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新型コロナウイルス感染症の蔓延により、日常はもちろん働き方も大きく変化しましたが、その一つにテレワーク(リモートワーク)があります。

テレワークは、従業員の会社に対する愛着心、エンゲージメントに悪影響を及ぼすともいわれますが、一方で仕事の生産性向上につながるという意見もあり、その評価は定まっていません。

今回は、今後より一層浸透していくことが考えられる、テレワーク下でのエンゲージメントに関する考え方を探っていきましょう。

 

テレワークでエンゲージメントは低下する?

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  • 顔を合わせない、雑談ができない……エンゲージメント低下への不安

新型コロナウイルス感染症の対策として、企業に急激に広まったテレワーク(リモートワーク)。

オフィスワークで慣れ親しんできたコミュニケーション機会が減るといった理由から、エンゲージメントの低下を案じる声も少なくありません。

 

株式会社月刊総務が2020年10月、全国の総務担当者を対象に行った「モチベーションに関する調査※」によると、社員同士で顔を合わせる機会が減ることで「モチベーションに影響がある」と各企業の総務担当者が回答した割合は82.6%にも及んだことがわかりました。

 

しかし、テレワークによってエンゲージメントは本当に下がったのか、については、より掘り下げて整理する必要があると考えます。

 

テレワークで下がったのは「従業員エンゲージメント」

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  • まったく違う2種類のエンゲージメント

なぜ「より掘り下げて整理する必要がある」かというと、実は「エンゲージメント」は2種類に大別され、それぞれの意味合いが違うからです。

 

2種類それぞれの「エンゲージメント」について説明します。

 

1)従業員エンゲージメント

いわゆる「組織(会社、仲間、同僚)」に対する感情や認知の状態、もっといえば「思惑が一致しているかどうか」を示す指標です。

たとえば「会社の方針に共感しているか」「会社への愛着はあるか」「組織との一体を感じるか」といった要素が見られます。

 

 

2)ワークエンゲージメント

会社などの組織ではなく、「仕事」そのものに対してもつ感情や認知の状態を示す指標です。

 

たとえば「仕事をしていると活力がみなぎるか」「仕事に誇りややりがいを感じているか」といった要素が見られます。

 

どちらのエンゲージメントも、忠誠心のように上下関係をもとにした指標ではなく、会社や仲間などとの対等性を強調しているところが特徴ではありますが、意味合いはそれぞれ違いますし、定義などもばらつきが見られます。

 

 

また、従業員エンゲージメントが人によってさまざまに解釈される一方で、ワークエンゲージメントは学術的な研究も進んでおり、より厳密に定義されています。

 

  • どちらの「エンゲージメント」が下がったのか?

「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」はこれほどまでに違うものですが、先に「エンゲージメント」という言葉で広く知られるようになったためか、この二つを明確に区別しない調査や、混同している記事なども珍しくありません。

 

先出の調査では「会社の方向性を伝えにくくなったことで『社員のエンゲージメントが低下』」という点から、下がったのは二つのエンゲージメントのうち「従業員エンゲージメント」であったと推測されます。

 

  • 「従業員エンゲージメント」は上げるべきか?

実はこの従業員エンゲージメントについては、「収益性との相関がある」という報告はあるものの、学術的には未だ収益性との相関は認められていません。

 

会社への愛着や共感だと考えると、従業員エンゲージメントが高い方が良いのは確かではあります。

ただし、事業活動へのメリットという意味では、わざわざリソースを割いて対策するほどの効果があるかは疑問視されているというのが実情です。

 

 

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テレワークでも「ワークエンゲージメント」は高められる!

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  • ワークエンゲージメントには多くのメリットが

ワークエンゲージメントはこの概念を提唱したオランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らによって研究が進められ、ワークエンゲージメントに関わる要因や関係性を示した「JD-Rモデル」が登場しています。

出典:

厚生労働省ホームページ

令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-

第Ⅱ部 第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて

P.23 第2-(3)-8図

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf

 

JD-Rモデルによると、ワークエンゲージメントを高めることには次のようなメリット(ポジティブなアウトカム)が見られるとされています。

 

・組織コミットメントの向上

・仕事のパフォーマンスの向上

・仕事の革新性・創造性の向上

・自発性の向上

・離職率の低下、定着率の向上

・健康増進

……など

 

仕事そのものにポジティブに取り組めている状況ですので、パフォーマンスや革新性、自発性などはおのずと上がると考えられます。

また、仕事が好調であれば、それを支えてくれる組織へのコミットメントも向上し、離職を考えることも減るでしょう。

 

上述の資料によると組織コミットメントには『企業の理念等や担当業務の意義等を理解した上で、企業の組織風土に好感もっている』といった要素があり、従業員エンゲージメントの向上と近いメリットがあると考えられます。

 

  • テレワークはワークエンゲージメント改善のチャンス

さらにJD-Rモデルを見ていくと、テレワークはワークエンゲージメント向上のチャンスであることもわかってきます。

 

ワークエンゲージメントに関わる要因となっている「仕事の資源」の中には「裁量性、コントロール」という項目があります。

自分のペースで仕事ができる、つまり裁量性がありコントロールが効きやすいテレワーク下では、生産性が上がるとともにワークエンゲージメントを高めることも期待できるのです。

 

テレワークをワークエンゲージメント向上のために活かすには、本人にとってやりがいの感じられる仕事内容に加え、仕事への良い刺激になる適度なコミュニケーションや、「テレワークによってマネジメントの目が届かなくなった」と感じさせない適切なサポート、適切な評価などの体制が欲しいところです。

 

  • 「会社への愛着」にこだわると逆効果になることも

ワークエンゲージメントが高まれば、離職率も下がるのですから「会社に愛着がなくても、仕事が面白ければ社員は辞めない」ということがわかります。

しかしそれでも会社、特に経営者の立場にあると、テレワークで従業員エンゲージメントが下がることに、理屈ではない不安を感じるかもしれません。

 

ことによっては、顔を合わせるためだけに出社を強いたり、親睦を図ろうと全員参加の社内行事を企画したりということもあるでしょう。

しかし実際には「コロナ禍で社内の飲み会がなくなって楽になった」というようなビジネスパーソンも少なくありません。

従業員エンゲージメントにこだわるあまり、むしろテレワークに順応している社員とのズレが広がってしまいかねないのです。

 

重要なのは、テレワークを継続しながらワークエンゲージメントを高められるかどうかです。

「テレワークだから社員の気持ちが離れてしまう」と諦めずに、社員にとって「仕事が面白い」「やりがいを感じる」「仕事から学びを得られた」という状況をつくれるようにサポートしていきましょう。

それが巡り巡って、やがて「良い仕事をさせてくれる会社に愛着を感じる」ことにつながります。

 

 

テレワーク下のワークエンゲージメント、その注意点

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  • ワークエンゲージメントが高いと働き過ぎてしまうリスクも

ここまでお伝えしてきたとおり、テレワーク下でワークエンゲージメントを高めることには多くのメリットがありますが、その一方で、注意したい点もあります。

ずばり「働き過ぎ」です。

 

特にテレワークの環境下では、同僚がいつ始業終業しているのか把握できず、長時間労働に気づきづらいといったリスクもあります。

エンゲージメントの高さからくる長時間労働だけでなく、より危険度が高い「ワーカホリック(仕事中毒)」状態でないかも、見極めが必要です。

 

 

もともとワークエンゲージメントは、ワーカホリックの研究で見いだされた対立概念でした。

同じようにやる気がある風に見えても、エンゲージメントの高い状態とワーカホリック状態はまるで違うのです。

 

たとえば、毎日遅くまで残業するのが常態化している、いわゆるブラック企業の社員がいたとします。

仕事上のプレッシャーなどで追い込まれてしまい、自律性を失ったある種の洗脳状態になって「やるしかないんだ」と働いている状態、これがワーカホリック状態です。

この状態に陥ると、いずれは燃え尽き症候群、いわゆるバーンアウトを起こして心の健康を損ね、何もできない状態になってしまいます。

 

 

ワークエンゲージメントが高い社員は自ら望んで働いている状態なので、同じように遅くまで残業をしていても、心の健康を損ねるリスクはそれほど高くないとされています。

しかし、度を越した働き過ぎが続くと、今度はいよいよ身体の健康を損ねてしまいます。

 

  • 定期的なワークエンゲージメント調査で一人ひとりに応じたケアを

ワーカホリック状態の方には「一見やる気はあるものの、ワークエンゲージメントが低い」という特徴も見られます。

労務管理や業務上でのマネジメントはもちろんのことですが、定期的なワークエンゲージメント調査と、調査結果に応じたケアを行っていくことも重要です。

 

 

社員のワークエンゲージメントを強化しつつ、退職リスクの高いワーカホリック状態の社員も適切にケアしていくには、一人ひとりの日々の勤務状況やコンディションの把握が欠かせません。

テレワーク下でも、オンラインで良い意味で密なコミュニケーションが取れるよう、社員を取り巻く体制や環境を見直してみましょう。

 

株式会社月刊総務 月刊総務オンライン

『テレワークで会社の方向性を伝えにくくなったが8割。社員のエンゲージメント低下を実感』

https://www.g-soumu.com/articles/linkage-2020-11-motivationquestionnaire

 


 

 

【監修者プロフィール】

監修者(曽和氏) 

曽和 利光

株式会社人材研究所 代表取締役社長

人材採用力検定協会理事

日本ビジネス心理学会理事

 

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

 

 

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