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社員がモラハラを起こした場合、人事として考えられる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。

モラハラの定義とパワハラとの違い、また、モラハラはどのような問題につながるのか、どう防止し対応するのかについて解説します。

モラルハラスメント・モラハラとは?

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  • モラハラは「精神的な暴力や嫌がらせ」

モラハラの定義については明確化されていないのですが、一般的には言葉や態度などによって人の心を傷つける、精神的な暴力や嫌がらせのことをいいます。

職場などで上下関係にある場合だけでなく、実際には上下関係がない場合でも強迫的な言動で「行為者が上、被害者が下」だと被害者に思い込ませ、被害者を見下し、人格を否定するような暴言をぶつけたり、無視や嫌がらせのような態度を取ったりします。

一方で、殴る蹴るといった肉体的な暴力は振るわないのもモラハラの特徴です。

 

  • 職場の人間関係においてもモラハラは起こり得る

モラハラの典型例としてよく挙げられるのが夫婦間・恋人間といったプライベートな関係での行為・被害です。

たとえば、夫が専業主婦の妻を「家にいるだけで気楽な立場」「誰の稼ぎで食べているのか」などと見下げる言い方をしたり、用意された食事に手を付けない、呼びかけにわざと答えないといった行為をしたりといったことが挙げられます。

一方、職場の人間関係においてもモラハラは起こり得ます。

たとえば、他の社員がいる前で「成績が悪い」「何をやらせても使えない」などとののしったり、「仕事ができないのだから」などと、さしたる根拠もなく大量の雑務を押し付けたりするような行為などがこれに当たります。

 

  • モラハラ行為者・被害者の特徴

・行為者の特徴は「自分は被害者に尊重されるべき」という強い思い込み

モラハラの行為者には、精神障害の一種である「自己愛性パーソナリティ障害」に近い特徴が見られるといわれます。

まず他人を「自分より上か、下か」で判断し、上と判断した相手にはかわいがられるように巧妙にすり寄ります。

一方、下と判断した相手は自分を(はた目には過度なほどに)尊重するのが当然と考え、そのためにモラハラなどの行為におよぶといったものです。

自分を優位にするために相手を利用することは正当だと思い込んでいるので、下と判断した被害者に対して強い言葉や態度でマインドコントロールするのです。

 

・被害者の特徴は「自己肯定感が低い」

モラハラ被害者には、自己肯定感が低い人が多く見られます。

たとえば、行為者が自分を優位に見せるために「お前はダメなヤツだ」と暴言をぶつけると、自分への自信のなさから「確かにダメかもしれない」と考えてしまうのです。

行為者はこういった被害者の特徴を利用し、自分に都合の良いように操ろうとします。

モラハラとパワハラの違いとは?

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  • パワーハラスメント(パワハラ)は「モラハラの一種」

パワハラ、セクハラなど、ハラスメントの種類はすべて横並びで語られることが多いようですが、実際には、モラハラはパワハラを含んだ広い概念といえます。

パワーハラスメントも、性的な嫌がらせなどであるセクシュアルハラスメント(セクハラ)も、モラルハラスメントの一種と考えられます。

 

モラハラは「精神的な暴力」、パワハラは「精神的・身体的な暴力」

モラハラとパワハラ、セクハラの大きな違いとして、モラハラは「精神的な暴力」が定義となっているものの、パワハラ、セクハラはその一部に「身体的な暴力」を含んでいる点があります。

また、パワハラは主に職場や学校などの人間関係で起こるものを指しますが、モラハラやセクハラはこれに加えて家族間や恋人、宗教団体、ボランティア組織、趣味のサークルなど、あらゆる人間関係で起こるものを指すのが一般的です。

なお、厚生労働省のパワーハラスメントの定義では、職場のパワーハラスメントとして、「職場において行われる」と、あくまで職場でのこととして限定しています。

 

ここでパワハラについて補足しておきます。

  • パワーハラスメント(パワハラ)とは?

パワハラは職場などで肉体的・精神的な苦痛を与える行為の総称です。

職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、相手に精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為と定義づけられています。

 

・上司から行われる行為だけがパワハラではない

パワハラは上司から部下に対して行われるケースが多く見られますが、優越的立場があれば、それ以外の関係性でも起こり得ます。

たとえば、先輩から後輩に対する行為、顧客や取引先との間の行為によるものも含まれます。

もっといえば、職務上の上下関係と結びつかない同僚間での行為、部下から上司に対する行為なども含まれるのです。

 

 

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モラハラを放置すると何が起こる?

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  • モラハラを放置すると徐々に状況が悪化

・被害者のストレスが蓄積され、業務に支障をきたすことも

モラハラは日常的に繰り返されることが少なくありません。

そのたびに被害者には強いストレスが蓄積されていき、心身の健康を損なうなどして業務に支障をきたすことも起こり得ます。

 

・周囲にもストレスが波及し、上司や会社への信頼が揺らぐ

職場でのモラハラは周囲の社員などにも目撃されていることがあります。

不当に精神的な暴力を受ける様子を見るだけでもストレスになりますし、行為者への不信感も募ります。

また、モラハラに気づけなかったり、気づいても見て見ぬふりをする上司や、有効な対策を取れない会社への信頼も揺らいでいきます。

 

  • 従業員の離職、訴訟などの可能性も

・被害者の休職・退職を招き、周囲の離職の遠因にもなりかねない

行為者が自主的にモラハラをやめることはまれですから、これを放置していると被害者はやがてストレスから勤務できない状態まで健康を損ね、休職・退職につながってしまう恐れがあります。

その様子を知った周囲の社員も、行為者が職場におよぼす影響や会社の対応状況などを案じて、転職などで会社を離れることを考えるかもしれません。

 

・行為者や会社を被告として訴訟を起こされる可能性も

被害者がモラハラによって著しく健康を害したり、退職を余儀なくされた場合、被害者が行為者に損害賠償を求めたり、会社に使用者責任を追及する訴訟を起こす可能性もあります。

モラハラの予防策・対応として人事が行うべきことは?

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  • モラハラ防止のためにあらかじめ取りたい「予防策」

・「事業主が雇用管理上講ずべき措置」を参考に

職場におけるハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置が、厚生労働大臣による指針で定められています。

このうち、モラハラが起きる前に取り組むべき措置、つまり予防策となり得るは次の通りです。

 

1. 事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること
2. 相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること

5.    業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること

出典:

厚生労働省『職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)』

 

具体的な例としては、下記のような予防策が考えられます。

 

・あらかじめ「ハラスメントが判明した場合どう対応するか」を周知しておく

社内報などで、就業規則にはハラスメントについてどう規定されているか、人事などの担当部署は相談があった場合どのように動くか、といったことを知らせておきます。

被害者にとっては相談のきっかけに、行為者にとっては抑止力になり得ます。

 

・ハラスメントに関してプライバシーを守りながら相談できる窓口を設ける

相談者はモラハラによって判断力が低下し「相談すると行為者に伝わり、よりひどい仕打ちを受ける」と思い込んでいる可能性もあります。

モラハラについて窓口に相談するのはかなり心理的ハードルが高いことだと心得、窓口を設けた場合はプライバシーがしっかり守られることも周知しましょう。

また、相談したことによる不利益取り扱いを受けないように会社が守ることも周知する必要があります。

 

・相談の有無に関わらず、ハラスメントが起こらない職場づくりを推進していく

モラハラ行為者は、自分の言動がハラスメントだと自覚していないことも珍しくありません。

世間一般で暴言やいじめとされる言動でも、自分が被害者へ向ける場合は妥当だと認識していたりします。

誰が誰に対して行うか、また肉体的か精神的かに関わらず、暴力は決して許されないこと、モラハラがあった場合は会社として毅然と対応するということを周知しましょう。

 

  • 深刻なモラハラが見つかった場合の「対応」

モラハラが見つかった場合も、やはり「事業主が雇用管理上講ずべき措置」の内容にのっとって対応することが望ましいでしょう。

対応する項目は次の通りです。

3. 相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者および行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること

4. 相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

出典:

厚生労働省『職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)』

 

具体的な例として、下記のような対応の流れが考えられます。

 

1)相談対応

相談者は、行為者によってマインドコントロールされ「誰に助けを求めても、行為者からは逃れられない」と思い込まされていることがあります。

相談者のプライバシーは必ず守られること、協力者などにも不利益はないことを伝えましょう。

緊急的な配置転換などで、相談者を行為者から引き離すことも重要です。

 

2)事実関係の確認

相談者の了解を得たうえで、行為者に事実を確認します。

内容が食い違っている場合には、第三者にも事実確認を行いましょう。

モラハラが発生した日時、場所、状況などの記録、メールなどの記録があればすぐに窓口側でも預かり、保存します。

相談者が、行為者を恐れて記録を処分してしまうといったことを防ぐためです。

 

3)取るべき措置の検討・実施

まず、被害状況や事実確認結果、就業規則やハラスメント防止規程の規定により処分を検討し実施します。

懲戒処分などには当たらないと見られるケースでも、相談者と行為者をそのまま同じ職場へ配置することは、相談者の気持ちや行為者の報復行動などの可能性もあり、慎重に検討する必要があります。

ハラスメントの事実があった場合、配置転換をするのは行為者が基本ですが、相談者の希望などにより相談者を配置転換する場合も、行為者が別の労働者に対して再度モラハラ行為をする可能性を踏まえ、行為者のカウンセリングなども検討する必要があります。

 

4)行為者・相談者へのフォロー

相談者に、会社が今回の問題に対してどのように取り組んだかを説明します。

相談者は行為者の報復を極端に恐れているケースが珍しくありませんから、今後も親身になって相談に乗ることを伝えてあげましょう。

同時に行為者へ対しても、再びモラハラ行為を起こさないよう、カウンセリングなどのフォローをしていきます。

 

5)再発防止策実施

モラハラは行為者の問題と捉えられがちですが、行為者を抑止し、被害者を守ることは職場の務めでもあります。

まずは「モラハラはまた起こり得る」と考え、職場環境などを踏まえた再発防止策を検討・実施しましょう。

やりっぱなしではなく定期的な見直しや研修の実施、メッセージの発信などで継続的に取り組んでいきます。

 

モラハラの行為者は精神科などでの治療も困難だといわれており、夫婦間のモラハラ問題は離婚での解決を選ぶケースが珍しくありません。

職場におけるモラハラも単純に「行為者を反省させ、元通りに収める」といった解決法は難しいであろうことを、心に留めておきましょう。

人は自ら気づくまでなかなか変わることはできません。

行為者の意識改善には、一方的な教育ではなく腕の良い心理職によるカウンセリングが有用です。

 

【監修者プロフィール】

監修者【山本様】 

山本喜一

社会保険労務士法人日本人事 代表

特定社会保険労務士

精神保健福祉士

大学院修了後、経済産業省所管の財団法人で、技術職として勤務、産業技術総合研究所との共同研究にも携わる。その後、法務部門の業務や労働組合役員も経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立。社外取締役として上場も経験。上場支援、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。

著書に『補訂版 労務管理の原則と例外-働き方改革関連法対応-』(新日本法規)、『労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務』(日本法令)、『企業のうつ病対策ハンドブック』(信山社)。他、メディアでの執筆多数。

 

 

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