採用のために多くのコストをかけても、社員がすぐに辞めてしまうという状況では、会社が持続的に成長できなくなってしまいます。
まずは社員の離職原因を探り、組織が抱える問題を把握することが重要です。そのうえで、離職率を下げるための取り組みを推進していくことを心がけてみましょう。
離職率が高まりやすい会社の特徴や定着率を高めるための具体的な施策について解説します。
離職率とは?
厚生労働省の定義によると、離職率とは「常用労働者数に対する離職者の割合」を指します。
特定の期間内で全社員のうち、どれくらいの人数が辞めたのかを示す指標であり、「離職率=離職者数÷1月1日現在の常用労働者数×100%」の計算式で算出します。
たとえば、1月1日時点で500名の社員が在籍しており、そのうち15名が辞めてしまったとします。この場合は、「15÷500×100%=3%」と計算できるので、離職率は3%です。
会社によって目的に合わせた算出を行う必要があり、「入社1年後の離職率(新卒採用に用いるケース)」や「入社3年後の離職率」など、実態に合わせて計算することが大事です。
離職率の増減を見ることによって、社員の世代に関係なく離職率が高まっているのか、特定の世代で社員の離職率が高まっているのかが把握できます。
厚生労働省が公表している「2019年(令和元年) 雇用動向調査結果の概況」よると、2018年と2019年の1年間の離職率平均は約15%です。離職率の平均は業種・業界によって異なるので、競合他社と比較したうえで自社の離職率が適正な水準を保てているかを判断してみましょう。
社員が離職してしまうおもな理由と傾向
離職の理由は人によってさまざまですが、企業側に問題があるケースには一定の傾向が見られます。社員が会社を辞めてしまうおもな理由と傾向について解説します。
● 退職理由のおもなケース
離職率を確認するだけでは、退職理由の実態を把握できません。競合他社と比べて離職率が低ければ、その業界では平均を下回っているという判断になりますが、「なぜ退職をするのか」といった根本的な原因の究明につながらないからです。
離職率が高い会社は退職理由についてきちんと把握しておくことが重要です。
社員が会社を辞めるときの理由としては、次のようなものが考えられます。
- 社内の人間関係がうまくいかなかった
- 労働時間が長い、残業が多い
- 仕事にやりがいを感じられない
- 給与が低い
- 休みが取りづらい
- 社風が合わない
- 経営方針が変わった
- 人事評価に不満があった など
退職の背景には、労働環境や職場の人間関係に何らかの不満・ストレスを抱えているという共通点がみられます。裏を返せば、企業側が社員の抱えている不満やストレスを汲み取れていなかったり、汲み取れていても原因を取り除けなかったりすることが退職につながっている可能性があります。
社員に直接退職理由を聞くことは困難ですが、離職防止につなげていくために、日頃から社員が発している退職のサインを読み取ることが大切です。定期的に面談を行ったり社内アンケートを実施したりして、社員が抱える悩みを把握しましょう。
●若手社員の対策だけでは不十分
厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」よると、入社3年以内に離職する大卒社員は、1995年から2017年までの間2009年を除いて30%を超えています。
若手社員が早期退職をしてしまう原因には、雇用環境の変化だけでなく、労働に対する価値観の変化などもあげられます。「1社に勤め続けるのではなく、さまざまな会社で働くことでキャリアを形成したい」というような、就職に対する考え方の変化です。
また、賃金が思うように上がらないまま解雇されるというリスクもあり、将来のライフプランを思うように描きにくいといったケースも考えられます。
たとえば、
「今の職場環境では将来の見通しが立たない」
「過剰な業務で心身ともに疲れた」
といった不安や悩みが恒常化してしまうことも離職につながります。
そうした傾向は、若手社員だけでなく30~50代のミドル世代にも一定程度見られます。
厚生労働省が公表している「中高年者縦断調査」によれば、51~60歳の離職率は4.3%です。若手社員ほど高い離職率ではなかったとしても、会社を支えるベテラン社員に対するケアも必要になってきます。
離職率の低下を全社的な取り組みとして進めていくことで働きやすい環境を整備し、定着率の向上につなげていきましょう。
離職率が高まりやすい会社の4つの特徴
離職率が高まりやすい会社の特徴としては、「人事評価制度に問題がある」「人材育成に力を入れていない」「業務量が多いため労働時間が長い」「社員のエンゲージメントが低下している」といった点があげられます。
組織が抱える課題を洗い出し、一つひとつの問題を解決していきましょう。
● 1. 人事評価制度に問題がある
離職率が高い会社は、人事評価制度に何らかの問題を抱えていることがあります。たとえば、「評価基準の曖昧さ」が不公平感や不満を生み出してしまうケースです。
評価基準が明確でなかったり、そもそもどのような基準であるかが公開されていなかったりすると、社員は正しく評価されているのか判断しづらくなってしまいます。
実績として目に見える数字(成約件数など)であれば、不満は出にくい面があるものの、すべての業務を数値化することは難しいです。そのため、数値化しづらい業務や職種について納得できる評価基準を整える必要があります。
「いくら頑張っても評価されない」と社員が感じてしまう状態をそのままにすれば、モチベーションの低下につながってしまう恐れがあります。現場の声も聞きながら、公平な人事評価制度を構築してみましょう。
● 2. 人材育成に力を入れていない
新入社員に対する教育プログラムが整っていないと、仕事に対してストレスを感じやすくなり、離職率を高めることにつながります。人手不足などを理由に適切で充分な指導がなされていないと、不慣れな業務を誰に相談していいのか分からなくなってしまうものです。
また、現場主義を謳う雰囲気や、「自分で考えろ」といった指導方法では、社員のスキルアップが望めません。先輩社員や上司によって指導方法が異なる場合、組織としての生産性の低下も招いてしまいます。
社員の能力をきちんと把握したうえで教育体制を整えることが離職防止につながるのです。
● 3.業務量が多い・労働時間が長い
退職理由のなかには、「業務量が多い」「労働の拘束時間が長い」といったものがあります。人手不足によって、適切な労務管理が行われていない場合、特定の社員に過大な業務が集中しがちです。
特に、残業が多い会社では社員が心身共にストレスを感じてしまい、離職につながってしまうという懸念もあります。過剰に業務を割り振られてしまうことで仕事とプライベートのバランスを取りづらくなり、ストレスの原因になっていくのです。
労働時間や残業状況などの勤怠管理を適切に行うなど、社員のメンタルケアに意識を向けることが重要といえるでしょう。
● 4. 社員のエンゲージメントが低下している
社員自身が「長くここで働きたい」と感じなければ、課題に対する対策を講じたとしても結局は離職につながってしまいます。社員一人ひとりが仕事に対するやりがいを感じ、長く働きたいと感じることが重要です。
会社のビジョンや経営方針が社員に浸透していなければ、自分が携わっている業務が社会にどのような貢献をもたらしているのか見えづらくなります。社員のエンゲージメントが低下することは離職につながりやすく、他の社員にも悪影響が出てしまいがちです。
会社の目標を上から押しつけるのではなく、面談の機会を定期的に設けることで、社員個人の目標と会社の目標をきちんと擦り合わせましょう。
しっかりとコミュニケーションを取ることで、社員が自社で働く意義を見出し、定着率を高めることにつなげられるはずです。
関連記事:退職の原因とは?退職前の兆候や対策を解説
離職率を下げて定着率を高めるための3つの施策
離職率を低下させる取り組みは迅速に行う必要があり、離職の原因となっている問題をしっかりと改善していくことが重要です。
ここでは、3つの具体的な施策についてご紹介します。
●1. 風通しの良い職場環境を整える
離職率を低下させるための施策としてすぐに実行できるものは、社員同士のコミュニケーションを活性化させることです。社内に休憩スペースを設けたり、社内SNSなどを活用したりして、社員が抱える不満や悩みをしっかりと拾い上げてみましょう。
上司と部下といった特定の人間関係でのみコミュニケーションが固定化されると、社員は上司に伝えづらい悩みを抱え続け、最終的に離職につながる恐れもあります。他部署の社員も交えて円滑に意見を交換できる雰囲気をつくるなど、風通しの良い職場環境を整えていくことが重要です。
また、長時間労働や残業が多い職場環境であれば、短時間勤務やテレワークの導入など多様な働き方ができる仕組みを整えることも大切です。職場以外で過ごす時間を大切にしてもらうことで、社員のモチベーションを高めることにつなげられます。社員がどのような働き方を望んでいるかを把握したうえで、一つずつ実施してみましょう。
●2. 人事評価制度を明確にする
精力的に業務に励んでいる社員であっても、適正な評価を受けられなければ次第にモチベーションが低下してしまいます。あまり成果をあげていない社員と同等の評価をされてしまうと、人事評価に対して不満を抱えやすくなるため、離職につながることもあるでしょう。
また、直属の上司だけの評価では主観的な判断になってしまう可能性も考えられます。人事評価システムを導入するなどして、多角的な人事評価制度を整えることが重要です。
社員自身が自分を評価する仕組みを取り入れるなどして、一方的な評価にならないよう配慮しましょう。
● 3.人材育成を継続的に取り組む
会社が掲げる目標と社員個人の目標がずれている場合、離職につながりやすくなります。長く勤務しても、自分が望むキャリアプランと会社の目標が合致していなければ、モチベーションの低下を招いてしまうのです。
社員のキャリアプランを形成するためには、定期的に面談を行うことが大切です。
直属の上司だけでなく、他部署の社員なども交えて、自社でどのようなキャリアが形成できるのかを話し合ってみましょう。
また、社内のリソースが充分でない場合は、外部のリソースを活用することも重要です。社外の研修制度やワークショップへの参加などを奨励するなど、社員のスキルアップを支援する仕組みを整えることで、将来のキャリアプランを描きやすくなります。
自分が積みたいキャリアを得る機会が会社から提供されていれば、転職を考える必要がなくなるため、離職防止につながるはずです。社員の目線や立場に立った取り組みを進めていくことが重要です。
関連記事:離職率の低い企業の特徴や理由は?組織にもたらすメリットや取り組んだ方がいい施策とあわせて解説
離職の原因を洗い出して必要な施策を実行しよう
社員の離職率が高い状態を放置していると、経営の不安定化を招くことになります。まずは、何が離職の原因となっているのかを探ることが大切です。
業界や競合他社と比較して離職率を割り出してみるのも一つの方法ですが、より具体的な施策を実行するために、個々の退職理由についてきちんと把握しましょう。
また、離職を防ぐためにコミュニケーションを重視して、社員が抱える不満や悩みをキャッチしましょう。
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定期的に実施するサーベイによって、社員が言い出しづらい不満や悩みをチェックすれば、離職防止につなげられる有効な対策を立てやすくなるはずです。組織の風通しを良くして、社員一人ひとりが働きやすい環境を整えるためにGeppoを利用してみましょう。