労働生産性は、企業の業績に関わる重要な指標です。労働生産性の数値を把握し向上に努めることで、企業はより効率的に成長できます。では、労働生産性を高めるために企業は何をすれば良いのでしょうか。世界と比較した日本の労働生産性の現状や課題、企業が取り組むべき対策をご紹介します。
■労働生産性とは
生産活動において重要といわれる「労働生産性」とはどのようなものでしょうか。また、どのような種類があり、どのような指標として使われるものなのでしょうか。確認していきましょう。
●労働生産性とは
労働生産性とは、労働がどれほど効率的に行なわれているかを表す指標です。労働生産性が高ければ高いほど、労働者が効率的に成果を生み出しているといえます。
●労働生産性の種類
労働生産性には、「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類があります。
〇物的労働生産性
「物的労働生産性」は、1人が生産できるモノの量を表すものです。1人あたりの物的労働生産性は、生産量を労働者数で割ることで求められます。1時間あたりの物的労働生産性を知りたいときは、労働者数と労働時間を掛けた値で生産量を割ります。
「物的労働生産性」は、生産効率や生産能力がどのように推移しているのかを確認するときに使える指標です。しかし、商品の品質が反映できない、個数で数えられない成果を生み出している企業では生産性を測れない、といったデメリットがあります。
〇付加価値労働生産性
一方「付加価値労働生産性」は、生産活動の成果をモノの量ではなく、金額で評価した付加価値額を使って算出するものです。付加価値額は生産した商品やサービスの販売額から、生産するために投入した原材料や資源、設備、サービスなどの購入額を引いた金額です。1人あたりの付加価値労働生産性は、付加価値額を労働者数で割ることで求められます。1時間あたりの付加価値労働生産性を求めるときは、労働者数と労働時間を掛けた値で付加価値額を割ります。
「付加価値労働生産性」を用いると、種類の異なる生産活動の成果を同じ基準で表せるため、異なる業種間の労働生産性の比較が可能です。さらに商品やサービスの品質が販売価格に反映されることから、付加価値労働生産性の値はクオリティーを考慮したものといえます。
「物的労働生産性」は“生産量”を対象とする指標であるため製造業などの生産性を測るのに向き、「付加価値労働生産性」は生産量では把握できない“付加価値”を対象とする指標であるためサービス業などの生産性の測定に向くといえます。公的な統計などでは「付加価値労働生産性」が利用されることが多いようです。自社に適切な指標を用いて労働生産性を確認しましょう。
■日本の労働生産性の現状
労働生産性がどのような指標かわかったところで次に世界各国と比べた日本の労働生産性や、日本の業界・業種ごとの労働生産性を見てみましょう。
●【国際比較】世界の労働生産性について
まずは、日本の労働生産性が世界と比べてどのような位置にいるのかを確認します。公益財団法人日本生産性本部が発表した労働生産性の国際比較によると、2017年における時間あたり付加価値労働生産性は、OECD加盟国の平均が53.5ドル、日本は47.5ドル。日本の生産性はOECD加盟国36カ国のなかにおいて平均以下であり、順位としては17位でした。
付加価値労働生産性が高い国々は、短い労働時間で効率的に成果を出しているのが特徴です。日本は長時間労働が多い勤務スタイルを取りがちなので、時間あたりの労働生産性は低くなる傾向にあります。
●【国内比較】日本の労働生産性について
次に、日本国内の業種ごとの労働生産性を確認しましょう。異なる業種間で比較するため、1人あたりの付加価値労働生産性を表記します。
先にご紹介したように「労働者1人あたりの労働生産性」は、生産した商品やサービスの販売額から生産するために投入した原材料や資源、設備、サービスなどの購入額を引いて算出した「付加価値額」を、労働者の数で割って求めます。したがって、販売額に対して設備の減価償却費、人件費などの占める割合が高い場合は、付加価値額が押し下げられるために生産性の低下を招きます。また、生産性算出の分母となる労働者の人数が多ければ、1人あたりの生産性も低くなります。
総務省統計局の調査によると、労働生産性が高い業種は、上から順に情報通信業(909万円)、学術研究、専門・技術サービス業(786万円)、卸売業(747万円)です。これらの業種は必ずしも大規模な固定資産などを要せず、さらに少ない人員で効率的に成果を生み出せるので付加価値額が高い業種といえます。
一方で労働生産性が低い業種は、飲食サービス業(165万円)、生活関連サービス業(244万円)、宿泊業(256万円)です。いずれも、店舗などの固定資産や設備投資が必要です。
さらにサービス業はサービスの消費と提供が同時に行われるため、在庫を持てる製造業などと異なり労働者を常に稼働状態で確保しなければならず、多くの人員を必要とする労働集約型ビジネスになりやすい傾向にあります。したがって減価償却費や人件費によって付加価値額が抑えられ、さらに労働者の人数そのものも多いため、一人あたりの労働生産性が低くなりやすいのです。
最も高い情報通信業と最も低い飲食サービス業を比較すると、1人あたりの付加価値労働生産性は700万円以上の差があります。この差は各業種のビジネスモデルの特性から生ずる面もあるため、単純に労働生産性の高い企業を真似するだけでは、自社の労働生産性を向上させることは難しいかもしれません。
そこで、まずは自社の課題を把握してみましょう。次に国内全体の生産性についての課題を紹介しますので、自社に該当するものがないか確認してみてください。
■日本の労働生産性の課題
現在の日本には、労働生産性の向上を妨げるさまざまな要因があります。それぞれ見ていきましょう。
●日本の労働生産性の課題
日本の産業が抱える課題を一つ一つ考えてみましょう。
〇人手不足
日本の労働生産性の課題として深刻なのが人手不足です。少子高齢化による労働力人口の減少は、今後ますます顕著になります。一人一人が効率的に成果を出せるようにならなければ、労働力人口が減った分だけ会社の成長は阻害されてしまいます。そのため労働生産性を高めて、避けられない人手不足に備える必要があります。
〇ワークライフバランス
ワークライフバランスも労働生産性の課題です。従来の日本の会社では、長時間労働や年次有給休暇の未取得があたり前となっていました。プライベートを犠牲にして働かなければならないことが多く、ワークライフバランスが整っているとは決していえない労働環境だったのです。しかし、長く働けばそれだけ高い成果を出せるとは限らないということは、日本の労働生産性の低さが証明しています。実際に労働生産性が高い国では、長時間労働しなければ成果を出せない従業員の人事評価は低くなるのが基本です。
近年では日本でも、労働生産性を向上させるためにワークライフバランスが重要だと考えられています。独立行政法人 労働政策研究・研究機構が実施した「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査」では、今後、年間総実労働時間を短縮していくと回答した企業は約半数の47.5%でした。
〇人事評価制度
日本独自の人事評価制度も労働生産性の向上を妨げている原因の1つです。公益財団法人日本生産性本部の「第 15 回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」によると、自社の労働生産性が低いと感じている企業ほど、実は長時間労働によって成果を出した従業員を高く評価しがちという結果が発表されています。一方、労働生産性が高い企業は労働時間と人事評価は関係ないと考える傾向にあります。勤務時間の長さで評価を行うような人事評価制度の存在が、労働生産性の向上を阻害しているといえます。
「ワークライフバランス」や「人事評価制度」については、社内制度の整備で改善の可能性がありそうです。「人手不足」についても、労働力人口の減少のなかでも、人事制度の工夫次第で自社に人を呼び込み、定着させる仕組みづくりができるはずです。次の項目では、制度づくりの勘どころと、制度の実例をご紹介します。
■日本の労働生産性の対策
企業が自社の労働生産性を高めるためには、どのような対策を取れば良いのでしょうか。ここからは、労働生産性の向上を妨げている課題を解決するために有効な対策と企業における対策事例を見ていきましょう。
●日本の労働生産性の対策
働き方を工夫し、生産性を増加させたり、付加価値を創り出したりしている企業の対策をご紹介します。
〇従業員満足度の向上
まず企業が考えるべきは、従業員満足度の向上です。従業員が満足して働ける環境を整えることで士気が高まり、労働生産性の向上につながります。例えば、次のような対策が、従業員満足度が上がって労働生産性を高める効果が期待できます。
- 業務に対する従業員の意見を吸い上げて反映させる
- モチベーション向上のための研修や福利厚生を充実させる
〇長時間労働対策
長時間労働対策も労働生産性を高めるうえで重要です。労働時間を長くしてもそれに見合った成果を出せなければ、労働生産性は高くなりません。実際に、週あたりの労働時間が50時間を超えると労働生産性が大幅に低下するなど、長時間労働が労働生産性を低下させているという報告もあります。
少ない労働時間でより高い成果を出し、長時間労働を是正する対策を取ることが必要です。具体的に有効な対策としては、次のようなものが挙げられます。
- 残業時間の見える化
- ノー残業デーの設定
残業時間を明確にして頻繁に残業している社員と面談したり、ノー残業デー(残業しない日)を設けて勤務時間を有限にしたりすることで、長時間労働の改善効果が期待できます。
〇人事評価制度の改善
従来の人事評価制度を改めることも労働生産性を高める有効な対策です。長時間労働をして成果を出している従業員を評価する制度を撤廃し、個人の労働生産性を評価する新しい制度を導入することで、企業全体の労働生産性向上につながります。
厚生労働省が人事評価改善等助成金によって刷新を促していることからも、人事評価制度の改善は労働生産性の向上に有効な対策であることがわかります。
個人の労働生産性を評価する例として挙げられるのが、成果だけではなく勤務時間もあわせて確認する方法です。長時間労働によって成果を出している従業員ではなく、長時間労働をせずに成果を出している従業員に注目することで、労働生産性を正しく評価する人事評価制度に変えられます。
〇多様な働き方の導入
さまざまな働き方を導入することも、労働生産性を高める対策の1つです。近年では働き方改革に伴い、朝型勤務やフレックスタイム制といった柔軟な働き方を導入する動きが活発化しています。さまざまな働き方を認めることで、社員それぞれが効率の良い働き方を選択し、労働生産性の向上につながります。
- 朝型勤務
夜遅い時間まで残業することを禁止し、朝早く出勤して定時に仕事を終了する勤務形態です。導入している企業によっては、定時後の残業代と同様に朝型勤務にも手当をつけることがあります。 - フレックスタイム制
従業員が自ら始業・終業時刻を決めて働ける制度のことです。決められた時間分勤務すれば開始と終了の時刻は自由に決められるため、効率的に時間を使って労働生産性を高められます。
労働生産性を高めて効率よく成果を出しましょう
従業員の労働生産性を高めることで、企業はより効率的に業績を上げられます。企業には、長時間労働の是正や柔軟な働き方の導入など、限られた時間で従業員が成果を出せるような労働環境を整えていくことが求められます。既に成果を出している企業の事例を参考に有効な対策を取り、労働生産性を高めましょう。