組織や企業の成長を促すには、社員一人ひとりの能力やモチベーションを最大限に引き出すことが重要です。社員が主体的に行動できるよう、フィードバックを通して目標達成を目指す手法として、パフォーマンスマネジメントが大きな注目を集めています。
本記事では、パフォーマンスマネジメントの特徴や導入のメリット、具体的な流れや注意点などを解説します。
目次
- パフォーマンスマネジメントとは?
MBOとの違い
目標管理の具体的な手法としてOKRが用いられる - パフォーマンスマネジメントの特徴
短期的なスパンでフィードバックをおこなう
気付きを促すコーチングを実施する
社員一人ひとりの個性や強みに焦点を当てる - パフォーマンスマネジメントを導入するメリット
上司と部下の対話の量・質の向上
エンゲージメントの向上
主体性・当事者意識の向上
生産性の向上
キャリア開発・能力開発
役割の明確化 - パフォーマンスマネジメントの流れ
1.目標設定・すり合わせ
2.行動計画の策定
3.リアルタイムで進捗の評価とフィードバックを実施
サーベイツールを活用すれば進捗状況の定期的な収集を効率的に実施できる
4.育成計画に基づいた能力開発
5.プロセスの振り返りとナレッジの共有 - パフォーマンスマネジメントの注意点
先に上司のコーチングスキルを強化する
組織全体でパフォーマンスマネジメントに取り組む - パフォーマンスマネジメントの導入事例
G社の「オブジェクティブとキーリザルト」(OKR)アプローチ
A社の「Check-in」1on1の新たなアプローチ - まとめ
パフォーマンスマネジメントとは?
パフォーマンスマネジメントとは、社員一人ひとりが自らの能力とモチベーションを引き出し、最高のパフォーマンスを発揮できるようにするためのマネジメント手法です。目標達成に向けたプロセスや活動に焦点を当て、上司によるフィードバックを通して主体的な行動を促します。
パフォーマンスマネジメントの考え方は、アメリカのコンサルタントであるオーブリー・C・ダニエルズ氏らによって提唱されました。1970年代に、パフォーマンスマネジメントを「メンバーが行動から結果に結び付けるための人材マネジメント手法」として唱えたことが始まりとされており、海外では、多くの企業が取り入れているマネジメント手法です。
近年、日本でもパフォーマンスマネジメントが注目されているのは、VUCA時代を迎えていることが大きな要因となっています。変化が大きく先の見通しが難しい時代に、企業が迅速に対応できるよう、社員の主体性を高める取り組みが必要とされています。
MBOとの違い
MBO(Management by Objectives=目標管理制度)とは、パフォーマンスマネジメントと同じく、社員の目標達成に向けた取り組みを企業が支援する制度です。しかし、双方の目的やフィードバックの頻度、重視するポイントなどが異なるため、それぞれの違いを知っておくことで効果的に取り組めるようになります。
パフォーマンスマネジメントは、1週間から1か月の短期間で、社員の将来に向けて主体的な行動を促す手法です。一方で、MBOは半年から1年といった長期間で達成したい目標数値を決定し、社員が行動計画を立てて行動します。
企業側は、計画通りに社員が行動できているか、期間終了後に目標を達成したかなどを評価します。つまり、MBOで重視するのは過去の取り組みにより生まれた結果です。
MBOの導入により、社員は目標達成に向けて意欲を持って取り組めるようになります。社員に合わせた目標の設定によって弱点を克服でき、主体性を持って仕事ができるのも大きなメリットです。企業側も、目標達成度により社員を評価しやすくなり、客観的な評価制度を構築できます。
一方で、目標の達成にこだわり過ぎると、評価が下がるのをおそれて社員が目標を低く設定してしまうケースがあります。また、長期間の評価では、変革のスピードが必要な現代のビジネス環境に対応できないうえ、職種によっては目標設定が難しい場合もあるため、適切に導入できるかを見極める必要があるでしょう。
目標管理の具体的な手法としてOKRが用いられる
パフォーマンスマネジメントにおける目標管理では、OKR(Objectives and Key Results=目標と主要な結果)がよく使われています。OKRとは、目標の設定・管理方法のひとつであり、社員と企業の目標をリンクさせているのが大きな特徴です。
OKRにおけるO(Objectives=目標)は、具体的な内容を設定することが重要です。KR(KeyResults=主要な結果)は、定量的に計測でき、客観的な評価が可能な内容にします。
OKRは、パフォーマンスマネジメントが普及するよりも以前から、独立した概念として存在していますが、パフォーマンスマネジメントにおける目標管理手法として使われています。OKRの導入に際しては、明確な理由や目的が必要であり、そのためにはパフォーマンスマネジメントの実践が欠かせません。
具体的には、上司と社員が1対1で対話する1on1の際にOKRをベースにすると、高い目標を設定できるようになります。パフォーマンスマネジメントの構成要素に、OKRと1on1が両方とも含まれており、パフォーマンスマネジメントで設定した目標に対する達成度をOKRで示します。
1on1を定期的におこない、OKRに積極的に取り組むことで、より効果的なパフォーマンスマネジメントが実現できるでしょう。
パフォーマンスマネジメントの特徴
パフォーマンスマネジメントには、短期的なスパンでフィードバックをおこなう取り組みが求められます。加えて、コーチングの実施により社員一人ひとりをしっかりと注視することも重要です。パフォーマンスマネジメントの主な特徴を3つ解説します。
短期的なスパンでフィードバックをおこなう
パフォーマンスマネジメントでは、1週間から1か月程度の短期間なスパンで、上司と部下の定期的な1on1ミーティングの実施が重要になります。
コミュニケーションの頻度を上げることで、お互いをしっかりと理解し合えるようになり、良好な人間関係が構築できます。さらに、リアルタイムに即した目標の見直しが可能です。
パフォーマンスマネジメントで重要なのは、過去を評価するのではなく、今後どうするべきかという点に着目してフィードバックをおこなう点です。行動計画を基にしながら、目標達成度合いに対する評価や振り返りを実施し、今後の目標設定や行動計画を策定します。
気付きを促すコーチングを実施する
パフォーマンスマネジメントにおける上司と部下のやり取りでは、部下が自ら考え適切な行動を起こせるように、部下に気づきを促すコーチングが求められます。これは、パフォーマンスマネジメントの目的に、主体性の促進が含まれているためです。
上司から部下にアドバイスをすれば、その場の問題はスピーディーに解決しますが、根本的なスキルアップにはつながりません。対話を通して社員自身の気づきを促せるよう、傾聴の姿勢で部下へ問いかけることが重要です。
具体的には、目標達成に向けた課題は何なのか、課題を達成するために必要となる取り組みやスキルを理解しているかなど、部下が行動自ら行動を起こせる問いかけを心がけましょう。
社員一人ひとりの個性や強みに焦点を当てる
社員のなかには、自分の個性や強みを分かっていなかったり、自分に対して自信を持てなかったりする人もいるかもしれません。このようなケースに対して、パフォーマンスマネジメントにおけるコーチングにより、個性や強みの活かし方を理解でき、能力を引き出せるようになります。
この時のコーチングには、上司と部下の信頼関係が必要不可欠です。上司が部下の個性や強みを理解し、達成できる目標を設定することで、社員は目標に向かって成長できるでしょう。
パフォーマンスマネジメントを導入するメリット
パフォーマンスマネジメントの導入により、上司と部下の双方に多くのメリットが期待できます。対話の量が増えたり質が高まったりするだけでなく、エンゲージメントや生産性・当事者意識などの向上も目指せます。
ここからは、それぞれのメリットの詳細を解説します。
上司と部下の対話の量・質の向上
パフォーマンスマネジメントでは、高い頻度で部下と上司がコミュニケーションを取るため、対話の量が増加します。部下は上司に対して、自らが取った行動や目標に対する進捗状況などを定期的に報告し、上司は部下の気づきを促すために細やかなコーチングをおこないます。
これにより、対話の質も増加し、さらに意見交換がしやすい良好な関係性を築けるようになります。
部下は、働きやすさの向上により積極的に成長を目指すことができ、上司は部下について理解を深められるメリットがあるのです。
エンゲージメントの向上
パフォーマンスマネジメントを通じて、上司と部下の間で対話の量が増え、質も向上することで、上司は部下に対して適切なフィードバックができるようになります。上司と部下の双方が理解を深めれば、どちらも自社に対するエンゲージメントが向上しやくなるでしょう。
また、パフォーマンスマネジメントが成功している職場環境では「理解を持つ上司がいる」という安心感が生まれるだけでなく、心理的安全性が確保された社員は自主性を発揮できるようになり、仕事へのやりがいも持てるようになります。
主体性・当事者意識の向上
パフォーマンスマネジメントでは、目的を設定するときに、上司から部下へ一方的に意見を出すことはしません。双方がコミュニケーションを取りながら、社員の意見や考え方も取り入れるため、社員自身の自発的な行動を促せる点が大きな特徴です。
これにより、社員は自分自身の仕事に少しずつ方向性とやりがいを見出せるようになります。
主体性がないと、社員はいわゆる指示待ち人間になってしまい、上司の負担も必然的に増えてしまうでしょう。パフォーマンスマネジメントを通じて上司からのサポートを受けることで、社員は職場における役割や取り組む課題を自覚するようになり、主体性が育まれることが期待できます。
生産性の向上
パフォーマンスマネジメントでは、社員が適切な評価を受けながら目標に向かったサポートが受けられます。社員の主体性や当事者意識の向上で、組織全体のパフォーマンスも高まり、革新的なアイデアが生まれたり、プラスアルファの成果が生み出せたりといった効果が期待できます。
これにより、チームや部署の単位だけでなく、企業全体の生産性が向上する可能性が高まります。
生産性が上がると、さらに働きがいのある職場環境が生まれ、業務の質の向上も見込めます。
キャリア開発・能力開発
パフォーマンスマネジメントにおける計画の立案では、社員一人ひとりの保有スキルや強み・弱みを把握し、これを踏まえた適切なトレーニングや研修計画が立てられます。個々に合った計画により、社員は成長するタイミングを捉えやすくなり、新しい能力を引き出すことが可能です。
経営陣や人事を筆頭に、社員の育成計画の一環でキャリアプランを設計し、プランに沿って育成を進めていくと、会社全体で事業、社員の成長を後押しできるでしょう。
役割の明確化
パフォーマンスマネジメントにおいて、上司と部下が対話を重ねたり日々の行動を振り返ったりする機会を設けることで、社員は自らの現状を理解し、取り組むべき課題を明確に理解できるようになります。大きな目標であっても、日々の積み重ねが重要である点を理解できると、社員は自らの役割を明確に把握し、行動指針が定まるメリットがあります。
社員が自らの行動を自覚することは、役割を持つための第一歩であり、組織や企業を底上げするための重要なポイントであると言えるでしょう。
パフォーマンスマネジメントの流れ
パフォーマンスマネジメントの実施には、PDCAサイクルを意識した取り組みが欠かせません。ここからは、パフォーマンスマネジメントをどのように取り入れていけば良いのか、主な流れをご紹介します。
1.目標設定・すり合わせ
最初に、パフォーマンスマネジメントを導入するにあたって、目指すべき目標を明確に設定することが重要です。なお、上司が一方的に目標を設定するのではなく、部下との対話の中で現状や課題を理解しながら、社員自身が自主的に目標を考えなくてはいけません。
目標設定では、SMARTの法則を意識するとスムーズに設定できます。SMARTの法則とは、目標達成に欠かせない以下の5つの要素の頭文字を取ったものです。
- Specific(具体的な目標であるか)
- Measurable(目標達成率や進捗度が測定できるか)
- Assignable(社員の役割や権限を割り当てているか)
- Realistic(実現可能な目標であるか)
- Time-related(達成までの期限を設定しているか)
SMARTの法則は、1981年に提唱された法則ですが、現在でも多くの企業で使われています。
社員と企業が同じ目標に向かって邁進するには、目標の設定において、社員個人の目標と部署・チーム・企業全体の行動指針や目標が合致していなくてはいけません。そのため、社員の目標を設定した段階で、組織の方向性と相違がないかをすり合わせる必要があります。
社員が組織の方向性を理解することで、日々の業務でも意識的に取り組めるようになります。
2.行動計画の策定
組織の方向性とすり合わせたうえで目標を設定した後は、目標の達成に必要な行動計画を策定します。目標設定と同じく、行動計画を策定する際にも上司と部下の対話が重要な役割を果たします。
行動計画の項目には、目標達成に向けた行動の内容や量・実行方法・実行のタイミングなどが含まれます。社員が理解できるようにするには、達成度を定量的にして見える化を意識しましょう。
3.リアルタイムで進捗の評価とフィードバックを実施
行動計画を策定したら、計画に対してどの程度パフォーマンスを発揮しているのか、日々の業務で定期的に進捗状況をチェックします。進捗状況の評価は、社員自身の報告や上司のモニタリングを踏まえて、評価の基準を統一するために数値に基づいた客観的な評価をおこなうことが重要です。
フィードバックでは、社員の成長につながりにくくなってしまうため、評価内容を伝えるだけや上司からアドバイスをしてはいけません。
課題達成のために取るべき行動を、社員に向けて問いを投げかけ、社員自身が答えに気づけるよう導きましょう。
サーベイツールを活用すれば進捗状況の定期的な収集を効率的に実施できる
社員の進捗状況をリアルタイムで収集するには、サーベイツールの活用がおすすめです。
サーベイツールとは、社員の労働環境に対する不安や意見などを調査できるツールで、社員が感じている組織の現状や課題を可視化し、企業の改善に役立てることができます。
上司側から社員に対して適切にアプローチするためにも、サーベイツールを活用した意見の収集が効果的です。
4.育成計画に基づいた能力開発
フィードバックをおこなったあとは、育成計画に基づき、社員の伸ばすべきスキルが明確に把握できていれば、部下の成長具合に合わせて上司は研修に参加させることが必要になります。
これによって、社員が持つ能力をさらに伸ばせるようになり、社員が自らの実力を発揮できます。
5.プロセスの振り返りとナレッジの共有
ここまでパフォーマンスマネジメントのサイクルを回したら、プロセスを今一度振り返りましょう。プロセスの中で、アップデートが必要な部分がないかを検討し、より良い内容にブラッシュアップします。
また、担当者同士でパフォーマンスマネジメントの注意点や社員の特性などのナレッジを共有し、素早く対応できるようにしておくことも大切です。
パフォーマンスマネジメントの注意点
パフォーマンスマネジメントの実施は、社員の取り組みだけでは実現できません。間違えた方法で導入しても効果は得られないでしょう。
ここでは、具体的にどのように取り組んでいけば良いのか、2点解説します。
先に上司のコーチングスキルを強化する
パフォーマンスマネジメントにおける1on1ミーティングでは、上司が部下に対してコーチングを実施します。上司のコーチングスキル保有が前提であり、ただ単に上司と部下が対話しているだけではパフォーマンスマネジメントの効果は期待できません。
上司が部下の気づきや成長を促し、主体性を伸ばしていくには、コーチングスキルの強化を先におこなうことが必要です。事前に上司に対するコーチング研修をおこない、スキル強化に努めましょう。
組織全体でパフォーマンスマネジメントに取り組む
パフォーマンスマネジメントの効果を発揮するには、組織を上げて社員全体にパフォーマンスマネジメントを実施する必要があります。一部の社員だけに偏ってしまうと、フィードバックの頻度が大きく異なり、社員の成長度合いに差が出てしまう可能性があります。
社員間でも不満が出ることが懸念され、組織全体の雰囲気も悪化してしまうでしょう。
また、個人の目標と企業目標の方向性が異なると、適切なパフォーマンスマネジメントが実施できません。同じ方向を向いて成長していくには、組織全体によるパフォーマンスマネジメントへの取り組みが重要です。
パフォーマンスマネジメントの導入事例
パフォーマンスマネジメントの導入を成功させるためには、他社がこれまでにどのような事例をおこなってきたかを学び、自社の取り組みに活かすことが必要です。ここでは、2社のパフォーマンスマネジメントの事例を紹介しますので、参考にしてください
G社の「オブジェクティブとキーリザルト」(OKR)アプローチ
G社では、2009年に「Project Oxygen」を設定し、生産性を高め働きやすい職場づくりに努めています。パフォーマンスマネジメントのモデルとして、OKR(Objectives and Key Results)という施策を実施しています。これは、企業全体の目標を個人の目標とする管理方法です。
企業の目標や求めたい成果に基づいてOKRを設定し、チームや個人のOKRを決めて行きます。個人の目標と、チーム・組織・企業全体の目標が連携することで、全体のビジョンや戦略の構築が可能です。
個人の目標と企業の目標がリンクすることで、OKRの透明性が確保されて、社員は自分が果たすべき役割を明確に理解できます。他の社員やチームとの協力関係も促進できて、企業のさらなる成長につながっていくのです。
A社の「Check-in」1on1の新たなアプローチ
A社では、かつて年に1度、社員をランク付けする人事制度を設けていました。しかし、このランク付けが社員のモチベーション低下を招き、離職者が増加してしまったようです。
そこで、社員のパフォーマンスを最大化するため、人事制度の代わりに「Check-in」アプローチを導入しました。社員とマネージャーが3か月に1度の定期的なミーティングをおこない、1on1で話し合える環境を作りました。社員のパフォーマンスや個人的な成長について話し合い、上司は部下が話す内容に応じたフィードバックとコーチングを心がけていたそうです。
この取り組みで、社員と上司の良好な関係性が築けるようになり、社員のスキルアップやモチベーション向上の促進が実現されています。離職率も低下し、社員が自らパフォーマンス管理できるようになりました。
まとめ
パフォーマンスマネジメントは、社員一人一人が主体的に行動できるよう、能力やモチベーションを引き出すための手法です。パフォーマンスマネジメントのメリットを最大限に活かせるよう、社員に向けた教育制度だけでなく、上司に対する研修制度も今一度見直してみましょう。
また、パフォーマンスマネジメントを効果的に運用するためには、定期的に社員が感じている、企業や組織の現状や課題を可視化し、改善や対策をおこなうことが欠かせません。特に個人の評価にも影響するため、適切な運用ができているか、客観的に把握するためのサーベイツールの活用を検討してみるといいでしょう。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。