離職率が高い職種といって、真っ先に思いつくのが「営業職」。
第二新卒、既卒、フリーターをサポートする人材紹介会社『UZUZ』の第二新卒者向けのアンケート調査でも、前職で最も多い職種は営業職という結果が出ています。
なぜ、営業職は離職率が高いのでしょうか?
現在、営業職の離職率の高さに悩んでいる企業は、どのような対策を講じることができるのか、具体的な対策についてみていきましょう。
慢性化する「営業職」の人材不足。原因は「離職率の高さ」
常時、人材が不足している職種といって、まず、名前が挙がるのが「営業職」です。
人材紹介会社「UZUZ」が第二新卒者・既卒で就職活動中の20代男女を対象に行ったアンケート※1によると、26.7%が前職の職種は営業職と回答しています。
他の職種と比べて断トツという結果です。
なお、続く第2位は「サービス(接客・介護・保育・美容など)」で全体の16.1%。
第3位は、「技術・専門職(エンジニア・研究開発)」で12.0%となっています。
出典:
株式会社UZUZ「【2019年度版】第二新卒・既卒・フリーターの20代若手人材向け就職活動実態調査」
https://uzuz.jp/news/release_191010/
転職先を探している第二新卒者の中で前職の職種(または現在の職種)として最も多いものが営業であることから、他の職種と比べて営業職の離職率が高いことが伺えます。
ちなみに、転職サービス「doda」の「転職理由ランキング2020年度※2」を見ると、営業系の転職理由ベスト3は、「会社の将来性が不安」「他にやりたい仕事がある」「業界の先行きが不安」という結果でした。
他にも、給与に対する不満、残業の多さや休日が少ないことに不満を持って転職をする方も多いことがわかります。
順位 |
転職理由 |
割合 |
1位 |
会社の将来性が不安 |
11.6% |
2位 |
他にやりたい仕事がある |
11.4% |
3位 |
業界の先行きが不安 |
11.1% |
4位 |
給与に不満がある |
8.8% |
5位 |
残業が多い/休日が少ない |
5.9% |
6位 |
市場価値を上げたい |
5.5% |
7位 |
顧客のためになる仕事がしたい |
3.5% |
8位 |
幅広い経験・知識を積みたい |
3.5% |
9位 |
会社の評価方法に不満がある |
3.4% |
10位 |
U・Iターンしたい |
3.2% |
営業職の内容によっても離職率はさまざま
営業職とひとくちにいっても、実際、扱う商材や営業の方法はさまざまです。
そのため、一概に「営業職=離職率が高い」とはいえません。
それでは一体、どういった営業職が、離職率の高さに悩んでいるのでしょうか。代表的なものをいくつか挙げてみます。
- 離職率の高い営業職の例
(1)新規顧客獲得の営業職
一般に、営業職の中でもっとも“過酷”といわれるのが、新規顧客獲得の営業職です。
電話や飛び込み、ポスティングなど手段はさまざまありますが、「どれだけ頑張って営業活動をしても成果につながらない」「数字が伸びず、上司から厳しく叱られる」といった不満もよく聞かれます。
新規顧客獲得の営業職は一般に、数ある営業職の中でも、「体力」「精神力」のどちらも必要とされる営業職といわれています。
確かに、どれだけ努力しても数字に結びつかなかったら、精神的にまいってしまうのも当然。
体力、精神力ともに限界を迎えた結果、離職につながってしまうのかもしれません。
(2)ノルマのある営業職
2019年7月、ある生命保険会社が保険料を二重払いさせるなどの不適切な販売問題を起こしたことを皮切りに、金融、不動産、製造業などで、営業職に対してノルマを課すことを廃止する動きが広がりました。
とはいえ、完全にすべての企業でノルマがなくなったわけではありません。
いまだにノルマに苦しんでいる営業職が多いのも、事実です。
仮にノルマがなくなったとしても、営業職の人たちがなんの縛りもなく働けるようになったかというと、そうとは限りません。
「昨年の数字を超える」「同僚や後輩の数字と比較される」などといったことにより、ノルマがなくなっても数字に縛られる状況はあまり変わらないでしょう。
(3)出来高払い制の営業職
売上高に応じて給料が支払われるタイプの営業職も過酷なことで知られています。
確かに断トツで売り上げを伸ばすトップセールスの人たちや、驚くような年収をもらっている人たちもいます。
しかしその一方で、多くの営業職は不安定な給料に悩んでいます。
成績が良い月には余裕があるけれど、成績が落ち込んだ月には最低賃金ほどしかもらえない。
それでは生活もままなりませんし、子育てや老後など将来を見通すことは難しいでしょう。
このように過酷な営業職がある一方で、離職率が低く、安定して人材が働いている営業職もあります。
続いて、比較的に定着率が高いと考えられる営業職を挙げてみましょう。
- 離職率の低い営業職の例
(1)ルート営業
元々取引のある顧客に対してより細かなフォローやセールスを行っていく「ルート営業」。
一般的な営業が、新しく顧客を獲得することを目的とするのとは異なり、ルート営業は「既存顧客」を対象とするため、「顧客を獲得しなければ」というプレッシャーはありません。
もちろん、既存顧客の現状やニーズを丁寧にヒアリングし、それに沿って商品や戦略の提案をしていくのが仕事ですから、「共感」や「傾聴」のスキルは必要です。
しかし、難易度を考えれば新規顧客の営業よりは、比較的取り組みやすく、営業未経験でルート営業を始める人も少なくありません。
(2)顧客拡大
休眠顧客の復活や、新しい販売チャネルの開拓、問い合わせからの成約率向上などにより、顧客の拡大を目指す営業職も、新規顧客の獲得ほど難易度は高くありません。
ある程度、顧客となることが見込まれる人たちとのつながりがあり、ゼロから関係性を築く必要がないからです。
このように、「どのように営業するか」「誰を相手にするか」によって、営業職の難易度は変わってきます。
また、企業規模によっても、営業職に課せられる負荷は変わってくるでしょう。
企業規模が大きければ大きいほど、福利厚生や会社の制度がしっかり整っていることが多いので、営業職にもある程度の配慮が行われていると考えられます。
また、外資系企業か日本企業かによって、営業職に対する負荷は異なるでしょう。
一般に外資系企業の方が、日本企業より成果重視の風潮が強いため、日本企業に比べ、外資系企業の営業職の方が、ハードワークになりがちです。
ここまで見てきたように、営業職によっても仕事の難易度は違いますし、必ずしも「営業職=離職率が高い」とはいえないでしょう。
特に営業職の離職率が高い業界はどこ?
営業職の離職率は、業界によっても異なります。
それでは、営業職の離職率が高い業界はどこでしょうか。代表的なものを挙げてみます。
- 営業職の離職率が高い業界の例
(1)生命保険・不動産・金融関連
これらの業界における営業職は、新規獲得営業がメインです。
また、扱っている商品が高額である場合が多く、さらに商品自体に形がなく目に見えないため、なかなか成果に結びけるのが難しい業種でもあります。
さらに、アポを取らずに飛び込みで個人宅や企業をまわり、営業することも多く、体力や精神面でストレスを感じやすい職業です。
もちろんその反面、契約が成立すれば多額の報酬をもらえることもありますが、その契約を手にするために、休日返上で営業活動を行ったり、1件の契約を成立させるために半年以上かかったり……。
生命保険の営業の場合は女性が多く、時間も融通が利きやすいので、子育て中の人にとっては働きやすいかもしれません。
しかし、出来高制により成績が給料に跳ね返ってくることも多いので、安定して給料を手に入れたいという場合は難しいかもしれません。
(2)小売り、卸売り
百貨店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアなどでの営業職は、労働時間が不規則で深夜に及んだりすることも珍しくありません。
また繁忙期は過重労働になりやすくハードワークであるにも関わらず、あまり高額な給料を望むことはできません。
さらに、店頭など現場での営業を任された場合は、明確なスキルアップやキャリアパスを描くことは難しく、そのため、働くことへのモチベーションが損なわれるケースもあります。
(3)パチンコ・パチスロ(スロット)
顧客であるパチンコホールなどに、自社の取り扱い製品を販売するのが仕事ですが、営業先との商談が夜間になることが多く、また、土日の勤務も珍しくありません。
そのため、プライベートな時間を確保するのが難しくなり、退職者が増えてしまう傾向にあります。
(4)自動車販売
これも不動産同様、扱う商品が高額であるため、目標達成が困難な営業職です。
加えて、近年では自動車の保有率も減少しており、今後もますますシビアな労働環境になっていくことが予想されます。
- 営業職の離職率が低い業界の例
それでは反対に、営業職の離職率が低い業界には、どういったものがあるのでしょうか。代表的なものを見てみましょう。
(1)メーカー系
食品メーカーや機械メーカーなど、さまざまな種類がありますが、これらの場合は新規顧客開拓よりも、むしろ、深耕営業やルート営業が中心になります。
これらは、既存の顧客に対してこまめな営業活動を行うことで、さらに関係性を深めていき、新たなニーズを探ったり、取引を増やしていったりする営業活動です。
そのため、飛び込み営業やアポなし訪問のようなプレッシャーは少なくなり、給料面でも安定を期待することができます。
(2)電力、ガス業界
電力やガスなどのライフラインは、人間が生きていくうえで必要不可欠なもの。
近年では電力やガスの小売りが自由化されたことにより、以前に比べて営業活動は格段に活発になりましたが、それでも、他の業界に比べればまだ熾烈なものではありません。
また、業界全体が安定していることから、定年まで腰を据えて働く人も少なくないようです。
営業職が安定して働ける組織づくりとは?
それでは現在、営業職の離職率の高さに悩んでいる企業が、営業職の離職をストップさせ、安定して働ける組織に変革していくためには、どのようなことから着手すれば良いのでしょうか。
ここでは、今すぐ取り組みたい改善策を、具体的に紹介していきます。
- 営業職の離職率を上げないために企業ができること
(1)労働環境を見直す
営業職の離職率を高めている要因の一つが、労働環境の悪さです。
確かにかつては、「営業職は土日祝日関係なし」「いつでも顧客から呼び出しがあったら駆けつけなければならない」などといったことが、暗黙の了解としてまかり通っていました。
しかし現在は、政府が率先して働き方改革を促進していることもあり、そのような働き方をさせていれば、「あの企業はブラックだ」とたちまち社会的に批判を浴びてしまうでしょう。
さらに、営業先の企業までも、「取引先の社員に、ブラックな働き方を要求している」と、非難の対象になってしまいます。
こうした事態を防ぐため、ある企業では社長名で「当社は働き方改革に専念します。そのため、夜間や休日の急な呼び出しはお控えください。」という文書を作成し取引先に配布しました。
また別の企業では、夜8時以降はオフィスの電話を自動応答に切り替え、物理的に顧客との接点を遮断しました。
このように、まずは営業職の労働環境を見直し、労働時間管理を徹底することが必要です。
社長が率先して対策を採ることで、営業職に「うちの会社は、社員を大事にしてくれる」と印象づけ、会社へのコミットメントが強まるでしょう。
(2)給与体制を見直す
企業によっては出来高制を定めているところもあります。
その場合、成績が良い社員には多額の報酬を与えますが、成績が悪ければ収入はそれに見合ったものになります。
営業成績の良いトップセールスは、それで満足かもしれませんが、大半の営業職は毎月収入が不安定になり、それが大きなストレスになることも少なくありません。
こうした問題を解決するため、ある企業は毎月の歩合給を廃止し、その代わり、年2回のボーナスに成績を反映させました。
当然、成績が良くない人はボーナスの金額が減ることになりますが、その反面、毎月の給料は成績に左右されず、安定して支給されることになったため、結果的に営業職の離職が減り、定着率が改善しました。
特に子育て世代など、毎月一定額の支出が必要になる場合、給料が安定しているか、そうでないかはとても重要な問題。離職率に悩む企業は、給与体制を見直す必要があります。
(3)ノルマを見直す、または、廃止する
営業職のモチベーションをアップするために、ノルマを課す、という企業もあるでしょう。
しかし大半の場合、ノルマは功を奏すよりもむしろ、営業職の心身を疲弊させ、大きなストレッサーとなっています。
- ノルマが不可欠な営業職には細やかなメンタルケアも重要
とはいえ、企業の業績を確保するために、どうしてもノルマを設定しなければならない、と考える企業もあるでしょう。
その場合は、営業職のメンタルをどうケアするか、という視点がとても大切になってきます。
「労働安全衛生法」が改正され、従業員が50人以上いる事業所では、2015年12月から、毎年1回、社員に対してストレスチェックを実施することが義務付けられるようになりました。
これに伴い、社内に産業カウンセラーや産業医、セラピストなどを置き、社員のメンタルケアを積極的に図ろうとする企業も増えてきました。
そうした流れを受け、現在では「ウェルビーイング」を前面に押し出した取り組みを始める企業も目立っています。
ウェルビーイングとは、簡単にいえば、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること。
言葉の意味としては「幸福」と翻訳されます。
心身ともに健康で、パフォーマンスを上げる人をどう育てていくか。
この点に、企業は情熱を傾けるべき時代になりつつあります。
- 課題の早期発見には社内コミュニケーションの見直しが大切
新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークが普及しつつある現在では、社員間のコミュニケーションが絶対的に不足していると考えられます。
表には見えにくい課題を見つけるには、「社員同士の連絡を密にする」、「世代間で相互理解を深め、意思の齟齬を解消する」といった、社内のコミュニケーションを見直す施策が役立つはず。
そうした地道な努力が営業職の精神的な負荷を軽減し、安定して働ける企業へと改革していくのです。
コミュニケーションが活性化すれば社員間の交流が生まれ、会社の一体感をつくることができ、離職率を低下させることにも役立つでしょう。
※1 株式会社UZUZ「【2019年度版】第二新卒・既卒・フリーターの20代若手人材向け就職活動実態調査」
https://uzuz.jp/news/release_191010/
※2 転職サービス「doda」(パーソルキャリア株式会社)「転職理由ランキング2020年度<職種別>」
https://www.saiyo-doda.jp/lp/ma/reason/002.html
【監修者プロフィール】
吉田 寿
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
指名・人財ガバナンス部 フェロー
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。
富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパル、ビジネスコーチ常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを経て、2020年10月より現職。
“人”を基軸とした企業変革の視点から、人財マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織・人財戦略コンサルティングを展開。
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2008年~2019年)。
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。
主要著書『働き方ネクストへの人事再革新』(日本経済新聞出版)等多数。