少子化が進む日本では、労働力不足が問題となっている企業も多いでしょう。 採用活動をおこなったところで入って来た人が早期退職してしまうのでは意味がありません。社員の定着率が良くないのであれば、離職率の改善が必要です。 では、離職率の改善はどのようにおこなえばよいのでしょうか。
本記事では、離職率の低い企業の特徴やメリットを解説します。 すぐに取り組める内容もあるのでぜひ参考にしてください。
<目次>
- 離職率の定義
- 離職率が低いとされる基準とは
日本の企業の平均離職率の推移 - 離職率が低い業界は?
- 離職率が低い企業の特徴と理由
長時間の残業が少なく給与水準が高い
福利厚生が充実していて休暇が取りやすい
社内の人間関係が良好でコミュニケーションも活発
教育制度やキャリアアップ制度が整っている
業界自体が安定している - 離職率の低さが企業にもたらすメリット
生産性の向上につながる
人材が育ちやすい
採用コストの削減につながる - 離職率が低い企業において取り組むと良い施策
組織のマンネリ化防止
従業員のモチベーション低下防止
従業員の就業状況の把握するためにはサーベイツールの活用がおすすめ
新しい人材の採用活動 - 離職率低下に期待されるオンボーディングとは
- まとめ
離職率の定義
厚生労働省の定義によると、離職率とは「常用労働者に対する離職者の割合」とされています。 ある期間内にどれだけの社員が離職したかを表す指標です。 離職率は、社員が働きやすい環境かどうかをはかるための指標としても使用されています。
離職率は次の計算式で求められます。厚生労働省が雇用動向調査で使用している離職率の計算式は次のとおりです。
<図>
一般的には、期初から期末までの1年間を対象として算出されますが、対象者や期間を絞り込めば、より細かな分析が可能です。
離職率が低いとされる基準とは
自社の離職率が高いのか低いのかをはかる基準の1つとして、厚生労働省が公表する「雇用動向調査」の平均離職率があります。 たとえば平均離職率を下回っている企業は離職率が低いという1つの指標になります。
雇用動向調査では平均離職率のほか、産業別の平均離職率も公表されており、自社の離職率と比較が可能です。
以下に日本国内の平均離職率の推移を解説し、現状として離職率が低い企業の基準を提示します。
日本の企業の平均離職率の推移
厚生労働省の統計によると、2022年日本国内の平均離職率は15.0%です。
2022年の離職率は前年の13.9%と比べて1.1%高く、3年ぶりに上昇しました。
<図>
平均離職率は、平均入職率を同時に参照するとより詳細な分析が可能になります。
たとえばリーマンショック後の2009年では、離職率が16.4%、入職率が15.5%であり、離職率が入職率を上回っています。 これはリーマンショック後の景気の落ち込みによってリストラが多くなり、日本企業の離職数が入職数に比べて多くなったと考えられます。
日本における離職率は、平均して15%前後となっています。 この結果から、離職率が低い企業の1つの基準は、離職率が15%を下回る企業といえます。
離職率が低い業界は?
令和4年雇用動向調査結果の概況では、業界別の離職率も公表されています。 最も離職率が高かったのは「宿泊業・飲食サービス業」の26.8%です。 全業界のなかでも20%を超えているのは「宿泊業・飲食サービス業」のみであり、離職率が高いといえるでしょう。
一方、最も離職率が低かったのは「鉱業・採石業・砂利採取業」で6.3%です。
<図>
全体をみるとサービス業での離職率が高く、生活インフラ関連の業界の離職率は低い傾向にあります。
また、離職率の高い業界は、休暇の取得が難しい業界である傾向もあります。 別の年に厚生労働省がおこなった調査では、休暇取得率と離職率の間にはすくなくとも相関があると示されています。
<図>
出典:厚生労働省 労働市場分析レポート 第86号 休暇取得率等の影響について
主に法人向けにサービスを提供する生活インフラ関連の業界と異なり、サービス業の顧客は個人向けです。 個人向けのサービスは、休日や深夜もサービスの提供が必要な場合があり、これが休暇取得率を低くする要因となっている可能性があります。
離職率が低い企業の特徴と理由
離職率が低い企業にはどのような魅力があるのでしょうか。 ここでは、離職率が低い企業に共通する特徴や理由を見ていきましょう。
長時間の残業が少なく給与水準が高い
厚労省の調査によれば、離職理由の個人的理由のうち、労働時間への不満(男性9.1%、女性10.8%)と給与に関する不満(男性で7.6%、女性で6.8%)が挙げられています(その他個人的理由を除く)。 つまり、給長時間の残業や給与の見直しは離職率の改善に役立つと推察できます。
近年では仕事とプライベートのバランスを求める、いわゆる「ライフワークバランス」が重視されるようになってきました。 長時間の残業が少なければ趣味などに時間をかけることができ、給与水準が高いとプライベートにお金をかけられるようになるため、ワークライフバランスが保ちやすくなると考えられます。
福利厚生が充実していて休暇が取りやすい
福利厚生の充実は社員のモチベーション維持につながります。 手当や特別休暇のような福利厚生が多いほど、プライベートの事情を考慮してもらいやすい企業だと感じるでしょう。
たとえば、産休や育休はもちろん、今注目されている産後パパ育休、介護休暇などの休暇制度が充実していれば、社員は安心して働きやすいと感じる可能性が高くなります。
ただし、いくら福利厚生が充実していても、利用したいときに申請できない環境が整えられていなければ意味がありません。 社員がいつでも利用できる環境が整っているのも離職率が低い企業の特徴です。
社内の人間関係が良好でコミュニケーションも活発
職場は多くの人にとって1日のほとんどを過ごす場所であるため、人間関係が悪かったり、コミュニケーションが上手く取れなかったりすると大きなストレスになります。
離職の理由として社内の人間関係やコミュニケーション課題を挙げる人は、男性で8.3%、女性で10.4%です。 そのため離職率が低い企業では、コミュニケーションを大事にしている傾向にあると考えられます。
職場の人間関係が良好で、コミュニケーションが取りやすければ、新入社員も職場に早く慣れ、仕事に専念しやすくなります。 また、悩みや不安を相談する環境も整っていると、メンタル面のサポートまで可能となり、離職する可能性が低くなります。
教育制度やキャリアアップ制度が整っている
教育制度が整っていると、入社後すぐに仕事を覚えられるため、不安が少なく仕事に専念できます。 たとえば、作業でつまずいたときのフォロー体制が整っていたり、仕事を任せてみたりすることが挙げられます。 相談できる環境がありながら任された仕事があれば、仕事に対して責任やりがいが生まれやすくなります。
また、キャリアアップ制度が整っているかも大切です。 社員の求めているキャリアへの道筋が明確になり、将来のビジョンをイメージしやすくなります。 仕事に対するモチベーションが高まり、離職を考える機会は少なくなると考えられます。
業界自体が安定している
競合他社が少なく、業界自体が安定している企業の離職率は低い傾向です。 倒産の危機がなく収入が安定していると、社員は心にゆとりを持って働けるので離職率が低くなると考えられます。
この傾向は、特に電気やガスなど、人々の生活に関わるインフラ系の企業や、時代を問わず需要がある鉱業系の企業にみられがちです。 また、これらの企業には大企業が多く給与水準が安定していたり、需要がなくなる心配がないという安心感から倒産しにくいというイメージがあったりすることから、離職率が低いと考えられます。
離職率の低さが企業にもたらすメリット
離職率の低さは、企業にさまざまなメリットをもたらします。 詳しく見ていきましょう。
生産性の向上につながる
離職率が低い企業では、社員が自分の置かれている労働環境や人間関係が良好であるため、エンゲージメントが高い状態にあるといえます。
社員が快適な環境で仕事に専念できると業務効率が向上すると考えられます。
社員1人1人の業務効率が上がれば、企業全体としての業務効率も比例して上がっていくでしょう。その結果、生産性が向上して企業体力の強化につながります。
人材が育ちやすい
離職率が低い会社では、勤続年数の長い社員が多く、業務に関する知識や技術を熟知している人が多いと考えられるでしょう。 業務知識や技術のノウハウを継承することで、パフォーマンスの高い人材を育てられます。
採用コストの削減につながる
1人の社員を採用するためにかかる費用は、約100万円と言われています。 社員が離職するたびに100万円近いコストをかけるのは、企業にとって大きな損失です。
一方、離職率が低い企業は人が入れ替わる機会が少なく新たに人材を採用する必要ないため、採用コストの削減につながります。
離職率が低い企業において取り組むと良い施策
離職率が低い企業にも懸念点があります。 たとえば、組織のマンネリ化による社員のモチベーションの低下、新しい人材が入って来ないため風通しが悪いことなどが挙げられます。
ここでは離職率の低さが招くリスクとその防止策を解説します。
組織のマンネリ化防止
組織のマンネリ化とは、いつも同じ社員と業務をおこなうことで、会社が発展・成長しなくなる可能性が生じるという問題です。 離職率が低い企業では組織のマンネリ化が起こりやすいとされています。
若手社員や中途採用社員が入らず、同じ社員とばかり仕事をしていると「慣れ」が生じてしまうからです。 適度な緊張感が保たれていないとミスをしたりし、機械的に業務をこなしてしまうので新しい発想がなくなったりする可能性があります。 このように、組織のマンネリ化は企業の発展や成長の機会を逸してしまうリスクが高まります。
同じ社員同士で長い期間働く場合には、仕事をする際にパートナーを変更したり、新たな知識を得るための勉強会をおこなったりするなどの対策が必要です。
従業員のモチベーション低下防止
離職率が低い会社では、ポストがなかなか空かないため、新卒社員や中途採用社員が昇進する機会が奪われてしまいます。
キャリア指向の強い社員は、昇進ができない状況が続くとモチベーションの低下を招きかねません。 モチベーションが下がると、仕事への意欲も失われ、最悪の場合は離職につながるでしょう。
このような問題を解決するには、人事評価に実力主義や成果主義の採用を検討してみましょう。 成果によってポストに就けるとわかれば、キャリア志向の社員の満足度を高められると考えられます。
従業員の就業状況の把握するためにはサーベイツールの活用がおすすめ
従業員が現状で考えていることや、働く環境に問題を感じていないかを測定する手段として、サーベイツールの活用がおすすめです。
サーベイツールは、社員に簡単な質問に回答してもらうことで、不満や課題に感じている問題をリアルタイムで把握できます。 たとえば、マンネリ化を感じているのに、人間関係を壊したくないという理由から伝えられずにいる社員もいるかもしれません。 このような課題を見つけ、改善策をタイムリーに実施できます。 従業員は、自分の意見を聞いてもらい、改善してもらえたという実感を覚えモチベーション向上や会社への信頼感がアップすると考えられます。
新しい人材の採用活動
離職率の低い企業は長期的に勤続している社員が多いため、新たに新卒社員や中途社員を採用する機会がほとんどありません。 その結果、人材の高齢化が進んでしまう可能性が高いといえます。
新卒社員や中途社員など新しい人材を採用しにくくなると、勤続年数が長い人ばかりになり社内の少子高齢化が起こってしまします。
新しい人材は、企業に新しいアイデアの提案や課題の発見をもたらす重要な存在です。 新しいアイデアがなければ企業の発展は望めず、課題の発見ができないと企業を改善するのは難しいからです。
新しい人材の採用は、コストや教育に時間がかかるなど、手間に感じるかもしれません。 しかし、近年、ビジネス環境の変化は目まぐるしく変化しています。 新しい人材の採用活動を定期的におこなうことで、ビジネス環境の変化にも対応できるようになると考えられます。
離職率低下に期待されるオンボーディングとは
近年、離職率低下の対応策として注目されている方法にオンボーディング制度があります。
オンボーディング制度とは、新卒社員や中途社員など、新入社員が早期に会社や仕事に慣れて、活躍できるようになるまで継続しておこなうサポート制度です。 オンボーディングは、もともと「乗り物に乗っている」という意味で、乗組員や乗客に対するサポートをおこない、乗り物に慣れてもらう過程を指していました。
オンボーディング制度の主な目的は、新入社員の早期離職を防ぐことと即戦力化です。 新入社員に対しておこなわれる新人研修と似ていますが、若干の違いがあります。 それは、新人研修は業務内容やスキルを重点的に学ぶのに対し、オンボーディング制度は企業の組織や文化などについても学ぶ点です。
企業の組織や文化を深く理解できれば、企業の一員としての意識が強まるため、離職率の低下に効果があるとされています。
まとめ
離職率が低い企業は、ワークライフバランスを大切にしている上に給与水準が高く、福利厚生も充実しているなど、いわゆる「ホワイト企業」としての特徴を備えているといえます。
離職率の低さは企業にとっても、働いている社員にとってもメリットがあるため、組織強化や事業の発展に寄与する可能性が高いでしょう。
しかし、その一方で組織のマンネリ化や組織内での少子高齢化が発生してしまうリスクも抱えています。 リスク対策を講じておかなければ、大きな損失を被りかねません。
自社の離職率の高さが気になる方は、本記事で紹介した離職率が低い企業の特徴を参考にしてみてください。 また、顕在化していない課題を可視化するのも重要です。 リスク対策を講じるためにサーベイツールの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。