ストレスを感じてしまうタイミングや度合は人それぞれです。同じ刺激を受けていても、ストレスを感じない人がいる一方で、多大なダメージを受けてしまう人もいます。そして、ストレスの限界を超えてしまうと、心身の調子が崩れ、病気を発症して休職や退職を余儀なくされることもあります。そのような事態に陥る前に、社員のストレスの限界サインに気付き、対処したいものです。
今回は、ストレスと限界サインについてご紹介します。
■一般的に見られるストレスの限界サイン
●ストレスとは
ストレス物理学で使われていた用語で、外側から物体にかかる圧力により、ゆがみが生じた状態を指します。医学や心理学では、外側から人のこころや体にかかる刺激により、その刺激(ストレッサー)に適応しようとして、こころや体、行動に生じた反応をストレス反応と言います。
●ストレス反応
ストレッサーにより引き起こされるストレス反応は「心理面」「身体面」「行動面」の3つに分けられます。
〇心理的反応
心理面でのストレス反応には、次のようなものがあります。活気の低下、興味・関心の低下なども挙げられます。また心理的機能の変化として、集中力の低下や忘れっぽくなるなど、共に仕事をしている同僚が異変を感じることもあります。
- 不安
- 緊張
- 怒り
- イライラ
- 興奮
- 混乱した状態
- 落胆
- 憂鬱な気分
〇身体的反応
身体面でのストレス反応には、次のようなものがあります。少し体調が悪いと感じているときや風邪の前兆と認識しがちな、体のふしぶしの痛みや頭痛、目の疲れなども身体的反応の一つとして表れます。
- 動悸、息切れ
- 冷汗
- 胃痛
- 便秘、下痢
- 手の震え
- 筋緊張による頭痛
- 頭重感
- 疲労感
- 食欲低下
- 不眠
- めまい、ふらつき
- 肩こり
- 腰痛
〇行動的反応
行動面でのストレス反応には、次のようなものがあります。重大な事故につながりはしないものの、「ヒヤリ・ハット」の検知件数の増加なども挙げられます。身体的な反応や心理的な反応は本人にしかわからないこともありますが、行動的反応は周囲の人間も変化に気づいてあげられるものが多く含まれます。
- 遅刻や欠勤の増加
- 業務上のミスの頻発
- 周囲とのコミュニケーションを避け、一人でいることが多くなる
- 拒食や過食
- けんかなどの攻撃的な行動
- 口論やトラブル
- 飲酒量や喫煙量の増加
- チックや吃音
これらのストレス反応が長く続く場合には、ストレス状態に陥っているサインと考えましょう。自分自身でストレスのサインに気付き、対処できる人もいますが、なかなか自分自身で気づけないという人もいます。人事部門によるサポート体制の整備、直属の上司や同僚がストレスのサインに気づけるしくみ・風土づくりが重要です。
■社員のストレスサインの発見のポイント
社員のメンタルヘルス不調やストレスサインを発見するためには、人事担当者や現場の上司が医学的知識やメンタルヘルスに関する専門知識を持っていることが理想的です。しかし、国家資格でもある公認心理士や大学院への通学も必要となる臨床心理士などの資格取得のために、大学・大学院・高等教育機関への通学や臨床実務経験を積むことは非現実的です。
一方で、社員のこころの健康を保つために、また産業医や専門機関との連携のために、必要な知識は習得しておきたいという管理職や人事担当者は少なからずいると思います。厚生労働省が運営する「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」に、心の病に関するさまざまな専門家の資格や検定制度の紹介がありますので、参考にしてみてください。
メンタルヘルス対策・過重労働対策・自殺予防対策に関連する資格等http://kokoro.mhlw.go.jp/qualification/
●社員の言動や態度の変化に注目する
ストレスサインを発見するには「その人の通常の行動様式からのズレ」 に着目することが重要です。つまり、言動や態度の変化に注目するということです。産業医や人事担当者は、現場の社員と共に仕事をしているわけではありませんから、「変化」に気づくことができるのは現場の上司・同僚です。
たとえば「普段から遅刻が多い」のは、疲労から睡眠不足で寝坊してしまうのか、もともと時間にルーズな性格なのか、子供の保育園の登園時間の都合で出社時間に間に合わないときがあるのか、などさまざまな背景が考えられます。しかし、以前は時間どおりに出勤していたけれど、「遅刻が増えてきた」という場合はストレスサインを疑って、一度時間をとって話を聞いてみる必要があります。
■社員のストレスサインを発見した時に企業が行うべきこと
メンタルヘルス対応だけではなく、人事制度全般に言えることですが、しくみや制度を形だけ導入しても現場では浸透しません。しくみや制度を考えるのは人事担当者かもしれませんが、運用の最前線にいるのは現場の社員です。社員に使ってもらえるようサポート体制を整えることと、現場の上司の理解・共感が何よりも重要です。現場との協力体制を構築しながら運用体制を構築していきましょう。
●現場の上司の部下への対応
〇個々の社員への対応
まずは、日頃から話しやすい環境をつくっておくことが大切です。普段はほとんど話さない上司に、急に心配ごとを相談できる部下はいないでしょう。管理者研修などの場では「部下への声かけ」の重要性が説かれていますが、毎日ちょっとした雑談でもコミュニケーションをとっていると、相談もしやすくなるものです。
相談された場合は、時間をつくってしっかりと話を聞くことが大切です。まずは、相談内容を正確に把握するために傾聴を心がけましょう。相談者にとっては、話を聞いてもらえただけで気持ちが楽になることもあります。また、心配事を一緒に整理してあげ、自身に解決策を気づかせてあげることもできるかもしれません。
ただし注意をすべき点があります。上司という立場上、相談をされるとアドバイスをしたり、励ましたくなったりするものですが、メンタルヘルス不全の場合は励ましやアドバイスの言葉が逆効果となることもあります。面談の場で心身にストレス反応が表れていることがわかれば、人事担当者や産業医につなぐようにしましょう。
〇チームの過重労働の防止
過重労働がストレスにつながっているということは周知の事実ですが、慢性的な人手不足、属人的な業務、特定の社員への業務の集中、顧客へのサービス意識、成果偏重の評価制度など過重労働を生み出す要因はさまざまです。まずは過重労働につながる要素を洗い出しましょう。
- 仕事の量
- 仕事の内容
- 仕事の難易度と社員のスキルとのバランス
- 業務の責任の所在
- 一連の業務プロセス
- 個々の労働時間
- 残業、深夜残業、休日出勤などの時間外労働
- 代休、振替休日の取得状況の把握
- 有給休暇の取得状況
社員の勤怠情報に関しては、人事担当者は把握しているものの、現場の管理職は細かく把握していないケースも多々見られます。まずは状況を把握することからはじめ、部分的にでも改善を繰り返すことで、部下のストレス軽減に着手しましょう。
●人事担当者の対応
〇勤怠状況の正確な把握
遅れている業務のリカバリーや目標達成のために、申請をしないで残業、仕事の持ち帰り、休日出勤などを行っている場合があります。会社の社風や上司からの圧力、自身の性格などから人事担当者に情報が回ってこないこともあるでしょう。
しかし、社員の健康管理のためにはまずは客観的な事実・データの収集が必要です。会社全体の労働時間の把握だけではなく、部門別、プロジェクト別、個人別など勤怠情報を細かく把握しましょう。昨今は、無料・廉価なクラウドベースの勤怠管理システムもあります。まずは実態把握からはじめてみましょう。
〇ストレスチェックのしくみを導入
ハインリッヒの法則では、1の重大な事故の背景には300のヒヤリハットがあると言われています。社員の誰かから相談があったということは、予備軍が多く存在することが想定されます。平成29年より義務化されたストレスチェック制度の導入で1年に1度のチェックはできますが、50人以下の会社は義務化されておらず、また月次での社員の健康状態の変化には気づけません。
社員のメンタルヘルスをテーマとしたサービスが出ていますが、弊社サービスのGeppoも社員のコンディションチェックを目的としています。社員に「仕事の満足度」「人間関係」「健康」などに関しての設問に答えてもらうことでコンディションをチェックすることができます。
〇産業医との連携
専門知識を有する者の立場から、産業医は職場の課題を把握し、アドバイスを行います。またセルフケアを支援するために、社員に対して教育研修を実施していきます。産業医と協力して、専門的な立場から支援をしてもらいましょう。
〇社外の相談しやすい場所の提供
社外の相談機関としては、下記のような相談窓口が設置されています。社内で相談するのがためらわれるという社員には、このような相談機関があることを伝えておきましょう。
<公的機関>
- 都道府県の精神保健福祉センター
- 労災病院「心の電話相談」(横浜労災病院においては心の電子メール相談)
- 全国の保健所「こころの健康相談」
<民間機関>
- 「いのちの電話」
- 日本産業カウンセラー協会による「働く人の悩みホットライン」
社員のストレスサインに気づくにはコミュニケーションが大切
社員がストレスの限界に陥っている場合、なんらかのサインが発せられています。できる限り早く社員のストレスサインに気付いて、対策を検討する必要があります。日頃から社内でのコミュニケーションを活性化させ、通常と異なることがあるときはすぐに見つけられるようにしておくことが有効です。
また、メンタルヘルス不全に陥ってしまった社員がいる場合は、産業医や外部機関の相談窓口の案内などを積極的に活用して、早期対応ができるようにしましょう。