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オンボーディングは、新たに入社した社員の成長をサポートするためのプログラムであり、社員は成長段階に合わせた適切なプロセスを経て戦力になります。

しかし、プロセスを誤ったり、準備が整わないまま進めたりすると、せっかく入った優秀な社員が定着せず、退職してしまうこともあります。

そこで今回は、効果的にオンボーディングを実施するには、どのようなプロセスを踏めば良いのかを解説します。

※本来であれば、オンボーディングの対象は新卒入社/中途入社を問わない新規入社社員となりますが、本記事においては、オンボーディングの対象を、新卒入社社員(以下「新入社員」)に絞って解説していきます。

 

オンボーディング=新入社員を効率的に成長させるプログラムを組み込んだプロセス

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近年、広く知られるようになってきた、新入社員の受け入れから育成までを行う「オンボーディング」。

もとは「機内に搭乗している」「船内に乗っている」という意味をもつ「on-board」で、出発地から到着地まで乗組員を運ぶイメージで使われていました。

アメリカの企業経営者が「このイメージは人材育成にも応用できる」と気づいたことをきっかけに、企業・組織の人事において、新規に入社した人材が知識を得て定着し、戦力になるまでの成長段階に応じたプログラムを経ていくプロセスを指すようになりました。

 

 

ここでの「プロセス」は、人材の成長にあてはめていくものであり、「過程、手順」という固定化されたものではなく、道筋、成長段階ごとに取られる適切な教育・指導方法、といった柔軟的なものだと理解するのが良いでしょう。

 

 

さて、新入社員が、所属する組織の戦力になるまでは、おおむね1年~2年かかるといわれています。

 

しかし、せっかく入社したのにも関わらず、戦力にほぼなっていないような1年未満で離職していく社員も多く、特に2024歳の若手社員は約3割、19歳以下に至っては約4割近い人数が入社後1年以内で離職してしまうというデータが出ているのです。

 

 

 

出典:厚生労働省 令和2年雇用動向調査結果の概要

3.性、年齢階級別の入職と離職」 年齢階級別入職率・離職率(令和2年(2020)・男女)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf

 

  • 適切なオンボーディングの実施が必要

社員が能力を発揮する間もなく離職することは、成長して企業に貢献する戦力となるはずであった人材が、成長することなくいなくなってしまうということです。

 

また、企業および人事担当者が採用にかけた時間とコストが無駄になってしまうことにもなります。

そうならないようにするための重要施策がオンボーディングです。

人事担当者の責務は、新入社員が組織の戦力として成長するために必要な1年~2年の間に退職することがないように、入社時から新入社員に合わせた適切なプログラムとプロセスを組むことです。

 

 

適切な内容を組み込んだオンボーディングを、人事担当者が効果的に行うことができれば、短期離職を防ぐ効果を期待できます。

さらに、一度、オンボーディングに成功することができれば、そのプロセスを再度利用し、その後入社する社員についても、効率的・効果的に教育を行えるようになるでしょう。

オンボーディングを良いものになるよう工夫して計画し実行することは、新入社員を成長させるだけでなく、組織の人材育成能力の成長も促すのです。

 

オンボーディングの基本的なプロセスとは

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  • 組織社会化とは

前述したとおり、新入社員へオンボーディングを行う目的は、社員が組織の中で個人の能力を発揮できるようにすることです。

加えて、経営学などの世界では、もとは組織外にいた存在である新入社員が、組織の価値観や求められる能力についての知見などを身に付けながら組織の内部へ入り込み、組織の一員として能力を発揮するようになるまでの過程を「組織社会化」と呼びます。

 

ここでは、オンボーディングのさらなる理解にもつながる「組織社会化」についてご紹介します。

 

 

組織社会化は、おおむね3段階を経て行われるとされています。

 

 

第1段階:予期的社会化(組織へ入る前の状態、入社前)

第2段階:調整(組織内で自分を自分で調整し、組織内に慣れていく)

第3段階:役割管理(会社と家庭のバランス、公私の別など、自分の役割を使い分けることを覚える)

※ここに、第4段階(成果:組織で成果を出すことに満足感を覚える)が加わるという説もあります。

 

「組織社会化」は、個人が組織内の役割を引き受けるのに必要な社会的知識や技術を獲得するプロセス、と説明されます。

 

つまり、新入社員が組織内の必要な知識や技術を得ながら戦力化していく「オンボーディング」のプロセスも、「社会組織化」のプロセスと同様なのです。

 

ただし、「オンボーディング」においてはそのプロセスが、早期かつ適切であることを求められています。

 

  • オンボーディングの手順

オンボーディングを行う環境は、体制、予算など、企業の状況によって異なりますが、基本的なプロセスは共通です。

 

1.目標を設定(オンボーディングを行う目的と、目指すものを定める)

2.育成プラン作成(目標設定で生まれた課題・問題をもとに解決のための過程を探る)

3.プランの実施

4.見直しをして再実行

 

 

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プロセスごとに行うべきこと

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では、オンボーディングで行うプログラムは、どのように作れば良いのでしょうか?プロセスごとに解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

 

  • 目標を設定

まずはオンボーディングの目標や目的を言語化しましょう。

企業が新入社員に対して、どのようなスキル・能力をもってどのように活躍してほしいかを、目標として設定します。

人事担当者は、それを新人研修などの場で口頭または文書で説明できるくらいに整理しておき、採用担当者や現場の教育担当者に対して、折に触れて共有できるようにしておく必要があります。

 

  • 育成プランの作成

次に、設定した目標と現状を突き合わせて課題を洗い出し・整理しましょう。

課題が整理できたら、それに対する解決策を検討・整理します。

その解決策を実行計画におとしこめば、それがすなわち育成プランとなります。

マイルストンをおく時期としては、入社時/入社1カ月後/入社3カ月後/半年後が良いでしょう。

「会社・組織に馴染めない」「業務マニュアルが覚えられない」「自分の役割が見えてこない」など、新入社員が抱えそうな課題を具体的に想像して、それらに対して一つずつ丁寧に解決策を考えていくと、それぞれの成長時期・段階に適した育成プランを作ることができます。

 

  • 環境整備

人事担当者が作成した育成プランがうまく機能しないこともままあります。

そのようなケースは、人事担当者と実際の現場で新人教育を行っている社員とで、意識のズレや認識の違いなどが発生している場合によく起きます。

 

そのため、人事担当者と現場の社員、加えて新入社員の上司とでさまざまな情報とともに育成プランの内容を共有し、現場で実践できそうかをすり合わせることも、効果的なオンボーディングにするためには欠かせません。

オンボーディングは、人事部と事業部など組織間を横断して新入社員を支援するケースも多く、そのケースにおいては現場の社員から理解と納得を得ておくことが大切なのです。

 

  • 見直し

さらに、新入社員を支援するための課題が見つかったら、現場の担当者にプランを見直し・レビューしてもらい、必要に応じて修正します。

それにより育成プランの内容が充実していき、効果的なオンボーディングに近づいていきます。

 

  • 育成プランの実施とフォロー

現場の社員に育成プランの見直し・レビューを行ってもらい、プランを修正し「これでいける」となったら、プランを実施します。

もっとも、オンボーディング開始直後はプランがうまく進まないことも多いでしょう。

円滑なオンボーディングと今後の運営のためにも、行き詰まった時に関係者がそれぞれで課題を抽出して、記録しておくことをおすすめします。

 

また、人事担当者はプロセスを経るごとに現場の社員と新入社員に、妥当な内容であったかをヒアリングして振り返りましょう。

双方にヒアリングを行うことで、新入社員を含めた関係者全員で「これは今後のためのモデルであり、効果的なプログラム、効果が無さそうなプログラムがあれば、それを見つけ出して改善していこう」という意識をもってもらうことと、効果のある・ないプログラムは何かという情報を収集できます。

オンボーディングをより良いものにできるだけでなく、一連の活動を通じて、社員同士が結束を高めることも期待できます。

 

オンボーディングにおけるプロセスで注意したいポイント

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新入社員は新たな組織に入ってから、人間関係など「壁」に何度かぶつかるとされています。

オンボーディングのプロセスにおいて、この「壁」を乗り越えていくことで、新入社員は組織の戦力になります。

 

続いてはその「壁」を越えるためにも、注意したいポイントをご紹介します。

 

  • 事前準備をしっかり行う

ある調査では、新入社員の受け入れ体制をしっかりと整えている企業とそうではない企業では、入社後のパフォーマンスに大きく差が出たという結果があります。

たとえば、新入社員の成長段階を想定して現場社員と話し合い、途中のプロセスをきっちり整えていても、入社当日になってやっと教育担当者が決まるということがもしあったとしたらどうなるでしょう。

新入社員に「自分を受け入れることは想定されていなかったのか」という疑念が生じ、モチベーションが下がるかもしれません。

 

オンボーディングの開始は入社前から行い、事前にしっかりと受け入れる準備をして体制を整えておくことで、新入社員のモチベーションを保ち、その後をスムーズに進めることができます。

 

  • 部署内の人間関係はスムーズに

特に新入社員の「壁」となりそうなものが、組織内の人間関係。

新たな環境への不安を抱いている新入社員が、入社早々から「メンバーが分からない」「教育担当者に聞くことができない」「先輩に話しかけづらい」などの問題に直面すれば、不安が募るばかりで「壁」を越えることができません。

人間関係による離職を防ぐためにも、メンター制度やランチミーティングなど、新入社員を積極的にフォローする仕組みと組織を構築しておきましょう。

 

また、社内の組織を超えてコミュニケーションを取れる体制を整えることは、組織間で調整しながら行うオンボーディングの性質上、長い目で見ても大いに役立つでしょう。

 

  • 期待値はズレがないように

組織と新入社員が互いにもつ「期待値」も時には「壁」になります。

求められる成果のレベルや業務内容、組織としてのミッションなど、組織と新入社員とでは解釈が異なることがあります。

たとえばインターン制度などを活用して、双方で事前にすり合わせを行い、ズレがないようにおくことで期待値の「壁」はクリアできるようになります。

 

  • 学べる環境を整備する

担当業務に関するスキルと知識だけでなく、企業文化やルール、組織の仕組み、細かいところでいえば文房具の管理方法に至るまで、新入社員は学ぶことがたくさんあります。

この「学び」も「壁」になることがあります。

マニュアル化されておらず迷う、ふと気づいたら誰に聞けば良いのか分からない、といったことは、新入社員にとっては「壁」になってしまいます。

これらをスムーズに学べる環境にしておくことも、オンボーディングを早く、効率的に進めるうえでのポイントになります。

 

今、社内で行われているオンボーディングがポイントを押さえたものになっているか、新入社員が「壁」を乗り越えて成長し戦力になるための支援ができているか、という観点をもって改めてプロセスを追うことで、次からいっそう効率的で効果的なオンボーディングを実行できるようになるでしょう。

 

組織が用意したプログラムにより、段階を経て個人が成長して組織に貢献するまでを追うオンボーディング。

社員のコンディションを早期から把握し、適切なプロセスで進めていくことができれば、オンボーディングは対象の社員のみならず企業の成長も促す上質な企業支援活動になります。

次の年も、その次の年も、社員が定着し育っていくために、改めてオンボーディングのプロセスを見直してみましょう。

 

 

【監修者プロフィール】

 

吉田 寿

HRガバナンス・リーダーズ株式会社 

指名・人財ガバナンス部 フェロー 

BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ

 

早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。

富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパル、ビジネスコーチ常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを経て、202010月より現職。

“人を基軸とした企業変革の視点から、人財マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織・人財戦略コンサルティングを展開。

中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2008年~2019年)。

早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

主要著書『働き方ネクストへの人事再革新』(日本経済新聞出版)等多数。

 

 

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