本記事では「コンピテンシー評価」について具体的な導入方法、メリット、デメリット、そして他の評価方法との比較などについて解説します。
コンピテンシー評価によって社員の成長を促進し、評価の公平性と客観性を向上させる方法に焦点を当て、組織や個人の成果を高めるためのポイントを紹介します。
目次
- コンピテンシー評価とは
コンピテンシーとは
職能資格制度との違い - コンピテンシー評価のメリット
社員の成長を促進させる
トレーニングや人材配置の効率的な実施
評価への納得度が向上する
採用ミスマッチのリスク減少 - コンピテンシー評価のデメリット
制度導入までに手間と時間がかかる
適切に運用しないと公平な評価ではなくなってしまう - コンピテンシー評価の導入方法
1. ハイパフォーマーやモデルとなる人材を分析
2. 評価項目の設定
コンピテンシーディクショナリーの領域と項目例
3. 社内への周知
4. 定期的なメンテナンスの実施 - コンピテンシー評価の導入時の注意点
デジタル人材の育成とDX推進が必要
コンピテンシーモデルに過度に依存しないようにする
成果を上げることも意識する - コンピテンシー評価を実施する上でのポイント
評価者には評価方法の研修、評価対象者には説明会をおこなう
単なる評価ではなくフィードバックを提供し改善につなげる - コンピテンシー評価と対比される他の評価方法
360度フィードバック
MBO(目標管理制度) - まとめ
コンピテンシー評価とは
コンピテンシー評価とは、高いパフォーマンスを発揮している人の行動特性(コンピテンシー)に基づいておこなわれる人事評価制度です。具体的には、各職務で優れたパフォーマンスを示す人の行動や思考の傾向を調査・分析し、評価基準として設定します。
客観的で納得感のある評価が可能で、人事評価だけでなく採用にも活用されているコンピテンシー評価について、基本的な情報や職能資格制度との違いについて解説します。
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、仕事や課題などにおいて優れた成果を出す人に共通する思考や行動の特性を指します。具体的には、コミュニケーション能力や問題解決能力、専門的な知識や技術的なスキルなどが含まれます。
これらは、個人の成長や組織の成功に欠かせない要素として考えられています。
職能資格制度との違い
コンピテンシー評価と類似するものに、職能資格制度が挙げられます。
しかし、コンピテンシー評価と職能資格制度は、評価の内容や基準が異なります。
コンピテンシー評価は、各職務ごとに定義された行動特性(コンピテンシーモデル)に基づいておこなわれる人事評価です。具体的な行動が評価基準となり、社員のそれぞれの行動や思考が評価されます。
各職務ごとに定義された行動特性に基づいて評価がおこなわれ、個人の成果や能力を客観的に評価できるため、成果主義との相性が良いと言われています。
一方で、職能資格制度は、社員の能力・スキル・知識などを評価するものです。能力値を評価基準として使用するため、「協調性」「責任感」などの評価があいまいになりがちです。
職能資格制度は経験や年数に基づいて昇進や報酬が決定されることから、日本型雇用の年功序列制度に適しているとされています。
コンピテンシー評価のメリット
コンピテンシー評価の導入は、企業における人材管理だけでなく、採用においてもメリットがあります。
ここからは、コンピテンシー評価のメリットについて解説します。
社員の成長を促進させる
コンピテンシー評価は、社員評価を通じて、個人の強みを最大限に活用し、成長に向けた機会の提供を可能にする性質があります。具体的には、社員のスキルや能力を評価し、改善のためのフィードバックやトレーニングをおこないます。
社員は、どのような行動が評価につながるのかが明確になるため、モチベーションの向上にも寄与し、成長を促進させやすい環境を整えられるでしょう。
トレーニングや人材配置の効率的な実施
社員の強みや改善点を正確に把握し、それに基づいたトレーニングプログラムを設計できるのは、コンピテンシー評価を導入するメリットとして挙げられます。
また、社員の実力を正確に評価できるため、特定のプロジェクトや業務に最適な社員を選抜するなど、人材の適切な配置にも役立ちます。これにより、プロジェクトの成功確率が向上したり、組織として効率的な業務遂行が可能になったりするメリットがあるでしょう。
評価への納得度が向上する
コンピテンシー評価は、行動特性という明確な基準に沿って評価がおこなわれます。客観的かつ公平におこなわれる評価は、社員の評価基準に対する理解を促します。
また、フィードバックを伴うコンピテンシー評価は、社員にとって自身の強みや改善点を具体的に認識する機会としても活用できます。フィードバックが適切であるほど、社員は自分の仕事において評価されているポイントや、さらに高い評価を得るための改善について理解しやすくなるでしょう。
採用ミスマッチのリスク減少
コンピテンシー評価の採用活動への活用は、候補者のスキルや適性を客観的に評価しやすくなり、採用のミスマッチを防ぐ効果もあります。
採用プロセスでのコンピテンシー評価は、社員が持つべきスキルや能力を正確に把握するための効果的な手段です。この評価により、求めるコンピテンシーに適合する候補者が選ばれやすくなるため、採用ミスマッチの可能性が低くなります。仕事に必要なスキルや能力を持っているか確認できることで、入社後の定着やパフォーマンス向上が期待できます。
コンピテンシー評価のデメリット
メリットがある一方で、評価精度の導入までにかかる時間や適切な運用など、コンピテンシー評価ならではのデメリットや課題もあります。導入・運用前に、懸念点について理解しておきましょう。
制度導入までに手間と時間がかかる
コンピテンシー評価制度を構築する際には、綿密な計画が必要になります。
コンピテンシー評価の項目は、企業独自の評価基準を作成しなければなりません。つまり、評価のモデルとなる生産性の高い人材を選定したり、ヒアリングや分析をしたりと、かかる工数は決して小さくないことが考えられます。制度を導入するまでに時間を要するため、担当者に負荷がかかるのを理解しておく必要があるでしょう。
また、新しい制度の導入には変化への適応期間が必要です。社員や管理層が新しい評価基準やプロセスに慣れるまでには時間がかかり、初期の段階では混乱や不満が生じるケースがあるかもしれません。コンピテンシー評価を新たに導入する際には、事前の説明会だけで終わらせるのではなく、必要に応じて都度説明の場を設けるなどの工夫が求められます。
適切に運用しないと公平な評価ではなくなってしまう
コンピテンシー評価は、具体的かつ客観的な評価がおこなえる一方で、運用が不適切だと公平な評価が難しくなります。たとえば、評価基準が主観的である場合や、評価者の個々のバイアスや認識の違いが影響を与えると、公平性が損なわれる可能性があるため注意が必要です。
特に柔軟性が求められる場面やクリエイティブな業務では、客観的な尺度を確立するのが難しく、主観的な判断が影響を及ぼすケースがあります。その結果、社員や評価を受ける側が評価基準を理解しにくくなり、納得感が低下するリスクがあるでしょう。
コンピテンシー評価の導入方法
コンピテンシー評価の導入は、ひとつずつ着実に手順を踏むと、導入後の失敗を防ぎやすくなります。
ここでは、導入手順の具体的な方法を4つのステップにわけて解説します。実際に活用されているコンピテンシー項目の例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
1. ハイパフォーマーやモデルとなる人材を分析
導入の第一歩は、組織内のハイパフォーマー(生産性の高い人材)の選出と分析です。ハイパフォーマーの行動やスキルを詳細に調査し、成功の要因や組織に与える価値を明らかにしましょう。
たとえば、行動を分析するなら「なぜそのような行動をとったのか」「どうしたらそのような行動ができるようになったのか」「ある状況において、ハイパフォーマーならどのような行動をとるのか」などを分析します。
スキルなら、どのような資格を所持しているのか、これまでどのような業務経験があるのかなど、ハイパフォーマーのバックグラウンドをリサーチします。
このように、彼らがどのようなコンピテンシーを持っているかを理解すれば、評価基準にするべき内容が見えてくるでしょう。
2. 評価項目の設定
ハイパフォーマーの分析が完了したら、コンピテンシーディクショナリーを活用して、具体的な評価項目を設定します。
コンピテンシーディクショナリーとは、組織の成長に求められる業務とスキルを体系的にまとめたものです。領域ごとに必要なコンピテンシーを洗い出し、各項目を具体的な行動やスキルに関連付けることです。これにより、社員が理解しやすい評価基準が整備され、公平で客観的な評価が可能となります。
コンピテンシーディクショナリーの領域と項目例
コンピテンシーディクショナリーは、以下のような項目で整理できます。
コンピテンシー |
項目 |
達成とアクション |
達成志向 秩序、品質、正確性への関心 イニシアチブ 情報収集 |
支援と人的サービス |
対人理解 顧客支援志向 |
インパクトと影響力 |
インパクト 影響力 組織間隔 関係構築 |
マネジメント領域 |
他者育成、指導 チームワークと協力 チームリーダーシップ |
認知領域 |
分析的思考 概念的思考 技術的・専門職的・管理的専門性 |
個人の効果性 |
自己管理 自信 柔軟性 組織コミットメント |
上記のように、自社の経営方針や目標、実際の業務にあわせて評価項目を設定します。また、設定した項目は「どの程度満たしているか」に注目して評価レベルを5段階で設定しましょう。
たとえば、マネジメント領域では「チームワークと協力」の項目があります。この項目に対して対象者(従業員)が「どれくらいチームメンバーと協力して業務をおこなえたのか」として、1~5のレベルで評価します。
3. 社内への周知
決定した評価基準や評価プロセスは、社内に広く周知することが重要です。
トレーニングセッションやコミュニケーションキャンペーンを通じて、社員が評価基準を理解し、期待される行動やスキルに焦点を当てられるようになります。透明性を確保し、社員が評価に対して納得感を持つような環境を整えましょう。
4. 定期的なメンテナンスの実施
コンピテンシー評価の導入後は、定期的な評価項目の見直しが重要です。評価項目が組織の変化に適応し、社員の成長と組織の目標に合致させるための不可欠な工程です。
環境や業界の変動、新たなビジョンや戦略の採用に対応するために、評価項目を定期的に再評価することが必要であるためです。定
期的なメンテナンス(見直し)と従業員からのフィードバックを実施して、組織の目的とコンピテンシー評価がマッチしているか確認をおこないます。必要に応じて評価項目やプロセスを改善するようにしましょう。
コンピテンシー評価の導入時の注意点

コンピテンシー評価は、定期的なメンテナンスや精度に固執しすぎない姿勢など、導入時に気を付けたいポイントも少なくありません。
ここからは、コンピテンシー評価を導入する際の注意点について解説します。
デジタル人材の育成とDX推進が必要
DXを推進し組織が成功するためには、デジタルスキルや新しいテクノロジーに対応できる人材の育成が重要です。
経済産業省では、デジタル人材の育成に向けた取り組みを進めています。DX推進に必要な人材、知識、スキルを定義した「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」を策定し、ITに関する知識や技能が一定以上の水準であることを認定するため、国家試験として「情報処理技術者試験」を実施しています。
DXビジネスを立ち上げるためには、新たな価値を模索するための特別なコンピテンシーが求められます。具体的には、仮説検証型の姿勢や積極的な学習意欲などが挙げられます。
しかし現在、このようなコンピテンシーを獲得するための教育が課題となっています。組織は、社員が新しいコンピテンシーを身につけるための効果的な教育プログラムの実施、見直しを続けていく必要があります。
コンピテンシーモデルに過度に依存しないようにする
コンピテンシー評価の制度導入には手間と時間がかかります。そのため、一度導入したコンピテンシーモデルに固執しすぎてしまう傾向があります。しかし、すべてのコンピテンシーを高い水準で兼ね備えた人材はそういないでしょう。従って、設定したコンピテンシーにこだわりすぎないことも大切です。
すべての要素に高評価を求めるのは現実的ではありません。一方的な要求になれば社員の反感を招く可能性もあり、結果として業務へのモチベーションを低下させてしまう可能性もあります。評価する側は、設定した評価基準はあくまで一つの指標であるという認識が必要です。
成果を上げることも意識する
コンピテンシー評価の目的は「成果を上げること」です。そのため形式的なプロセスとして導入してしまうと、効果を感じにくくなる可能性があります。
導入したら終わりなのではなく、導入後、どのように社員がコンピテンシー評価の項目に沿って行動し、成果を上げているのかについて結果を確認することが重要です。
コンピテンシー評価を実施する上でのポイント
ここでは、コンピテンシー評価を実施するうえでのポイントを3つ解説します。ポイントを押えておけば導入がスムーズになるため、確認しておきましょう。
評価者には評価方法の研修、評価対象者には説明会をおこなう
コンピテンシー評価を意味のあるものにするには、評価者と評価対象になる従業員の双方が制度の内容を理解しておく必要があります。
評価者にコンピテンシー評価の方法とプロセスに関する研修をおこなえば、公正かつ客観的な評価が促進されます。評価対象となる従業員には説明会をおこない、納得してもったうえで導入すれば、評価結果に対して不満がでにくくなるでしょう。
具体的には評価者に対しては、一貫性を持って評価するためのガイドラインを制定し、定期的な研修をおこないます。被評価者に対しては、評価基準の周知やその情報のオープン化など、納得を得るための環境作りに努める必要があります。
単なる評価ではなくフィードバックを提供し改善につなげる
コンピテンシー評価は、評価のみで終わるのではなく、改善と成長につなげるためのプロセスとして役立てていくことが重要です。単なる点数づけやランキングだけでなく、社員の成長や組織の進化に寄与するものとなるよう、評価結果のフィードバックをおこない改善につなげることが重要です。
たとえば1on1を実施し、評価結果について褒めるべき点と改善が必要な点を伝える方法が考えられます。
社員はどのような部分が評価されているのか、反対にどのような点に改善が必要なのかがわかるので、モチベーションが向上しやすくなるでしょう。
改善するべき点を明確にして、社員自身が自分の課題として取り組むことができれば、組織の生産性向上が期待できるようになります。
コンピテンシー評価と対比される他の評価方法
社員の評価方法は、コンピテンシー評価以外にも複数あります。
ここでは、企業でよく導入されている評価方法を2つ紹介します。評価方法の特徴や利点、コンピテンシー評価との違いについて解説し、それぞれの評価方法がどのような状況に適しているかを示します。
360度フィードバック
360度フィードバックは、上司、部下、同僚など、複数人からの評価を組み合わせておこなう評価方法です。上司からの評価だけでなく、同僚や部下の視点も取り入れることで客観的な評価が可能です。
コンピテンシー評価とは異なり、人物全体の行動や対人スキルに焦点が当てられます。
MBO(目標管理制度)
MBO(目標管理制度)は、社員自らが目標を設定し、その目標をどれだけ達成できたかを評価する手法です。社員自ら目標を設定するため、モチベーションの向上にも期待でき、組織の業績や生産性の向上にもつながります。
この方法は、多角的な視点を提供し、従来の上司の評価だけでなく、同僚や部下の視点も取り入れることで全体的な評価を可能にします。一方で、コンピテンシー評価とは異なり、人物全体の行動や対人スキルに焦点を当てています。
まとめ
コンピテンシー評価は、生産性の高い人材をモデルに評価項目を設定することで、あいまいになりがちな思考や行動を評価として明確に表せる評価制度です。導入には、生産性の高い人材のモデル選定や、詳細な分析と項目設定とあわせて、社内への周知や定期的なメンテナンスの実施など時間とノウハウが必要になるでしょう。
特に、コンピテンシー評価を適切に運用していくためには、導入後の社員の反響や意見を定期的にヒアリングすることが大切です。ヒアリングにはサーベイツールと呼ばれる調査ツールの活用がおすすめです。
サーベイツールはスマホやパソコンで実施したアンケート結果を分析して、組織や個人の問題点などを把握できます。コンピテンシー評価の導入が成果につながっているかの分析をおこなうために、サーベイツールの活用も検討してはいかがでしょうか。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。