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人材管理とは、経営管理の領域のひとつで、企業が社員の採用から育成まで管理をおこなうことを指します。

本記事では、人材管理のメリットや実施のポイント、注意点について詳しく解説します。

 

 

目次

人材管理とは?

人材管理とは

「人材管理」とは、企業が人的資源を活用する制度を設計し、運用することを指します。
社員を会社が保有する貴重な資源のひとつとして考え、適切に管理することで、社員一人ひとりのパフォーマンス最大化や組織全体の成果の向上を目指します。

ここでは、人材管理の役割や運用方法について説明します。

 

企業や組織の文化を築く上で中心的な役割を担う

【図版】人材管理は企業や組織の文化の基礎になる

人材管理は、企業や組織の文化を築くうえで、中心的な役割を担うと考えられています。
なぜなら、人材管理において設計・運用する制度は、企業・組織に属する人間の共通認識をつくるだけでなく、企業・組織文化の構築にも寄与するためです。

人材管理においては、はじめに理想とするリーダーシップ像や人材像、人材評価の基準を設定します。設定したビジョンや価値観を社員に共通の認識として周知することで、企業・組織文化へと変化し、社員一人ひとりが行動するうえでの指針となります。

人材管理が効果的におこなわれて健全な企業・組織文化が醸成されれば、社員が業務や自社の事業内容へ誇りを持てるようになるでしょう。その結果、企業全体の理念に基づいた行動を自主的に取れるようになります。

 

人材評価制度の設計・運用

人材管理では、社員の業務成績や業務態度、保有スキルといった人材評価に関する項目や、評価基準などを考えて人材評価制度を設計します。

また、実際に運用するなかで定期的に制度の見直しや改善を考えることも、人事評価制度の運用の一環です。

 

評価に基づく配置・異動

評価内容に基づいて人材配置や異動を決定するのも、人材管理で求められる業務のひとつです。なお異動時には、社員本人の希望を考慮しつつも、保有スキルやポテンシャルを活かせるような適材適所の人材配置を意識することが重要です。

 

人材育成計画の策定・運用

人材育成計画は、人材育成を成功に導くために重要な施策です。

最初に企業全体のビジョンやミッション、事業内容に基づいて、理想的な人材像や保有してほしいスキルを明確にしましょう。次にスキルを育成できる具体的な計画や取り組みを検討して、実際に運用することで、一貫した人材育成が行えます。

 

人材管理が重要視される理由とは

人材管理が重要視される理由

人材管理について理解し、適切な管理ができれば、企業と社員の双方の満足度が高い状態を目指せます。ここからは、人材管理が重要視される理由について、主にマクロ的な観点から解説します。

 

人的資本に関する情報の開示が求められている

「人的資本開示」とは、自社の社員の状況に関する情報を、ステークホルダーに提供することです。 具体的には、企業が行う採用や研修、労働環境や多様性の維持といった内容を指します。

人的資本への投資は、持続的な企業価値の向上にもつながることから、最近では人的資本を評価する風潮が強まっています。 

実際に、人的資本に関する情報の開示を求める動きは世界的にも高まっており、アメリカでは、上場企業に対して情報開示が義務付けられています。また、日本でも2023年3月期決算より、人的資本開示の義務化が決定されました。 

 

出典:経済産業省「人的資本経営〜人材の価値を最大限に引き出す〜」

 

人事領域におけるデータ活用やDX推進が求められている

人材管理では、単に人事担当者が組織全体を管理するだけでなく、デジタルを活用した業務の効率化や改善も重要視されています。


たとえば、社内における人事データを集積・分析することで、人事関連の課題を発見できます。また、人員配置の最適化や人事制度の見直し、離職率の改善などにも役立てられます。

 

人材管理に注力するメリット

【図版】人材管理のメリット

企業が人材管理に注力することで、社員のパフォーマンスや定着率の向上につながります。これにより、組織としての生産性を引き上げる効果も期待できるでしょう。
ここからは、人材管理に注力するメリットについて具体的に解説します。

 

社員のパフォーマンス向上

社員は、個々によって得意・不得意な業務領域や保有スキルが異なります。
適切な人材管理によって、適材適所の人材配置が実現すれば、社員が持つ能力を最大限に引き出すことが可能で、業務のパフォーマンスも大きく向上すると期待できます。

 

従業員エクスペリエンス向上

「従業員エクスペリエンス」とは、社員が入社してから退職するまでの期間に働くことを通して得るすべての経験を指します。従業員エクスペリエンスが向上すると、社員のエンゲージメントが高まり、離職率の低下や企業イメージのアップにつながります。

従業員エクスペリエンスを向上させるための有効な方法となるのが、「エンプロイージャーニーマップ」の作成です。エンプロイージャーニーマップとは、入社してから退職するまでの過程を、時系列順にまとめた表のことです。

エンプロイージャーニーマップの作成によって、どのようなシーンで社員が課題や問題を抱えやすいのかを、社員目線で可視化できます。社員が抱えやすい悩みを先回りして把握し、事前の対策を講じるためにも、昨今ではエンプロイジャーニーマップの作成が必要だと考えられています。

 

社員の定着率を向上させる

「定着率」とは、入社した社員が一定の期間内にどれほど定着したか、つまり、離職しなかったかを示す指標です。定着率を向上させる方法はいくつか存在しますが、なかでも人材管理に注力して、社員の満足度を高める取り組みが効果的だと考えられています。

<図>

【図版】転職者の離職理由別割合

出典:厚生労働省 「令和2年転職者実態調査の概況(個2.離職理由)」

 

実際に、厚生労働省の統計によると、自己都合による離職理由の第6位は「能力・実績が評価されないから」という理由で、全体の15.3%もの割合を占めています。この調査からも分かる通り、自己都合退職者のおよそ6人にひとりが、自分の能力や業績を正しく評価されないがために退職を選択しているのです。

つまり、人材管理に注力して社員を正しく評価すれば、定着率の向上が期待できます。具体的な取り組み内容としては、社員に適性がある人材配置をおこなってモチベーションを向上させたり、透明性の高い人事評価をおこなったりすることが挙げられます。

 

組織の効率・生産性を最大化させる

適切な人材管理は、社員組織全体の効率や生産性を高めることにもつながります。

組織全体の効率や生産性が向上すれば、企業は少ない資源で大きな成果を生み出せるようになります。また、効率向上により無駄なコストを削減できれば、資金に余裕が生まれ、新規サービスの開発や戦略的な事業計画を推進しやすくなるのも大きな利点といえます。

 

人材管理を実施するうえでのポイント

【図版】人材管理を実施する際のポイント

人材管理を実施するうえでは、定期的なモニタリングやデジタル技術の活用といった、いくつかのポイントに注意することが重要です。

人材管理のメリットを最大化するためにも、ここで人材管理を実施するうえでの押さえておきたいポイントについて理解を深めましょう。

 

定期的なモニタリング

人材管理においては、現行の制度や新しく導入した制度の成果や問題点の振り返りが重要です。そのためには、定期的に人材管理の効果を定量的かつ定性的に測定するのがおすすめです。

自社の人材マネジメントにおける課題を洗い出したうえで、それに対する取り組みを計画し、実行しましょう。


また、取り組みの結果や、今後の課題を今一度振り返るというPDCAサイクルを回していくことも忘れてはならないポイントです。

 

定量目標の設定

人材管理の効果を高めるためには、KGI・KPI目標値といった、測定可能な目標を設定することが有効です。
「KGI」とは、重要目標達成指標と呼ばれる、企業が目指すべき定量目標を指す言葉です。一方の「KPI」とは、重要業績評価指標と呼ばれる「KGI」を達成するために必要な中間目標を指します。

両者の違いとしては、KGIは結果を、KPIは過程を評価する点が挙げられます。

人材管理におけるKPI・KGIの一例は、以下のとおりです。

 

  • KGI…今後成長させていきたい重点事業における人材の充足率
  • KPI…設定した最終目標を達成するために必要な、特定スキル保有者数や研修の修了者数

 

評価・報酬への接続の明確さ

人材管理の運用においては、評価結果に至るまでの過程や根拠が明確であるかどうかにも着目しましょう。社員が「自分のどのような行動が評価されたのか」という点が不明確なままでは、評価内容に不満を抱き、モチベーションが低下するおそれがあります。

このような事態を未然に防ぐためにも、どのような人材評価に基づいて、今の報酬が算出されているのかを明確に示す必要があります。

 

デジタル技術の活用

人力での人材管理は、効率面の観点だけでなく、人材管理の効果の観点からもあまり得策とは言えません。

人材管理はデジタル技術の活用がおすすめです。デジタルツールを導入すれば、社員に関するデータを可視化、一元管理ができ、人材管理の大幅な効率アップを狙えます。


また、抽出されたデータを分析することで、今後自社が取り組むべき人材管理の問題を洗い出すことも可能になります。

 

パフォーマンス管理システムの導入

「パフォーマンス管理システム」とは、個々の社員の目標や日々の工程を可視化し、一元管理するツールのことです。「パフォーマンスマネジメント」と呼ばれるケースもあります。

パフォーマンス管理システムの導入により、社員の主体性を伸ばしたり、エンゲージメントを高めたりといったメリットが期待できます。

 

キャリアパス設計の実施

「キャリアパス」とは、特定のポジションや職務に就くまでに必要なスキルや経験、プロセスを示したものを指します。キャリアパスを設計し、採用時に応募者へ明示することで、入社前後のミスマッチを防ぎやすくなります。

また、社員のスキルアップに対するモチベーションも高まり、能力開発をしやすくなるといった効果も期待できるでしょう。

オンボーディングプロセスの導入

「オンボーディングプロセス」とは、新卒採用者や中途採用者に、自社の企業文化や人間関係、業務における基礎知識などを学んでもらう取り組みを指します。

実際の業務内容だけでなく、人間関係についての悩みといった領域まで含めてフォローをおこなうことから、OJTはオンボーディングプロセスの数ある工程のひとつだと考えられています。

オンボーディングプロセスの実施によって、企業のビジョンや価値観が新入社員に広く浸透する効果が見込めます。

また、部署の垣根を越えてオンボーディングを実施すれば、教育担当者だけでなく組織全体で社員新入社員のサポートをおこなうものという意識が根付きます。結果として社内コミュニケーションの促進にもつながるでしょう。

 

人材管理を進める際の注意点

【図版】人材管理を進める際の注意点

人材管理を実施する際には、社員のプライバシー保護対策を講じたり、多様性を尊重する姿勢を大切にしたりなどに気を付ける必要があります。

ここからは、人材管理を進めるにあたって生じる課題と、その改善方法について解説します。

明確なポリシーや基準を設ける

人材マネジメントポリシーとは、企業が持つ人材に対する方針や価値観のことです。人材マネジメントポリシーを策定すると、組織全体で一貫性のある人材管理が実現します。

また社員にとっても、人材マネジメントポリシーが周知されていると、そのために自らが達成するべきミッションを検討しやすくなります。さらに、同じ価値観を持つ社員が協力して業務に取り組むことで、高いシナジー効果も期待できます。

 

社員のプライバシー保護対策を行う

人材管理では、社員個人の重要な情報を取り扱う場面が多いでしょう。このような場面においては、個人情報保護法を遵守するためにも、プライバシー保護対策の徹底が重要です。

特に、人事担当者が取り扱う個人情報は、機密情報に該当するため、管理・取扱いには十分な注意を払わなければなりません。社内のシステム担当者と連携しながら、社員の個人情報を管理するシステムのセキュリティ対策をおこなうなど、徹底した人事情報の管理に取り組みましょう。

公平な人事評価をおこなう仕組みが必須

人事評価をおこなううえでは、評価プロセスの透明性を高めたり、社員へのフィードバックを丁寧におこなったりして、公平性が保たれるように配慮するのも重要です。

適正な評価制度の設計は、社員が継続して勤務したいと思うかのモチベーションに大きく影響する要素です。多面評価や360度評価などを導入して、透明性のある公正公平な人事評価制度の構築と運用に努めなくてはなりません。

 

サーベイツールを活用して社員の意見を収集するのも有効

社員にとって納得感のある、公平な評価制度を実現するためのツールとして、近年はサーベイツールに多くの注目が集まっています。サーベイツールとは、社員が労働環境について感じている意見や不安を調査できるツールです。

サーベイツールの活用によって、社員の人事評価に対する考え方を把握でき、制度のブラッシュアップにつなげられます。

Geppo製品訴求イメージ

 

社員の多様性を尊重する

昨今では、労働人口の減少や働き方改革のほか、社会全体のニーズや価値観の変化を背景として、社員の多様性を尊重する企業が増え始めています。

社員一人ひとりのパーソナリティを尊重して、働きやすい体制を整えることは、企業の生産性向上に大きく寄与します。古い評価制度により、社員の雇用維持が難しくなる前に、社員の個性や多様な働き方に適応できる方法を確立しましょう。

 

定期的に育成対象のスキルを見直す

最近のビジネスシーンを取り巻く環境は、常に変化を続けており、企業もこうした変化に柔軟かつ迅速に対応することが強く求められています。

VUCA時代への対応は、企業単位に限った話だけでなく、社員個人にも変化に対応するためのスキルアップが必要と考えられます。

人材管理においては、人材マネジメントポリシーを定期的に見直して、いま本当に求められるスキルは何なのかを再設計することが重要です。また、人材育成システムの構築によって、社員の積極的なリスキリングを促す必要もあると言えるでしょう。

 

まとめ

まとめ

企業が発展していくには、社員一人ひとりのパフォーマンスやエンゲージメントを向上させることが不可欠です。

人事管理によって、適切な人員配置や社員のモチベーション・エクスペリエンスを向上できれば、業績向上などの目標が実現できるでしょう。

ただし、人事管理を行う際は、明確な評価ポリシーや基準を設けたり、社員の多様性を尊重したりといったことが重要です。

公平かつ適切な運用を行うためには、社員の声や意見を定期的にチェックすることが大切です。社員にとって納得感のある、公平な評価制度を実現するためのツールとして、サーベイツールの活用に多くの注目が集まっています。人事管理に注力する担当者の方は、ぜひ活用を検討してみてください。

【監修者プロフィール】

geppo監修木下洋平 

木下 洋平

合同会社ミライオン

 

株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。

キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。

また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。

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