生産性の向上は、企業の継続的な成長に必要不可欠です。生産性を向上させるためには、自社の現状や課題をきちんと把握し、無駄なく生産性を高めるための施策を取り入れる必要があります。今回は、生産性を向上させるために企業や従業員が実施すべき施策をご紹介します。
■生産性向上とは
そもそも生産性の向上とはどのような状態のことを指すのでしょうか。まずは生産性の定義や、生産性が高いとはどのような状態なのかを確認しましょう。
●生産性向上とは
生産性は、製品・サービスなどを生産するために投入した要素がどれだけ効率的に使われているかを示す指標です。具体的には、機械設備や土地、建物、エネルギー、原材料、人などが要素に該当します。よって、「生産性向上」とは、今よりも少ない生産要素の投入量で効率的に生産することを意味します。
ちなみに、「生産性向上」とよく似た言葉に「業務効率化」がありますが、業務効率化は現在の業務をより早く、コストをかけずに行うことを表すものです。つまり業務効率化は、生産性を向上するための手段の一つとして有効となるものです。
生産量を増やすために生産要素である機械や資源をやみくもに投入しても、生産性の向上にはつながりません。生産性を向上させるためには、生産要素を厳選したうえで投入し、効率的に生産量を増やす必要があります。
■日本における生産性の実態
自社の生産性向上を考える前に、まずは、日本における生産性の現状について見てみましょう。
●日本の生産性の実態
平成29年経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」には、日本では、企業規模ごとに生産性についての格差が拡大していると記されています。一般的に大企業の生産性は向上しており、中小企業の生産性は低下しています。しかし、中小企業であっても、設備投資やIT投資、海外展開といった成長投資に積極的に取り組む企業は生産性を向上させているケースも存在します。製造業では約1割、非製造業では約3割の中小企業が大企業の平均以上の生産性を上げています。
これにより、企業サイズに関わらず、中小企業であっても生産性を高める工夫の余地があることがわかります。それでは、生産性を上げられない企業は、どのような課題を抱えているのでしょうか。企業が抱える課題を具体的に見てみましょう。
○生産性の低い企業が抱える課題
生産性の低い企業が抱えている課題として、主に以下の2つが挙げられます。
・新技術導入の遅れ
中小企業の多くは、新しい技術の導入が進まない傾向にあるのが現状です。利益率が伸び悩んでいる中小企業の多くは豊富に存在するITツールの選び方がわからず、さらにどの程度の効果を期待できるかがわからないため、IT投資に積極的になれないという課題があります。また、ITを導入したとしても、IT導入後の業務の仕組みやプロセスを考えておらず、生産性を高められないという状況が発生します。
国内の労働力人口の減少により、今後、労働者という「人的資産」の数を担保して生産量を確保する手法は難しくなると予想されます。そのため、多くの人手を必要としなくても生産性を維持・向上できるよう、ソフトウエアをはじめとする「IT資産」を活用した資本蓄積が重要となっていきます。
・公共サービスや福祉サービスなど、産業構造に起因する低生産性
業界や業種の構造上の問題により、生産性が低い状況に陥っていることもあります。たとえば、公共サービスや福祉サービスは労働集約型であり、サービス提供のために多くの人手を必要とします。つまり投入する生産要素が多いため、生産性は低くなりがちです。
これらのサービスは、とくに地理的条件や人口規模など、変えることができない要素により、生産性が低くなっていることも多く、サービスを提供する従業員の努力のみによって生産性を向上させるのは困難な場合もあります。また、介護施設などの福祉サービスは、厚生労働省が施設に必要な人員数の基準を設けているため、それらに従う必要があります。さらに、質の高い介護サービスを提供するためには、定められた人員数を上回る従業員数が求められます。そのため、投入する労働力を減らして生産性を向上させるのは困難です。
日本の企業の間には、生産性の格差が存在しています。産業の構造上、生産性を高めることが難しいこともありますが、それでも工夫して生産性を高めている企業は存在します。日本の課題と自社の課題を照らし合わせ、改善できる部分を探してみましょう。
■生産性向上のための施策
自社の生産性を向上させるために、取り入れられる施策にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的に見てみましょう。
●生産性向上のためにすべき施策
生産性を向上させるためには、従業員と企業のそれぞれが施策を行う必要があります。実施すべき施策をご紹介します。
○従業員一人ひとりが生産性向上のための意識を持つ
企業の生産性を向上させるためには、従業員一人ひとりが生産性を向上させるという意識を持つことが必要です。誰かに指示されて動くというのではなく、自身で業務をコントロールするという意識が求められます。
○業務を見える化する
自身の業務内容を適切に把握し、無駄な作業を省き、やるべき業務に集中することで、生産性を向上できます。また、スケジュールを管理し、適切に進めることも、生産性を向上するためには重要です。業務の見える化とともに、行わなければならないタスクを可視化しておくことで、やるべき業務が把握でき、行わなければならないことに集中できます。
○ITツールの導入
ITツールを導入することで、これまで従業員が手作業で多くの時間を使っていた作業を自動化することができ、業務に費やしていた時間を大幅に短縮可能できます。たとえば、給与や経理業務をスムーズに行うために、パッケージソフトやノウハウを見える化するためのループウェアなどが挙げられます。
具体的な導入事例として、ウェブ会議システムを導入することで生産性を高めた企業があります。毎週本社で行われる営業会議の出席のために従業員は往復3時間かけて移動していましたが、パソコンやタブレットを使用して各営業所で会議に参加できるようになったことで、その分の時間を他の業務に使えるようになりました。そして生産性を高められ、従業員の時間給を上げられるようになりました。
また、以前はエクセルで顧客や在庫、帳簿を管理していた企業が一元管理システムを導入したことで、今までよりも容易に業務を進められるようになり、作業時間を10%短縮した事例もあります。この企業は、従業員の時間給を60円引き上げられるようになりました。
○社内のコミュニケーションの活発化
社内のコミュニケーションを活発化させることで、情報共有が進み、作業の無駄を減らすことが可能となり、結果的に生産性が向上します。具体的には、研修や勉強会といった学びの場でコミュニケーションを促す方法があります。
●生産性向上を支援する補助金や助成金制度の導入
企業の生産性向上を支援するために、国や地方公共団体は補助金や助成金の活用を促しています。自社で活用できる制度がないか、確認してみましょう。
○中小企業支援「生産性向上特別措置法」
生産性向上特別措置法は、2018年6月に施行された法律です。2020年までを「生産性革命・集中投資期間」として設定し、中小企業の生産性を向上させるために必要な支援を行うことを定めたものです。データの共有や連携のためのIoT投資を促す減税を行うなど、中小企業の支援措置を講ずることなどを決めています。
具体的に中小企業が受けられる補助は、IT補助金やものづくり補助金の補助率アップや優先採択、そして固定資産税の軽減などです。新たに導入する設備が所在する市区町村が国から導入促進基本計画の同意を受けていれば、中小企業は認定経営革新等支援機関である商工会議所や地域金融機関に事前確認したうえで、先端設備導入の認定を受けることが可能です。先端設備は計画が認定されたあとに取得することが必須となっているため、注意しましょう。
○地方公共団体が実施している補助金・助成金
国だけでなく、地方公共団体が独自に生産性を高めるための補助金や助成金を制定していることがあります。たとえば東京都では「2019年度 革新的事業展開設備投資支援事業」を行い、IoTやロボットを活用する中小企業等に対し助成金を負担。競争力強化、成長産業分野、IoT・ロボット活用、後継者イノベーションのいずれかに合致する事業であれば、活用できます。
対象となるのは最新機械設備の新たな購入や搬入・据付等に要する経費で、助成対象期間は交付決定日の翌月1日から1年間です。2019年4月1日現在で東京都内に登記簿上の本店か支店があり、都内で2年以上事業を継続している中小企業者が対象です。申請や問い合わせは、公益財団法人東京都中小企業振興公社が受け付けています。
○IT導入補助金
IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者などを対象にした補助金の一種です。ソフトウエアなどのITツール導入にかかる経費を一部補助し、業務効率化を促して生産性向上につなげるものです。たとえば、定型業務を自動化するためのRPAツールを導入したり、情報共有や連絡のためのITツールを導入したりするときにかかる経費を補助してもらえます。
IT導入補助金を申請する場合は、支援機関である商工会議所やITコーディネーターなどに相談したうえで、導入するツールを決定します。その後審査を経て採択されれば、補助金を活用したITツールを導入が可能です。また、ITツールのなかでもハードウエアは対象外のため注意が必要です。
必要な施策を取り入れることで、生産性を高められることがわかりました。助成金を利用して、ITツールを導入し、実際に生産性を高めている企業もあります。自社に必要な施策を考え、適切に取り入れてみましょう。
有効な施策を取り入れて生産性向上を目指す
生産性向上を目指すためには、従業員一人ひとりの意識改革やITツールをはじめとする設備の導入、さらに社内コミュニケーションの活発化といったさまざまな施策が求められます。必要に応じてIT導入補助金やIoT投資を促す減税といった国や地方公共団体のサポートを受けながら、生産性向上を図りましょう。