時間をかけて採用し、期待を駆けて育成してきた従業員の突然の退職は、会社の経営に大きなダメージを与えます。従業員の年齢、性別により、その退職理由はさまざまですが、今回は退職の理由を理解し、必要以上に退職者を増やさないための対策についてご紹介します。
データから見る主な退職理由
従業員が退職を決意する背景にはどのような理由があるのでしょうか。厚生労働省では仕事を辞めた理由について調査をしています。まずは平成29年度の退職理由についてご紹介します。
<男性>
1位 その他の理由(出向等を含む) 23.4%
2位 定年・契約期間の満了 17.8%
3位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった 12.4%
4位 給料等収入が少なかった 11.0%
5位 会社の将来が不安だった 8.9%
<女性>
1位 その他の理由(出向等を含む) 22.9%
2位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった 14.7%
3位 職場の人間関係が好ましくなかった 13.0%
4位 定年・契約期間の満了 11.5%
5位 給料等収入が少なかった 10.5%
複数の理由を含む「その他の理由(出向等を含む)」、また期間の定めがあり従業員にはコントロールできない「定年・契約期間の満了」の2つの理由を除くと、実質的な1位は男女ともに「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」となります。前年度と比較すると、男性は2.9ポイント、女性は2.4ポイント上昇しています。
続いて、特徴的な項目を見ていきましょう。
20歳~24歳の男性の11.9%が「仕事の内容に興味を持てなかった」と答え転職をしています。男性全体で見ると該当の項目の比率は5.5%だけに、若い男性の顕著な傾向と言えます。就職活動時には限られた情報しか得られず、また就労経験のない学生には、具体的な仕事内容をイメージすることは難しいものです。いざ仕事を始めてみたら思い描いていた仕事と現実の仕事にギャップが生まれ、転職に至るケースが多々あります。
次に、男女間の差が大きい理由をみてみると、「職場の人間関係」が理由で転職をした女性は男性より5.8ポイント高く、「会社の将来が不安」で転職をした男性は女性より5.4ポイント高くなっています。
女性においては、年齢問わず「職場の人間関係」が理由で退職する人が多く、特に30歳~34歳においては、20%を超えています。
また「出産・育児」を理由に退職する割合についても30歳~34歳が6.2%と最も高くなっています。
平成29年1月から、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正され、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても防止措置を講じること」が事業主に義務付けられました。裏を返せば、女性は妊娠・出産・育児というライフイベントを機に就労条件の変更を余儀なくされ退職となるケースが多いのです。
育児休業後に復職したとしても、子供がいるかいないか、フルタイム勤務か時短勤務か、その他子育てに付帯する手当の有無など周囲の社員の業務のみならず、人間関係にも影響を及ぼすこともあります。結果として妊娠・出産・育児を機に間接的に退職せざるを得ない状況に追い込まれている可能性があるのです。
このように男女差や、特定の年代に特徴的な退職理由をつぶさに観察していくことで、打ち手が見えてくることがあるので、こうした事実理解は非常に重要です。
●従業員の辞める理由 「本音」と「建前」
前述の厚生労働省の調査は、転職前の会社や現在勤めている会社を経由せずに回答が収集されます。転職者にとっては利害関係のある勤務先に回答をするわけではないので、「本音」に近い回答となっていると言えます。転職理由として「労働条件の悪さ」「人間関係が好ましくない」「給与が少なかった」などが上位に挙がっていますが、このような理由を従業員が退職前に伝えてくれるとは限りません。
以下、従業員が円満退職をしようとする理由の一例です。
- 退職を告げてからも引継ぎなどで一定期間は会社に在籍するため、無用のトラブルを避けたい
- 上司や同僚、役員などからの引き留めにあいたくない
- 同業界へ転職をすることが決まっているので、今後のことを考えて良好な関係性を保ちたい
- そもそも上司との関係性が原因で転職するため、上司に本音を伝えられない
さらに大手転職サイトでは、退職を告げる場合、「円満に退職するために当たり障りのない個人的な理由を伝えるほうがよい」と指南しています。
このような状況下において、人事や経営が心得ておくべき大切なことは何でしょうか。
まず1つは、常日頃から風通しの良い企業文化を醸成し、「本音」を言いやすい環境を作ること。そして退職の意思が固まる前に相談してくれるような関係を築くこと。会社に従業員が「退職相談」に来た時はすでに赤信号、時すでに遅く、その退職を回避することは容易ではありません。
繰り返しになりますが、大切なことは、従業員が本音を相談しやすい環境を作ること。そして従業員の意見、声を経営や人事施策に活かすことで、従業員からのラポール(共感、信頼)を会社が得ることです。
従業員が仕事を辞める兆候
政府により「働き方改革」が提唱され、雇用の流動化が進んでいることから、労働者にとっては転職しやすい環境であると言えます。
一方、企業にとっては新卒・中途問わずコストをかけて採用し、上司や先輩、人事担当の時間を投資して育成してきた人材が突然退職してしまっては、多大なる損失です。現場のオペレーションも変更を余儀なくされるでしょうし、新たな人材を採用するコストもかかります。
前提として、従業員が自分たちの会社を働く場を選び続けてもらえるよう、ワクワクするようなビジョンとそれに到達するまでの戦略を経営トップが伝え、多種多様なニーズに応えられる人事及び人事制度を整えていくなどの経営努力が重要なのは言うまでもありません。しかしながらそうした企業努力は中長期的な意味合いが強く、今現在苦しんでいる、悩んでいる社員を救うことはできません。
彼らを救い、不幸な退職を減らすためには、従業員の変化をつぶさに観察し、適切な対処を打ち続けることが重要です。以下に、(必ずしも転職を前提とした兆候とは限りませんが)、転職を考えている従業員の態度の変化の一例をご紹介します。
●仕事の取り組み方の変化
転職活動を始めている従業員は責任のある仕事を安易に受けなくなり、新規のプロジェクトには加わろうとしない傾向があります。また今後の組織体制の話になると、発言を控えたり、昇格の打診に対して明確な意思表示をしなかったりするということがあります。
●同僚との関係性の変化
これまで同僚とランチに行っていたのに、頻度が減ったり、同僚からの誘いを断るようになります。転職活動をしていることや現状への不安を吐露してしまうことを避け、同僚とのコミュニケーション頻度が減ることがあります。
●体調・表情の変化
「顔色が悪くなる」「笑顔がなくなる」「清潔感がなくなる」「ぼーっとしている時間がある」など表情や体調に変化が表れることもあります。変化に気づいた場合は、声をかけて「困っていることはないか」「大変なことはないか」など、声を掛けて話を聞いてみましょう。
上記はあくまで一例ですが、こうした社員の行動をきちんと観察し、彼らのためにしてあげられることはあるだろうか?と考えることが、企業と従業員の信頼関係を作り、ひいては「本音が話せる」職場づくりにつながっていくのです。
辞める従業員を増やさないために
退職理由はさまざまですから、まずは変化に気付くことが重要です。変化に気がつくためには日々の心がけも大切ですが、それ以上に仕組み化、システム化することが必要で、以下に、退職者を増やさないための「気付き」の仕組みについてご紹介します。
●1on1ミーティング
1on1ミーティングとは、上司と部下で定期的に行う個人面談のことを指します。企業で行う個人面談と言えば、目標やKPIに対する進捗を確認するMBO面談や評価面談が一般的です。しかし1on1ミーティングでは、部下のキャリアや日頃抱えている悩みの相談などをテーマとして取り上げます。またうまく言っている企業では毎週、隔週、毎月といった短いスパンで実施している企業が多いようです。対面のコミュニケーションによって、部下の細かな変化に気付くことが、退職を未然に防ぐことになるでしょう。
●人事による退職時面談
従業員が退職を決意したとき、直属の上司と話をし、人事担当に情報が回ってくるのは退職が決定した後であることが一般的です。人事担当が退職を翻意させることは難しいかもしれませんが、退職手続きも兼ねて「人事との退職面談」を設定し、従業員の本音を引き出す機会を設けましょう。
上司や会社の役員との面談では、本音は言いづらいもの。しかし人事担当であれば、在職時の業務において接点は少なく、従業員のプライバシーを守る立場です。退職が決まり、人事担当が相手であれば本音を話してくれるかもしれません。退職者に共通する退職理由や傾向を見つけ出し、人事施策に反映してみてはいかがでしょう。
●従業員のコンディションをチェックできるツールの導入
かつてHR領域においては人事管理や労務管理、給与計算などの煩雑な業務の効率化を目的とした人事担当向けのシステムが主流でしたが、テクノロジーの進化に伴ってHR領域においてもイノベーションが起こっています。採用管理や労務・給与管理といった作業の効率を高めるテーマ以外に、「従業員のエンゲージメントの向上」をはかるツールも誕生しています。
「Geppo(ゲッポウ)」もそのツールのひとつですが、全国就業実態調査(JPSED)から退職・休職の要因を導き出し、3つの質問で多くの人事課題を網羅できるように設問を設計しています。離職率の改善に貢献した事例を掲載しておりますので、下記よりご覧ください。
退職理由の把握、従業員の“変化”に気づける仕組みを導入して退職者を増やさない
給料が少ない、労働条件が合わない、人間関係のトラブルなど、退職理由はそれぞれです。本当の理由を明かしてくれないことも少なくありません。
従業員の変化に気づくには、従業員との日頃からのコミュニケーションの頻度・精度が重要です。今回ご紹介した仕組みを参考に、退職者を増やさない対策を考えてみてください。