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企業の人材育成における9つの課題とは?解消するポイントや企業の成功事例とあわせて解説

優秀な人材の育成は企業にとって重要な戦略の1つであり、ビジネス環境が激しく変化する現代においては、人を育てることが企業の競争力強化にも繋がります。しかし、人材を育成したくても課題があるために、なかなか進まないケースも少なくありません。

本記事では、人材育成の課題や解決策、人材育成の取り組み事例などを紹介します。

 

目次



人材育成とは

人材育成とは

人材育成とは、社員に必要なスキルや知識を身につけてもらい、企業の成長に貢献できる人材へと成長させることを指します。社員が自身の能力を高めることができれば、企業の経営目標達成や業績向上に大きく貢献してくれるでしょう。

人材育成は単にスキルや知識の伝達に留まらず、社員が自律的に考えて行動できるように導くことも大切です。そのため、企業は長期的な視点で人材育成計画を策定し、社員の成長を支援することが重要になります。

人材育成は企業文化の醸成や組織力の向上にも影響するため、結果として企業全体の競争力強化に繋がります。

 

人材育成と人材開発の違い

人材育成と人材開発はともに企業において重要な概念であり、混同されがちな概念です。

人材育成は、社員に対して必要なスキルや知識を教えて、企業が目指す方向へと成長させるプロセスを指します。社員が自らの職務を効果的に遂行できるようにするための教育や訓練なども含まれます。

一方で、人材開発はより広範な視野で、社員の潜在能力を最大限に引き出し、経営資源としての価値を高めることを目的としています。人材開発は、個人のキャリア成長だけでなく、組織全体の戦略的な目標達成に貢献する人材を育て上げることに焦点を当てています。

このように、人材育成が個々のスキルアップに注目するのに対し、人材開発は組織としての成長と個人の能力開発を同時に追求する点で異なります。

 

現代の企業に人材育成が必要とされている理由

近年、企業が社員に求める働き方が変わってきており、各社員が担当する業務の範囲が広がるだけでなく、その役割も多様化しています。このような状況のなか、人材の育成は企業戦略にとって欠かせないものになっています。

社員が多岐にわたる業務を効率的に、かつ高い品質でこなすためには、適切なスキルと知識が必要です。また、人材育成は社員のキャリア形成をサポートし、業務へのモチベーションを高められるため、離職率の低下にも繋がります。

社員自身が成長を実感できる環境を企業が提供することで、仕事への満足度が高まり、結果として企業の生産性向上にも貢献してくれます。人材育成は単に個人のスキルアップを目指すだけのものではなく、社員と企業の双方にとって価値のある取り組みだといえるでしょう。

 

企業における人材育成の課題

企業における人材育成の課題

近年、テクノロジーの急速な進歩や求められるスキルの多様化により、人材育成の重要性が高まっています。一方で、さまざまな課題によって思うような人材育成が進められていない企業も少なくありません。

ここからは、企業の人材育成を進めていく上で生じる課題について解説します。自社において同じような課題があるか、確認してみるとよいでしょう。

 

早期離職により一貫した育成が難しい

【図版】3年以内の離職率(学歴別)

出典:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)

厚生労働省の調査によると、高卒、短大卒、大卒の入職3年以内の離職率は減少傾向にありますが、新卒社員の約3〜4割が3年以内に離職しています。

社員数が少ない企業では、早期離職の割合がさらに高くなる傾向にあります。

早期離職者が多い職場では、将来を見据えた一貫した教育よりも、その場しのぎの教育が優先されるケースが多くなってしまい、社員教育を十分におこなうことができません。その結果、新入社員が必要なスキルや知識を身につけられない状況が続いてしまいます。

この不十分な教育が「さらなる離職を引き起こす」という悪循環に陥ることも少なくありません。

 

育成に充てる予算が不足している

【図版】従業員1人あたりの研修費用の推移

出典:産労総合研究所 2023年度 教育研修費用の実態調査

産労総合研究所の「2023年度 教育研修費用の実態調査」によると、社員1人あたりの研修費用は32,412円でした。コロナ禍を経て回復傾向にあるものの、コロナ禍で経営が悪化した企業では、教育へ十分に予算を割けない実情があります。

このように人材育成に費用をかけられない状況下では、企業の長期的な成長と競争力の強化に貢献できるような人材を育てられなくなってしまう可能性があります。

また、人材育成は利益に繋がるまでに時間がかかるため、人材教育への投資を控える経営者がいる事実もあります。

 

個人に合わせた明確な目標を設定しにくい

業務遂行と同様に、人材育成においても社員個人に合わせた明確な数値目標の設定が重要です。しかし実際には目標設定をおこなわずに、育成を進めている企業も少なくありません。

習得すべきスキルや育成にかける期間、目指すべきレベルなどが不透明だと、育成の効果を正確に判定することが困難になります。また、明確な目標が設定されていないまま育成をしても、社員は何を目指して学習すればよいのか、どの程度の成果が求められているのかを理解できず、モチベーションが低下してしまう可能性があります。

 

育成に充てる時間が取れない

企業の育成担当者は、日々の業務と並行して育成指導の責任も担うことになります。この二重の負担は、人材を育成する上で大きな障害になり得ます。

また、教育を受ける側の社員も自身の業務や達成すべき目標に追われる中で、新たなスキルを学ぶための追加時間を確保しなくてはなりません。日常業務に追われながら育成に必要な時間を見つけ出すことは、多くの企業にとって大きな課題だといえます。

 

トレーナーに指導者としての知識やスキルが足りていない

育成する側のスキルが不足していると、指導が場当たり的になりがちで、教えられる側の社員のスキル上達や知識向上が不十分となりやすいです。また人に教え、育てるための専門的なスキルや知識を十分に習得していない指導者の存在も、人材育成の質を低下させる大きな要因となります。

OJTを担当する指導者によって育成成果にばらつきがあることも、組織内での人材育成の均一性を損なう原因となります。

 

業務をカバーする体制ができていない

社員が研修に参加しようとするなら、その間の業務を他の社員が引き継ぐ必要があります。

しかし、社員がお互いに助け合う体制が整っていない場合、研修を受けること自体が困難になります。特に、小規模なチームや人手不足を抱える部署では、1人が職務を離れるだけで業務に大きな影響が出ることがあり、研修に参加させられないケースもあります。

また、企業が人材育成の目的を明確にしていないと、社内での理解や協力を得られにくくなります。人材育成の重要性や目的が全社員に共有されていないと、研修参加のために業務を調整することへの抵抗感が生まれやすくなってしまうでしょう。

 

教えてもらう従業員の意欲が低い

育成担当者や人事部がどれだけ意欲的にプログラムを準備しても、それを受ける社員が積極的に学ぼうとしなければ、期待している効果を得ることは難しくなります。

たとえば「現場は研修どころではない」「研修参加は義務なのか?」といった声が上がる場合、研修の重要性や目的に対する認識が不足している可能性があります。

社員の人材教育に対する理解を得て、能動的に学ぶ姿勢を持たせられるかが、企業にとって重要なポイントとなるでしょう。

 

個別化した育成が難しい

企業に求められる人材育成の取り組みは、従来の対象者を限定した方法から社員個人のニーズに合わせた育成へと変化しています。しかし、個人の学習ニーズに対応するための「さまざまな学習コンテンツの提供」や「どこからでもアクセス可能な学習環境の構築」にも課題を抱えています。

社員個人に最適化した育成を実現するためには、十分な時間とマンパワーが必要となりますが、これらのリソースが不足していることも大きな問題です。

 

実践的なトレーニングが足りない

多くの企業では社内研修や外部講師によるセミナーなど、OFF-JT(Off-the-Job Training)の形で研修が実施されることも少なくありませんが、これだけでは実際の業務で必要とされるスキルや知識を十分に身につけることができません。

しかし、実務をしながらの職業教育であるOJTは、かえって業務が忙しくなる、業務に遅延が生じやすくなるといった理由から、積極的に導入していない企業もあります。

また、育成ができる人材が不足している、時間やリソースが足りない、業務が標準化されていないなどの問題によりOJTが機能しないという課題もあります。

 

人材育成の課題を解消するためのポイント

【図版】人材育成の課題を解消するためのポイント

企業の競争力強化、イノベーションの促進、社員のモチベーション向上といった理由からも、人材育成は重要な企業戦略の1つです。先ほど紹介した人材育成の課題を踏まえつつ、今後は的確なポイントを押さえた育成戦略が必要になります。

ここからは企業ができる効果的な人材育成のポイントを紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、活用できる方法があれば積極的に取り入れましょう。

 

育成・研修プログラムを整備する

企業としては、研修やワークショップなどの学ぶ機会を積極的に作り出し、社員のスキルアップに繋げることが重要です。また、社員が自分に合った研修を受けられるようにしたり、外部の専門家によるセミナーや研修も積極的に取り入れたりと、多様な学びができる社内環境を作ることも求められます。

これらの取り組みを実現するためには、育成や研修プログラムを充実させるための予算確保が不可欠です。

 

人材育成に関わる時間を確保する

「手が空いたら人材育成に時間をあてる」とか「時間に余裕があれば育成をする」というスタンスではなく、人材育成にあてる時間はあらかじめ確保しておきましょう。

そうすることで、育成プログラムを計画的に効率よく実施できます。

また、育成担当の社員に業務が偏らないよう、他の社員へ適切に割り振ることも大切です。これにより、育成を受ける社員だけでなく、育成をおこなう社員もゆとりを持って教育にあたれます。

育成を受ける社員に対しては、周りの社員が業務を引き受けられるようチームや部署など組織全体でサポートすることも大切です。さらに、タスク管理ツールの導入や研修マニュアルの作成、外部の専門家や研修サービスの活用などにより、人材育成を効率化する工夫も進められると良いでしょう。

 

キャリアパスを明確化する

「キャリアパス」とは、社員が目指す役職や役割に対して、クリアするべき基準や身につけてくべき経験を指します。育成を受ける社員のキャリアパスが明確になれば、習得しなくてはならないスキルや知識の方向性もはっきりするでしょう。

そして、自分自身に必要となる学びも明確になり、モチベーションの向上も期待できます。

企業が社員に対してキャリアパスを提示すれば、社員は自身のキャリア目標に向けて具体的なステップを踏むことができます。また、人材育成ロードマップを策定したり、キャリアデザイン研修を実施したりして、社員をサポートすることも有効です。

さらに、部門を跨いだ交流や勉強会を開催し、社員がさまざまな知識やスキルを自由に学べる環境を提供することで、キャリア形成にも役立ち、さらなるモチベーション向上にも繋がるでしょう。

 

OJTトレーナーを育成する

OJTは、実務を通じて新入社員や中途社員にスキルや知識を教える育成方法であり、教える側と教えられる側の関係性が成功の鍵です。トレーナーの選定にあたっては、育成する社員が成長していく可能性を信じ、共に成長していこうという価値観を持つ人材を選ぶことが大切です。また、トレーナーの物理的・心理的負担を軽減するために、チームや部署など組織全体でのサポート体制の構築も必要です。

トレーナーには業務スキルだけでなく、人間性、コミュニケーション能力、フィードバックスキル、コーチングスキルなど、多岐にわたる能力が求められます。まずはOJTトレーナーを育成することで、より効果的な人材育成が可能になるでしょう。

 

目標管理制度(MBO)と育成を紐づける

目標管理制度(MBO)は社員が自ら目標を設定して、その達成を目指すことで自主性やモチベーションを高められる制度です。

この制度を人材育成に活用すれば、社員が自己成長のための具体的な目標を持ち、それに向かって努力する文化を醸成しやすくなります。

また、MBOは非管理職の社員でもマネジメントの基礎を学ぶ機会にもなるため、将来的には組織内でのリーダーシップを発揮するための準備にもなるでしょう。

MBOと育成を連携することで、自主的に動ける人材が育つ可能性が高くなります。

 

評価とフィードバックをする

適切なフィードバックは、社員の成長に直接的な影響を与えます。フィードバックの際にマンツーマンで対話をすれば、教えられる側の社員は周りの目を気にすることなく相談できるようになりやすく、教える側の社員(トレーナー)は、ヒアリングした内容から具体的なアドバイスができるようになります。

また、評価とフィードバックをおこなう際には、以下のポイントが重要です。

  • フィードバックは批判で終わらせず、建設的な改善策の提示を心がける
  • 具体的な改善策を示して「次にどうすれば良いか」を明確にする
  • ポジティブな側面とネガティブな側面の両方をバランス良く伝える
  • 具体的かつ客観的に、記憶に新しいうちに伝える

正しく適切なフィードバックをすることで、自主的に動ける人材へと成長してくれる可能性が高くなるでしょう。

 

人材育成について社員の意見を収集する

企業が直面する人材育成の課題に対処するためには、社員からの意見を積極的に収集することが重要です。定期的なアンケートやサーベイを実施すれば社員のニーズや不満を把握でき、育成プログラムの改善に役立てられます。

また、研修を受けた社員による小規模なグループを作り、そこから研修後の意見を収集するのも有効な手段です。さらに、1対1の面談であれば、より深くニーズや不満を知ることができるでしょう。

社内メールやチャットなどのツールを活用して、日常的に育成に関する意見や要望を集めることも、組織全体の人材育成の質を向上させるために役立ちます。

 

オンライン学習サービスを導入する

オンライン学習サービスを利用すれば、社員はタブレット、パソコン、スマートフォンなどを活用して、どこでも好きな時間に学習を進められます。ビジネススキル、プログラミングなど、多岐にわたる学習が可能です。

オンライン学習のメリットは、時間や場所を選ばずに学習できる柔軟性、低コストで質の高い学習を受けられる、わからない部分を繰り返し学べることです。

教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせたEdTechの登場により、個々の学習ニーズや事情に応じた柔軟な学習が進めやすくなっており、高品質な教育を低価格で受けることができます。

 

実践的なトレーニングを強化する

シミュレーション研修は、営業現場、上司からの仕事依頼、部下のマネジメントなど、さまざまなビジネスの状況を詳細に設定し、受講者が自ら考えて判断することで、それを「実感」として認識できることが特徴です。

ロールプレイング研修も、実際の場面を想定して訓練するため、接客や営業などのコミュニケーションを伴う業務において、実際の場面で活かせられる実践力を身につけることができます。

こういった実践的なトレーニングをする際は、過去の事例を使うといった方法も有効です。

 

人材育成に成功している企業3社の事例

【図版】人材育成に成功している企業3社の事例

ここからは、人材育成に成功している企業の事例を紹介します。これらの事例を参考にすることで、失敗のリスクを減らして効率よい人材育成のヒントが得られるかもしれません。

現在、自社の人材育成に課題や問題を感じているようでしたら、ぜひ参考にしてください。

さまざまな階層における独自の人材育成の取り組み

株式会社T社では、新人研修から上級管理職研修まで、階層別に異なる研修プログラムを実施しており、それぞれの階層に合わせた独自の方法で研修を行っています。

新人研修

企業理念や歴史を中心に施設見学を交えながら実施

中堅社員研修

内部ファシリテーターの進行によるケーススタディのグループディスカッションを実施

管理職研修

アクションラーニングという手法を用いて、仕事の問題を持ち寄り、問題解決への気づきと行動変容を起こさせるセッションを実施

上級管理職研修

マネジメントアセスメント研修を実施し、受講者各人の強みや弱みを外部機関と当社幹部が共有し、今後の幹部人事・人材育成への道標とする

アクションラーニングを取り入れた結果、自分の問題をオープンにでき、マネージャー同士の結束が強まりました。

出典:厚生労働省「人材育成事例374」

有期実習型訓練のカリキュラムを実施

有限会社Yでは、金属パイプ加工の技術を次世代の人材に継承するため、有期実習型訓練計画「金属パイプ加工作業加工における教育訓練カリキュラム」を策定しました。

このカリキュラムは、6か月間でOJTとOff-JTを組み合わせた合計600時間の研修を実施するものです。

また、人材不足を解消するため多能工の計画的な育成にも注力しており、さらにパート労働者の戦力化や新卒の受け入れなど、幅広く人材も募集しています。

出典:厚生労働省「人材育成事例369」

目標管理制度の導入

A社では「公平性」と「納得性」のある評価システムとして「目標管理制度」を導入しています。この制度の目的は、以下の2つです。

  • 業務目標を明確に設定し社員の能力向上を図る
  • 努力の結果を賃金に正しく反映させるための手段とする

また「能力評価表」を利用した人材育成が実施されており、業務に必要な知識やスキルを身につけられるよう社員教育を実施しています。

知識やスキルの習得が不十分と判断された場合は、再度の教育を実施しています。

出典:厚生労働省「人材育成事例125」

 

Geppoの活用によって人材育成をより効果的に運用できる

組織サーベイや個人サーベイを効果的に実施できるツール「Geppo」を活用して、人材育成の効果的な運用を目指すのも方法のひとつです。

組織サーベイの場合、eNPS(※)をベースにした全20問の質問によって、社員の考えやモチベーションを測ることができます。これにより、人事担当者は社員のニーズに基づいた効果的な人材育成施策の検討が可能になります。

具体的な質問例

専任担当者による手厚いサポートも受けられるため、自社に合う形で適切に運用できるのも魅力の1つです。また、テレワークにおける従業員のストレスマネジメントにも適しているため、社員の顔が見えないことによるストレスやメンタル面での不安解消にも役立てられるでしょう。

Geppo製品訴求イメージ

まとめ

中小企業では特に人材不足が慢性化しており、自社に合った人材を育成することが経営上の大きな課題となっています。

人材育成を成功させるためには、まず自社の課題を明確にし、それに合った解決策を模索することが重要です。

また、画一的な育成方法ではなく、各社員の個性や能力に合わせた育成が求められているため、EdTechを活用した人材育成も視野に入れることで、より効果的な育成が可能になります。

人材育成においては、自律型の人材を育てられるかが課題となっており、そのためには目標を明確に設定するだけでなく、目標の達成に向けた教育プログラムを作る必要があります。

そして、人材育成には企業全体で取り組む姿勢が重要であり、チームや部署が一丸となって人材育成に励むことで、企業の成長と発展に貢献できる人材を育成することができるでしょう。

【監修者プロフィール】

geppo監修木下洋平 

木下 洋平

合同会社ミライオン

 

株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。

キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。

また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。

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