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企業にとって新卒社員は、未来を担う重要な人材です。
しかし、企業に定着する新卒社員は7割程度にとどまっているのが現状です。
新卒社員の定着率が低いままでは企業にさまざまなリスクが生じるため、対策が必要となります。

 

本記事では、新卒社員の定着率に関する現状や定着しない原因、定着率を向上させる方法などについて解説します。

 

目次

 

新卒社員の平均的な定着率の傾向

新卒社員の定着率の平均や傾向

一般的に新卒社員の入社3年以内の定着率は、7割程度とされています。
まずは、厚生労働省の統計である「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」をもとに、新卒社員の平均的な定着率とその傾向について解説します。

 

事業規模別に見る新卒社員の定着率

【図版】新規大卒就職者 3年以内の定着率×事業規模

出典:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します

出典:厚生労働省 令和4年就労条件総合調査の概況

 

新卒社員の定着率は、事業所の規模によって大きな差があります。
一般的に、事業所規模が小さい企業ほど定着率は低く、事業所規模が大きい企業ほど定着率は高い傾向にあります。

 

同資料の「新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率」から逆算して定着率を求めると、1,000人以上の事業所規模の平均定着率は約70%です。
一方で5人未満の事業所規模の定着率は約45%となっており、1,000人以上の事業所と約25%もの差があります。

 

この差が生まれるのは、「休暇取得のしやすさ」が要因として考えられます。
同じく厚生労働省が実施した「令和4年就労状況総合調査」によると、1,000人以上の規模の企業における年次有給休暇の平均取得率は63.2%です。
有給休暇の平均取得率は事業所規模が小さくなるごとに低下し、30人から99人規模の事業所では53.5%でした。1,000人以上の事業所と比較すると約10%もの差があります。
これが5人未満の事業所規模であれば、さらに取得率が低くなると考えられるでしょう。

 

以上の調査結果から、新卒社員の定着率と休暇取得のしやすさの関連が推測できます。
つまり、新卒社員の定着率が低い企業は、有給休暇の取得率を上げることで改善する可能性があります。

 

出典:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します

出典:厚生労働省 令和4年就労条件総合調査の概況

 

業界別に見る新卒社員の定着率

新卒社員の定着率は業界ごとに差があります。同調査において定着率が最も低い業界は「宿泊業・飲食サービス業」の約49%でした。
一方で、定着率が最も高い業界は「電気・ガス・熱供給・水道業」で約88%となっています。

<図>

【図版】大学新卒 産業別就職後3年以内の定着率

出典:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します(別紙2)

 

上記グラフから、サービス業関連は新卒社員の定着率が低く、生活インフラ関連は定着率が高い傾向にあることがわかります。
この業界間の定着率の差は、前述の有給休暇取得率や賃金、福利厚生などの違いに起因していると考えられます。

 

厚生労働省が公表した「令和5年版 労働経済の分析」では、離職率と賃上げの関係や、離職と福利厚生の関係について記載があり、賃上げや福利厚生などの付加価値が人員確保につながることが説明されています。

なお、どちらの指標も低いサービス関連業は離職率が高く、2つの指標の数値が高い生活インフラ関連の離職率は低くなっています。

 

出典:厚生労働省 「令和5年版 労働経済の分析」

 

定着率と離職率の違い

定着率と離職率の見方の違い

 

定着率とセットで使われる指標として、離職率があります。
定着率が「入社してから一定期間が経過した後も働き続けている社員の割合」を表すのに対して、離職率は「特定の期間内に会社や組織を離職した社員の割合」を表します。

 

定着率と離職率の定義を比べるとわかるように、定着率と離職率は補完関係にあります。
そのため、両方の割合を合計すると100%になります。
つまり、100%からどちらかの割合を引くことで片方の割合が算出できます。

 

新卒社員の定着率が低いことで起こり得るリスク

新卒社員の定着率が下がるリスク

 

新卒社員の定着率が低いと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 採用・教育コストが増加する
  • 人事担当者を中心とした既存社員のモチベーション低下
  • ノウハウの継承ができず事業継続が難しくなる
  • 企業イメージが悪化する

 

ここではそれぞれのリスクを具体的に解説します。

 

採用・教育コストが増加する

定着率が低下すると、新たに人材を確保するためのコストがかかります。
就職みらい研究所が発行している「就職白書2020」によると、2019年度の新卒採用では1人の採用につき平均93.6万円の費用がかかっているようです。

 

また、採用したあとも社員が一人前になるには教育や研修のコストがかかります。
新卒社員が早期退職してしまうと、その都度、採用・教育のコストが発生してしまうリスクがあります。

 

出典:就職みらい研究所 就職白書2020

 

人事担当者を中心とした既存社員のモチベーション低下

新卒社員の早期退職は、人事担当者や教育担当者のモチベーション低下を招く可能性があります。
担当者が、新卒社員と良好な人間関係が築けていたと感じていた場合はなおさらです。

 

モチベーションの低下が採用する人材の質に影響を及ぼす可能性があるため、企業にとっては大きな懸念材料になり得ます。
また、新卒社員の早期退職は「会社に問題があるのではないか?」と、担当者以外の社員の不信感を招く可能性があります。

 

ノウハウの継承ができず事業継続が難しくなる

新卒社員が早期退職すると、自社で築き上げてきたノウハウやスキルを次の世代へ継承できなくなります。
ノウハウの継承ができなければ、将来的に商品やサービスの品質が維持できなくなり、業績の低下を招く可能性があります。

 

また、若い世代の社員が減少すると、社内の高齢化が進み事業の継続が困難になるほか、新たなアイデアの創出機会が少なくなっていくなどのリスクも考えられます。

 

企業イメージが悪化する

新卒社員の定着率が低い事実が、インターネット上の口コミなどで社外の人に知られるようになると、企業イメージが悪化につながる可能性があります。

 

たとえば、「残業が多くて新卒社員が辞めてしまう」「新卒社員にも厳しいノルマが設定されるため退職が続いてしまう」といった口コミが存在すれば、たとえ真実でなくてもライフワークバランスを重視する若い世代にはいい印象を与えません。

 

働きにくい会社だと判断されてしまうと、新卒社員の応募者が集まりにくくなり、人材不足に拍車がかかる可能性があります。

 

新卒社員が定着しない原因

新卒社員が定着しない原因

 

新卒社員が定着しない原因はさまざまですが、入社前に抱いていた理想と入社後の現実でギャップが大きい場合や、給与面や勤務時間、休日日数などの労働条件が整っていない場合に離職につながると考えられています。

 

その他にも、対人関係によるストレスや、将来のキャリア形成に対する不安が離職を決断させるケースも考えられます。

 

ここからは、新卒社員の離職原因として考えられるものについて解説します。

 

理想と現実のギャップが大きい

理想と現実のギャップにショックを受けてしまうことを、「リアリティショック」と言います。リアリティショックによるモチベーション低下は、新卒社員の早期離職を引き起こす原因として十分に考えられるでしょう。

 

「自分のスキルや能力が仕事に追いつかない」「希望部署に配属されなかった」など、業務対する理想と現実のギャップや「懇親会で感じた雰囲気と違う」といった職場環境や人間関係についてギャップを感じてしまうと、早期退職につながってしまう場合があります。

 

特に採用活動の際、自社のいいところだけを伝えるような形で採用ブランディングをおこなっていた場合に起こりやすいため注意が必要です。

 

労働条件や労働環境が整っていない

「給与が安い」「残業が多い」「休暇・有給の取得が難しい」「休日出勤が多い」など、労働条件や労働環境が整備されていないことも離職の原因として考えられます。

 

厚生労働省の調査では、労働時間や休日等の条件面に対する不満や賃金への不満が、新卒社員を含む若手社員の離職理由において上位に位置しています。
プライベートの充実を重視する新卒社員の場合、ライフワークバランスが取れていないと感じると離職を決断するかもしれません。

 

新卒社員はインターネットがある環境で育ってきた世代です。
労働条件や労働環境に対する不満があると、ネット検索で企業の口コミを調べたり、他の企業の情報を集めたりして自社の労働条件に関する調査が容易にできます。

 

そして、自分の待遇が他の企業に勤めている新卒社員と比べて良くない感じた場合には、離職してしまう可能性が高くなるでしょう。

 

出典:厚生労働省 令和4年雇用動向調査結果の概況

 

社内の人間関係によるストレス

「上司や先輩社員とうまくコミュニケーションが取れない」「社内の人間関係が悪く相談しにくい」など、人間関係によるストレスも新卒社員の早期離職を招く原因として挙げられます。

 

入社直後の新入社員は、初めての社会人経験によるストレスを感じているケースもあり、人間関係が悪いと不安に感じるかもしれません。
また、パワハラやセクハラに代表されるハラスメントについても、人間関係のストレスに含まれます。

 

職場は1日のなかでも長い時間を過ごす場所であるため、不安な状態が続くとストレスが大きくなり、心身の不調を招きかねません。
そのような状態になれば、休職や離職につながる可能性も高くなるため、社内の人間関係に問題がある場合には早急な対策が必要です。

 

人材育成・キャリアアップ制度が整っていない

向上心の強い新卒社員は、自分の望むキャリアが形成できない職場だと判断したら見切りをつけて離職する可能性があります。

 

企業のキャリアアップ制度が不明確だったり、好成績を残している上司が昇進している様子が見られなかったりするなどの不安があると、「この会社にいてもキャリアアップできない」と感じるでしょう。

 

将来を見据えた育成制度やキャリアアップ制度が整備されているか、自社の制度を確認してみるのも大切です。

 

新卒社員の定着率の向上に向けた対策

新卒社員の定着率を向上させる対策

新卒社員の定着率向上は、企業の成長や安定した経営につながる重要な要素です。
そのため企業には、新卒社員の離職につながりやすい原因に対する改善策が求められます。

 

入社後のギャップによる離職リスクを最小限に抑えるためには、採用段階から働き方やキャリア形成が具体的にイメージできるような説明をおこない、ミスマッチを防止する取り組みが必要になるほか、入社してからは労働環境や評価制度の見直し、心身の健康に対するケアなども重要になります。

 

ここからは、新卒社員の定着を促す対策について解説します。

 

採用段階からのミスマッチ防止

入社後のギャップによる退職を防ぐためには、ミスマッチが起こらないように採用活動を進める必要があります。

 

たとえば、新卒社員が離職する原因として「理想と現実のギャップ」が挙げられます。
労働条件などのギャップや職場環境に対するギャップ、自分の希望していた仕事ができないなどのギャップは、どれも採用段階におけるミスマッチによる影響も大きいと考えられるでしょう。

 

ミスマッチを防ぐためには、採用基準を明確にしたり、面接や説明会で働き方やキャリア制度に関する具体的な説明をしたりするなどの対策が求められます。

 

労働環境・人事評価制度の見直し

長時間労働や残業が続くと、精神的にも身体的にも負荷がかかります。
ストレスが大きくなれば、心身の不調により離職することが考えられます。

 

政府によって「働き方改革」が推進されているように、リモートワークやフレックスタイム制などの導入によって、働き方の柔軟性を高め、選択肢を増やすことも定着率の向上につながると考えられます。

 

また、人事評価制度の定期的な見直しも重要です。
評価基準が明確で客観的であるかをポイントに、社員の意見も取り入れた制度を策定できると良いでしょう。

 

メンタルヘルスケアの実施

ストレスをきっかけにメンタル不調が発生してしまうと、休職や離職につながる可能性が高くなります。
平成27年12月からは、従業員のメンタル不調を防止する事を目的に、労働者数が50人以上の事業所で年に1回のストレスチェックの実施が義務付けられました。
定期的な社員のストレスレベルの測定は、休職や離職を未然に防ぐことにもつながります。

 

なお、労働者数が50人未満の企業でも、ストレスチェックの実施によって離職率の低下、定着率の向上に効果が期待できます。
まずは、自社にストレスチェック制度が整っているか確認し、必要に応じて整備することが大切です。

 

キャリア支援を含めた教育制度の整備

向上心の高い新卒社員には、スキルアップやキャリア形成のための教育制度を提供すると、会社に対する満足度を上昇させることが可能です。

 

具体的には、キャリアデザイン研修によるキャリア支援の実施や、1on1ミーティング等の機会を活用してキャリアの相談に応じる方法が考えられます。
このようにキャリアに対するサポート体制を充実させると、定着率の向上につながるでしょう。

 

サーベイの実施

サーベイとは、会社に対する社員の意識や課題を調査するものです。定期的な実施によって、社員が抱えている悩み、不満や課題をリアルタイムで把握できます。
社員の悩みを素早くキャッチし、早期解決できれば、会社に対する満足度を高められるでしょう。

 

また、サーベイをきっかけに社員が悩みを相談しやすい環境をつくることで、会社に対する信頼度が向上するほか、さまざまな角度から意見を収集できれば、社員に必要とされている制度の構築も可能になります。

 

ただし、サーベイの実施は集計業務を他の担当する社員の負担が増えてしまうケースもあります。
負担を少なくするためにも、効率的にサーベイを実施できるツールの活用もおすすめです。

 

Geppoのパルスサーベイは社員にかかる負担が少ない

サーベイツールのGeppoでは、最低3問の設問+1問(任意設定)に回答するだけです。
回答する側の社員の負担を最低限で済ませられます。
また、不満や課題が「お天気」マークで把握でき、リアルタイムかつ時間軸で見られるため、集計業務を担当する社員も少ない負担で運用できます。

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採用候補者と企業のミスマッチを防ぐ新たな取り組み

採用のミスマッチを防ぐ新たな取り組み

採用のミスマッチは早期離職の原因となるため、企業ではさまざまな取り組みが行われています。

 

その中でも現在、特に注目を集めているのが、「ワークサンプルテスト」と「バックグラウンドチェック」の2つです。
バックグラウンドチェックは、リファレンスチェックと似ているため、その違いとあわせて解説します。

 

ワークサンプルテスト

ワークサンプルテストとは、採用候補者に対して入社後におこなう業務と同じ仕事に従事してもらい、スキルチェックや自社とのマッチ度をはかる方法を指します。

 

参加者は実際に企業内で働くことになるため、会議に参加したり社員と昼食を一緒に食べたりする時間を通じて会社の雰囲気を感じられるでしょう。
このような体験ができるのは、採用候補者にとって大きなメリットといえます。

 

また、企業側も採用候補者のスキル以外に人柄などもわかるため、自社とのマッチ度を測れます。
面接だけでは把握しきれない情報を得られるため、採用プロセスをより効率的に進められます。

 

ワークサンプルテストの実施時期は、一般的に最終面接前が多いとされていますが、一次面接や二次面接の後に実施することで採用候補者の見極めにも役立てられています。

 

バックグラウンドチェック

バックグラウンドチェックとは、選考時における採用候補者の経歴に虚偽や問題がないかを調べる手法です。

 

採用候補者の中には、採用されたいために話を盛って実績を大きく見せたり、経歴詐称をしたりする人物がいる可能性もあります。
バックグラウンドチェックを利用すると、企業は経歴詐称をした候補者や、スキルが期待値に届かない候補者の採用を回避できます。

 

バックグラウンドチェックと似た手法に、リファレンスチェックがあります。
リファレンスチェックは、前職の上司や同僚などに候補者の仕事ぶりや人柄、経歴などについて回答してもらう方法です。

 

バックグラウンドチェックは主にマイナス要素を確認する手法であるのに対し、リファレンスチェックはプラス要素も含んだチェック方法になります。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックでは個人情報を扱うため、採用候補者から事前に許可を得て実施しなくてはなりません。

 

まとめ

まとめ

新卒社員の定着率は企業の成長につながる大切な指標です。
定着率が低い企業には何らかの原因があると考えられます。まずは、自社の新卒社員の定着率を把握することから始めましょう。

 

新卒社員の定着率が低くなってしまっている場合には、職場における課題の解消に向けた分析や改善が必要になります。

 

離職率を向上させるためにはさまざまなアプローチが考えられますが、社内制度や人事評価制度の改善において、現場社員のリアルな意見は大きなヒントになります。

 

サーベイツールを活用して効率的に社員の声を収集し、是正に向けて取り組めると良いでしょう。

 

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【監修者プロフィール】

geppo監修木下洋平 

木下 洋平

合同会社ミライオン

株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。

キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。

また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。

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