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企業の内情をはかる指標の一つとされるのが「離職率」です。

離職率が低いことは一般的に良いとされていますが、本当に良いことばかりなのでしょうか?

離職率が低いことにはデメリットがあるのか、そして逆に、離職率が高いことにはメリットがあるのかを考えてみます。

 

「離職率が低い=良い企業」は、終身雇用時代の常識

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これまで「離職率の低さ」は、働きやすい職場条件の一つとして考えられてきました。

確かに、終身雇用が当たり前だった時代においては、離職率は就職先を探す際の重要な目安となっていたかもしれません。

しかし、働き方やライフスタイルが多様化し、在宅ワークや副業が増えてきている現在においては、「離職率が低い」ことだけでは、必ずしも良い企業とは判断できなくなっています。

 

  • 終身雇用時代は終わっても、長期雇用の制度は残っている

「終身雇用時代」が終わったとはいえ、実態ベースで見ると、終身雇用の制度自体は完全に崩壊しているわけではありません。

一つの会社で定年まで勤めあげる人が少なくなっているものの、長期雇用の制度は仕組みとしては残っているのです。

 

しかも、年金の受給開始年齢が引き上げられたことから、政府は定年を延長しています。

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律※」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、2021(令和3)年41日から施行されているのです。

 

改正された点は大きく2つ。

「65歳までの雇用確保(義務)」と、「70歳までの就業確保(努力義務)」です。

この改正に伴い、「定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主」「65歳までの継続雇用制度を導入している事業主」に対して、「高年齢者就業確保措置」が設けられており、対象者は以下の①から⑤のいずれかの措置を講じるよう努めることが求められています。

 

【高年齢者就業確保措置】

  • 70歳までの定年引き上げ
  • 定年制の廃止
  • 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
  1. 事業者が自ら実施する社会貢献事業
  2. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体がおこなう社会貢献事業

 

こうしてみると、高齢者の雇用機会が確保される良い改正のようにも思えますが、日本は少子高齢化の影響で今後さらに働き手が少なくなることから、「(従来の定年年齢では)辞めさせたくない」という政府の思惑があるのかもしれません。

 

 

  • 新型コロナによって働き方の多様化がさらに進んだ

少子高齢化以外にも、離職率や定着率に影響を及ぼしている要因はあります。

その一つが、新型コロナウイルスの席巻です。

コロナ禍により仕事のリモート化が進んだことは、離職率や定着率に対するイメージを変える大きなきっかけになったといって間違いないでしょう

コロナによって大きく変化したワークスタイルは、コロナ収束後も、元に戻ることはないであろうと予想されています。

 

事実、コロナ禍をきっかけに、オフィス面積を減らそうという企業も増えています。

さらには、社員全員分の座席を用意していないオフィスまであります。

リモートで働く社員もいるとなれば、全員分の座席を用意する必要はないからです。

また、完全リモートではなく、必要に応じてオフィスで働くというノマドワークスタイルをとっている企業もあります。

リモートワークとリアルオフィスのハイブリッド化も進んでいますし、会社や仕事に対する意識も、これまでとは変わってきているのです。

こうした環境下においては、組織と個人をどう結びつけるかが重要になってきます。

リモートワークで仕事への自由度が増えた今、離職を考えることが以前よりも容易になっているからです。

さらに、副業や兼業をはじめる人もますます増えています。

現在の会社で働く意義を感じられなくなったら、無理して留まる必要性が希薄になっているのです。

 

では、こうした状況において、「離職率が低い」企業は、依然として良い企業だといえるのでしょうか?

 

答えは、企業の考え方次第。

離職率が低い=社員が固定化される=「一社懸命」の社員が集まり価値観が画一化しているよりも、離職率が高い=社員が流動化される=外界と接触して新しいヒントを得ている社員がたくさんいるほうが、イノベーションを起こしやすいともいえるからです。

 

終身雇用時代ほどは「離職率が低い企業=良い企業」と一概にいえなくなってきている、というようにも捉えられます。

 

離職率が低いことによるメリット

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離職率が高いということは、社員の定着率が低いということを意味します。

社員が定着せず、離職者が出るたびに欠員補充として新しい人材を雇っていては、採用や育成に大きなコストがかかるばかりでなく、離職率が高い=ネガティブなイメージをもたれてしまった場合、採用希望者が減ってしまう可能性もあります。

また、離職者からの業務のしわ寄せで、既存の社員に負担がかかったり、モチベーションが下がったりするリスクもあり、連鎖的にさまざまな悪影響を及ぼすことが考えられます。

では、離職率が低い企業はどうでしょうか。

 

離職率が低いということは、社員が定着しているということす。

社員が定着していれば、上記の裏返しになりますが、「採用・育成コストがかさまない」「採用希望者減となるリスクが減る」「在籍社員の負担増やモチベーション低下につながらない」というメリットがあるといえます。

 

 

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離職率が低い企業は本当に良い企業なのか?

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先述の繰り返しになりますが、一概に「離職率が低い=良い会社」といい切ることはできません。

 

その理由として、先程は社員の固定化(価値観の画一化)によってイノベーションが生まれづらくなる、という点を挙げましたが、ここではそれ以外の理由について説明します。

 

 

まず、従業員の目線で見ると、「離職率が低い」ことがデメリットともとれる側面があります

 

たとえば、「自分より上の人が辞めないためポストが空かず、昇進がしにくい」ということがデメリットの一つです。

人の出入りがないことが原因で、「業務内容や日々接する人がほとんど変化しない」「業務が固定化し新しいことにチャレンジしにくい」などもありえます。

また、「転職に対してネガティブなイメージをもちやすくなる」なども考えられますし、実際に転職志向低い社員がそろっていると、社内価値ではなく市場価値としてのキャリアアップを目指そうという高いモチベーションが生まれないということもあります。

 

次に、企業目線で見ると、中には「離職率をゼロにしたい」と考えている企業もあるかもしれません、ゼロに近ければ近いほど良いとはいい切れません。

なぜなら、採用した人材が企業とミスマッチである場合もあるからです。


一方、
企業とマッチしており、企業の屋台骨を支えてくれるような人材なら、長く働き続けてほしいと思うのは当然のこと。

 

このように、離職率の高さ・低さの数値だけを評価するのではなく、離職率の「中身」にもしっかりと目を向けることが大切です。

 

離職率が高いことによるメリットもある

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先述の内容を裏返すと、離職率が高いことによるメリットも存在することになります。

 

たとえば「転職が多く、離職者のポストがよく空くため、昇進のチャンスが多い」というのは大きなメリットです。

昇進のチャンスが多ければ、おのずと社員のモチベーションも高くなるため、結果として「実力主義」「若手でも活躍すれば評価されやすい」という風土が醸成され、会社と社員双方のポジティブな成長につながります。

 

また、入れ替わりの激しさも、捉え方によっては「新入社員が多いため人脈を作りやすい」というメリットにもなりえます。

 

このように多角的に考えると、離職率が高いことは必ずしもネガティブなものではないということがわかります。

「離職率は、企業の労働環境を示す一側面に過ぎない」と捉えておくと良いでしょう。

 

企業は自社の離職率をどのように評価して、どのように改善していけば良い?

 

ここまで離職率のメリット・デメリットについてみてきましたが、企業としては、自社の離職率をどのように評価して、どのように改善していけば良いのでしょうか。

 

まず、離職率を適正に評価するために、採用時点で求職者をしっかりとアセスメント(評価・査定)して適性を見ることです。

最近では、職種・職務ごとに人材を採用する「ジョブ型の採用」が増えているといわれていますが、それぞれの職種に本当にマッチした人材を採用できていなければ意味がありません。

アセスメントにあたっては、人材アセスメントツールを活用するのも有用です。

企業と人材のミスマッチを防ぐために、入り口の段階である採用時に、どれだけ厳密にチェックできているか。

それができて初めて、自社の離職率を評価するラインに立てるのです。

 

  • 離職率のほか、企業が実態を把握するのに重視すべき指数とは?

企業にマッチした人材を採用できているか、のチェックに加えて、下記の2つの調査も実施できれば、さらに離職率の評価を適正化することができます。

 

(1)従業員満足度調査(ES調査)

「従業員満足度(ES=Employee Satisfaction)」とは、従業員が組織で働くうえでの居心地の良さを示す度数で、福利厚生や労働環境、報酬、上司や部下との人間関係などを要因とする数値をあらわします。

 

従業員満足度が高いということは、従業員が福利厚生や労働環境、報酬、人間関係に満足感を得ているということ。

そうなれば、自社への愛着心が大きくなり仕事へのモチベーションがアップするなど、正のスパイラルが生まれていきます。

 

従業員満足度が高いうえでの離職率なのか、あるいは低いうえでの離職率なのか、によって離職率の評価は変わってきます。

 

(2)エンゲージメント・サーベイ

もう一つの有効な調査が、「エンゲージメント・サーベイ(エンゲージメント調査)」です。

「エンゲージメント・サーベイ」とは、従業員と組織の心的つながりをはかる調査のこと。

「従業員満足度調査」が、「給与や福利厚生、人間関係などの組織が用意するものに満足しているかどうか」をはかるものであるのに対して、「エンゲージメント・サーベイ」は、「従業員が組織の企業理念やビジョン、目的を理解して共感しているかどうか」をはかるものであるともいえます。

 

調査の結果、従業員のエンゲージメントが低く、離職による人材流出の恐れが高いことがわかった場合には、その離職率はネガティブな数値と評価できるかもしれません。

早期にエンゲージメントを高めるための対策をとることが望ましいでしょう。

 

  • 実態把握と調査・検証のサイクルを繰り返し実施することが大切

「従業員満足度調査」あるいは「エンゲージメント・サーベイ」を行うことで、離職率を適正に評価できるようになるのと同時に、その調査の内容自体がその後の離職対策につながる利点もあります。

調査における質問項目の中には、「あなたは当社でこれからどのくらい働き続けたいですか?」などの直接的な項目もあります。

この質問に対して「1年未満」と答えた人は高い確率で離職することが予想されますので、早い段階でそうした意向を知ることで、会社としては、離職を防ぐための策を講じることができるのです。

「1on1 ミーティング(上司と部下が1対1で行うミーティング)→従業員満足度調査およびエンゲージメント・サーベイの実施→適切な改善策の実施→定期的な1on1による検証」……というサイクルを繰り返すことが有効です。

離職率につながる社員のマインドは日々変わるもののため、定期的に行っていく必要があるともいえます。

続けることで、ネガティブな離職を防いでいく効果が期待できます。

 

 

離職率とは、企業の労働環境を示す一側面であり、低ければ良い企業、高ければ悪い企業、と一概に評価することはできません。

転職が当たり前になってきた現代では、むしろ離職率の高さがプラスになることも考えられます。

離職率という数字はもちろん大切ですが、その中にはさまざまな理由があるもの。

本当に大切なことは、企業として目指す姿の中での離職率となっているか、ということや、数値だけではなくその裏にある離職理由=社員の声を知ること、です。

離職理由についてはアンケートなどを活用し、できれば突然の離職……となってしまう前に把握できる仕組みを整えておきましょう。

 

 

※厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~ パンフレット(簡易版):高年齢者雇用安定法改正の概要」

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694688.pdf

 

【監修者プロフィール】

 

吉田 寿

HRガバナンス・リーダーズ株式会社 

指名・人財ガバナンス部 フェロー 

BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ

 

早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。

富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパル、ビジネスコーチ常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを経て、202010月より現職。

“人を基軸とした企業変革の視点から、人財マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織・人財戦略コンサルティングを展開。

中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2008年~2019年)。

早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

主要著書『働き方ネクストへの人事再革新』(日本経済新聞出版)等多数。

 

 

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