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近年、離職率の高い業界はほぼ固定化されています。

いずれも慢性的な人材不足で、従業員は過重労働に悩んでいるため、早期の問題解決が望まれています。

そうした離職率の高い業界には、一体どのような特徴があるのでしょうか?

また、離職率を抑えるためにできることとはどんなことでしょうか?

離職率の高い業界ランキングを紹介するとともに、詳しく解説していきます。

 

離職率が高い業界ワースト3は?

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厚生労働省が公表している「令和2年上半期雇用動向調査結果※1」によると、離職率は産業別に大きな開きがあることがわかっています。

 

調査の結果、離職率が最も高かったのは、宿泊業・飲食サービス業の15.3%。

ついで、教育・学習支援業が12.2%、サービス業(他に分類されないもの)が11.0%、生活関連サービス業・娯楽業10.2%という結果が出ています。

ちなみに、2019(令和元)年のデータを見ると、離職率が最も高かったのは、宿泊業・飲食サービス業と翌年と同じ。

続いて、サービス業(他に分類されないもの)、生活関連サービス業・娯楽業、教育・学習支援業となっています。

 

宿泊業・飲食サービス業の離職率が若干増加したのは、新型コロナウイルス感染症における営業制限なども影響し、会社都合での解雇、また、コロナ禍が長期化する中で別の業界に移る意思決定をした人も、一定数いたと考えられるでしょう。

 

 

一方で、情報通信業界は前述の理由で業界自体の需要が上がり、コロナ禍の中でも業績を伸ばした数少ない業界でもあり、他の業界と比べると、解雇や転職は少なかったと想定されます。

 

ですが、いずれにせよ離職率が高い業界はほぼ固定化されつつあります。

出典:

厚生労働省「令和2年上半期雇用動向調査結果の概況」

31 産業別入職率・離職率(令和2年上半期)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-1/dl/gaikyou.pdf

 

離職率が高い業界の共通点は?

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離職率の高い業界には、どのような共通点があるのでしょうか。

一般的に、以下の4つが挙げられます。

 

B to C業界であり、主に勤務時間が平日夜や土日

・残業や土日出勤が多い

・教育やスキルアップの体制が整備されていない

・福利厚生が十分でない

 

それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

 

  • B to C業界であり、主に勤務時間が平日夜や土日

 

商品やサービスを提供している企業は、企業を相手にしているB to BBusiness to Business)と個人の消費者を対象としているB to CBusiness to Customer)の大きく2タイプに分かれます。

そのうち、離職率が高い傾向にあるのは、B to Cの企業です。

一般消費者に知られているサービスに関われることでやりがいを感じやすい一方で、一般消費者が相手であることから、多くの人が、仕事帰りの人を相手にするため平日の夜や、土日など、多くの人が休みの日に働くことになるといった要素があることが、離職率の高さにつながっているのかもしれません。

また、B to Bよりも、B to Cの方が、クレーム対応を行うことが多いという要素も影響しているかもしれません。

 

  • 残業や土日出勤が多い

一つめの要素と関連が深いのが、「残業や土日出勤が多い」という要素です。

シフト制で、平日夜や、土日出勤が多くなる要素に加えて、残業が多くなるのは、勤務時間中は、接客に時間が割かれることになり、接客業務が終了してから事務作業や急ぎの連絡作業に取りかかることになるためです。

 

  • 教育やスキルアップの体制が整備されていない

人材が定着していない企業では、なかなか従業員の教育に十分な時間を割いていない企業が多いのが実情です。

人材がすぐ辞めるから、育成してもしょうがないという側面と、育成したとしてもすぐ人材が辞めてしまうということがあると、その後、育成に躊躇してしまうことがよくあります。

離職者によりマンパワーが減った分、残された従業員はその穴埋めで業務量が増え、目の前の仕事をこなすことに追われてしまっている状況では、他者を気遣ったり丁寧に教育したりする時間も余裕がなくなるケースが多いです。

これでは、せっかく高い志をもって入社してきた新人たちがなかなか育成のサポートがされず、成果が出るまでに時間がかかり、モチベーションダウンにつながることが多く発生してしまいます。

 

  • 福利厚生が十分でない

離職率が高く慢性的な人手不足であれば、従業員が希望する時期に希望する期間の休暇を取ることができないなどのデメリットが出てきがちです。

また、その企業に属していれば利用できるはずの休暇や、各種サービスなどが周知されていない、あるいは利用できる状況でないということも福利厚生への不満につながる要因です。

良い人材に安定的に働いてもらうためにも、福利厚生をしっかりと整え、従業員の心身の健康を守ってあげることが大切です。

 

上記に挙げた4つ以外には、「商品などの高い売り上げノルマを課せられている」「慢性的に人手不足で一人ひとりの仕事の負担が大きい」なども考えられます。

 

 

「離職率が高い」ことは採用活動にもマイナスの影響を与える

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前述のとおり、業界によって離職率の基準は異なるため、他業界の企業と離職率を比較することはあまり意味をなしません。

しかし、同業他社と比較したときに離職率が高いとなると、採用活動にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。

なぜなら、求職者が仕事を探すとき、参考にするデータの一つが離職率であるからです。

ハローワークの求人票にも『就職四季報』にも掲載されているデータだけに、もともと「離職率」という言葉を知らなかった人でも数字に着目するようになるのが一般的ですし、離職率が平均より高かったり低かったりすると気になって当然でしょう。

 

  • 離職率が高いことは求職者にどのような印象を与えるか

では、離職率が高いと、求職者はどのような印象をもつのでしょうか。

「ブラック企業なのではないか」「労働時間が長いのではないか」「福利厚生が充実していないのではないか」「人間関係が悪いのではないか」などネガティブなイメージばかりふくらみます。

また、何度も同じ求人広告を出している企業に対しても同様で、その会社についてよく知らないにもかかわらず、「また辞めたのか=離職率が高い」といったネガティブなイメージを抱く原因となり、結果的に採用活動を困難にする要因となりかねません。

 

そこで続いては、離職率が高い場合、離職率が低い場合に求職者が抱く印象をさらに詳しく見ていきます。

 

  • 離職率が低いことは求職者にどんな印象を与えるか

まず、離職率が低い企業に対して求職者が抱く印象を見てみましょう。

こちらはおおむねポジティブなものだと思って間違いありません。

たとえば、「誰も辞めたがらないということは、長く働きやすい環境であるのだろう」「給与面も福利厚生の充実度も満足できるものだろう」というイメージを抱くと想像できます。

 

ただし、離職率の低さやその維持に執着しすぎると、時として会社の成長が阻まれる場合もあるかもしれません。

特に、大きな変革を起こす際などには、変化についていけず離職したいと考える人が出てくる可能性もありますが、一時的に離職率が上がっても、結果的に会社の大きな成長へとつながる可能性もあるので、離職率はあくまでも一つの要素ととらえておくことをおすすめします。

 

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優秀な人材に長く定着してもらうために必要なこととは?

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離職率の高い企業が、優秀な人材に長く定着してもらいたいと思ったときには、どんな点を改善していけば良いでしょうか。

以下の7つの項目について解説していきます。

 

・やりたいことや能力のミスマッチを見極める

採用時の正確な情報開示

・社員の労務管理をきちんと実施する

・福利厚生・手当を十分に整える

・労働環境・待遇を適切に整える

・上司との人間関係・同僚との人間関係を見直す

・社員に企業理念を浸透させる

 

では、それぞれについて具体的に見ていきましょう。

 

  • やりたいことや能力のミスマッチを見極める

ミスマッチとは、面接を受ける人の能力や志向性と合致していない仕事に就いてしまうことです。

会社側の選考プロセスでの人物の見極めが不足しているケースと、応募者側が内定を獲得したいがために、本当は苦手なことであるにもかかわらず、無理してやりたい・できると言ってしまい、結果的に成果につながらないケースを指します。

面接前に絞り込む「スクリーニング基準」を設け、そこを突破した後は、企業ごとの「採用基準」にて、その人の適性や、やる気を見極めるようにしましょう。

 

  • 採用時に良いところだけではなく、悪いところも事前に正確に情報開示

会社の特徴や雰囲気、仕事におけるノルマや残業量、年収や福利厚生などの待遇面が応募者にしっかり伝わっておらず、働き始めてから「面接時に聞いた話と違う」ということになれば、早期退職につながりやすくなります。

たとえば給与面では「ボーナスは月給の2カ月分」という応募要項の文言から、月給30万円×14の年収を期待していたところ、実際には基本給に諸手当等を含んだ金額が30万円であって、月給は10万円台だった、というようなこともあります。

また「有給休暇は年間○○日」と明記されていても、配属された部署が忙しく、有給休暇を満足に取得できなければ、「話が違う」となりかねません。

こうした入社前に聞いていたことと入社してから感じるずれは、働き手にとって会社に対する不信感を抱くきっかけになります。

その結果、離職者が増えてしまえば、企業にとっても大きなマイナスです。

想定できる認識のずれをあらかじめ解消するために、入社前に自社の悪い面も伝えておくこと、そしてもし認識の齟齬が起きてしまった場合には、誠実に対応することが、企業に求められています。

 

  • 社員の労務管理をきちんと実施する

仕事ができる社員にばかり負担が集中したり、上司が定時に帰らないために部下たちが無駄に残業せざるをえなくなっていたりすることも、離職原因につながります。

そうした事態を防ぐためにも、社員の労務管理・残業管理には十分気を配ることが大切です。

一人ひとりが気持ちよく働くことができる環境づくりを意識しましょう。

 

  • 福利厚生・手当を十分に整える

従業員の価値観やライフイベントのニーズに合った福利厚生および手当を整備することはとても大切です。

結婚や出産を機に離職する女性は現代の日本社会ではまだまだ多いといえますが、産休・育休制度などが整い、なおかつそれらを取得しやすい雰囲気の会社であれば、休暇取得により一定期間職務を離れた後、復職を希望する人も増えてくるはずです。

病気療養や介護による休暇制度も同様で、一度離れざるをえなかった優秀な人材が、また戻ってきてくれるために、これからますます整備されるべき重要な課題となるでしょう。

 

  • 労働環境・待遇を適切に整える

厚生労働省が公表している「令和2年雇用動向調査結果の概要※2」によると、転職入職者が前職を辞めた理由としても多かった(「出向」や「定年・契約期間の満了」を除く)のが、男性は「給料等収入が少なかった」で、女性は、「職場の人間関係が好ましくなかった」であることがわかっています。

男女ともにより働きやすい環境、より良い待遇を求めて離職するという調査結果をふまえて、自社の労働環境や待遇が、ほしい人材に対して適切なものであるか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。

 

≪男性≫

・第1位=定年・契約期間の満了:16.0

・第2位=給料等収入が少なかった:9.4

・第3位=職場の人間関係が好ましくなかった:8.8

・第4位=労働時間、休日等の労働条件が悪かった:8.3

注)その他の理由(出向等を含む):31.3%を除く

 

 

≪女性≫

・第1位=職場の人間関係が好ましくなかった:13.3

・第2位=定年・契約期間の満了:12.7

・第3位=労働時間、休日等の労働条件が悪かった:11.6

・第4位=給料等収入が少なかった:8.8

注)その他の理由(出向等を含む):26.9%を除く

 

 

  • 上司との人間関係・同僚との人間関係を見直す

「令和2年雇用動向調査結果の概要※2」にもあるとおり、職場の人間関係が辞める原因となることも多いのが現実です。

特に、上司との問題は多くの離職者が感じている部分となります。

パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの各種ハラスメントや、マイクロマネジメント(上司が自身の考えを部下に押し付け、仕事や行動を過度に干渉すること)、成果を出しても上司から褒められないなど、さまざまな要因があるのです。

コミュニケーションをする機会を増やしたり、感謝などのポジティブな発言を心がけたり、年次に関わらず成果を正しく評価することなどが、人間関係を良くする一歩となるでしょう。

 

  • 社員に企業理念を浸透させる

一人ひとりがバラバラの方向を向いて仕事していては、仕事が円滑に進みません。

みなが同じ方向を向いて気持ちよく仕事をするためには、社員それぞれが企業理念を理解し共感することが大切です。

社員全員に企業理念が浸透していれば、困難に直面したときにもおのずと進むべき道が見えてきます。

現時点で企業理念が浸透していない会社であれば、研修などにより今一度原点に立ち返り、企業理念を再確認することも有用です。

また、新たな人材を選ぶ際には、企業理念に共感してくれる人を採用し、入社後も研修などで学ぶ機会を設けることも重要です。

 

できることから一つずつ取り組むことで、結果として新入社員も中堅・シニア社員も関係なく、大切な社員に長く働き続けてもらえる企業に成長していけると良いですね。

 

1

厚生労働省「令和2年上半期雇用動向調査結果の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-1/dl/gaikyou.pdf

2

厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」

3)転職入職者が前職を辞めた理由

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/dl/kekka_gaiyo-04.pdf

 

【監修者プロフィール】

監修者(森田英一氏)のプロフィール画像 

森田 英一

beyond globalグループ(シンガポール、タイ、日本)

President & CEO

 

大阪大学大学院 卒業。外資系経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)にて人・組織のコンサルティングに従事。2000年にシェイク社を創業し、代表取締役社長に就任。主体性を引き出す研修や、部下のリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発のファシリテーションに定評がある。現在は、beyond globalグループのPresident & CEOとして、エンゲージメント向上プロジェクト、企業文化変革、経営者育成、組織開発、次世代リーダー育成、HRテック導入支援、各種プロジェクトを行っている。主な著作「3年目社員が辞める会社 辞めない会社」(東洋経済新報社)「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(php新書)等。日経スペシャル「ガイアの夜明け」 「とくダネ!」 等メディア出演多数。

 

 

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