従業員のエンゲージメントの低下や企業イメージの悪化など、さまざまな悪影響を及ぼすパワハラ被害。その検知は非常に難しいため、知らず知らずのうちに問題が発生しているケースも多々あります。
そうしてパワハラが発覚した頃には、被害者の心身に大きな負担がかかっていたり、訴訟に発展したりする可能性も考えられるので注意が必要です。
あなたの会社にも、実は被害に悩まされている従業員がいるかもしれません。
今回は、パワハラ検知のために企業ができることを具体的にご紹介します。
こんなにも身近!3人に1人がパワハラを受けていると感じている
- パワハラ被害経験者はめずらしくない
厚生労働省の調査結果によると、3人に1人が「過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがある」と回答しています。
また、厚生労働省の労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2017年には7万件以上にも上っています。パワハラは、誰にとっても身近な問題なのです。
参照:
政府広報オンライン「NO パワハラ なくそう、職場のパワーハラスメント」
- パワハラの定義や行動類型とは?
職場のパワハラを見逃さないためには、パワハラの定義や行動類型を知っておく必要があります。
(1)パワハラの定義
厚生労働省では「職場におけるパワーハラスメント」の定義を、次の3つの要素を全て満たすものと定義付けています。
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③就業環境が害されるもの
参照:
この場合の優越的な関係とは、役職や雇用形態を問わず、仕事をするうえで抵抗したり逆らったりするのが困難な関係のことです。
そうした関係のもと、その言動が仕事の範囲を超え、業務に悪影響を及ぼす場合にはパワハラとして判断されます。
(2)典型的なパワハラ行為
以下の6つの類型が、典型的なパワハラの例として挙げられています。
①身体的な攻撃(殴打や足蹴り、物を投げつけるなど)
②精神的な攻撃(人格を否定するような言動、必要以上の叱責など)
③人間関係の切り離し(無視や仲間外れ、隔離など)
④過大な要求(遂行不可能なことの強制、私的な雑用の押し付けなど)
⑤過小な要求(嫌がらせのために容易な仕事を命じる、仕事を与えないなど)
⑥個の侵害(職場外での監視、本人の了解がないままの個人情報の暴露など)
ただし、これらは典型例にすぎないため、個別の事案の状況によって判断が異なります。
また、この類型に当てはまらなくてもパワハラに該当することもあります。
なぜパワハラが起こってしまうのか?
- パワハラが発生する3つの原因
こうしたパワハラ行為は、なぜ職場で発生してしまうのでしょうか。
主な原因としては以下の3つが考えられます。
パワハラ発生の背景を理解することで、適切な対策につなげましょう。
(1)コミュニケーション不足
コミュニケーション不足によって、行為者が被害者との価値観の相違をうまく認識できていない場合、パワハラが起こりやすくなります。
十分なコミュニケーションが取れていなければ、受け手がどのような振る舞いを嫌だと感じるのかを理解しないまま接することになるため、パワハラにつながりやすくなるのです。
また、たとえ同じ言動であっても、その関係性によって受け取り方は変わるものです。
コミュニケーションを重ねて信頼関係を築いた間柄であれば、一見するとパワハラのような言動があったとしても、受け手がダメージを感じない場合もあります。
もちろん、パワハラと受け取られかねない言動は慎むべきですが、相手との関係性によってその印象が大きく変わることを意識しておくと良いでしょう。
(2)加害者側の「強者」としての認識不足
人間関係においては、社歴や職歴、年齢、スキルなどによって優位性が生まれ、強者側は加害者になる可能性が高くなります。
従業員一人ひとりが自らの優位性を理解し、自分の行為が誰かを傷つけるものになっていないかを意識する必要があります。
多くのパワハラ加害者は無意識のうちにその行為に及んでいるため、指摘されるまで気がつかないということもめずらしくありません。
(3)加害者側が持つ「被害者意識」
加害者側が確信的にパワハラを行っているケースもあります。
部下などに対して「足を引っ張られている」「迷惑をかけられている」といった被害者意識が募り、パワハラに至るというパターンです。
そうした場合、加害者側の指示やフォロー、周囲のサポートなどに問題が見られる可能性もあります。
パワハラを見つけにくいのはなぜなのか
- 「まさかこの人が?」という人のパワハラは発見が困難
パワハラの検知が難しい理由の一つに「まさかこの人がパワハラをするはずがない」という周囲の共通認識がある人が、加害者となっているケースが多いことがあります。
高い地位にある人や社内で高評価を受けている人などが、無自覚のうちにパワハラを行っていることもあるため、本人も周囲も気がつきにくいという状況があるのです。
パワハラをする人には、以下のような性格の傾向が見られます。
その特徴を掴むことで、本人の自覚を促すとともに、パワハラの早期発見につなげましょう。
(1)自己中心タイプ
他人の気持ちや考えを気にせず、自分の価値観やルールを押し付けがちなタイプです。
このタイプの人は、社内においては「リーダーシップがある」と高く評価されているケースも多く、場合によっては会社側がパワハラを助長していることもあります。
(2)完璧主義タイプ
完璧主義ゆえに、その仕事ぶりが社内で高評価を受けていることが多いタイプです。
しかしその分、他人への評価が厳しくなりがちで柔軟性に欠けるため、その言動がパワハラに発展することがあります。
(3)根性論タイプ
「頑張ればできるはず」「できないのは努力が足りないから」という価値観で物事を判断するため、相手に対して無茶な業務や目標を押し付けがちなタイプです。
こうした行為はパワハラの行為類型の「過大な要求」に該当することもあるため、注意しなければなりません。
(4)自己保身タイプ
自分のせいで相手が失敗をした場合にも、落ち度を認められないタイプです。
そればかりか、自分の失敗を他人のせいにしたり、他人の手柄を横取りしたりすることも。
このように自己保身の傾向が強い人は、パワハラをしやすい傾向があります。
(5)視野狭窄タイプ
視野が狭く、自分の考えに固執しやすいので、相手の意見を聞こうとしないタイプです。
そのため他人と衝突しやすく、特に、自分より弱い立場の人には強い態度に出ることがあります。
(6)朝令暮改タイプ
急な方針転換などをして周囲を振り回しやすいタイプです。
弱い立場の人が反論すると「私の方針に歯向かうな」と攻撃対象にして、パワハラに至ることがあります。
(7)他力本願タイプ
「あなたがスキルアップするために必要だから」といった身勝手な言い訳をして、自分が望まない仕事を他人に押し付けるタイプです。
特定の部下にばかり面倒な仕事を押し付けることは、パワハラに該当する可能性があります。
パワハラを検知するための具体的な方法
- パワハラ予防につとめることが、検知力アップにつながる
社内のパワハラを早期発見するためには、パワハラの予防対策を充実させることが効果的です。
従業員一人ひとりがパワハラへの意識を高め予防に努める中で、社内のパワハラ検知力がアップするからです。
パワハラ検知のためには、以下のような手段が有効になります。
(1)トップのメッセージ
まずは組織のトップが、パワハラは全従業員が取り組むべき重要な課題であることを示す必要があります。
つまり「本気でパワハラをなくす」という決意を見せることが重要なのです。
パワハラを防ぐべき理由を的確に示すことで、従業員一人ひとりが当事者意識を持ち、検知と予防に目を向けられるようになります。
(2)社内ルールの設定
社内ルールを設け、就業規則などにもパワハラに関する規定を記載しましょう。
罰則の適用条件や処分内容、相談者の不利益な取り扱いの禁止など、できるだけわかりやすく具体的なガイドラインを策定します。
(3)アンケートによる実態調査
従業員アンケートによって、社内のパワハラの実態を把握します。
正確な事実を知るためには、アンケートの対象者が偏らないよう配慮するとともに、率直な回答が可能になるよう匿名で実施すると良いでしょう。
会社によって集計されるアンケートの場合は、従業員が回答をしにくくなる傾向があるため、EAP(従業員支援プログラム)や弁護士、社会保険労務士といった外部に依頼することも有効です。
(4)定期的な研修
パワハラ防止のための研修を定期的に行いましょう。
「何をしてはいけない」という研修をするだけでは、パワハラはなくなりません。
労働契約の意味や、自分の言動を相手がどう感じるかといったことを考える、実効性のある研修が望まれます。
また、従業員一人ひとりがパワハラの定義や類型などに対する理解を深めることで、パワハラを早期発見する力になります。
研修は、管理職向けと一般従業員向けに分けるなど階層別で実施するとより効果的です。
(5)社内啓蒙
組織としてのパワハラに対する方針や規則、取り組み内容などを、社内で積極的に啓蒙することも大切です。
パワハラ予防に対する意識を保ち続けられるよう、計画的かつ継続的な周知を徹底しましょう。
(6)相談窓口の設置
パワハラの疑いがあると気がついた際に、安心して相談できる窓口があることも、パワハラの早期発見を後押しします。
企業の内外に、相談者のプライバシーに配慮した相談窓口を設けましょう。
窓口の対応の詳細を明らかにし、相談者に不利益が生じないことを明確にしておくと相談がしやすくなります。
- 教育・啓蒙&ストレスチェックで早期発見を実現
パワハラを早期に検知するためには、従業員への教育や啓蒙を徹底し、自らの行為がパワハラに該当していないか、周囲でパワハラが発生していないかなどを、一人ひとりが意識することが求められます。
また、見えないところでパワハラが発生している可能性を踏まえ、アンケートやストレスチェックなどを定期的に行い、社内の実態を把握するようにしましょう。
【監修者プロフィール】
山本喜一
社会保険労務士法人日本人事 代表
特定社会保険労務士
精神保健福祉士
大学院修了後、経済産業省所管の財団法人で、技術職として勤務、産業技術総合研究所との共同研究にも携わる。その後、法務部門の業務や労働組合役員も経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立。社外取締役として上場も経験。上場支援、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。
著書に『補訂版 労務管理の原則と例外-働き方改革関連法対応-』(新日本法規)、『労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務』(日本法令)、『企業のうつ病対策ハンドブック』(信山社)。他、メディアでの執筆多数。