となっています。特に、低賃金で労働力が求められる産業分野において顕著です。
外国人材の受け入れには、教育やトレーニングプログラムの整備、法的な枠組みの改善などが必要です。これにより、多様な人材が日本の労働市場に参入しやすくなり、人手不足の緩和に寄与することが期待されています。
人材不足・人手不足による悪影響
人材不足、人手不足はすぐに解消できる課題ではなく、コストもかかることからなんとか既存メンバーで持ちこたえようとしている企業も多いのではないでしょうか。
しかし、人材不足や人手不足を「どうしようもないもの・仕方のないもの」として放置してしまうと、以下のような悪影響を及ぼします。
生産性が低下する
人材不足や人手不足は、生産性の低下に直結する重要な要因です。一人当たりの生産量には限界があります。十分な労働者がいない場合、生産性の向上は見込めなくなるでしょう。
また、業務の遂行に必要なスキルや専門知識を持つ人材が不足すると、作業やプロジェクトの進行が滞ります。その結果、生産性の低下を招き、業績や利益に悪影響を及ぼす可能性があります。
1人あたりの負担が増え続ける
人手不足や人材不足が続く環境では、既存の社員が多くの業務や責任を引き受けざるを得ない状態です。これにより、1人あたりの業務負担が増加し、労働時間が長くなる可能性が考えられます。
長時間の労働は社員の健康やワーク・ライフ・バランスに悪影響を与え、結果として仕事への満足度や生産性の低下に繋がります。また、過度な負担が原因でストレスや健康問題が発生する可能性も高まるでしょう。
社員のモチベーション低下
人手不足や人材不足が続くと、既存の社員社員のモチベーション低下につながります。
適切なサポートや労働条件が提供されず、働く環境が厳しくなると、社員は仕事に対する意欲を失いがちです。モチベーションの低下は、生産性や品質の低下に直結し、組織の長期的な成功に影響を与える可能性があります。
実際に厚生労働省の調査でも、自己都合による離職の理由として賃金以外の労働条件が高い割合を占めており、仕事内容に給与が見合わない低賃金を理由に離職する人も少なくないことがわかっています。
人材不足の対策
人材不足の対策はいくつか存在しますが、どれか1つをおこなえばいいのではなく、複数を取り入れていくことが大切です。
ここからは人材不足に講じることのできる対策について解説します。
教育とスキル開発の強化
教育制度の改善や職業訓練の拡充は、人材不足対策の重要な取り組みとして挙げられます。現代の労働市場の需要に合わせたスキルや知識を提供するために、教育制度を見直し、より実践的な教育を導入する必要があります。
また、職業訓練プログラムの充実も人材不足の解決策として重要です。企業と連携して、必要なスキルや知識を持つ人材を育成するための訓練プログラムを提供することが求められています。職業訓練プログラムによって新たな人材を育成し、労働力の供給を増やすことが可能になります。
リクルーティング戦略の見直し
従来のリクルーティング手法が効果的でない場合、採用に向けた新しい戦略の導入が必要です。ターゲット市場の拡大やオンラインプレゼンスの活用など、効果的な採用戦略を検討します。
たとえば、採用イベント、キャリアフェアの活用、そしてSNSやプロフェッショナルネットワークの拡充など、時代に合った採用戦略を複合的に実施していく必要があるでしょう。
労働条件の改善
社員のモチベーションを向上させ、人材を引き留めるためには、高い水準の給与体系の構築や福利厚生の充実が重要です。給与水準が業界平均以上であったり、ボーナスや昇給制度が明確に定められていたりすると、社員は組織にとどまりやすくなるでしょう。
また、社員のワークライフバランスを支援し、働きやすい環境を整備することも重要です。
たとえば福利厚生として、リモートワークの導入、育児支援、特別休暇、特別手当などの制度の充実や有休取得のしやすさが挙げられます。
組織が社員のニーズに柔軟に対応することで、優秀な人材を確保しやすくなります。
外国人材の活用
外国人材の積極的な受け入れは、人材不足の緩和につながります。
外国人材を採用する際には、言語や文化の違いに対応するための研修プログラムや、ビザの取得プロセスのサポートなどが必要になります。多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れるのは、組織の柔軟性や競争力の向上にも寄与するでしょう。
しかし、外国人材の採用には特定の課題が存在します。言語や文化の違いによるコミュニケーションの障壁や、異なる労働習慣や価値観の理解が求められます。
そのため、組織はカルチャートレーニングを提供することが重要です。カルチャートレーニングとは、外国人材に対して異文化間の理解を促進し、円滑なコミュニケーションと効果的なチームワークを実現するためのスキルや知識を提供するプログラムです。
テクノロジーの活用
テクノロジーを活用して業務の効率化や自動化を進めることで、少ない人数でも生産性を維持できます。業界に応じた最新の技術やツールの導入、業務プロセスの見直しを行い、社員の負担を軽減させるのが目的です。
また、自動化やデータ分析を活用することで、業務の効率化や生産性の向上が可能です。
組織は最新の技術やツールを導入し、業務プロセスを見直し・改善により、社員の負担を軽減できるでしょう。さらに、データ分析によってリソースの適切な配置や人材プランニングが可能となります。これにより、人材のニーズやスキルのマッチングを把握し、適切な人材の確保につなげることができます。
人手不足を解消するためには、テクノロジーの活用と適切な人材プランニングの両方が重要です。
フリーランスなど外部人材の活用
一時的なプロジェクトや特定のスキルが必要な場合、フリーランスや外部の専門家を活用するのも有益です。外部人材を適切に採用し、内部の人材と連携させることで、柔軟な人材配置が可能となります。
また、外部人材を活用すれば、内部の人材には本業に集中できます。既存の業務に応えるだけでなく、新たなプロジェクトや課題に取り組む余裕も生まれるでしょう。
サーベイツールの活用
組織や個人の課題を可視化するにはサーベイ(調査)の実施が重要です。サーベイツールを活用すれば、社員の意見を効果的に収集し、組織内の課題や改善点を特定できます。これにより、人材の定着率向上や労働環境の改善に役立ちます。
サーベイは定期的な実施やフィードバックセッションを通じて、社員の声を積極的に取り入れ、組織の方針や制度を改善していくことが重要です。組織が社員の意見に真摯に向き合い、改善に取り組む姿勢を示せば、社員の満足度やエンゲージメントは向上し、結果的に組織の生産性の向上にもつなげられます。
まとめ
人手不足や人材不足は、生産性の低下、1人当たりの負担増加、社員のモチベーション低下を招きます。
確実に訪れる超高齢化社会、少子化による人口減少による人材不足や人手不足は誰が見ても明らかです。組織として生き残るには人材の確保が不可欠です。
本記事で紹介した人材不足の対策を総合的に取り入れることで、組織や産業の発展を促進できます。また、既存の人材を流出させないためには、組織内の環境を把握しておく必要があります。サーベイツールを活用して、組織や個人の課題を早期に把握し対応できるようにしておくのも有効です。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。