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企業の人材募集広告では、離職率の数値が公開されていることも多々あります。

その数値を見て、「離職率が高いからブラック企業に違いない」と判断する人も中にはいますが、離職率はあくまでも一つの要素であり、入職率と離職率を相対的に見る必要があります。

そこで今回は、「離職率」の見方や、離職率が高い企業に共通する特徴についてご紹介します。

 

「離職率」とは?

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離職率とは、ある時点の社員の在籍人数に対して、一定期間のうちにどれくらいの人が退職したのかを表す割合のことです。

たとえば、従業員が100人いる職場で、ある年の41日から翌年331日までに7名の社員が退職していたとすれば、1年以内の離職率は7÷100×1007%ということになります。

 

離職率の数値は単純比較ができない!?

  • 「離職率」の定義は企業ごとに異なる

離職率が高いか低いかは、各企業の労働環境を知るうえでの一つの指標になりますが、そもそも離職率の定義や計算方法は企業によって異なります。

離職者数を集計する「一定期間」を1年と定めている企業もあれば3年と定めている企業もありますし、新卒社員の数のみを母数として計算する企業もあれば全社員数をもとに計算する企業もあります。

そのため、各企業の離職率をそのまま単純比較すると、企業を誤って評価してしまうリスクを伴います。

あくまでも離職率は「指標の一つである」という認識をもつことが重要なのです。

 

  • 「定着率」も一つの指標となる

また、離職者の割合ではなく、定着している人の割合に着目した「定着率」という指標もあります。

たとえば、10名の中途入社があり、そこから1年間で退職せずに定着している人が7名だったとすると、「1年間の定着率は70%」ということになります。

なお、定着率も、離職率と同様に、定義や計算方法は企業によって異なります。

 

離職率だけでなく、入職率を見ることも必要

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離職率や定着率をチェックする際、併せてチェックしたい指標が「入職率」です。

入職率とは、もともとその企業で働いていた従業員数に対して、新たに採用した人の割合を示します。

入職率、離職率の両方に着目することで、企業の状態や動向をある程度把握することができます。

 

離職率だけでなく入職率も知ることで見えてくる企業の状態には、以下の4つのパターンがあります。

 

1)一見、離職率が高いように見えるが、入職率の方が高い
人員増にはなっており、事業としては拡大傾向といえるかもしれません。

組織の面では、よく言えば新陳代謝が活発な状態、悪く言えば人の出入りが激しく従業員が定着しづらい状態です。

 

2)一見、離職率が高いように見えて、かつ入職率よりも高い

人員減になっており、事業が縮小傾向、あるいは事業縮小ではないものの従業員一人あたりの負担が増えている状態かもしれません。


3)一見、離職率が低いように見えるが、入職率の方が低い

程度の差はあるかもしれませんが、(2)と同じ構造です。

 

4)一見、離職率が低いように見えて、かつ入職率よりも低い

(1)と同じく人員増になっています。(1)に比べて離職が少なく、従業員が定着しやすい状態である一方、組織の平均年齢が上がっていく構造にもなりえます(入職者の数と年齢によります)。

 

  • 産業別に見た入職率と離職率

続いて、厚生労働省が公表している「令和2年雇用動向調査結果の概要※」より、主な産業別の入職率と離職率を見ていきましょう。

 

まず、2020(令和2)年における入職率トップ5は以下のとおりです。

 

2020(令和2)年産業別入職率トップ5≫

・第1位=宿泊業、飲食サービス業:26.3

・第2位=サービス業(他に分類されないもの):17.5

・第3位=教育、学習支援業:16.2

・第4位=生活関連サービス業、娯楽業:15.8

・第5位=不動産業、物品賃貸業:15.5

 

続いて、2020(令和2)年における離職率トップ5は以下のとおりです。

 

2020(令和2)年産業別離職率トップ5≫

・第1位=宿泊業、飲食サービス業:26.9

・第2位=サービス業(他に分類されないもの):19.3

・第3位=生活関連サービス業、娯楽業:18.4

・第4位=教育、学習支援業:15.6

・第5位=不動産業、物品賃貸業:14.8

 

2020(令和2)年産業別入職率と離職率を見比べるとわかるのが、第3位、第4位の順序が逆である以外は、ほぼ同じ並びであるということ。

このことから、第5位までにランクインした産業においては、入職率、離職率ともに高いことがわかりますが、これはパート・アルバイトでの入職/離職も母数に含んだ調査のため、その影響を受けているものと考えられます。

 

もし何らか企業の入職率または離職率が高いか低いかを簡易的に評価したい場合には、下記の計算式で算出された数値であるという前提に注意しながら、上記の数値と比較してみると良いでしょう。

 

入職率=入職者数÷202011日時点の常用労働者数×100(%)

離職率=離職者数÷202011日時点の常用労働者数×100(%)

 

(上記に記載のない産業については、下記URLから調査結果をご参考ください)

 

  • 厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要  産業別の入職と離職」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf

 

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離職率が高い企業に共通することは?

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前述したとおり、離職率の数値は単純比較できないものですし、離職率だけではなく、入職率まで加味しなければ、その企業の実態を把握することはできません。

しかし、それらを加味したうえで、なお、離職率の高さに悩んでいる企業には、次のような問題が潜んでいるのかもしれません。

 

  • 労働時間が長く、心身ともに疲労している

労働時間が長く、ゆっくりと身体を休める時間をもつことができないと、心身ともに疲れが溜まっていき、「これ以上この会社で働きたくない」と思ってしまう事態につながりかねません。

 

では、労働時間が長くなる原因は何でしょうか。

 

キャパシティを超えて仕事量が多いというケースはもちろんあるでしょうが、それ以外にも「上司が残っている限り先に帰れない」「残業しないと評価されない」といった企業風土が影響しているケースがあります。

また、休日出勤や深夜残業が常態化しているケースも長時間労働の原因となりえます。

 

上記2点目3点目のようなケースでの離職を減らすためには、上司が率先して定時に帰宅するなどの工夫が大切です。

会社全体で長時間労働を減らそうとする取り組みが、健全な労働環境の構築につながり、ひいては高い離職率の改善につながる可能性があります。

 

  • 評価に納得できないと感じている社員が多い

上司からの評価は、給与や人事に直結することもあるため、いかなる場合も正当な評価がなされるべきです。

しかし中には、個人的な感情をもとに評価を決めてしまう人がいることも。

「自身の頑張りや成果が正当に評価されない」「公平に評価されない」という不満は、やる気の喪失=モチベーションダウンにつながりかねません。

 

モチベーションダウンによる離職を防ぐためにも、上司が個人的な感情で評価してしまわないよう、評価に関しての明確なルールを設け、あくまで客観的な目線で評価がなされる人事評価システムを整えることが必要です。

 

  • 人間関係や社内の風通しが悪い

人間関係や職場の風通しの悪さは、離職率と大きく関係しています。

上司によるパワハラやセクハラはもちろん、同期や横のつながりが十分でないことに不満を抱くケースもあるでしょう。

そうした理由による離職を防ぐためにも、社員同士が積極的に交流できるような場を設けたり、悩みを抱えている社員が気軽に相談できるような窓口を設けるといったことが望ましい対策と考えられます。

 

  • 社員の教育やフォロー体制が整っていない

入社して年数が浅い新入社員にとっては特に、教育やフォロー体制が整っていないことは大きなマイナス要因になります。

まだ仕事に慣れておらず右も左もわからない状態なのに、サポートしてくれる人がいないと、不安な気持ちが募るもの。

結果的に思うようなパフォーマンスを出すことができなければ、自信を喪失し、離職する事態へとつながりかねません。

逆に、教育の体制が整っていて、新しいことをどんどん教えてもらえる環境であれば、意欲的に仕事に取り組み、社内の雰囲気アップにも貢献してくれることが期待できます。

 

企業の離職率と併せてチェックしたい3つのポイント

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企業の組織コンディションを評価する際、離職率や入職率以外にチェックしたいポイントを列挙します。

 

  • 福利厚生制度や有給休暇制度がきちんと機能しているかどうか

福利厚生制度や有給休暇制度が存在しても、実際のところそれらが機能していないというパターンもありえます。

 

働き手に支持される良い企業ほど、ワークライフバランスが取りやすいものです。

 

福利厚生制度や有給休暇制度が組織コンディションの観点で有効に利用されているか、形式的な制度になってしまっていないかを改めてチェックしてみると良いかもしれません。

 

  • 社内の人間関係が良いかどうか

企業の一員として働く以上、どんな仕事をするにも必ず誰かと関わります。

仕事において乗り越えるべき困難があったとしても、それを支える良好な人間関係があることが理想といえます。

 

離職率などの結果指標に現れる前に、社内の人間関係が良好かを把握できれば、組織コンディションの評価を丁寧に行っている状態といえます。

 

数十人規模の企業であれば人海戦術でヒアリングも可能ですが、そこまで時間が避けない場合、あるいは数百人、数千人規模の企業の場合は、組織サーベイ/個人サーベイのツールを導入することで、社内の人間関係について把握することが可能になるでしょう。

 

  • 経営がトップダウンになり、従業員のやる気を削いでいないか

トップダウン経営であっても、優秀な経営者や経営陣がうまく舵を取っている企業であれば、業務がスムーズで雰囲気も良く、活気があり離職率も低いということも珍しくありません。

しかし、“うまくないトップダウン経営である場合は組織コンディションが悪くなるでしょう。

ここで言う“うまいトップダウン経営かどうかのポイントは、従業員の意見の聞き方です。

従業員が意見を言いにくかったり、仮に意見を述べてもまったく聞き入れてもらえないようであれば、意見した本人はもちろん、その周りにいる従業員もやる気が削がれます。

 

日ごろから経営陣が社員の声に耳を傾けることができているかを振り返る、あるいは自省が難しい場合は第3者機関に依頼して、客観的な評価を受けることでチェックすることができるでしょう。

 

 

離職率は企業の評価を行ううえで、重要な指標の一つ。

とはいえ、それだけでは企業の本質はわからないもの。

離職率だけではなく、入職率や上記の3つのポイントを加味して、極力丁寧に評価を行うようにしましょう。

 

【監修者プロフィール】

監修者(坂本光司氏)のプロフィール画像 

坂本 光司

経営学者・人を大切にする経営学会会長.

千葉商科大学大学院商学研究科 中小企業人本経営(EMBA)プログラム長

元法政大学大学院教授

 

1947年 静岡県生まれ。

静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。

ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。

専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。

これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

主な著作として、『会社の偏差値 強くて愛される会社になるための100の指標』(あさ出版、2021年)『もう価格で闘わない』(あさ出版、2021年)『「新たな資本主義」のマネジメント入門』(ビジネス社、2021年)などがある。

 

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