人時生産性(にんじせいさんせい)とは、 従業員ひとりが1時間でどれぐらいの生産性を生み出すかを測る指標です。
本記事では、人時生産性の算出方法や人時生産性を向上させる施策について解説します。
目次
- 人時生産性とは?
人時生産性の算出方法
業種別の平均人時生産性 - 人時生産性の向上が求められる背景
市場における競争の激化
働き方改革による長時間労働の是正
日本全体での経済成長の鈍化
少子化・高齢化による労働力不足
グローバリゼーションの進展 - 人時生産性が低下する要因
時間のロス(損失)
パンデミック(世界的大流行)
国際的な影響による原材料などのコスト増加
人材不足によるマネジメントの質の低下 - 人時生産性の向上に成功した事例
- 人時生産性を向上させる5つの施策
継続的なスキル開発
部署を横断したDXの推進
定期的なフィードバック
オープンなコミュニケーション環境 - 人時生産性を向上させる施策には「Geppo」が有効活用できる
- まとめ
人時生産性とは?
「人時生産性」とは、 従業員ひとりが1時間当たりに生み出す粗利高の指標です。人時生産性が高ければ高いほど、高品質なサービスを提供できたり、短時間で多量の商品を製造できたりします。
そのため、人時生産性を向上させることは、企業の競争力を高めるうえで重要な指標とされています。
人時生産性の算出方法
人時生産性は、以下の計算式で算出します。
【人時生産性=粗利益高÷総労働時間】
たとえば、次のような場合の人時生産性を計算します。
売上高:100万円 諸経費:40万円 社員数:15人 労働時間:各8時間 |
すると、実際の人時生産性は以下の計算結果になります。
業種別の平均人時生産性
人時生産性の平均値は、業種によっても大きく違いがあります。
中小企業庁が発表している「中小小売業・サービス業の生産性分析」によれば、中小企業における業種別の平均人時生産性は下表のとおりです。
このように、業種によっても水準は異なり、製造業ではおよそ3,000円が平均であるのに対し、飲食店は2,000円を下回っています。
業種によって、平均人時生産性に差がある理由には、外部委託の実施の有無や売上高減価率などが関係しています。
具体的には、製造業や小売業、サービス業においては、調査マーケティングや 社員福祉関連などの外部委託を実施している企業で労働生産性が高い傾向にありました。
また宿泊業については、労働生産性の高い企業ほど売上高原価率が低くなる傾向があり、ブランド価値の創造を通じて、効率的に売上を上げていることが分かります。
人時生産性の向上が求められる背景
人時生産性の向上は、昨今の人事領域における重要ワードになりつつあります。その背景には、市場における競争激化や景気後退が潜んでいることが挙げられます。
ここでは、人時生産性の向上が求められる背景について説明します。
市場における競争の激化
近年は、市場に似たような商品・サービスが溢れかえっており、コモディティ化が進んでいます。コモディティ化が進展すると、ユーザーの商品・サービス選びの基準が価格中心になり、企業間での価格競争が激化します。
現代ではSNSの普及により情報を入手しやすいため、コモディティ化に拍車がかかっている状態だと言えるでしょう。商品の低価格化が進むと、企業は価格ありきの商品・サービス作りをおこなうしかない状況を迫られます。
しかし、 社員の生産効率を高めることで人時生産性を向上できれば、効率良く事業を営めます。生産効率を高め利益を増やせれば、商品やサービスの差別化にも取り組む余裕が生まれるでしょう。
働き方改革による長時間労働の是正
長時間労働による労働災害を解消するため、働き方改革をはじめとする長時間労働の是正が推進されています。
2019年4月から施行される働き方改革関連法では、36協定において原則として時間外労働の上限が月45時間・年360時間と、長時間労働の是正に関する規定が設けられました。
そのため、時間外労働によって人時生産性を高めていた企業は、以前よりも限られた労働時間で同じ利益を出す必要があります。長時間労働の削減を実現するためには、働き方そのものを見直し、人時生産性を向上することが不可欠と言えるでしょう。
日本全体での経済成長の鈍化
バブル崩壊後の90年代初頭から現在までは「失われた30年」と呼ばれる、目立った経済成長が見られない期間にあたります。また、景気の横ばいが続いていることで、労働者のやる気や働きがいが、世界的に見ても低水準に落ち込んでいるのも分かっています。
経済成長が鈍化している今の日本では、未曾有の経済低迷が起こる可能性が否定できません。そのため、すべての企業が人時生産性を高めて、市場全体の成長を促していく必要性があるのです。
少子化・高齢化による労働力不足
少子高齢化に伴う労働人口の減少が深刻化していることも、人時生産性の向上が求められる理由のひとつです。
厚生労働省のデータによれば、年少(0~14歳)人口は、低下の一途を辿っており、2021年時点では11.8%となっています。
反対に、高齢者の人口は年々増加しており、2022年の高齢化率は29.0%にものぼることがわかります。今後も、高齢化率は徐々に上昇すると見込まれており、令和52(2070)年には、2.6人に1人が 65歳以上、4人に1人が 75歳以上になるとの見方もあります。
労働力が不足すると、新たな人材を確保する際の競争も激化し、思うように採用活動が進まなくなります。そのため、自社にいる 社員一人ひとりの生産性をいかに高めていくかが重要です。つまり、人時生産性を向上させることが急務となっているのです。
グローバリゼーションの進展
生産性向上が注目される理由のひとつに、グローバリゼーション(グルーバル化)の進展があります。グローバリゼーションが進んだ市場で生き残っていくためには、世界規模で見ても高いと言えるレベルまで、人時生産性を高める必要があります。
しかし、公益財団法人日本生産性本部が公表したデータによると、2021年の日本の時間当たりの実質労働生産性は、49.9ドル(5,006円)です。順位で見ると、OECD加盟38カ国のなかで27位となっており、先進国のなかでも遅れをとっているのが現状です。
人時生産性が低下する要因
それではどのようなときに人時生産性が低下するのでしょうか。主な要因には、パンデミック(世界的大流行)やコスト増加、働き方の多様化などが挙げられます。
ここからは、人時生産性が低下する要因について詳しく解説します。
時間のロス(損失)
人事生産性の低下の原因に、ざまざまな時間のロス(損失)が挙げられます。
これにより、社員は自分自身の仕事に少しずつ方向性とやりがいを見出せるようになります。
- 生産ロス…製造現場で生じるロス
- 管理ロス…管理上で発生する待ち時間により生じるロス
- 動作ロス…作業方法やレイアウトの不備で生じるロス
- 手動によるロス…自動化できる作業を手動でおこなうことで生じるロス
- 編成ロス…作業の流れが上手く機能しないために生じるロス
管理ロスは、生産管理や発注管理など管理部門の不備により発生するロスです。本来はすぐに業務に取りかかれるはずの従業員が待ち状態になることで、時間的なロスが発生します。
動作ロスは、社員の効率の悪さで起きる作業の遅延や、作業をおこなう場所のレイアウトの不備によって無駄な工数が発生するロスです。
手動ロスは、本来自動化できる作業を手動でおこっているために生じるロスです。たとえば、データを収集するのにツールの導入をすれば効率的に進められるにも関わらず、手動で収集しているようなケースが挙げられます。
編成ロスは、作業の工程を指すライン設計が悪いことで生じるロスです。たとえば、ある工程にかかる時間が長いため、次の工程の従業員が待ち時間がするケースが挙げられます。
パンデミック(世界的大流行)
2020年3月から感染拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、日本全体の消費は大きく落ち込みました。
実際に、総務省統計局が公表している「2020年基準 消費動向指数(CTI)2021年(令和3年)12月分」によると、2020年にはほぼすべての月で消費動向指数が前年比で低下していることが分かります。
消費が落ち込むことは、企業の売上や利益低下に直結します。その結果、人時生産性も下がった企業は少なくないと言えるでしょう。このことから、新型コロナウイルス感染症のような、パンデミックは人時生産性を下げる原因になると考えられます。
出典:総務省統計局 「2020年基準 消費動向指数(CTI)2021年(令和3年)12月分」
国際的な影響による原材料などのコスト増加
出典:日本銀行調査統計局 企業物価指数(2023年8月速報)
日本銀行調査統計局によると、2023年8月の国内企業物価指数は、前月比+0.3%(前年比+3.2%)となっています。また、同データから企業物価指数は2022年7月から1年以上連続で、上昇し続けていることも分かります。
企業物価指数が上昇を続けている要因には、新型コロナウイルス感染拡大やヨーロッパ戦争などの国際的な影響が考えられます。
原材料上昇によりコストが増加すると粗利益高が低下するため、粗利益高÷総労働時間で算出される人時生産性は、結果として低下します。
人材不足によるマネジメントの質の低下
労働力が不足している現場では、マネジメントを担当する 社員の業務負担が多くなるため、マネジメント業務が疎かになる可能性があります。
また、マネジメントにおける質が低下すると、 社員一人ひとりの能力を充分に引き出すことが難しくなるため、結果的に生産性が低下するおそれがあります。
人時生産性の向上に成功した事例
人時生産性を向上させる方法は多岐に渡りますが、具体的にどのような方法を用いれば良いか分からないという方も少なくないでしょう。
生産性の低下に悩んでいたA社では、 社員一人ひとりのパフォーマンスを最大化することを目標に、タレントマネジメントの徹底的な強化により、人時生産性の大幅な向上に成功しました。
A社ではまず、 社員のスキルと能力を把握し、可視化する取り組みを導入しました。
具体的には、全社員のスキルマップを作成し、個々の強みと弱みを明確化したのです。これにより、プロジェクトやタスクのアサインがより適切になり、各メンバーの能力を最大限に引き出しました。
次に、スキルマップを基に個別のキャリアパスとパーソナライズされた研修プログラムを提供しました。加えて、 社員のモチベーションを高め、必要なスキルを効率良く身につけられる環境も整えました。
結果として、短期間でのスキル向上と、その後の業務への応用を実現しています。
人時生産性を向上させる5つの施策
人時生産性を向上させるためには、 社員一人ひとりにフォーカスした人材マネジメント施策をおこなうことがポイントとして挙げられます。
ここからは、人時生産性の向上させるために、企業ができる施策を紹介します。
継続的なスキル開発
入社直後の新入社員には積極的にスキル開発をおこなうものの、中堅社員以上にスキル開発の機会を設けられていないという企業は珍しくありません。しかし、刻一刻と変化する昨今のビジネスシーンで生産性を高めるためには、中堅社員以上も常に新しいスキルを身に付けていけるような取り組みが必要です。
そのため、スキルマップを作成するなどして、社員のスキル育成計画を策定して、継続的なスキル開発をおこなうのがおすすめです。
部署を横断したDXの推進
経済産業省が発表している「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」によると、残像したレガシーシステムを2025年まで放置した場合、年間で最大12兆円もの経済損失が発生することが指摘されています。
また、IPA 独立行政法人 情報処理推進機構によると、「経営者・IT部門・業務部門が協調できているか」という問いに対して、「十分にできている」「まあまあできている」と回答したのは全体の4割弱にとどまることも分かっています。
老朽化したシステムをそのまま使い続けると、維持費用が膨れ上がるだけではなく、業務効率化が実現せずに、人時生産性も低下するおそれがあります。そのため今後は、企業全体で部署を横断したDX推進を実施し、より効果的に人時生産性を高めることが急務と言えます。
出典:経済産業省 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
定期的なフィードバック
1on1ミーティングを定期的におこない、目標達成やスキルアップに向けての進捗状況をこまめにヒアリングすることもひとつの手です。
1on1ミーティングをおこなう頻度としては、週1回〜月1回程度が理想的です。ミーティング時は、部下との信頼関係をいかに強固にするかを意識しながら、適切なフィードバックをおこないましょう。
オープンなコミュニケーション環境
社員の生産性を高めるためには、職場にオープンなコミュニケーション環境を構築し、心理的安全性を確保するのも有効です。自分の意見や悩みを気軽に発言・相談できる環境は、「やりがいがある」「働きやすい」と感じやすいものです。それゆえに、 社員のパフォーマンス能力や生産性が大きく向上することが期待できます。
また、オープンなコミュニケーション環境では社員同士の意見交換も活発になります。会議だけでなく、日常シーンでも会話が増えることが期待できるため、事業を発展させたり業務効率を高めたりするためのアイデアが生まれやすくなるでしょう。
人時生産性を向上させる施策には「Geppo」が有効活用できる
紹介した5つの人時生産性を向上させる施策は、社員のコンディションを把握しておくことが前提になります。そこで、活用できるのがGeppoの組織サーベイや個人サーベイです。
Geppoは、組織と個人の課題を可視化する人事業務支援ツールです。
組織サーベイでは、部署間だけではなく組織全体の課題が把握できるため「横断したDX推進」に役立ちます。
また、個人サーベイでは、社員個人の状態を把握できるので、社員自身が何に悩んでいるのか、どのような課題があるのかを知った上で定期的なフィードバックができるでしょう。
Geppoは 社員の退職に相関性の高い要因とされる「健康状態」「人間関係」「仕事の満足度」の3つの質問に回答するだけで、組織内に蔓延る問題点の早期発見を図ります。リクルートとサイバーエージェントのノウハウによる選び抜かれた質問が活用されており、回答率が高くなるよう設計されています。
また、上記3つの設問に加えて企業オリジナルの質問も1つ追加することが可能です。たとえば、「自分とは違う部門(グループ会社)の方の、業務やキャリアに関する話を聞く機会があれば聞いてみたいですか」という質問を設定することで、 社員のキャリア志向を把握して、人材の最適配置を実現できます。
さらに、Geppoには各質問にフリーコメント欄が設けられています。
フリーコメント欄には、設問に対する理由の補足や人事担当者に伝えたいメッセージなどを自由に記入できます。そのため、直属の上司以外と普段コミュニケーションを取る機会がない社員や、リモートワークや営業職などで社内の人間と日常的に会話ができない社員も安心です。
このように、オープンなコミュニケーション環境作りのためのツールとしてもGeppoは役立ちます。
まとめ
少子化・高齢化が加速し、労働者不足に拍車がかかったことで、企業も少ない人員で大きな成果を出さなければならない状況に迫られています。
また、グローバル的な視点から見ても、人時生産性を高めて国際競争に打ち勝つ必要があると言えるでしょう。
企業が人時生産性を向上させるためには、継続的なスキル開発やオープンなコミニュケーション環境の構築、部署を横断したDXの推進などの施策が必要です。
しかし、社員の人時生産性を高めるのはもちろんのこと、低下させないための対策も重要です。人的資本経営が提唱される現代において、社員や組織のエンゲージメントを適切に把握し、メンテナンスすることは必須といえるでしょう。組織内に蔓延る問題点を早期発見するためには、サーベイツールが有効です。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。