長時間労働は社員の労働環境に影響を与えるだけでなく、メンタル面でも負担を与えてしまうので適切なケアが必要です。
そのうえで働き方の改善に取り組むには、社員の勤務状況を把握したうえで長時間労働が起こる原因を探り、一つひとつの施策を実行していくことが重要です。
法律で定められた上限規制を踏まえたうえで、働き方や職場環境を改善するための方法を解説します。
日本の労働環境の現状
厚生労働省が2019年9月に公表した「令和元年版 労働経済の分析 人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について」によれば、週60時間以上を働く人、つまり、月80時間以上の残業をしている人の割合は男性で13.9%、女性で5.6%です。
2013年と比較をすると男性で2.9%の低下、女性で0.7%の低下となっています。低下傾向は見られるものの、週49時間以上働く人と合わせると全体で19.4%となり、まだ高い水準にあることが資料から読み取れます。
一方で、週40~48時間で働く人の割合は男性で62.7%、女性で80.6%となっています。2013年と比較して男性で2.6%の上昇、女性で1.3%の上昇であり、所定内労働時間で働く人が増えていることが分かります。
年次有給休暇の取得率は男女ともに上昇傾向にありますが、人手不足が生じている宿泊業や小売業などでは取得率が低くなっています。労働環境の改善のためにより効果的な取り組みを進めていくには、現場で働く社員の意見も交えながら、自社が置かれている現状に合わせて労働環境を改善していく必要があります。
長時間労働と発生するリスク
長時間労働を改善するためには、きちんと言葉の定義をとらえておく必要があります。
ここでは、長時間労働が招いてしまうリスクを含めて解説します。
●長時間労働とは?
長時間労働に関する法律上の明確な定義はありません。どの程度働ければ長時間労働と感じるかは、個人差もあるからです。ただ、厚生労働省は1ヵ月あたり80時間を超える残業を行っていた事業所に対して監察・指導を実施しています。
継続して月45時間以上の残業がある、月80時間を超える残業があるといったケースは長時間労働と見なされやすいといえるでしょう。
●長時間労働が招くリスク
長時間労働が常態化してしまうと、モチベーションの低下につながることもあります。業務に追われると仕事に対するやりがいが薄れやすくなり、離職を招く原因にもなります。さらに、余暇の時間が少なくなるなどの身体的、心理的なストレスから社員の健康に影響する恐れがあります。社員にとって長時間労働は、心身ともに負荷を与えるものと言えるでしょう。
また、企業にとっては残業が増えることで人件費が増加してしまい、財務を圧迫する懸念が生じます。しかし、職場として残業を減らしたいと考えていても、残業が社員の自己申告制である場合などは思うように改善しないこともあります。
さらに、対外的に長時間労働が行われている印象が定着してしまうと、企業イメージが低下し、採用活動にも悪影響が出る可能性があります。
労働に関係する法律と時間外労働の上限規制
長時間労働を改善するための取り組みを進めるためには、法定労働時間や労働基準法、時間外労働の上限規制などについて基本的なルールを把握しておく必要があります。
働き方改革を踏まえたうえで、どのような勤務体制が自社に適しているかを検討してみましょう。
●法定労働時間の定義
労働基準法では1日8時間、1週間で40時間を法定労働時間と定めています。そのため、このラインを超えて勤務させる場合は、36協定を労使間で交わさなければいけません(労働基準法第36条1項)。この協定は、労働時間外の労働や休日労働に関する基準を定めた協定のことで、つまり限度時間の範囲内で時間外労働や休日労働をさせることができるようになるものです。
一方で、36協定では「特別条項」を設けることが認められています。労使の合意さえあれば、どんな長時間の延長時間でも定めることができるというものであり、長時間労働の間接的な原因につながっていると考えられます。
また、労働基準法で定める時間外労働を超えて残業を行ったとしても、働き方改革関連法が適用される2019年4月以前においては罰則が設けられていませんでした。
長時間労働が減らない状況を改善するために、働き方改革の流れができたといえます。
●時間外労働の上限規制とは?
時間外労働の上限規制とは、長時間労働を改善してワークライフバランスを実現することを目的としたものです。働き方改革関連法が施行されたことを受けて、大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から上限規制の適用対象となっています。
36協定の特別条項を含めて遵守しなければいけない法律で、違反すれば罰則の対象になります。
また、たとえ36協定を結んでいても、原則として時間外労働の時間は1ヵ月に45時間、年に360時間以内と定められました。
臨時的な特別な事情がある場合でも、時間外労働は1年間に720時間以内、2~6ヵ月間の平均で80時間以内となる必要があり、1ヵ月は100時間未満と決められています。
原則の1ヵ月45時間を超えて時間外労働をさせることができるのは、年間6回までです。
長時間労働が起こってしまう3つの原因
長時間労働が起こってしまう原因としては、「マネジメント能力の不足」「人材不足の状態化」「労働環境の改善に消極的」といった点があげられます。
それぞれのポイントについて解説します。
●1. マネジメント能力の不足
社員が長時間労働に陥ってしまう原因の一つとして、会社側の管理能力が不足していることが考えられます。社員の能力を超えている仕事を任せていたり、業務量が適切でなかったりすることで、結果的に業務過多となるのです。
業務が終わらないからといって、むやみに業務を進めるように命じてしまうと、長時間労働を招くため、逆効果です。
管理者は業務全体を見直したうえで、優先して進めるべきタスクを洗い出し、個々に与える業務の割り振りを精査する必要があります。
●2. 人材不足が常態化している
業務を遂行するために必要な人材が不足していると、長時間労働を招いてしまいがちです。限られた人数で部署全体の業務を回そうとすれば、社員一人あたりにかかってくる負担は重くなります。
すぐに必要な人材を確保するのが難しければ、アウトソーシングを検討するなどして、業務のスリム化を図ってみましょう。
また、業務を自動化できる部分は積極的にシステムを導入していくことも大切です。
人材不足が常態化すれば、新しい人材を確保してもすぐに社員が辞めてしまい、思うように状況を改善できなくなる恐れがあります。
社員が抱える負担を減らしていく取り組みを進めましょう。
●3. 労務環境の改善に消極的
企業によっては、長時間労働そのものを推奨する雰囲気があり、社員が帰宅しづらいというケースもあります。
また、従来の業務の進め方にこだわるあまり、労働環境の改善に消極的になっているというケースも考えられます。
まずは雇用形態に合わせて、短時間勤務を導入してみましょう。職場にいる時間が短くなれば、仕事とプライベートとのバランスを取りやすくなり、長時間労働に対する意識も変化していくはずです。
また、テレワークに切り替えられる業務については、積極的に変更していくことも大切です。業務の遂行に支障がなければ、通勤時間を減らすための取り組みとしてテレワークを活用してみましょう。
働き方を改善するための5つの対策
長時間労働を改め、働き方をより良い方向に導いていくためには、一つずつ具体的な対策を実行していく必要があります。
ここでは、長時間労働を改善するための具体的な対策を5つご紹介します。
●1. 労働時間を正確に把握する
労務環境を改善するためには、社員一人ひとりの労働時間を正確に把握することが重要です。タイムカードをきちんと打刻するといった基本的なことは大事ですが、社員の努力だけに委ねていてもなかなか状況は変わりません。
そんなときは、クラウド上で労働時間をリアルタイムで把握できる勤怠管理システムの導入を検討してみましょう。部署内だけでなく、他の部署の労働状況も把握できるので、情報を共有しやすくなります。
残業が発生しそうな部署に対しては、残業が少ない部署の人員を回すなどして、できるだけ労働時間に偏りが生じないように工夫することも大事です。
労働時間の削減を部署単位で任せきりにするのではなく、組織全体としてカバーする仕組みを整えるよう意識しましょう。
●2. 給与制度を見直す
長時間労働を減らすためには、残業を推奨する社風や職場の雰囲気を変えていくことが大切です。長時間労働をしている社員を評価する流れから、生産性の高い社員を評価するなど評価の仕組みを変化させていきましょう。
給与制度を人事評価と紐づけることで、少しずつ社員の意識を変えていくこともできます。限られた時間内に成果をあげている社員をモデルケースとするなど、良い取り組みを積極的にほかの部署や社員に伝えていくことが大切です。
なかには、一見残業が減っているように見えても、実は社員が自宅に仕事を持ち帰って処理しているというケースもあります。
残業時間数だけで判断するのではなく、決められた業務をいつ終えているかもチェックすることが大事です。
●3. 有給休暇の消化率を高める
日本は有給休暇の消化率が低い傾向にあるといわれています。厚生労働省が公表した「令和2年 就労条件総合調査」によると、令和元年の有給休暇取得率は56.3%です。
有給休暇の取りやすさは、業種や企業規模によって異なるところがあります。競合他社や業界平均と比べて、自社の有給休暇の取得率に問題がないかを判断してみましょう。
また、これまでに有給休暇がなかなか消化できていない企業の場合、「どのような場合に有給休暇を活用すべきか」のモデルケースを社員に提示することが有効です。
社員に有給休暇を取得したときのイメージを持ってもらうことで、有給休暇の取得率を高める取り組みを進めてみましょう。
●4. 多様な働き方を推奨する
長時間労働を改善するためには、一つの働き方だけにこだわるのではなく、多様な働き方を推奨することが大切です。
テレワークや裁量労働制、フレックスタイム制の導入など、社員のスキルや要望に合わせてどのような働き方が適しているかを見極めましょう。
最初から全ての業務を新しい働き方に切り替えてしまうと、現場に混乱が生じることもあります。社員と双方向のコミュニケーションを取りながら実態に合わせて徐々に改善しましょう。
また、社員によって働き方に対するニーズは異なるため、適切な人員配置を意識することも欠かせません。
在宅勤務を希望する社員とオフィスで働くことを希望する社員のバランスを見ながら、適切に対処していくことが重要です。
●5. 管理職の意識改革を進める
社員側が長時間労働を是正しようとしても、管理職の承認がなければはじまりません。
長時間労働が起こりにくい流れをつくるためには、社員の勤怠管理を行う管理職の意識を変えていく必要があります。
管理職を対象とした働き方に関する研修会を行うなどして、組織全体で労働時間を減らしていくことが大切です。部署ごとの成功事例を他部署に取り入れるなど、組織的な取り組みとなるように進めてみましょう。
また、社員や他部署との交流を活発化させることで、働き方を変えていくためのさまざまなアイデアが出やすくなります。
従来の発想にとらわれないことが、労働環境を改善していく第一歩につながっていくはずです。
課題を洗い出し長時間労働を減らそう
長時間労働は社員に対してストレスを与えるものであり、そのままの状態で放置してしまえば、モチベーションの低下につながります。仕事に対する意欲の低下は離職率を高める原因を招き、組織全体のパフォーマンスを低下させる恐れもあります。
長時間労働の発生や社員が出している危険信号を事前にキャッチするツール、Geppo(ゲッポウ)の活用を検討してみましょう。個人と組織が抱える課題を洗い出し、長時間労働の対策として役立てることができます。