社員の離職はどの業界の企業にとっても深刻な課題です。
離職が増加すると、優秀な人材の流出、採用・教育コストの無駄、企業イメージの悪化、社員のモチベーション低下などが懸念されます。企業は離職防止策を講じる必要がありますが、効果的な策を講じるためには離職原因の分析が重要です。
この記事では社員が離職する理由と離職の防止策やその必要性について解説します。
目次
- 離職防止とは
- 離職防止対策が必要な理由
人手不足になる
採用・教育コストが無駄になる
企業イメージが悪化する
社員のモチベーション低下につながる - 離職防止策を講じるためには離職原因の分析が重要
労働条件に対する不満
職場環境・人間関係の問題
仕事内容への不満
企業の将来に対する不安 - 離職防止に有効な対策
ビジョン・パーパスを明確にする
人事評価制度を見直す
アンケートなどの実施によって社内状況を把握する
サーベイツールを活用した効率的な調査も有効
コミュニケーションの活性化
定期的に1on1ミーティングをおこなう
メンター制度を導入する
マネジメントスキルを高める
オンボーディングプログラムを実施する
研修機会を充実させる
離職防止ツールを活用する - 「サーベイツール」が離職防止にもたらす効果
- まとめ
離職防止とは
離職防止とは、社員の離職を防ぐために施策を実施することをいいます。離職防止のための施策は、人材リテンションと呼ばれることもあります。
企業にとって、社員の離職は事業の継続に支障をきたす一因となります。そのため、企業は社員の離職を防ぐために、以下のような離職防止対策を取り入れていく必要があります。
あらかじめ離職率を算出する目的を明確にし、対象や期間を設定するのがポイントです。
- 働きやすい環境の提供
- 定期的な社員との面談
- 社内のコミュニケーションを促進する活動
ただし、社員が離職する背景には、1人1人にさまざまな要因が存在します。
そのため、離職防止対策も企業の労働環境や業界構造にあわせた多面的なアプローチが求められます。
離職防止対策が必要な理由
近年、人手不足を感じる企業の割合は上昇傾向にあります。
そのため、社員が離職しても企業はすぐに代わりの人材を採用することができません。それだけでなく、離職が続けば企業イメージの悪化や採用コストの増加、ほかの社員のモチベーション低下にもつながる可能性があります。
以下では、離職防止対策の必要性について詳しく解説します。
人手不足になる
人手不足を感じる企業は2009年以降増加傾向にあり、その傾向は大企業よりも中小企業で顕著に表れています。
<図>
また、人手不足感は都市圏よりも地方圏で相対的に高まっていることが示されています。
さらに、スキル別の人材不足に関する調査では、現場の技能労働者や研究開発を支える高度人材、社内全体の人材マネジメントをする専門人材など、スキルを持った人材の不足感が強いことが明らかになっています。
<図>
そのためスキルを持った優秀な人材が離職すると、代わりの人材を採用することはより難しく、業務の進行に支障をきたす可能性があります。
また、地方圏では都市圏と比べてM&Aのための専門人材に対する不足感が高い特徴があります。このことから、地方圏では事業継承の課題が顕在化している可能性が指摘されており、幹部候補生として期待されていた人材の離職によって、事業の継続が難しくなってしまうケースも考えられます。
採用・教育コストが無駄になる
リクルートが運営する就職みらい研究所の調査から、2019年度の新卒採用にかかるコストは約93.6万円、中途採用にかかるコストは約103.3万円と推定されています。
また、社員を採用したあと実際の業務をおこなうためには教育コストも発生します。しかし離職してしまうと、その社員にかけた採用・教育コストが無駄になり、これが企業にとって大きな負担になると考えられます。
企業イメージが悪化する
インターネットやSNSの発達にともない、多くの人が手軽に企業の口コミを調べられるようになりました。労働環境に不満を持った社員が離職して企業の口コミサイトやSNSなどに悪い評判を残してしまい、不特定多数の人の目に触れる可能性もゼロではありません。
企業の悪い口コミが取引先や顧客に伝わると、信頼を失う恐れがあります。また、新たに採用を進める際にも、求職者から敬遠されやすく、優秀な人材の獲得が難しくなる悪循環に陥る可能性も考えられます。
社員のモチベーション低下につながる
社員が離職すると、離職した社員が担当していた業務は残った社員が引き継ぐこととなります。そして新たな人材が採用されない限り、残った社員の業務負担は大きいままであると考えられます。これにより、既存社員のモチベーション低下を招く恐れがあります。
また、増えた業務に対する報酬が変わらない場合、追加の業務を無報酬でおこなっていると感じれば、不満が生まれる可能性もあります。このような状態が続くと、社員のモチベーションは低下してしまうでしょう。
離職防止策を講じるためには離職原因の分析が重要
効果的な離職防止策を講じるためには、自社のどこに離職につながる要因があるかを把握し、分析する必要があります。
厚生労働省の統計によれば、主な離職原因として、以下の4つが挙げられます。
- 労働条件に対する不満
- 職場環境・人間関係の問題
- 仕事内容への不満
- 企業の将来に対する不安
労働条件に対する不満
長時間労働や残業、休日出勤や有給休暇の取得などの労働条件の不満が、離職の原因になると考えられます。
特に、労働条件に対する不満は男女ともに1位(男性9.1%、女性10.8%)となっており、長時間労働や休暇取得の難しさなどを感じると離職を検討しやすくなるといえるでしょう。
<図>
近年では、ライフワークバランスを尊重する社員が増加傾向にあります。
若年層を対象にした意識調査によると、平成23年から平成29年までの6年間で「仕事よりも家庭(プライベート)を優先する」と回答した割合は男性で11.0%増加、女性で10.8%増加しています。
<図>
そのため、長時間の労働や休日が少なくプライベートの時間が取りにくい場合、そのバランスが乱れ、社員は離職を考えることが多くなると考えられます。
さらに、給与が業務の内容や量に見合っていないと感じる場合も、離職の可能性は高まります。厚生労働省の統計では、転職入職者が前職を辞めた理由のうち「給与の少なさ」が男女ともに大きな割合を占めています。(男性:7.6%、女性:6.8%)
給与はモチベーションを維持する要因の1つだといえます。不満がたまると、結果として離職を選ぶ社員も増える可能性があります。
職場環境・人間関係の問題
会社の社風や価値観に基づく職場環境が合わなかったり、社員間のコミュニケーションがスムーズに取れない場合、離職を考える要因となってしまう可能性があります。
また、上司、同僚、顧客との人間関係のトラブルや、それに伴うストレスやプレッシャーも、離職を検討する要因になり得ます。具体的な内容としては、以下が挙げられます。
- 上司からの過度な圧力
- 信頼できる相談相手の不在
- 顧客からの過酷な要求への対応 など
さらに、ハラスメント問題も重要な要因として考えられます。
パワハラやセクハラのような問題が改善されない場合、過度のストレスにつながり休職や離職を選択するリスクが増大します。
仕事内容への不満
自分の得意とするスキルや分野で活躍を望んでいた社員が、自身の能力を十分に活かせない業務に従事すると、モチベーションが低下しやすく、やりがいを感じられなくなれば結果的に離職を選ぶ可能性も考えられます。
仕事は1日の大部分を占めるものです。得意でない業務や希望していない部署に配属された場合、ストレスや不満が溜まりやすく、離職を選ぶ可能性が高まると考えられます。
また、希望するキャリアパスを達成できないと感じることも、離職の要因となるでしょう。
企業側では、社員の適性を見極めるためにさまざまな業務を経験させることが考えられます。しかし、その狙いが社員に明確に伝わっていないと、誤解や不満が生まれる可能性があります。
この不満が社員の離職につながる可能性があるため、社員と企業間で適切にコミュニケーションの機会を設ける必要があります。
企業の将来に対する不安
企業の業績が不安定になっている場合、事業の拡大や給与の増加を期待するのは難しく、業績が低迷し続ければ解雇のリスクも浮上します。これをきっかけに、社員の不安が高まり、経営状態の良い企業への転職などを考える可能性もあります。
また、キャリアアップの見込みが立たない、仕事に対するやりがいを感じられないなど、個人の将来に関する不安も、離職の大きな要因となると考えられます。
離職防止に有効な対策
離職を防ぐための有効な対策としては、以下が挙げられます。
- 企業の経営理念を示すビジョンやパーパスの明確化
- 人事制度の再評価、アンケート調査による社内の実情把握
- コミュニケーションの促進
また、上司の管理能力を高めることも、離職を予防する上で効果的です。
さらに、離職を予防するための新しいアプローチとして、オンボーディングプログラムの導入や研修の機会の設定が注目されています。もし社内のリソースが不足していると感じる場合は、離職防止のためのツールを使用することで、より効果的な対策が可能になります。
以下では、これらの離職防止策を具体的に説明します。
ビジョン・パーパスを明確にする
ビジョンは企業が目指す未来の姿や理想像を示します。一方で、パーパスは企業の存在理由を意味し、企業がなぜ存在し、どのような事業をおこなうのかという根本的な意義や目的を示します。
離職の原因には、自分の所属する企業に対する不安も含まれると考えられます。そのため、企業が「自らが果たすべき社会的役割」「進むべき方向」「目指すべき企業像」といった将来のビジョンを明確にし、それを社員に伝えて理解させることで不安が軽減され、離職を予防できると考えられます。
人事評価制度を見直す
社員にとって人事評価は、自分の給与や働き方に大きく関わります。そのため人事評価が評価者の主観や好みに基づいておこなわれて納得感が得られないと、不満を感じてしまうでしょう。
主観的な評価制度を導入している企業は、制度の見直しが必要です。人事評価の目的を明確にするだけでなく、基準や方法をきちんと定め、社員に周知することで離職防止につながる可能性があります。
アンケートなどの実施によって社内状況を把握する
社内アンケートを通して、職場環境の状況や社員の意見を収集することは、離職を防ぐための効果的な方法となります。
社員が抱えている不満や不安、課題だけでなく、組織に対する意見を正確に知ることで、改善に努めることができます。
アンケートをおこなう際には、回答が匿名であり、その内容が人事評価に影響しないことを社員に周知するのが大切だといわれています。社員に不利に働かない形で実施しないと、正確な意見の収集ができなくなってしまう恐れがあるため注意しましょう。
サーベイツールを活用した効率的な調査も有効
効率的に社内状況を把握したい場合には、サーベイツールの活用がおすすめです。
サーベイツールでは、社員が企業に対して抱いている不満や課題に感じていることなどを、簡単な質問を用いたアンケート方式で実施し、結果の分析に基づいた適切なアクションの検討を進められます。
サーベイツールの活用によって、社員の意見や不満をタイムリーに把握し、迅速な改善策を講じることが可能になります。
コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションを活性化させることも離職防止につながると考えられます。
コミュニケーションを活性化する主な方法として、上司と部下が1対1で話し合う機会を設ける「1on1ミーティング」の定期的な実施や、業務や精神的なサポートをおこなう「メンター制度」の導入が挙げられます。
定期的に1on1ミーティングをおこなう
1on1ミーティングは上司と部下でおこなう1対1の面談です。
上司が部下の現在抱えている不安や悩みを聞きながら問いかけをおこない、対話の壁打ち役となります。また、仕事と直接関係のないプライベートな話をすることで、上司と部下のコミュニケーション促進につながる機会として活用されています。
1on1ミーティングは悩みや不安を相談できる関係性を構築するだけでなく、仕事へのやりがいを感じられるようになり、離職防止に役立つと考えられています。
メンター制度を導入する
メンター制度とは、新しい社員に対して、入社年度が比較的近い先輩社員が1対1で業務の指導やフィードバック、悩みの相談などを聞いてサポートをする制度を指します。
これにより、業務における成長だけでなく、社員同士の信頼関係を築くことができ離職率の低下につながると言われています。
また、先輩社員にとっては、指導の経験を通じてマネジメント能力を向上できる機会としてもメリットがあります。
マネジメントスキルを高める
社員のマネジメントをおこなう上司には、マネジメントスキルが必要です。
業務全体のマネジメントはもちろんのこと、近年は人間関係に関するマネジメントスキルも重視されるようになっています。
マネジメントスキルが低い場合、部下に対する不適切な言動や無自覚なハラスメント行為に至ってしまうリスクがあります。ハラスメントはモチベーションの低下や離職への原因になってしまうため、上司のマネジメントスキル向上は重要です。
オンボーディングプログラムを実施する
オンボーディングプログラムとは、新入社員にも早期に業務で活躍してもらうために、組織としてサポートする仕組みを指します。職場環境や業務内容にいち早く慣れてもらうことで、早期離職を防ぐ狙いもあります。
通常の新入社員研修は期間や対象となる社員が限定的なのに対して、オンボーディングプログラムは新入社員が部署に配属されたあとも継続的に実施され、多くの社員が関与する特色があります。
このプログラムを通じて、新入社員は目標設定がしやすくなり、社内の人間関係を構築するためのサポートを受けられます。そのため、新入社員のモチベーション維持や向上が期待できます。
さらに企業としては、新入社員の生産性の早期向上や、入社後の早期離職に伴うコストを削減できるメリットも得られます。
研修機会を充実させる
キャリアアップやスキルアップの機会が不足していると、社員は不満を感じて離職するリスクが高まります。特にキャリアアップ意欲が高い社員は、このような環境では退職を考えやすくなる可能性があります。
そこで、研修制度の整備や研修の充実を図り、働き続けることで成長できる環境だと考えてもらえるような環境の構築が大切になります。社内研修やワークショップを増やすことは、スキルの向上やリーダーシップの育成といったキャリアの発展に寄与します。
また、研修をより効果的におこなうためには、外部のサービスを取り入れるのも1つの手段です。外部の講師を招くことで、新しい知見や視点を取り入れられるようになり、社員に新しい刺激を提供し続けることができます。
離職防止ツールを活用する
離職防止ツールには、社員のモチベーションやエンゲージメントを見える化する機能をはじめ、さまざまな機能が備わっています。
ツールの導入によって、データの集計や分析も効率よくおこなえるようになります。 社員の状態を正確に把握し、課題を明確にして施策へ落とし込むことで、退職のリスクを低減できるでしょう。
「サーベイツール」が離職防止にもたらす効果
サーベイツールも、離職防止に効果のあるツールとして考えることができます。
社員が企業に対して感じている不満や課題を把握したり意見を収集したりする際に有用なサーベイツールは、ストレス状態などもチェックできるため、社員の働きやすい状態を維持させやすくする効果が期待できます。
特に、業務の負担にならない程度の簡単な質問に回答してもらうだけで、社員の状態をリアルタイムに把握できるのがサーベイツールの大きなメリットです。
収集した情報を改善策に活かすことができれば、社員のモチベーションアップにつながり、離職の防止にもなります。
また、社員が「意見を聞いてもらえた」という実感を得ることで、会社への信頼度が高まり「この会社で働き続けたい」という気持ちが芽生え、会社の一員として主体性の向上にもつながるでしょう。
まとめ
人手不足が社会問題となり、優秀な人材の確保が難しくなっています。
そんななか、社員の離職は、企業にとって大きなダメージとなります。優秀な人材を失ってしまうと、業績への影響だけでなく、採用・教育のコスト負担や企業イメージの悪化などにつながりかねません。
また、現在は採用活動をおこなったとしても優秀な社員がすぐに採用できるとは限らないため、人材不足による影響が長期にわたる可能性があります。
そこで重要なのが、社員が離職してしまう原因を把握し、自社の課題を理解した上で離職防止策を講じていくことです。離職原因はさまざまなものが重なるため、複合的な離職防止策を考えるようにしましょう。社員のリアルタイムな意見を集めて適切な施策を実施していくためにも、サーベイツールの活用をおすすめします。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。