少子高齢化により、日本は多くの業界で人手不足の問題を抱えています。 このような状況の中で社員が離職すると、企業にとっては大きなダメージとなります。 そのため企業は、社員の離職防止に注力する必要があります。
本記事では社員が離職する原因や、その背景を把握しながら離職を防ぐための対策を解説します。
目次
- 離職を引き起こす主要な5つの要因
仕事内容の不一致
労働時間や休日に対する不満
コミュニケーション課題によるストレス
キャリア形成が見込めない
給与が低い - 若手社員の離職理由と原因
ノルマや責任が重すぎる
自分の技能・能力が活かせていない
現実と理想とのギャップ
ハラスメントが頻発している
勤務先に将来性がないと判断した - 離職の原因と新時代の働き方
ワークライフバランスの変化
リモートワークであることが逆効果になるケースも
新世代の価値観の変化
早期のキャリアチェンジの機会の増加
定年制と終身雇用の崩壊 - 離職を考えている社員の特徴
モチベーションの低下
コミュニケーションが気薄になる
急な休暇や早退を繰り返す - 早期離職を防ぐ8つの対策
適切なオンボーディングプログラム
オンボーディングプログラムとは
オンボーディングプログラムを導入するメリット
メンター制度の導入
メンター制度とは
メンター制度の特徴と留意点
定期的なフィードバック
サーベイを活用すると職場環境に対する社員の意見も収集できる
キャリアパスの明確化
労働環境の改善
職場のコミュニケーションの活性化
多様な研修・教育制度の提供
成果主義の導入 - まとめ
離職を引き起こす主要な5つの要因
社員が離職を決断する主な理由として、「自分が思っていたような仕事ではなかった」という仕事内容に対する不満、長い労働時間や少ない休日、コミュニケーションに関する課題などが挙げられます。
また、自分自身のキャリア形成が見込めない場合にも離職につながる可能性があります。 そして、仕事へのモチベーションに直結すると考えられている給与の低さも離職の原因になります。
まずは、離職を引き起こす5つの原因について解説します。
仕事内容の不一致
自分が考えていた仕事内容と実際の業務にギャップがあると、社員の離職につながる場合があります。 厚生労働省の調査では、転職者の自己都合による離職理由のうち「満足のいく仕事内容でなかったから」という回答が男性で最も多く(28.4%)、女性も3番目に多いです(22.8%)。
<図>
仕事内容の不一致が生じるのは、採用活動に原因があるケースが考えられます。
企業としては、人材を確保したいために自社の魅力などポジティブな側面ばかりを説明しがちです。
一方で、求職者も条件面ばかりを重視してしまい、選考過程において仕事内容の詳細をよく確認しないことがあります。 このような場合、実際に入社して働いてみると、思っていた仕事内容と違うと感じてしまい、離職に至る可能性が高くなると考えられます。
労働時間や休日に対する不満
長時間労働や残業、休日に対する不満も離職の原因となります。
転職者の自己都合による離職理由のうち「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」という回答が女性で最も多く(28.1%)、男性も2番目に多いです(28.3%)。
<図>
また、産業別の休暇取得率と離職率の相関係数は-0.56であり、休暇取得率が低い産業ほど、離職率が高くなる傾向にあります。
<図>
出典:厚生労働省 休暇取得率等の影響について 労働市場分析レポート 第86号
長時間の労働や休みを取りにくい状況では、家庭や個人生活との調和が乱れ、徐々に不満がたまります。
プライベート時間の欠如により、離職を検討する場合もあるでしょう。
また、心身に負担をかけ、体調不良の原因になり、休職や退職へつながりやすくなると考えられます。
コミュニケーション課題によるストレス
転職者の自己都合による離職理由のうち「人間関係がうまくいかなかったから」という回答が女性で2番目に多く(25.4%)、男性も大きな割合(21.1%)を占めています。
<図>
出典:厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
別の調査では、回答者の91.4%が「仕事や職業生活に関するストレスについて相談できる相手がいる」ことが明らかになっています。
また、相談相手として「家族・友人」や「同僚」を挙げている人が多い一方、実際に相談した経験がある人は69.4%にとどまります。
これは、身近な人に相談する際、何らかのコミュニケーション課題や不安から相談に踏み切れていない可能性があります。
<図>
出典:厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
これらの課題が背景にある場合、そのままの状態で放置されてしまうと1人で抱え込みやすくなり、時間の経過とともにストレスが積み重なった結果、離職を決断する人も出てくると考えられます。
キャリア形成が見込めない
<図>
<図>
転職者の自己都合による離職理由のうち「会社の将来に不安を感じたから」という回答は、男女ともに大きな割合(男性:27.5%、女性:17.8%)を占めています。
また、一定の割合(男性:15.2%、女性:16.6%)で「いろいろな会社で経験を積みたいから」という回答も見られます。
不明確な人事評価制度や、行き届かない教育制度、社内で模範となる存在がいない環境では、社員が自身のキャリアビジョンを描きにくくなります。
「どうすれば評価されるのか」「どのようなスキルを磨けばいいのか」と感じる場合もあるでしょう。 そして、企業が十分なキャリアサポートを提供できなければ、他の場所でのキャリア形成を求めて離職してしまう可能性が高まります。
給与が低い
転職者の自己都合による離職理由のうち「賃金が低かったから」という回答が男女ともに高い割合(男性:25.3%・女性21.8%)で、離職理由の上位5位以内にあります。
この結果から、人事評価が適切に給与へ反映されなければ、仕事への情熱や献身を持続しにくくなることが推察されます。
たとえば長時間労働が続いていたとしても、労働内容に見合った給与が支払われている状況であれば、社員は一定以上のモチベーションを維持できる可能性もあります。
しかし、労働状況と給与のバランスが取れていない場合、結果としてモチベーションの低下や離職を考える社員も少なくありません。 このような背景が、現代の離職率の一因として挙げられるでしょう。
若手社員の離職理由と原因
ここからは、若手社員の離職理由として多いものとその原因について解説します。
若手社員の離職理由と原因については、ノルマや責任が重すぎる、自分の技能・能力が活かせていない、理想と現実のギャップなど、自分が考えていた社会人生活との差が大きいことによる「リアリティショック」からくるものがあります。
また、頻発するハラスメントなど、職場内における人間関係の問題も若手社員の離職につながりやすいです。さらに、企業に将来性が感じられないなど、自分のキャリアアップにつながらないと判断した際にも離職してしまうケースがあります。
ノルマや責任が重すぎる
厳しいノルマや、責任が重すぎる仕事が原因で離職を決断する若手社員も少なくありません。
<図>
若年層(16歳〜29歳)を対象にした就労に関する意識調査では、初めて就いた職業の離職理由について、回答者の19.1%が「ノルマや責任が重すぎたため」と回答しています。
特に新入社員の場合、初めての仕事で業務に慣れるまでに時間のかかるケースも多くあります。このような状況で、いきなり過度なノルマや厳しい目標を設定してしまい、適切なフォローやサポートが不足していると、その重責に耐えきれず離職を選択する可能性が高まります。
特に、営業職や成果がダイレクトに求められる職種では、ノルマがはっきりしているため新入社員はプレッシャーを感じやすいといわれています。企業には、新入社員の現状や能力を考慮し、成長を促すための適切なノルマ設定が求められます。
自分の技能・能力が活かせていない
同様の意識調査では、回答者の15.5%が離職の理由を「自分の技能・能力が活かせなかったため」だと回答しました。
新入社員が業務の具体的なイメージを持つのは難しく、入社前に思い描いていた業務内容とのギャップを感じるケースも少なくありません。自分のスキルや能力をアピールして入社したのに、それを活かせない業務に就かされると、モチベーションが低下し、離職を考えてしまうこともあると考えられます。
現実と理想とのギャップ
特に新入社員は、インターンシップや内定後の懇親会での会社の雰囲気と、実際の入社後の雰囲気にギャップを感じると、離職を考えることがあります。この現象を「リアリティショック」といいます。
採用活動において自社の良い点だけをアピールする偏ったブランディングや、十分な情報提供がなされていない場合にこのような現象が起こりやすくなります。入社前と入社後のイメージの乖離が大きくなれば、離職率も上昇してしまうでしょう。
そのため、採用活動の際には、自社の業務内容をきちんと理解してもらうことを心がけましょう。インターンシップなどの体験入社の機会を設け、職場の雰囲気を実際に体感させることも、ギャップを埋める方法の1つです。
ハラスメントが頻発している
近年、パワハラやセクハラのみならず、モラハラなど多様なハラスメント問題が取り沙汰されています。職場でのハラスメントが頻繁に発生すると、離職率が上昇する傾向にあります。
実際に若手社員がハラスメントを受けてしまい、人事や上司への訴えが適切に対処されなければ、多くの場合で離職を選択されてしまうでしょう。
さらに、ハラスメントの被害者がいることを知りながら、同僚や周囲が適切な対応を取らない場合、職場環境の崩壊にもつながります。
ハラスメントは、企業の外部評価にも影響をおよぼす深刻な問題です。一度誤った対応をすると、それは重大なトラブルへとつながる可能性もあるため、企業は厳格にコンプライアンスを遵守し、毅然とした対応をする必要があります。
勤務先に将来性がないと判断した
終身雇用制度が徐々に崩れつつある現在、生活の安定や自己のキャリア形成を重視する若手社員が増えています。
意識調査の結果、転職に否定的な項目を選択した回答者は17.3%にとどまり、2割に満たないことが明らかになっています。
<図>
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同意識調査では、より良い仕事に就くために就職後も学び続けることを希望しているかどうかについて、「条件が整えば、希望する」と回答した割合が53.2%と最も高く、「希望する」(24.3%)とあわせると7割以上にもなります。
近年の情勢から、自身の成長を強く望む者が多く、将来困らないようにするために必要なスキルを積極的に身につけたい若手社員が多くなっている様子が伺えます。
就職先や事業内容に将来性が感じられない場合、転職市場での優位性を活かして、将来性を感じられる企業への転職を決意する可能性が高くなるといえるでしょう。
離職の原因と新時代の働き方
離職の原因はさまざまです。最近よく見られる離職原因として挙げられる傾向に、ワークライフバランスの重視をはじめとした働き方に対する価値観の変化が挙げられます。
また、早期にキャリアチェンジできる機会が増加していることに加え、定年制と終身雇用が崩れているなど、働き方そのものに変化が生じていることも背景にあるでしょう。
ここからは、若者の離職原因と関連させながら、働き方に対する意識の変化や、その背景について解説します。
ワークライフバランスの変化
かつては、プライベートよりも仕事を優先する働き方が一般的でしたが、「ブラック企業」や「過労」に関する問題の浮上を背景に、働き方に対する考え方が変わりつつあります。
その変化を象徴するのが、ワークライフバランスを重視する若者の増加です。
若年層を対象にした就労に関する意識調査では、「仕事よりも家庭・プライベート(私生活)を優先する」の回答者が63.7%にものぼり、過去6年間で10.8%も増加しています。
<図>
出典:内閣府 就労等に関する若者の意識
これは、働く若者が仕事だけでなく、自身の生活の質や幸福にも注力し、ワークライフバランスを重要視する新たな価値観が形成されていることを示唆していると考えられます。
リモートワークであることが逆効果になるケースも
コロナ禍対策から広まったリモートワークは、時間や場所の調整ができる働き方としてメリットにフォーカスされがちですが、逆効果になるケースもあります。
すでに、大学生活をほとんどリモートで過ごした学生の中には、就職先では人とのふれあいを希望している人もいます。
そのため、新卒採用の面接時に、リモートワークをアピールされると、ワークライフバランスが整うメリットを歓迎するより、リアルな環境で人と仕事できないデメリットを強く感じてしまう学生もいるでしょう。
また、テレワークは退社時間がないため、プライベートと仕事の境界があいまいになり、働きすぎになる可能性もあります。メールやチャットでのやり取りが多く、上司との直接のコミュニケーションが取りにくい状況になるため、上司が労働者の心身の不調に気づきにくくなることも注意が必要です。
新世代の価値観の変化
Z世代とも呼ばれる若手社員の多くは、従来の仕事に対する価値観とは異なる価値観を持っているといわれています。
かつては「仕事=人生」と考え、会社や組織に献身的に尽くすことがいいことだと考えられていた時代もありました。
しかし、前述の通り若手社員は仕事よりもプライベートの充実に関心が高い傾向にあり、長時間労働や残業を嫌う人もいると考えられます。
また、終身雇用制度が崩れつつあるなかで、「必ずしも会社は自分を守ってくれるわけではない」と考え、自身の人生やキャリアを重視する人たちも見られるようになりました。
そのような新しい世代ならではの価値観が、退職の原因にも影響を与えています。
早期のキャリアチェンジの機会の増加
Z世代の若手社員は、自身のキャリア形成に対して高い意識を持っています。
その背景には、多様なキャリアの選択肢や取得できる情報が増えている点が挙げられます。
新世代以前の社員が、主に職探しに利用していたのは求人情報誌や新聞の求人欄で、定期的に発行されるこれらの印刷物で求人を探す、もしくは職業安定所に頼るのみでした。
一方で、現代の若手社員はオンライン上でいつでも求人情報にアクセスできます。
また、写真だけでなく動画で職場の雰囲気が確認でき、どのような会社かがすぐにイメージできるようになりました。転職時に便利なサービスの増加などによって、離職に対するハードルが低くなっていると考えられます。
定年制と終身雇用の崩壊
かつては、就職すれば定年まで勤めるのが一般的な考え方で、社員は会社によって守られているという意識が強くありました。
現代の若手社員には、「会社が自分を守ってくれる」という意識がほとんどありません。その一方で、自分自身のキャリア形成によって、社会で通用するように成長したいと考える傾向が高まっています。
また、近年は転職に対するイメージも変化し、キャリアアップのために必要なものとして捉えられるようになりました。
離職を考えている社員の特徴
離職しそうな社員の特徴を理解することは、企業にとってとても重要です。離職しそうな社員の特徴としては、以下が挙げられます。
- モチベーションの低下
- コミュニケーションが希薄になる
- 急な休暇や早退を繰り返す
モチベーションの低下によるミスが目立つと、社員が社内で孤立する場合があります。また、コミュニケーション不足や急な休暇や早退は、心身の健康を損なっていたり転職活動をおこなっている可能性も考えられます。
モチベーションの低下
モチベーションの低下は個人や環境によって異なりますが、主に次のような要因が考えられます。
- 仕事への興味の喪失
- 過度なストレス
- 成長機会の不足 など
たとえば、社員は単調な業務しか任されなかったり、仕事で挑戦の機会を与えられなかったりすると、成長できないと感じて仕事への興味を失ってしまう可能性が考えられます。
また、長時間労働が常態化していたり、給与が低いなどの労働条件に不満がある場合は、それがストレスとなってモチベーション低下につながる恐れがあります。
また、組織が成長機会を提供せず、スキルや経験の向上が見込めない場合にも成長機会の不足を感じてモチベーションの低下に繋がる可能性があります。
モチベーションが低下すると、仕事への集中力も低下し、些細なことでミスが増えたり、注意したことに対して改善が見られないなど、今までとは異なるサインが見られるようになります。
コミュニケーションが気薄になる
コミュニケーションの不足は、社員同士の協力が難しくなったり、うまく情報共有がおこなわれなくなるといった悪影響をおよぼします。
コミュニケーション不足の要因はさまざまですが、以下のような要因が考えられます。
- 社員が孤立を感じている
- 職場内での心理的安全性が確保されていない
- コミュニケーションを活性化する制度が整っていない など
社員がミスをしたとき、上司がきちんとフォローしていないとその社員は孤立を感じることがあります。また、少しのミスも許されないような緊迫した職場環境では、社員の心理的安全性が確保できず、コミュニケーション不足を招いてしまう可能性があります。
また、オンボーディングプログラムやメンター制度など、コミュニケーションを活性化する制度や仕組みが整っていないこともコミュニケーションが希薄になる要因です。
コミュニケーションが希薄になると、あいさつや雑談が減ったり明らかに元気がなかったりするなど、心身の健康を損なう可能性があります。
企業は社員の様子に気を配り、社員が円滑な関係性を構築できるように効果的なコミュニケーションを促進し、職場環境を整えることが大切です。
急な休暇や早退を繰り返す
社員が急な休暇や早退を繰り返すのは、主に以下の理由が考えられます。
- 精神的・肉体的な体調不良
- 仕事への不満や興味の減少
- 転職活動をおこなっている など
ストレスや過労によって体調を崩し、急な休暇や早退につながることがあります。仕事で失敗したことや不安に思ったことがきっかけになり、うつやパニック障害などの精神的な体調不良を引き起こすケースもあります。
また、労働条件や職場環境に不満を持ったまま働き続けたり、ネガティブな気持ちを持ったままで仕事を続けていると、仕事への興味を失って仕事に行きたくなくなり、急に休暇を取ったり、早退したりを繰り返すこともあります。
また、新たなキャリアやライフスタイルへの移行を検討する中で転職活動をおこなっているケースも考えられるでしょう。
企業は社員の急な休暇や早退を減らすために、対策を取ることが大切です。個々にヒアリングを実施したり、企業ができる改善点を聞くことで社員の健康と幸福をサポートし、ワークライフバランスを促進する取り組みをおこなうことで、離職防止につながる可能性が高まるでしょう。
早期離職を防ぐ8つの対策
社員の早期離職は、企業にとって労働力の安定性に影響をおよぼし、採用のためのコストを増加させる可能性があります。ここでは、早期離職を防ぐための8つの対策を解説します。
- 適切なオンボーディングプログラム
- メンター制度の導入
- 定期的なフィードバック
- キャリアパスの明確化
- 労働環境の改善
- 職場のコミュニケーションの活性化
- 多様な研修・教育制度の提供
- 成果主義の導入
早期離職を防ぐためには、離職する人を引き留めるなどの場当たり的な対策ではなく、離職を防ぐ仕組みを制度として導入することが大切です。
たとえば、オンボーディングプログラムややメンター制度、定期的なフィードバックなどを組織として取り入れることで、離職率低下が期待できます。
適切なオンボーディングプログラム
オンボーディングプログラムは、新入社員など、企業や組織に新たに入ってきたメンバーを教育・育成するための制度です。
新しいメンバーが組織に順応し、即戦力とすることを目的としています。適切なオンボーディングプログラムの実施は、離職低下に寄与すると考えられています。
オンボーディングプログラムとは
オンボーディングプログラム(Onboarding Program)は、新卒や中途採用人材が配属され、定着し戦力になるまでを組織として支援する仕組みのことです。
オンボーディングプログラムの内容は「会社の歴史や文化の理解」「仕事に対するトレーニング」「企業内のプロセスや手順の理解」「社内ツールとシステムの学習」「キャリア開発」などが挙げられます。
企業について理解を増やしてもらうことで新入社員が組織に適応し、即戦力化するのを組織として支援します。それによって、離職率を低下させるのにも役立ちます。
オンボーディングプログラムを導入するメリット
オンボーディングプログラムは、主に「新入社員の早期離職を防げる」「社員の即戦力化を図れる」という2つのメリットがあります。
厚生労働省の統計によれば、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で37.0%、新規大卒就職者で32.3%となっています。この離職率は、全業界の離職率である15.0%と比較しても2倍以上の水準です。
新入社員にとって、業務に慣れるまでは「仕事の進め方がわからない」というストレスを感じやすいです。これが、新入社員の早期離職率が高い一因になっているとも考えられます。そのため、オンボーディングを導入して新入社員が馴染みやすい環境を整備することで、新入社員の早期離職を防ぐ効果が期待できます。
さらに、オンボーディングプログラムを通して早期に新入社員の即戦力化を図ることで、組織の生産性の向上や人材不足の解消にもつながります。
出典:厚生労働省 「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
メンター制度の導入
メンターと呼ばれる、仕事の悩みを相談できる社員をつけることで、新入社員の不安を取り除くことが期待されるメンター制度も、離職対策として挙げられます。
ただし、メンターになる社員を選定する際には、向き不向きがあるため、注意が必要となります。
メンター制度とは
メンター制度とは、比較的入社年や年齢の近いメンター役の先輩社員をつけ、新入社員と定期的に面談をおこなう人材育成の方法です。
メンター制度は、新入社員が早期に組織に適応し、新入社員の離職を防ぐ効果や、社員同士のコミュニケーションを円滑におこなう効果が期待できます。
メンター制度の特徴と留意点
メンター制度の特徴は、先輩社員から後輩社員へ制度が受け継がれていく点です。新入社員がメンターの指導を受け、その後自らがメンターとなり次世代の新入社員を指導することで、いわゆる「メンタリングチェーン」が形成されます。
このチェーンは部署を超えた人間関係の構築に寄与し、組織全体のコミュニケーションを活性化します。
また、メンターになった社員は、自分が新入社員に見られているという意識から、仕事に対する責任感を持ち、自主的に仕事に取り組むようになります。これはメンターにとってもキャリア形成のきっかけとなり、またメンターとメンティー双方の成長を促す効果があります。
さらに、メンター制度の存在により、社員間での相談がしやすくなり、会社への居心地が向上します。これは結果として離職率の低下につながる可能性があります。
一方で、メンター制度を導入する際の留意点として、メンター社員の業務負荷の増加が考えられます。メンター社員は日常業務のかたわらでメンティーの面倒を見る必要があるため、その業務負荷が高くなる可能性があります。
また、業務を一緒におこなう先輩社員をメンターにすると、メンティーが今後の仕事に支障が出ることを懸念し、相談しにくくなる可能性があります。
そのためメンターになる人の選任には、直接業務とは関係のない社員から選ぶなどの工夫が必要です。
定期的なフィードバック
定期的なフィードバックを通じて、コミュニケーションを取りながら成長を促すことも重要です。
若手社員に対するフィードバックの際には、ネガティブな内容は最小限に抑え、ポジティブな内容になるよう注意しましょう。
自身の成長や、会社や身近な先輩社員から認められている実感がエンゲージメントを高め、離職防止につながります。フィードバック時に、要点をコンパクトに伝えるようにすると、より効果を得られます。
情報量が多すぎてしまうと若手社員の理解に時間がかかるため、迅速なアクションにつながりにくくなります。「これならすぐにできそうだ」という気持ちになり、素早くアクションに移せるような伝え方を目指しましょう。
サーベイを活用すると職場環境に対する社員の意見も収集できる
社員に対するフィードバックだけでなく、社員からの意見収集をおこなうことで、会社や職場環境の課題を発見し、改善しやすくなります。
その方法として活用できるのが「サーベイ」です。
サーベイは社員の抱えている悩みや課題を、リアルタイムに把握できる調査方法です。早期に課題を発見し、適切な対応策を講じることで社員のモチベーションのアップが期待でき、離職防止にも効果があります。
また、定期的に社員の意見を集め、改善策に落とし込んでいくことで、社員の会社に対する信頼度も高まるでしょう。
キャリアパスの明確化
若手社員の中には、入社前に現実よりも労働条件が良い仕事内容やキャリアの展望を期待してくる人がいます。
これが現実とのギャップとなって早期離職の一因となります。キャリアパスを明確にすることで、社員は自身の将来に対する明確なビジョンを持つことができ、期待と現実のギャップを縮められます。
「目指す役職や職務に就くためにはどうすればいいか」を明確にし、若手社員にとっての将来のビジョンを提供することで、離職の予防につながります。
また、将来のキャリア展望を明確に示すことで、自分の目標を設定しやすくなり、仕事に対するモチベーションが向上します。また、ロールモデルを提示することで、目指すべき働き方をイメージしやすくなり、モチベーションを保ちやすくなります。
労働環境の改善
早期離職を防ぐために、労働環境の改善をすることも重要です。
具体的には、次の項目を見直すことで離職率の低下が期待できます。
- 労働時間の短縮
- 給与の見直し
- 福利厚生の提供
長時間労働は離職の大きな要因の1つです。
長時間労働は心身の健康を壊す可能性も含んでいるため、業務の効率化によって改善することが大切です。業務の自動化ツールや管理ツールなどを導入すれば、労働時間を短縮して社員にかかるストレスを減らすことが期待できます。
また、業務内容に見合わない給与体系の改善、手当の充実や休暇制度など福利厚生の充実も効果的です。ライフワークバランスを重視した労働環境の整備をおこなえば、離職率の低下が期待できます。
職場のコミュニケーションの活性化
コミュニケーション機会の減少は、人間関係の悪化に発展しやすく、ストレスから離職につながります。
職場のコミュニケーションを活性化し、誰もが話しやすい環境を作って、人間関係の悪化を防ぐことがポイントです。
社員が自由に意見を表明し、提案をおこなえる定期ミーティングを提供し、組織の目標や進捗状況を理解しやすくします。
コミュニケーションスキルのトレーニングや社交的なイベントを通じて、社員同士のつながりを強化し、フィードバックプロセスを導入して成長とモチベーションを促進します。
職場のコミュニケーションの活性化は、離職率を低下させ、組織全体の健全な成長に寄与します。
多様な研修・教育制度の提供
研修制度や教育制度の整備、多様なスキルが学べる機会の提供は、モチベーションアップにつながる重要なポイントです。
モチベーションが上がれば仕事にやりがいを感じやすくなり、離職防止にもつながります。
そのためにも、社内研修と社外研修は欠かせません。研修は社員のスキル向上、モチベーション向上、キャリア成長を促進し、組織との長期的な連携を強化します。
社内研修、社外研修のどちらもスキルアップやキャリアアップにつながるため、就職してからも勉強を続けたい若手社員にとっては、働き続けるメリットにもなりえるでしょう。
成果主義の導入
成果主義とは、社員の仕事の成果や実力などに応じて待遇を決定する人事制度です。
成果主義は経験は関係なく、業績をあげれば評価される仕組みであるため社員は自身の業績に対する責任感を高め、目標達成に向けて努力しやすくなります。その結果、年功序列制度では頑張っても評価されないと感じていた若手社員のモチベーション向上が期待できます。
一方で、成果主義では個人の成果によって待遇が決定されるため、組織として成果をあげる意識が低下する可能性があります。
その結果、コミュニケーションが希薄化し、かえって離職率が上がることもあります。このデメリットを補うために、過度な成果主義の導入は避ける、コミュニケーションを活発化する制度の導入をセットでおこなうなどの対策が必要です。
まとめ
離職を防ぐためには離職の原因を理解し、原因に応じた対策を打つことが大切です。
離職の主な原因は社員の年齢や時代の変化によっても移り変わるため、社員のリアルタイムの声を聞き、職場にどのような課題があるのかを洗い出していくことが求められます。
また社員が離職する原因は通常1つではなく、さまざまなものが重なるため複合的な離職防止策を考えるようにしましょう。社員の生の意見を集めて適切な離職防止策を講じるためにも、サーベイツールの活用をおすすめします。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。