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「日本企業の従業員のやる気は、世界139カ国の中でワースト10に入る最低クラス」という調査結果があります。

しかし、この「やる気」の定義に着目すると、単に「日本企業の従業員はやる気がない」とはいい切れない状況が浮かび上がってくるのです。

この記事では、これらのカギを握る調査指標、2二つの「エンゲージメント指数」についてご紹介します。

 

従業員のやる気を数値化できる?「エンゲージメント指数」とは

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  • 会社や仕事に対しての「やる気」を示す「エンゲージメント指数」

「エンゲージメント指数」は、エンゲージメント調査と呼ばれるアンケート調査の結果をもとに、従業員のやる気を数値化したもののことをいいます。

 

特徴としては、会社での待遇や職場の環境といったいわゆる「ハード面」ではなく、仕事のやりがいや人間関係などの「ソフト面」をどのように評価しているか聞き出し、数値化するといったところがあります。

 

つまり、「給与が良い」「休みが多い」といった会社や仕事の中身と関わりの薄い評価基準を排して、会社や仕事に対しての純粋な「やる気」を測り、数値化できる指標だというわけです。

 

  • 「エンゲージメント」は大きく2種類に分かれる

この「エンゲージメント」ですが、実際は一つの指標ではなく、次のとおり「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」に大別されます。

 

※エンゲージメント指数も「従業員エンゲージメント指数」と「ワークエンゲージメント指数」の2つに分かれます。

 

 

1)従業員エンゲージメント

会社への愛着や組織の一体感など、いわゆる「会社」「仲間」「同僚」に対する感情や認知の状態を示す指標です。

この指数で示される「やる気」は、言い換えれば会社や職場の居心地の良さが仕事へ向かっているものともいえるでしょう。

 

 

2)ワークエンゲージメント

従業員エンゲージメントの対象が「会社」「仲間」「同僚」である一方、ワークエンゲージメントは「仕事」に対してもつエンゲージメントのことを指します。

ここでの「やる気」は、仕事の面白さややりがいなど、仕事そのものに由来します。

 

どちらのエンゲージメントも、忠誠心のように上下関係をもとにした指標ではなく、会社や仲間などとの対等性を強調しているところが特徴ではありますが、意味合いはそれぞれ違いますし、エンゲージメント指数を出すための調査の種類も違っています。

 

ところが、実際のところ「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」には、しばしば混同されている様子が見受けられるのです。


 

「日本のサラリーマンのやる気」は本当に世界最低レベルなのか?

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  • 世界最低?日本人の「エンゲージメント」はどちらの指標で測られたか

2017年、アメリカの大手調査会社であるギャラップ社が、「Q12(キュー・トゥエルブ)」と呼ばれる12の質問をもとに、全世界139カ国、約1,300万人のビジネスパーソンのエンゲージメント調査を行いました。

 

 

この調査における日本の「Engaged(エンゲージメントが高い)」といわれる社員の割合は平均6%で、世界平均である15%にも届いておらず、全139カ国の中で132位と非常に低いことが判明しました。

これを機に「日本のビジネスパーソンのエンゲージメントは低い、やる気がない」といわれるようになったのです。

 

このときの調査のタイトルは、「EMPLOYEE ENGAGEMENT RESULTS AMONG RESIDENTS WHO ARE EMPLOYED FOR AN EMPLOYER」となっており、つまりこの結果は「従業員エンゲージメント指数」を用いて調査されたものなのです。

 

  • 「やる気」の測り方で評価を下げられてしまった日本のサラリーマン

前述のとおり、従業員エンゲージメント指数は「会社」「仲間」「同僚」に対する指標で、直接的な仕事へのやる気を示すものではありません。

仕事へのやる気は、むしろもう一方のエンゲージメント指数である、ワークエンゲージメント指数に表れるはずなのです。

 

 

つまり、日本のビジネスパーソンは会社などに対しての愛着こそ低いものの、仕事そのものに対しての興味関心はこの限りではないといえます。

これをひっくるめて「やる気がない」としてしまったせいで、まるで「日本のサラリーマンは仕事に対してもやる気がない」かのように見えてしまったというわけです。

 


日本企業の従業員エンゲージメント指数はなぜ低いのか?

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  • 欧米の企業文化を取り入れようとする風潮が影響した可能性

日本人は昔から海外でも「真面目かつ勤勉でよく働く」と評価されることの多い民族でした。

良い言葉ではないですが「過労死」が世界に知れ渡るような国民性ですから、仕事に対するやる気がない、ワークエンゲージメントが低いというのは考えにくいものがあります。

 

一方、従業員エンゲージメントに関していえば、確かに低くなる可能性はあるかもしれません。

 

 

たとえば、アメリカ人は変化を好み、いろいろやってみようとする狩猟民族的な性質です。

一方、日本人は派手な変革ではなく安定を好み、小さな改善を積み重ねて磨いていく、農耕民族的な性質です。

 

ところが、現代の日本では企業が農耕民族的な終身雇用を脱却しようとしています。

欧米の狩猟民族的なビジネス志向を取り入れ、「これからはみんな自立して、自由と自己責任でいこう」といい始めているのです。

 

 

会社から従業員に対し、本来の日本人の性質とはかけ離れたものを求められているため、会社と従業員の思惑にギャップが生まれるのも無理はありません。

こうした風潮が、国全体の従業員エンゲージメントを押し下げているのかもしれません。

 

  • 日本人的な「やる気」につながる指標は「ワークエンゲージメント指数」

ここまで、日本人の従業員エンゲージメントがなぜ低いかについて見てきました。

しかし、これを踏まえて従業員エンゲージメントを高めるための努力が必要かといえば、それほど重視する必要はないかもしれません。

 

というのも、従業員エンゲージメントについて学術的な研究をもとにした確かなメリットはまだ認められていないのです。

高い方が望ましいとはいえますが、低いからといって慌てる必要はないというところでしょうか。

 

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ワークエンゲージメント指数をアップさせ、強い会社をつくるには?

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  • ワークエンゲージメント指数をアップさせる仕組みを理解する

出典:

厚生労働省ホームページ

令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-

第Ⅱ部 第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて

P.23 2-3-8

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf

 

一方、「ワークエンゲージメント」については、学術的な研究による定義などもはっきりしています。

株式会社ビジネスリサーチラボ代表の伊達洋駆氏は、ワークエンゲージメントの効果として「離職抑制」があり、離職が抑制できれば組織業績がプラスになると述べています。

さらに、ワークエンゲージメントが高いほど「社員個々人」のパフォーマンスが高いこともわかっています。

個々人のパフォーマンスが高いと組織業績にも好影響が出るはずです。

 

さらに、厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-※」によると、ワークエンゲージメントが高いほど組織コミットメント(企業の理念などや担当業務の意義などを理解したうえで、企業の組織風土に好感をもっている)や定着率が高く、また離職率は低いという調査結果が示されました。

 

つまり、業務改善のために取り組むのであれば「ワークエンゲージメント指数」の向上の方が、より効果が見込めるというわけです。

 

 

 

また、ワークエンゲージメントの概念を提唱したオランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らは、ワークエンゲージメント指数を測る尺度として「UWESUtrecht Work Engagement Scale)」を開発、ワークエンゲージメントに関わる要因や関係性を示した「JD-Rモデル」(図)も提唱しています。

 

このモデルをもとに、ワークエンゲージメントが高まる仕組みを理解しておくことが、ワークエンゲージメント指数を向上させるためにも重要なのです。

 

 

JD-Rモデルでは、仕事の要求度(J:ジョブ-D:デマンド)に対して、適切な支援や評価、自己効力感などといった仕事の資源(R:リソース)の供給があることで、ワークエンゲージメントが向上し、高い水準をキープできるとされています。

 

  • カネやモノではない負担に、カネやモノではない資源で応えていく

ここでいう「仕事の要求度」には、仕事を直接遂行するための肉体的・頭脳的な負担だけでなく、プレッシャーなどの精神的な負担も含まれています。

 

 

また「仕事の資源」も、会社や周囲からの仕事に対する支援、仕事を通じて成長できる要素、仕事そのものの面白さ、働きに対する正当な評価など、まさに「仕事を充実させるための資源」が求められているのが特徴です。

 

 

ワークエンゲージメント、いわば仕事に対しての純粋な「やる気」を高めるわけですから、「給与は良いけれど仕事がつまらない」「休みは多いけれど自分の働きは評価されていない」といった状況では、ワークエンゲージメント指数は上がらないのです。

 

つまりワークエンゲージメントを上げ、高い状態をキープするには、カネやモノではない負担である「仕事(労働)」の提供に対して、カネやモノではない資源である「マネジメント」の提供で応えていく必要があるのです。

しかも双方のバランスが取れていないと、やはりワークエンゲージメント指数は下がっていきます。

ここで「仕事の要求度」をコントロールするのもマネジメント側の役目ですから、ワークエンゲージメント指数を上げるためには、適切なマネジメントが非常に重要なのです。

 

※さらに具体的なエンゲージメントの強化方法については下記記事をご参考ください。

【専門家監修】エンゲージメントを正しく知り、意義ある強化を

 

 

ワークエンゲージメント指数を高めて社員の本当のやる気を引き出すには、社員一人ひとりがマネジメントに求める「仕事の資源」にいち早く気づき、適切に対応できることがポイントになります。

日々の仕事ぶりを把握し、先回りして対応できるような環境づくりも意識しておくと良さそうです。

 

 

※厚生労働省ホームページ

令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-

「第Ⅱ部 第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて」

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf

 


 

【監修者プロフィール】

監修者(曽和氏) 

曽和 利光

株式会社人材研究所 代表取締役社長

人材採用力検定協会理事

日本ビジネス心理学会理事

 

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

 

 

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