長時間労働に対する取り組みは、社員の健康リスクを軽減することはもちろん、企業の利益を守るためにも重要です。しかし、長時間労働が発生する原因はさまざまで、それぞれの企業が自社の問題点や課題を発見して対策に取り組む必要があります。
本記事では、長時間労働の原因、企業へのデメリット、長時間労働の是正に向けた対策方法、企業の取り組み事例などを紹介します。
目次
- 長時間労働の現状
労働時間と過労死の関連性
諸外国との労働時間の比較 - 長時間労働が発生してしまう原因
業務の繁閑が激しい
突発的な業務が発生する
慢性的に人手が不足している
業務プロセスが非効率である
管理職のマネジメント力が足りない
デジタル化が進んでいない
テレワークによる見えない残業がある
仕事とプライベートの線引きが曖昧になりやすい
長時間労働が許される組織文化がある
朝礼や会議・打ち合わせが多い - 長時間労働による企業のデメリット
従業員の健康リスクになる
離職率が上がる
ウェルビーイングに影響する働き方は離職につながりやすい
コストが増加する
企業のイメージが悪化する
生産性の低下により利益が減少する
罰則や訴訟リスクがある - 長時間労働の改善に向けた取り組みのポイント
勤務体系の柔軟化
評価制度の見直し
タイムマネジメント研修の実施
労働時間を正確に管理する
業務プロセスを最適化する
長時間労働の実態を把握する - 長時間労働の是正に成功した企業事例
「残業時間ゼロ宣言」で基幹業務システムの刷新
自社商品のプラン改革による業務の見直し
ジョブローテーションの導入による労働時間の是正
変形労働時間制の導入による所定外労働時間の削減 - Geppoを活用して従業員の心身状態を把握
従業員の健康状態や不満について定期的に収集できる
社員の業務量の調整にも活用できる
社員の業務負担を抑えられる設問設計で導入しやすい - まとめ
長時間労働の現状
日本では年間の総実労働時間は徐々に減少しているものの、月末に近づくにつれ1日の労働時間は長くなる傾向にあります。
出典:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
厚生労働省のデータによると、月末1週間の就業時間が60時間以上になる男性労働者の割合は8.1%となっており、特に30代・40代の男性でその割合が高くなります。
30代・40代はキャリア形成の中核期にあたり、仕事に対する責任も大きくなりがちです。成果を出すために長時間労働を余儀なくされるケースも少なくありません。
また、業種によっても月末の時間労働に差があり、運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業、教育・学習支援業などでは、月末1週間に60時間以上就労する割合が高くなります。
このような状況は労働者の健康や生活の質に悪影響をおよぼすだけでなく、企業の生産性低下や人材流出といった問題を引き起こす可能性があり、社会全体での対策が急務とされています。
厚生労働省では「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の内容を一部変更し、週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を「令和7年までに5%以下に抑える」という数値目標が新たに設定されています。
出典:厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更について
労働時間と過労死の関連性
厚生労働省は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」を定めており、労働者が発症した脳や心臓の疾患が労災として認定される際、労働時間も重要な評価項目の1つとしています。
特に、時間外労働が月に45時間を超える場合、過労死のリスクが徐々に高まり、月に80時間を超えるとその関連性が強いと評価されます。
これは、長時間労働が社員の健康に与える影響が大きいことを示しており、企業は社員の労働時間をしっかり管理しなければなりません。企業には、長時間労働を減らして社員の健康を守る責任があります。
諸外国との労働時間の比較
出典:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
週に49時間以上労働する人の割合を、日本と欧米諸国で比べたデータは以下になります。
- 日本:15.1%
- イギリス:11.4%
- フランス:8.5%
- ドイツ:5.7%
- アメリカ:14.6%
この数字だけを見ても、日本は依然として長時間労働が顕著である国の1つだと分かります。
ヨーロッパ先進諸国では労働時間の短縮やワークライフバランスの改善に向けて、国が積極的に取り組んでいます。しかし、日本の労働時間短縮に向けての取り組みには多くの課題が残されており、企業にとっても労働環境の改善に向けた取り組みは急務になっているといえるでしょう。
長時間労働が発生してしまう原因
日本の労働時間は徐々に減ってきてはいますが、所定外労働時間はそれほど減少していません。業種によっては長時間の労働がこれまで同様に続いており、社員の健康にも影響をおよぼしているのが現状です。
また、長時間労働が発生してしまう原因は多岐にわたり、企業はこうした問題に対して腰を据えて取り組む必要があるでしょう。ここからは長時間労働が発生する主な原因について解説します。
業務の繁閑が激しい
時期によって業務量が大きく変動する状況は、企業にとって大きな課題の1つになるといえます。特に、余剰人員を抱えにくい企業では「閑散期」を基準にした人員配置がおこなわれがちで、そうなると「繁忙期」には少ない人員で大量の業務をこなさなければなりません。
そのため、社員に過度な負担を強いることになり、長時間労働の一因となってしまいます。
このような状況は、季節性の影響を受けやすい業種や、プロジェクトベースで動く業種などで顕著に表れます。
突発的な業務が発生する
急ぎの仕事の依頼やクレーム対応、業務上のトラブルなど、突発的な業務が発生すると、本来の仕事の流れを中断して対応しなければなりません。計画していた業務スケジュール通りに仕事を進められなくなってしまうため、結果として長時間労働をせざるを得なくなります。
突発的な業務に対応しなければならない状況は、重要度の高い業務の進捗を遅らせることにもなり、生産性の低下にも繋がります。
慢性的に人手が不足している
近年、労働人口の減少や賃金の上昇によって企業の人員確保は難しくなってきています。特に、製造業や飲食業など特定の業種では、人員確保の問題が顕著に表れています。
業務量に見合っただけの人員を揃えることができないため、各社員が引き受ける業務が多くなり、結果として労働時間も長くなってしまいます。企業の人手不足は、社員の長時間労働が増えるだけでなく、離職率の上昇にも繋がる大きな課題となっています。
業務プロセスが非効率である
各社員の業務量が適正であっても、業務の進め方が非効率的であれば、結果として労働時間が長くなってしまいます。たとえば、オンラインで処理できる業務をオフラインでおこなっていたり、利用可能なシステムを活用していなかったりすると、業務の非効率に直結してしまうでしょう。
また、役割や責任が不明瞭であったり、特定の社員に業務が属人化されていたりする場合も、業務の非効率化を招いてしまう要因になりやすいです。このように業務プロセスが効率化されていない企業では、社員の長時間労働を引き起こしやすくなります。
管理職のマネジメント力が足りない
業務量や進捗状況を適切に把握できていなかったり、時間外労働や休日出勤に気づいていなかったりしているなど、管理職のマネジメント能力が低い組織では、社員は過剰な労働を余儀なくされます。
このような状況は、管理職による計画性のない業務指示や部下とのコミュニケーション不足によるものが大きく、結果として長時間労働が蔓延する原因となります。
さらに、管理職のマネジメント力が不足していると、社員間で業務量の偏りが生じてしまいやすく、優秀な人材が休職や離職してしまうリスクも高まります。
デジタル化が進んでいない
紙ベースの文書管理や、エクセルでのデータ管理がおこなわれている企業は現在も多く存在しています。これが業務の非効率化を招き、長時間労働に至ってしまうケースも考えられます。
デジタルツールやシステムを活用すれば、情報の共有やアクセスが容易になり業務効率が良くなります。しかし、業務のデジタル化が進んでいない企業では、情報を探したり、手作業でのデータ入力をおこなったりする必要があるため、余計な時間を要してしまいます。
さらに、デジタル化が遅れていると、遠隔地とのコミュニケーションや在宅勤務が困難になり、結果としてオフィスでの長時間労働が続くことになります。
テレワークやオンライン会議など、デジタル技術を活用した新しい働き方が推進されているなか、デジタル化の遅れは企業の生産性低下だけでなく、社員のワークライフバランスの悪化にも繋がるでしょう。
テレワークによる見えない残業がある
テレワークでは、社員が勤務時間外にもチャットやメールへの対応、オンライン会議への参加を余儀なくされるケースが多く見られます。オフィス勤務であれば残業として認定されやすく勤怠管理システムに記録されるものであっても、テレワークでは時間外の対応が見過ごされがちな傾向にあります。
いわゆるテレワークの「見えない残業」は、細かい勤怠管理が難しいために発生しています。
仕事とプライベートの線引きが曖昧になりやすい
テレワークはオフィスでの勤務と異なり、仕事とプライベートの物理的な境界がなく、これが勤務時間の管理を一層困難にしています。また、上司や同僚からの視線がないため、始業や終業、休憩の時間があいまいになりがちです。
このような状況下だと、社員は自覚なく長時間労働に陥るリスクが高まります。特に、仕事の締め切りや重要度の高い業務を抱えている場合、自宅であっても仕事を続けざるを得ない状況が生まれやすくなります。
長時間労働が許される組織文化がある
仕事の成果よりも「社内でのがんばり」を重視する文化が根強く残っている企業もあります。
このような文化の下では、業務を遂行して得た成果よりも、長時間労働を通じて努力している姿が評価されてしまう傾向にあります。その結果、社員は自らの出世や評価を高めるために、必要以上に長時間労働をおこなうようになるでしょう。
この「がんばり」を重視してしまう社内文化は、社員を過剰労働に追い込むだけでなく、出世競争を激化させる原因ともなります。このような組織では、周囲が長時間労働をしている環境において「早く帰ること」を罪悪感と捉えがちで、結果として長時間労働を続けることになってしまいます。
朝礼や会議・打ち合わせが多い
多くの企業では、日々の業務開始前の朝礼、さらにはプロジェクトごとの会議や打ち合わせが頻繁におこなわれるのが一般的です。
朝礼や会議などは、チームの連携を図るためや情報共有の場として重要ではありますが、過度におこなわれると業務の効率を大きく損ねる恐れがあります。
また、会議や打ち合わせが多いと、それに伴う資料作成や準備作業も増えることになり、本来の業務にかけるべき時間がさらに削られてしまいます。その結果、残業時間の増加につながり、長時間労働の原因となるでしょう。
長時間労働による企業のデメリット
長時間労働は、社員の健康上のリスクとなり、モチベーション低下を招きます。また、企業にとっても長時間労働は多くのデメリットをもたらします。
業務の忙しさを補うために長時間労働がなされがちですが、その実態は企業の存続や成長を脅かす要因となるでしょう。
ここからは、従業員の長時間労働が企業にもたらすデメリットについて解説します。
従業員の健康リスクになる
長時間にわたって働かざるを得ない状況は、社員の健康に大きな悪影響をもたらすことが分かっています。
月の時間外労働が45時間を超える場合、過労死のリスクが徐々に高くなるため、企業は労働時間の管理に細心の注意が必要です。また、社員が労災による休業となった場合、企業は以下のように給料の一部を負担しなければなりません。
労災による休業期間が長くなると、企業の財務状況にも影響をおよぼす可能性があります。
離職率が上がる
長時間労働は社員のモチベーション低下や体調不良を引き起こし、結果として離職率の上昇につながります。離職によって人員が少なくなると、残された社員の業務量が多くなり、さらに長時間労働を引き起こすという悪循環が生まれてしまいます。
厚生労働省のデータによると、離職した男性の9.1%、女性の10.8%が「労働時間、休日、休暇の条件が悪かった」ことを理由に挙げています。
このデータからも、長時間労働が社員の仕事に対する満足度を低下させ、結果的に企業の人材流出を引き起こすことがわかります。
ウェルビーイングに影響する働き方は離職につながりやすい
ウェルビーイングは、単に病気や不調がない状態を超えて、個人が自分の生活において幸福感、充実感、意義を感じる状態を指します。長時間労働によりプライベートの時間が減少すると、社員のウェルビーイングは低下し、これがモチベーションの低下にもつながります。
これから企業には、私生活を含めた社員の幸福感や充実感も意識しながら、働く環境を整える姿勢が求められるでしょう。
コストが増加する
労働基準法第37条により、企業は時間外労働には1.25倍、月60時間を超える労働には1.5倍の賃金を支払わなければなりません。そのため、社員の労働時間が長くなるほど、企業の人件費も大幅に増加します。
また、長時間労働により社員が離職率が高くなると、新たな採用活動と新入社員の教育にもコストがかかります。こういったコスト増加は、企業の財務状況にも悪影響をおよぼしかねません。
第三十七条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない
企業のイメージが悪化する
違法な長時間労働を容認している企業に対しては、国からの指導や企業名の公表がおこなわれることがあり、これが企業の信頼性を大きく損なう原因となります。さらに昨今、労働環境に関する口コミはSNSなどを通じて広がりやすく、悪い評判は瞬く間に拡散されます。
企業の信頼性が低下したり、悪い評判が出回ると、優秀な人材の採用が難しくなるだけでなく、働いている社員のモチベーション低下にもつながりかねません。また、社員の労働環境や待遇などは株価や企業価値にも影響するため、企業には放置できない問題の1つです。
生産性の低下により利益が減少する
無理な長時間労働が続くと、社員のモチベーション低下や心身の不調を引き起し、生産性低下にもつながります。生産性が下がった社員が増えてくると、当然ながら企業の利益も減少することになります。
また、長時間労働や過度な残業が蔓延すると、職場の雰囲気も悪化してしまい、これがさらに生産性を下げる要因となるでしょう。
罰則や訴訟リスクがある
労働基準法に違反する長時間労働をおこなっている場合、企業は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。
また、社員の自死が労働環境に起因する場合、企業や直属の上司、人事部長が遺族から訴訟を起こされるケースが年々増加しています。特に「うつ病」である社員に長時間労働を強いた場合、過去の判例からしても敗訴する可能性が極めて高いと考えられます。
罰則や訴訟などのリスク要因は、企業の財務負担だけでなく、社会的信用の失墜にもつながり、企業価値を大きく損なうことになります。
長時間労働の改善に向けた取り組みのポイント
長時間労働を減らし、労働環境を改善することは、企業にとって重要な課題の1つです。
この課題に対して企業が真剣に取り組めば、長時間労働の是正が可能になり、社員のワークライフバランスを改善することができるでしょう。
ここからは、長時間労働を改善するための代表的な取り組みのポイントを紹介します。
勤務体系の柔軟化
必ずしも全社員が同じ勤務時間である必要はなく、さまざまな勤務体系を取り入れていくことで長時間労働を減らすことができます。フレックスタイム制を採用すれば、夕方に会議がある場合は午後から出勤するなど、社員がその日の業務内容に合わせて勤務時間を自由に調整できるようになります。
また、ノー残業デーやリフレッシュ休暇の導入も、時間外労働を減らす効果が期待できるでしょう。ただし、これらの施策によって逆に時間外労働が増えないよう、適切な配慮が必要です。
小売業や飲食業など繁閑の差が大きい業種では、変形労働時間制を導入することで、残業の発生を抑えることができます。
評価制度の見直し
社員の評価制度の改定も、長時間労働への対策として重要なポイントです。
労働時間の長さなど「社員のがんばり」ではなく、達成した成果や業務効率性を重視した人事評価制度を導入するとよいでしょう。
長く働けば評価されるのではなく、成果と効率性をベースにした評価制度に見直すことで、社員のモチベーションも高まり、メリハリのある働き方ができるようになります。
出典:内閣府「ワーク・ライフ・バランスのための仕事の進め方の効率化に関する調査報告書」
【内部リンク想定】
ID50 人事評価制度 作り方
タイムマネジメント研修の実施
業務における時間の使い方や優先順位の付け方、効率的な仕事の進め方を身につけるために、タイムマネジメント研修を実施するのも有効です。
タイムマネジメント研修を受けることで、残業時間の短縮、仕事の効率アップ、スケジューリング能力の向上といったメリットが得られます。ケーススタディやグループディスカッションを取り入れ、社員がすぐに実践できる学びを提供するとよいでしょう。
タイムマネジメント研修による学びは、社員がプライベートの時間を増やすことにも役立ち、ストレス軽減やワークライフバランスの改善にも繋がるでしょう。
労働時間を正確に管理する
社員の正確な労働時間の管理は、長時間労働を減らすために欠かせません。
勤怠管理システムを導入すれば、始業から終業までの時刻や時間外労働を正確に把握できます。従来型のタイムカードや自己申告制だと、残業時間を過小申告するケースもあるため、勤怠管理システムによる労働時間の透明性を図ることが大切です。
正確な労働時間を把握できれば、働きやすい労働環境を作ることができ、適切な業務量を調整しやすくなります。
業務プロセスを最適化する
現在の業務プロセスを見直して非効率な部分を洗い出せば、作業の自動化やシステム化が可能となり、労働時間の短縮にも繋がります。
たとえば、会計ソフトを活用して請求書や領収書の管理を自動化する、AIを用いたチャットボットを導入して基本的な問い合わせに自動で応答させるなどの方法があります。
勤怠管理や給与計算、人事評価などをデジタル化し、オンラインシステムで一元管理すれば、業務効率化に大いに役立つでしょう。
また、業務を属人化させないために、以下の取り組みも大切です。
- 適切なオンボーディングとトレーニングを実施
- 内部コミュニケーションツールを活用して情報共有
- 社員に複数の業務を経験させてスキルを広げる
属人化した業務を無くすことも、長時間労働の削減に繋がります。
長時間労働の実態を把握する
自社にどれだけの長時間労働が蔓延しているかの把握も、長時間労働を減らすために欠かせません。長時間労働の実態を把握するためには、社員の健康状態や勤務状況に関する正確な情報収集が重要です。
健康診断やストレスチェックを定期的に実施し、健康リスクの高い社員や高齢社員、病気を抱えている社員の状況を詳細に把握しましょう。
また、パルスサーベイなどを利用して、社員のストレスレベルや満足度をリアルタイムで測定し、労働環境の改善に役立てることも有効です。
長時間労働の是正に成功した企業事例
自社で長時間労働対策に取り組む際は、成功事例を参考にするのも有効な手立てです。
ここからは、長時間労働の是正に取り組んでいる企業の事例をいくつか紹介します。
自社の問題点や課題と照らし合わせながら、活用できるポイントや実践できるヒントがあれば、ぜひ参考にしてください。
「残業時間ゼロ宣言」で基幹業務システムの刷新
製造業のS社では、全社員が参加するワークライフバランスに関する講演で、同社の仕事の進め方に課題があると指摘され、これが社長による「残業時間ゼロ宣言」のきっかけとなりました。
改革の具体的な取り組みとしては、基幹業務システムのコンピュータを刷新し、受注状況を踏まえた最適な生産計画を作成できるようにしました。また、見積もりシステムを新たに開発し、ウェブ上で顧客による見積もりを可能にしました。
このような取り組みにより、これまで3日かかっていた作業を5分に短縮することに成功し、1名当たりの月平均残業時間は、2014年の17.6時間から、2015年には5.9時間、2019年には約1時間と大幅に減少しています。
この他にも、年次有給休暇の柔軟な取得や男性社員の育休取得率向上にも着手し、育休取得が当たり前の環境を実現し、「イクメン企業アワード」の両立支援部門グランプリや「ホワイト企業アワード」の最優秀賞など、多くの賞を受賞しています。
自社商品のプラン改革による業務の見直し
創業以来、顧客満足を最優先に事業を展開してきたとある不動産企業では、業績が上がる一方で、プランや見積書の作成に時間を要し、残業が恒常化していました。
この問題に対処するため、同社は業務のやり方を見直し、マンションのリフォームを5プランに分類し、プランごとにオプションを設定した商品を開発しました。
その結果、見積書作成のスピードが上がり、打ち合わせ回数も減らすことができ、業務効率が大幅に向上しました。
顧客からも「選びやすい」と好評を得ており、1人当たりの月平均残業時間も約40%削減されています。
ジョブローテーションの導入による労働時間の是正
ある酒造メーカーの企業では、若年労働者の採用や育成を進めるための「労働環境」が整っていないことに課題がありました。そこで、社長や役職者が「5時過ぎたら帰るのが当然」と声かけをするようにし、定時で退社することを社内に浸透させました。
さらに、事務職の間でも定期的な「ジョブローテーション」を実施し、各部門の業務内容や業務量を皆で把握できる体制を整えました。これにより、特定個人に仕事が集中するのを防ぎ、残業軽減や年次有給休暇を取得しやすい環境になっています。
その結果、残業時間を月平均1.4時間に抑え、年次有給休暇の取得率を60%に上昇させるなど、労働環境の改善に成功しています。
変形労働時間制の導入による所定外労働時間の削減
女性従業員が、その意欲や能力を十分に生かして活躍できるような職場環境の整備が課題になっていた企業の事例です。
店舗では1か月単位の変形労働時間制を採用し、店舗ごとに繁忙日の所定労働時間を長めにする代わりにそうでない日の労働時間を短くするなど、メリハリを付けた労働時間の設定をしました。
また、複数の店舗を統括するエリアマネージャーが担当店舗の各社員の労働時間を把握し、所定外労働時間の長い傾向にある店舗の店長に対して、シフトの調整をアドバイスするなど、所定外労働時間の削減に取り組んでいます。
このような取り組みにより、残業時間が21.5%減少しました。
Geppoを活用して従業員の心身状態を把握
Geppoは、社員の心身状態を把握して、組織の課題を見える化できるサーベイツールです。
社員の負担にならないよう短時間で回答できる質問を設定できます。フリーコメントで回答できる質問も設定可能です。
テレワークにおけるストレスマネジメントにも適しており、顔が見えないことによるストレスやメンタル面での不安解消にもつながります。
従業員の健康状態や不満について定期的に収集できる
Geppoを活用することで、社員の健康状態を定期的に把握することができ、労働環境への不満を吸い上げることもできます。仕事満足度、人間関係、健康などに関する設問のほか、心身の状態を把握するために「睡眠」に対しての設問を置くことも可能です。
定期的にサーベイを実施することで、各社員のコンディショニングを把握することができるでしょう。
社員の業務量の調整にも活用できる
各社員の業務内容や業務量の把握にもGeppoを活用し、過重労働にならないように業務量を調整することもできます。
その際は、具体的な数値を尋ねる「閉じた質問」と、作業量の感覚的な評価を尋ねる「開いた質問」を組み合わせるとよいでしょう。
- 閉じた質問の例:1週間の平均労働時間は何時間ですか?
- 開いた質問の例:現在の作業量についてどのように感じていますか?
このようにして収集したデータはしっかりと分析をし、必要に応じて業務の調整、リソースの追加などを実施します。
社員の業務負担を抑えられる設問設計で導入しやすい
Geppoは、選び抜かれた3つの質問(仕事満足度・人間関係・健康状態)に回答し、+αとしてフリーコメントを記入するだけなので、社員の業務負担を抑えられます。
企業の目的に沿いながら運用できるだけでなく、専任の担当者によるサポートも受けられるため、分析などにかかる人事担当者の負担も大きく削減できます。
また、Geppoの回答が習慣化されれば、1問程度の追加設問を加えても負荷なく回答してくれるので、企業の目的に合わせた活用もできます。
以下は、よく設定されている追加質問の事例です。
- 所属しているチームの「良い点」や「改善したい点」を教えてください
- 今のあなたのキャパシティ(稼働)は何%ですか
- あなたは現在の職場を親しい友人や知人にどの程度おすすめしたいと思いますか
まとめ
日本における長時間労働の問題は、徐々に改善されつつありますが、欧州諸国と比較すると、まだまだ改善の余地が見受けられます。また、長時間労働を引き起こす原因は多岐にわたり、企業ごとに異なる要因が存在するため、自社に適用される原因を探ることが重要です。
長時間労働は、社員の健康を害するだけでなく、企業にとってもデメリットがあります。そのため、所定外労働や長時間労働の是正は、社員個人だけでなく会社全体にとっても課題です。
長時間労働の問題に対処するためには、経営陣からの強い意思表示が不可欠になります。経営陣が率先して働き方改革の重要性を認識し、具体的な方策を打ち出すことで、企業文化の変革を促進することができるでしょう。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。