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人事評価への不満は、働く人々のモチベーションに影響し生産性を低下させるなど、組織運営に無視できない悪影響を及ぼします。本来、人事評価制度は社員の意欲をかき立て、人材育成を促すなど、プラスの効果をもたらすものでなくてはなりません。

 

そのためには、自社の文化に合った制度設計と適切な運用がなされることが不可欠です。

本記事では、人事評価制度の概要とメリット・デメリット、評価や処遇を受ける社員にとって納得度の高い制度運用のための取り組みを解説します。

 

 

目次

 

人事評価制度とは

人事評価制度とは

人事評価制度とは、個々の社員の業務成績や能力、勤務態度や業務行動を一定のルールのもと評価する仕組みです。主に貢献度を評価し、処遇と報酬へ連動させることを目的としています。そのほかに人事評価の結果は、人材育成や人員配置をはじめとした、人材活用の基礎資料として使われるケースもあります。

 

社員にとって人事評価は、自身の社内における立ち位置や生活を左右するものです。多くの社員にとっては重大な関心事となるでしょう。そのため人事評価制度は、公正さが担保された、納得度の高いものでなくてはなりません。

 

人事評価制度の種類

【図版】人事評価の手法

人事評価にはさまざまな手法があり、いくつかの種類にわかれます。制度設計をする際には、事業内容や組織文化に応じて、自社に適した手法を選択することが望しいでしょう。

ここでは以下に挙げる5つの手法を紹介します。

  • コンピテンシー評価
  • 目標管理制度(MBO)
  • 目標と評価指標(OKR)
  • 360度評価(多面評価・周囲評価)
  • バリュー評価

 

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、職務内容や役割ごとに成果につながりやすい行動特性(コンピテンシー)を定義し、評価基準に設定します。定義されたコンピテンシーに沿った行動がとれているかを着眼点に評価し、成果は評価に加味しないのが特徴です。

 

評価項目の例は以下の通りです。

チームワーク

行動や発言によりメンバーをまとめ、チーム目標達成意欲を高めている

業務遂行力

業務の流れを把握したうえで、状況に応じた対応をとる

コンピテンシーの項目は、高い成果を上げている社員の日常の業務行動に注目し、思考や行動の傾向を分析のうえ設定し、それぞれに評価尺度を設けることが一般的です。

 

目標管理制度(MBO)

目標管理制度(MBO)とは、評価期間中の目標を設定し、期間終了後に目標の達成度合いで評価する仕組みです。目標は一定の努力を重ねれば達成できるであろう、現実的な難易度で設定します。

 

営業系の職務であれば、売上や利益といった定量的な目標を設定できるため、社員の納得度が高い評価制度です。事務職など営業数値で評価できない職務の場合は、全社的な業績向上につながる業務改善などが目標として設定されます。

 

目標設定の例は以下の通りです。

営業職

新規顧客の獲得件数〇件 売上目標〇〇〇万円を達成する

事務職

システムの選定をおこない、導入の決裁から関係者への周知を完了する

 

目標と評価指標(OKR)

目標と評価指標(OKR)は、インテル社での採用以降、さまざまな米国の大手企業も導入したことで知られる手法です。企業全体の目標を掲げ部門ごとに細分化し、社員はそれをもとに個人の目標を設定します。目標の難易度は、6~7割程度の達成で称賛されるという、高めのレベルで設定するのが特徴です。さらに、目標に対しては複数の評価指標が設定されます。

 

OKRでは高頻度で面談をおこない、目標に対する進捗確認をおこないます。そのため、人材育成と連動させやすく、全社的な生産性の向上にもつなげやすい手法です。

【図版】目標設定の例

 

360度評価(多面評価・周囲評価)

360度評価とは、業務上関りのあるさまざまな立場の人が評価に加わる手法です。直属の上司をはじめ、同じ部署の同僚や部下、他部門の社員が評価に加わり、それぞれの立場から評価をおこないます。直属の上司が把握できない側面が加味されるため、評価の客観性が担保され精度が向上する点がメリットです。

 

一方、思い込みや上司への忖度が加わる可能性もあるため、役割に応じた評価項目や基準、コメントのルールを明確にしておくことが求められます。処遇や報酬に反映させるよりも、フィードバックによる育成への活用が一般的です。

 

360度評価における評価項目の例は以下の通りです。

一般社員向け

チームワーク・業務態度・コミュニケーション

管理職向け

マネジメント力・リーダーシップ・人材育成スキル

 

バリュー評価

バリュー評価とは、企業の行動規範(バリュー)を示し、そのバリューに沿った行動や言動を実践できたかを評価する手法です。日常の業務行動において、バリューを意識した行動がとれていれば高い評価を得られ、反対に成果を残していても、バリューにそぐわない行動があれば低評価となります。

 

適切なバリュー評価には、明確かつ社員のだれもが理解しやすいやすい行動規範を示す必要があります。バリューを意識した、自発的な行動を引き出す目的で活用されるケースが多く、企業理念やビジョンの浸透が必要な際に有効な手法です。

 

バリュー評価における評価項目は、会社が何をバリューとしているかによって異なりますが、例としては以下が挙げられます。

  • 課題解決
  • 迅速な行動
  • ワンチーム など

 

人事評価の基準となり得る構成要素

人事評価の基準や構成要素

人事評価制度の構成要素となるのは、以下に挙げる3つです。

  • 業績評価
  • 能力評価
  • 情意評価

 

それぞれ、着眼点とする評価対象が異なります。評価基準を数値化できるものもあれば、数値化が難しいものもあります。
制度設計の際には単体ではなく、バランスよく組み合わせ、構築することが一般的です。

 

業績評価

評価期間における業績への貢献度が、評価の着眼点になります。営業職を例にとると、期間中の売上高・利益額が基準となり、その貢献度で評価をします。営業職であれば営業数値という明確な指標があるため、比較的導入しやすく、納得度の高い評価です。

 

一方、明確な数値指標がないバックオフィス系の業務においても、業績評価が用いられるケースもあります。たとえば、組織体制の維持や業務効率化などを、間接的な業績への貢献として評価します。この場合は定量的な基準が設定しにくいため、明確な評価基準を定めなくてはなりません。

 

能力評価

能力評価は、業務上求められるスキルや知識が、どの程度発揮されたかを基準に評価するものです。業務上の役割や、役職によって必要とされるスキルや知識は異なります。そのため、評価項目は多岐にわたり、制度設計の際にはそれぞれ細かく設定しなくてはなりません。

 

社員の能力は定量的な測定が難しく、評価者によって評価にばらつきが出てしまう可能性があります。評価に対する不満の原因になりやすいため、評価基準を明確に言語化し、すべての評価者に対して共有する必要があります。

 

情意評価

情意評価は、意欲や積極性といった業務に向き合う姿勢を評価するものです。業務への責任感や目標への執着、会社への協力度合いなどが、評価の対象となります。また、出退勤の状況や普段の勤務態度も評価の対象です。

 

能力評価と同様に、定量的な基準設定が難しい手法です。評価者の主観が入りすぎないように、運用には十分注意しなくてはなりません。

 

人事評価制度の目的

人事評価制度の目的

人事評価の主な目的は報酬や処遇の決定ですが、それだけではありません。適切な人事評価制度の運用により、社員の意欲向上や組織文化の浸透、人材の活性化が図れます。

 

組織にとってプラスの要素をもたらす制度こそが、優れた人事評価制度だといえるでしょう。

 

企業理念・ビジョンの浸透

人事評価制度には、会社が目指すビジョンや企業理念が反映されます。また、会社が求める「あるべき人物像」も、評価項目や評価基準に色濃く表現されます。

 

企業を発展させるためには、会社が目指す方向性とその担い手となる社員の目指すべきものが、同じ方向を向いていなくてはなりません。会社がどのような考えをもち、社員にどのような行動を求めるのかを浸透させるのも、人事評価制度の目的の1つです。

 

報酬・処遇・配置の決定

人事評価は、個々の社員の給与や賞与の算定基準、昇格や昇進の判断材料として活用します。また、人事異動検討の基礎資料として使用するケースもあります。これらの決定において、客観的な根拠となるのが人事評価制度です。

 

報酬・処遇・配置について、すべての社員の納得を得るのは難しいでしょう。公平性が保たれたルールに則った評価であれば、結果に納得しなくてはなりません。組織の運営上、発生しがちな社員の不満を抑制するも人事評価の目的です。

 

人材育成

人事評価制度と人材育成は、密接な関りをもちます。評価項目や評価基準によって、社員に求める行動や成果を明示できるためです。社員は自身の役割を理解して日々の業務にあたることで、企業が求める人材として成長できるでしょう。

 

また、人事評価結果から社員それぞれの強みや弱み、得意・不得意の把握が可能です。これらを現場のマネジメントに活用すれば、個々の人材の力を生かし成果につなげられます。こうした循環の形成により、成果に対する意欲が高まり、人材の成長が促されます。

 

モチベーションの向上

高い評価を受け、承認欲求が満たされることはモチベーションの源泉となります。努力により成果を出し、その成果が認められ報酬や処遇に連動すると、さらにやる気を出して頑張るようになります。また、結果が悪くても、どこが悪かったのか原因がわかれば、改善につながりやすく、次は頑張ろうと意欲が湧いてくるものです。

 

人事評価への納得度は、仕事へのモチベーションと強く関連しています。

 

【図版】目標設定の有無でモチベーションが変動

出典:厚生労働省 「平成 30 年版 労働経済の分析」

【図版】毎日の目標管理がモチベーションに好影響を与える

出典:厚生労働省 「平成 30 年版 労働経済の分析」

厚生労働省によると、適切な目標設定のもと、納得度の高い人事評価がなされている企業では、どの役職においても、高いモチベーションで仕事に臨んでいるようです。また、目標に対する管理や指導が高頻度である企業ほど、社員は高いモチベーションで日々の業務にあたっていることがわかります。

 

社員のモチベーション向上には、納得度が高く、フィードバックが適切になされる人事評価制度が欠かせないと言えるでしょう。

 

人事評価制度のメリット

人事評価制度のメリット

公平性が保たれた人事評価制度を適切に運用すれば、組織運営にさまざまなメリットをもたらします。社員はモチベーションを維持しながら、会社の発展につながる成果を追求するようになるでしょう。

 

報酬や処遇の根拠となる

報酬や処遇の根拠として、社員の納得度を高められる点が人事評価制度のメリットです。評価に対する不満は生産性の低下を招く要因ですが、公平性が保たれた人事評価制度による結果であれば、社員は納得せざるを得ません。

 

また、評価項目や評価基準が示されていれば、何を努力すれば高い評価(報酬・処遇)を得られるのかも理解できるようになります。努力するポイントが明確になるため、モチベーションやパフォーマンスも向上するでしょう。

 

人材活用が促進される

人事評価によって個々の社員の成果やスキル、業務に対する姿勢が明確になり、資料として蓄積されていきます。評価結果に基づいて社員の改善点を洗い出していけば、効果の高い教育カリキュラムの作成も可能です。

 

また、個人の得意・不得意も把握できるため、配置転換を検討する際の資料としても活用でき、適材適所の人員配置ができます。個々の人材がスキルを存分に発揮できれば、おのずと企業は発展していくでしょう。

 

人事評価制度のデメリット

人事評価制度のデメリット

人事評価制度はメリットがある一方である程度のノウハウが必要であったり、社員の不満の原因となったりするケースがあります。ここでは考えられるデメリットを解説します。

 

制度設計・運用にノウハウが必要

人事評価制度の設計や運用には専門的な知識が必要です。組織成長を見据えた制度設計には、長期的な視点が欠かせません。また、制度の運用を始めるにあたっては、評価者に対する教育も必要です。

 

不十分なまま運用を始めてしまうと、制度運用が浸透しない、評価基準にばらつきが発生するといった問題が発生する恐れがあります。ノウハウが社内にない場合は、外部コンサルの力を借りる必要がでてくるなど、コストの増加が発生するでしょう。

 

不満の原因になる場合がある

評価項目や評価基準の透明性が低い人事評価制度では、社員は不満をもつようになります。会社に対する不信感が募ってしまうと、モチベーションの低下を招いたり離職の原因となったりする可能性も考えられるでしょう。

 

人事評価制度は報酬や処遇に直結するため、評価結果への不満は上司や社員同士との確執が生まれる原因にもなり得ます。公平で透明性の高い制度とすることはもちろん、結果に対するフィードバックを適切におこなうなど、きめ細かな対応が必要です。

 

納得度の高い人事評価制度を運用するための取り組み

【図版】納得度の高い人事評価制度運用のフロー

評価項目・評価基準や評価のプロセスに透明性があり、納得度の高い人事評価制度は、組織運営にさまざまなプラスをもたらすことに触れてきました。ここでは、納得度の高い評価制度を運用するための取り組みについて解説します。

 

明確な評価基準を設定する

人事評価の納得度を高めるためには、評価基準や評価項目の明示が欠かせません。
わかりやすく言語化し、すべての社員が同じレベルで理解を深めることが必要です。具体性のある目標や明確なコンピテンシーを示し、どうすれば評価されるのかを共通認識とします。

 

また、人事評価の納得度を高めるために、他の社員と比較する「相対評価」ではなく、個人の成果をすべて同じ尺度で評価する「絶対評価」でおこなうのが望ましいでしょう。

内部リンク
ID30人事評価基準(公開後)

 

評価者トレーニングを実施する

人事評価の納得度を下げる要因に、評価者による評価のばらつきがあります。人事評価では評価者の主観は、避けなくてはなりません。

 

評価に統一性をもたせるには、評価者トレーニングにより解消します。

評価エラーなど評価に関する基礎的な知識の習得や、評価基準のすりあわせを研修を通じて教育していくといいでしょう。

 

的確なフィードバックを継続的に実施する

評価に対する納得度を高めるには、社員への適切なフィードバックが大切です。最終的な評価結果はもちろん、評価期間中にもフィードバックをおこない、評価者と社員の信頼関係を構築していきます。

フィードバックは1on1の手法を用い、継続的に実施することがポイントです。継続することで、個々の社員のパフォーマンスやモチベーションの向上が促され、組織文化が強化されていきます。

 

評価期間中は目標達成にむけた行動につまずきが生じていないか確認し、問題があれば支援をします。結果のフィードバックでは、上手くいったことと、そうではなかったことを明確に示し、次のアクションを一緒に考えるといいでしょう。

 

サーベイの実施により社員の納得度を把握する

人事評価制度に対する社員の意識の把握は、長期的かつ効果的な制度運営に欠かせません。

社員の意識を把握する具体的な手法としては、サーベイの実施が挙げられます。サーベイとは、物事の現状を把握するためにおこなう調査のことです。

サーベイの実施により、人事評価制度が適切に機能しているかのチェックをはじめ、社員がどのように感じているか意見の集約も可能になります。

 

社員が評価結果に納得しているかは、エンゲージメントサーベイを定期的に実施することで把握できます。エンゲージメントサーベイとは、会社と社員のつながりの強さを測定する調査です。エンゲージメントが高い状態は、社員は自身の仕事に情熱をもち、会社に対して強い関心を抱いている状態を表します。

 

一方、エンゲージメントが低い状態だとしても、早期に課題を把握でき、適切な対策が打てるようになります。

 

人事評価制度を運用するうえでの注意点

人事評価制度を運用する際の注意点

人事評価制度に対する社員の納得度を高めることは大切ですが、すべての社員が納得する人事評価制度の設計は難しいといわざるを得ません。

 

しかし、制度の内容に対して不満が多すぎる場合は何らかの欠陥がある可能性があります。ここでは人事評価制度を運営するうえでの注意点を解説します。

 

組織文化との整合性をとる

会社が掲げる経営理念やビジョンと、人事評価制度の内容に矛盾が生じてはいけません。

組織文化と整合性のとれない人事評価制度は、社員に混乱を与える可能性があります。

 

評価につながる行動や成果が、会社が掲げるビジョンや、求める人物像に近づいていけるものであることが理想です。

 

公平性を担保する

人が人を評価する以上、公平性の担保は避けては通れない問題です。人事評価制度の理解を深める啓蒙活動や、評価者訓練を根気よく続けていきましょう。

 

制度の運用においても、公平性を保つ配慮が大切です。社員1人の評価に複数の評価者が携わることや、昇進候補の評価に360度評価を取り入れるなど、客観性を保つ工夫が必要です。

 

職務役割によって評価基準を変化させるように考慮する

会社には多くの職務があり、それぞれのポジションに応じた役職の社員が業務にあたっています。これらの人材を、一律の評価基準・評価項目で評価することは不可能です。

 

たとえば新入社員と課長職に求める成果や行動は異なるでしょう。営業職と事務職などの職種においても同様です。評価項目や評価基準は職務内容・役職・役割によって、それぞれの内容やレベルにあわせたものにしなくてはなりません。

 

評価者の主観を排除する

公平性を担保するためには、評価者の思い込みや好き嫌いが反映できない制度にします。営業職に対するMBOでは、定量的な数値指標が評価基準として設定可能なため、評価者の主観はほとんど排除できます。しかし、そのほかの職種では難しいでしょう。

 

評価者の主観が入らない制度運営をおこなうためには、評価者に対する教育の実施や、複数の評価者によるチェック機能の充実を図るなどの継続的な努力が必要です。また、評価結果を定期的に分析し、評価者ごとの傾向を把握することも有効です。

まとめ

まとめ

組織文化に合った納得度の高い評価制度を運用するのは、組織の成長に欠かせない要素です。そのためには自社の人事評価制度が、社員のモチベーション向上に作用しているのか、組織成長につながっているか、定期的な確認をしなくてはなりません。

 

また、社員の人事評価に対する意識を把握することも大切です。社員の不満が多すぎる人事評価制度は、モチベーションの低下や離職の隠れた原因であるかもしれないからです。これらの意識を把握するのは、定期的なサーベイの実施が有効です。組織と人材の現状を知り、問題が生じた場合には迅速に対策できる環境を整えるのは、適切な評価制度の運用に必要な施策といえるでしょう。

Geppo製品訴求イメージ

【監修者プロフィール】

geppo監修木下洋平 

木下 洋平

合同会社ミライオン

 

株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。

キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。

また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。

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