働き方改革の推進により、多くの企業でテレワークの導入が進んでいます。
本記事では、テレワークを導入する企業の現状やよくある課題、その対策について解説します。
目次
- テレワークとは
- テレワーク導入の現状
テレワークを廃止する企業も増えつつある
オフィス出社に戻すことで退職者の増加が危惧されるケースも
オフィス勤務へ回帰する傾向も
N社におけるABW導入の事例 - テレワークにおける課題
テレワークに適した環境やツールの不整備
社内におけるコミュニケーションの不足
労働時間・業務量が人によって曖昧になる
社員のメンタル面の変化を感じとりづらい
新入社員に対する十分な研修や教育ができない
納得度のある人事評価や基準の設定が困難 - テレワークの課題を解決する対策
オンラインコミュニケーションツールの導入と活用
定期的なミーティングの量と質を見直す
タスク管理ツールの導入
メンター制度の導入
コアタイムなどの労働時間の明確化と管理 - テレワークを効果的におこなうためのポイント
社員の意見や状況を定期的に把握する
サーベイを実施して社員の意見をリアルタイムで把握する
雑談の機会を積極的に作る
オフラインで話せる機会やイベントを作る
ハイブリッドワークの検討もおこなう - テレワークの成功事例
- Geppoならテレワーク中に抱えている課題もリアルタイムに把握できる
- まとめ
テレワークとは
テレワークとは、時間や場所にとらわれない働き方を指します。パソコンやタブレット、スマホなどの情報通信機器を活用して、オフィス以外の場所で仕事をおこないます。
テレワークは主に、以下の3つの種類があります。
形態 |
説明 |
在宅勤務 |
社員が自宅で仕事をおこなう形態。自宅に必要な設備を整え、オフィスに出向くことなく業務を遂行する。 |
モバイルワーク |
社員が外出先や移動中など、さまざまな場所で仕事をおこなう形態。 スマートフォンやノートパソコンなどのモバイルデバイスを活用する。 |
サテライトオフィス勤務 |
企業が本社以外の場所に設けたオフィス(サテライトオフィス)で仕事をおこなう形態である。通勤時間の短縮や、地域密着型の業務に有効。 |
これらの形態は、社員の生産性向上、ワークライフバランスの改善、通勤時間やオフィス維持費の削減など、さまざまなメリットをもたらします。
ただし、セキュリティ対策やコミュニケーション方法など、新たな課題にも対応する必要があります
テレワーク導入の現状
出典:公益財団法人 日本生産性本部 第13回働く人の意識に関する調査
2020年5月時点で、テレワークの実施率は31.5%に達していました。これは、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが世界中で深刻化し、多くの企業が社員の健康と安全を守るためにテレワークを導入した経緯があります。
しかし、2023年7月にはテレワークの実施率が15.5%まで低下しています。この減少は、同年5月に新型コロナウイルス感染症の位置づけが2類相当から5類に移行し、行政が要請・関与する仕組みから、国民の自主的な取組へと変更されたことが影響していると考えられます。
出典:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について
テレワークを廃止する企業も増えつつある
テレワークの実施がピーク時と比べて大きく低下し、廃止した企業も少なくありません。その理由としては、あくまでパンデミック中の暫定的な措置であったこと、帰属意識の低下など、後述する課題が浮き彫りになったことが挙げられます。
特に仕事のオンオフが切り替えにくかったり、コミュニケーションに課題が生じたりする課題が業務の生産性低下に直結しやすいというのも背景として考えられます。
オフィス出社に戻すことで退職者の増加が危惧されるケースも
パンデミックの期間中に導入されたテレワークは、社員の生活の質を高める利点が多くあります。たとえば、通勤時間の削減、ワークライフバランスの改善、柔軟な勤務時間の設定などが挙げられます。そのため、テレワークを継続したいと望む社員も多い可能性があります。
テレワークを廃止し、オフィスへの出社を再開することで、テレワークを希望する社員がテレワークが可能な会社に転職する可能性があり、退職者の増加につながる危険性があります。
オフィス勤務へ回帰する傾向も
出典:帝国データバンク「新型コロナ「5 類」移行時の働き方の変化に関する実態調査」
新型コロナウイルスの影響が薄れ、社会的な制約が緩和されるにつれ、多くの企業が社員にオフィスへの出社を再度求め始めています。実際にテレワークによって、生産性が低下したと感じる企業も少なくないため、対面での仕事を重視する企業が多いのも事実です。
帝国データバンクの調査によると、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「2類」から「5類」へ移行された場合、自社の働き方が新型コロナ前と比較してどの程度変化するのか尋ねたところ、「半分以上異なる」と回答した企業は15.5%にのぼります。
また、「2割程度異なる」(22.5%)も含めると「新型コロナ前と異なる」働き方を検討する企業は 38.0%以上となります。
一方で、単にテレワークを全面的に取りやめるのではなく、ハイブリットワークやActivity Based Working(ABW)を導入することでバランスの良い働き方を模索する企業も増えています。
出典:帝国データバンク「新型コロナ「5 類」移行時の働き方の変化に関する実態調査」
N社におけるABW導入の事例
N社では、2020年10月に本社を移転すると同時に、「Activity Based Working(ABW)」という働き方を導入しました。この働き方では、社員がその時々の仕事内容に合わせて、働く場所を自由に選べるようになっています。
コロナ禍による全社的な在宅勤務導入は、管理職がリモートでの組織運営を学び、「やればできる」という自信につながりました。出社率は約30%で、社員は出社する「意味」が明確になってきており、チームビルディングの重要性をあらためて認識しています。
テレワークにおける課題
テレワークは、移動時間の削減や社員のライフスタイルに寄り添った柔軟な働き方ができるといったメリットがある一方で、さまざまな課題があるのも事実です。ここでは、テレワークにおける主な課題に焦点を当て解説します。
テレワークに適した環境やツールの不整備
テレワークを効率的におこなうためには、安定したインターネット接続が必要です。ビデオ会議、クラウドへのアクセス、大容量ファイルのダウンロードやアップロードなど、多くの作業がインターネット経由で行われるため、安定したネットワーク環境が不可欠です。
また、テレワークでは企業の重要なデータに離れた場所からアクセスします。そのため、VPNの利用、二要素認証、アンチウイルスソフトの導入など、適切なセキュリティ対策を施すことが重要です。さらに、従来の紙ベースの書類や押印が必要な承認フローをデジタル化するためのワークフローツールの導入も大切です。
しかし、これらの環境が不整備であると、出社の必要が生じたり環境の整備に対する一定の費用がかかったります。
社内におけるコミュニケーションの不足
テレワークでは、物理的な距離があるため、日常的な対面でのやり取りが減少します。その結果、さまざまな問題が発生することがあります。
個々人が自分に割り振られた業務に集中しやすくなるテレワークでは、チームやメンバーとの日常的な会話が減少し、コミュニケーションが業務内容のみに偏りがちになります。
業務中心のコミュニケーションで社員同士の交流が少なくなると、組織への帰属意識や仕事へのエンゲージメントを低下させてしまう場合があります。チームの一体感やモチベーションの低下にもつながり、結果的に仕事の質や生産性に影響を与えかねません。
労働時間・業務量が人によって曖昧になる
テレワークにおける労働時間や業務量の管理があいまいだと、社員の労働時間や業務量にバラつきが生じます。
テレワークによって仕事とプライベートの境界が曖昧になり、結果的に長時間労働や残業が増えるケースがあります。特に、残業が認められない環境では、労働時間が適切に管理されず、過重労働に陥るリスクが高まります。一方でプライベートを重視してしまい、与えられた仕事をこなせなくなる社員もいるでしょう。
また、テレワークでは、社員の作業環境や業務の評価基準が異なることがあります。これにより、業務量の管理や公平な評価が困難になり、負荷が一部の社員に集中する可能性があります。
出典:厚生労働省「テレワークを巡る現状について|テレワークで感じた課題②【労働時間】」
社員のメンタル面の変化を感じとりづらい
テレワーク環境では、オフィス勤務と比べて直接コミュニケーションが減少し、社員の様子や心境の変化を把握するのが難しくなります。オンラインでのコミュニケーションでは、細かい表情を読み取るのが難しいため、心境の変化も見逃しやすいです。
社員の不満やストレス、孤独感などについて気付くことができず、結果的に放置している状態では社員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があります。
新入社員に対する十分な研修や教育ができない
テレワーク環境下では、新入社員の教育にも課題があります。テレワークでは先輩社員が常に隣にいる状態で質問への回答することや、作業を直接見ながらのフィードバックができません。そのため、新入社員の教育が十分におこなえない可能性があります。
また、対面でのコミュニケーションが少ないことから、企業文化や仕事の進め方に関する考え方が新入社員に十分に浸透しづらいという問題もあります。
納得度のある人事評価や基準の設定が困難
オフィスへ出社している場合は日々の努力や働きぶり、チームへの貢献やコミュニケーションスキルなど、定量的な成果だけでない価値を正確に把握できます。一方テレワークでは、定量的な成果以外の働きぶりが見えないため、人事評価をおこなうのも難しくなります。
社員が人事評価に納得がいかないと、生産性やエンゲージメントに影響を与えかねません。したがって、テレワーク時の人事評価の基準を明確に設定する必要があります。
テレワークの課題を解決する対策
テレワークにおける課題を解決するための対策として、主に5つ挙げられます。業務量やコミュニケーション問題、評価制度など、テレワークの課題を解決するためにとりうる制度や仕組み、ツール等を用いた対策について解説します。
オンラインコミュニケーションツールの導入と活用
社内のコミュニケーションは、業務以外の気軽な会話や相談ができる環境を作るのが重要です。改善策としては、気軽にコミュニケーションができるチャットツールを導入したり、バーチャルオフィスツールを利用したりする方法が挙げられます。
その際、テキストだけでやりとりするのではなく、オンラインにつないでカメラや音声で会話する機会も作るようにしましょう。
定期的なミーティングの量と質を見直す
業務の把握やコミュニケーション不足などを解消するためには、定期的なミーティングを出社時よりも意図的に増やす必要があります。特に進捗や共有については、実施回数だけでなくそのやり方も見直す必要があります。たとえば、週に1~2回の進捗報告ミーティングを設けると、より詳細な情報共有が可能になります。
また、業務の課題や改善点について話し合うために、月に1回程度のチームミーティングを開催するのも有効です。さらに、1on1は回数を増やすだけでなく、内容を具体的にし、業務だけでなく業務外で困っていることや不満はないかなどもヒアリングして、社員との信頼関係を構築するのも大切です。
タスク管理ツールの導入
テレワーク環境では、誰がどのような作業をしていていて、どの程度リソースが空いているのかが見えづらい状況になりやすいです。そのため、タスクの進捗状況やリソース状況を明確にする必要があります。
社員個人のタスクやリソースは、チーム全員が把握できるようなツールやWBS(Work Breakdown Structure)を活用するといいでしょう。どの作業に遅れが出ているのか、どのような場所で工数がかかっているのかを可視化できるため、作業効率の向上も期待できます。
メンター制度の導入
研修やOJTをおこなうだけでなく、テレワーカーに対するサポートとしてメンター制度を導入すると効果的です。メンター制度とは、先輩社員(メンター)と後輩社員(メンティ)が定期的に面談をおこない、会話を通じて後輩社員の自発的な行動や成長を促す制度です。
メンター制度では、新入社員やは経験豊富なメンターからの指導やアドバイスを受けられます。具体的には、Web会議などを使用して、定期的なミーティングや個別のサポートセッションを提供します。これにより、新入社員はオンライン環境でも適切な支援を受けながら成長できます。さらに、メンター制度はテレワーカーのモチベーションやエンゲージメントを高める効果もあります。
コアタイムなどの労働時間の明確化と管理
テレワーク環境での労働時間を管理するには、「コアタイムの設定」が効果的です。コアタイムとは、全社員が同時に働く必要がある指定された時間帯のことを指します。コアタイムを通じてチーム間のコミュニケーションや協働を促進しましょう。
一方で、育児や介護など個人の事情でテレワークをしている社員には、柔軟に対応できるようコアタイム以外の時間帯には労働時間を自由に調整できる環境が望ましいです。
テレワークを効果的におこなうためのポイント
テレワークを円滑におこない、作業の効率や生産性を高めるには、押えておきたいポイントがあります。ここではマネジメント職や人事側で、実施する上でのポイントを紹介します。
社員の意見や状況を定期的に把握する
テレワークを効果的に実施するためには、社員の意見や状況を定期的に把握することが重要です。社内全体で意見を収集することで、社員のコンディション、心境、テレワークへの意見などを客観的に把握できます。
その結果、何か課題が見つかれば改善策を構築してよりよい環境に整えていきましょう。
サーベイを実施して社員の意見をリアルタイムで把握する
サーベイとは全体像を把握するためにおこなう調査を指します。サーベイを実施すれば企業や個人の課題を可視化できます。また、定期的にサーベイを実施することで、課題の早期発見につながり、迅速に改善策を講じることが可能になります。
雑談の機会を積極的に作る
テレワークでは、業務に関するコミュニケーションが主になる傾向があるため、雑談の機会が大幅に減少してしまう場合もあります。テレワーク環境においても気軽にできる共有空間を設け、マネジメントやメンバーが意図的に雑談の機会を作ることが重要です。
オフラインで話せる機会やイベントを作る
テレワークのみでは、認識の共有が十分にできない場合もあります。特に新しく入ったメンバーは、既存社員と比べて背景や考え方などをゼロから構築する必要があり、オンラインでは不十分な場合が多いです。
定期的にオフラインで集まる日を設けたり、社内イベントやチーム内でのイベントを作り、新メンバーが気軽に相談できる環境を整えましょう。
ハイブリッドワークの検討もおこなう
生産性向上を目指す企業では、テレワークと出社のハイブリッドワークを検討するケースが増えています。いきなりテレワークを廃止してしまうと、テレワークで仕事をしたかった社員は不満を持つでしょう。最悪の場合は離職につながるかもしれません。
ハイブリッドワークは、テレワークの日と出社の日をうまく調整することで、社員と企業の両方に最適な環境が整えやすくなります。たとえば、テレワークを基本としながら、週に一度だけ出社日を設け、その日に部署やチームの会議をおこなうといった具合です。
テレワークの成功事例
次に、場所にとらわれない働き方を実現し、ワークライフバランスを確保している企業の事例を紹介します。
A社では、働き方改革という言葉が今ほど浸透していなかった2015年から独自の働き方改革をスタートさせました。
具体的には、時間や場所にとらわれない働き方によって社員のワークライフバランスの向上に寄与するため、テレワークの導入・推進を基軸とした取り組みをしています。労働時間の柔軟な取り扱いによる長時間労働の削減や、社員一人ひとりが固有の事情にあわせて多様な働き方を選択できるようにするなど、経営陣のコミットメントや社内周知の強化をはじめ、人事評価や人材育成の工夫やハラスメント対策への取り組みもおこなっています。
その他にも、女性活躍への取り組みも優れている点が評価され、2018年には「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」で「特別奨励賞」を受賞しました。
Geppoならテレワーク中に抱えている課題もリアルタイムに把握できる
テレワークを実施するなかで、社員が抱える課題や意見のリアルタイムな把握は、組織運営の効率化と社員満足度の向上に直結します。
Geppoは、リクルートとサイバーエージェントによる人材事業のノウハウが結集した、個人と企業の見えづらい課題を可視化できるサーベイツールです。
企業側は3つ+αの質問を設定し、社員はそれに回答します。回答を集計・分析すると、これまで見えていなかった課題を洗い出せます。定期的なサーベイの実施は課題の早期発見と改善につながります。
「テレワークで社員の問題が見えづらくなっている」「組織としてもっと最適な環境を提供できるのではないか」と考えている場合はぜひ一度検討してみてください。
以下の記事では、Geppoの導入によって、社員一人ひとりに個別のフォロー実現に成功した事例を紹介しています。あわせてご覧ください。
まとめ
テレワークは、場所や時間にとらわれずに働く方法ですが、非言語的な情報のキャッチやメンタルヘルスの把握が難しいという課題があります。また、新入社員の研修や教育、人事評価の設定も困難です。これらの課題を解決するためには、オンラインコミュニケーションツールの活用、定期的なミーティングの増加、タスク管理ツールの導入、メンター制度の導入、労働時間の明確化と管理などの対策が有効です。
さらに、社員の意見や状況を定期的に把握し、課題を解決していくことが重要です。テレワーク中の課題をリアルタイムに把握するためには、Geppoのサーベイツールが有用です。テレワークを効果的に実施するためには、これらの対策を活用し、継続的な改善を行っていく必要があるため、ぜひ検討してみはいかがでしょうか。
【監修者プロフィール】
木下 洋平
合同会社ミライオン
株式会社リクルートや教育研修会社での勤務後、現在は独立した専門家として活動。
キャリアコンサルタント資格を取得し、400人以上の個人のキャリア開発をサポート。
また、企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングも手掛けており、個人と組織の両面での支援を行っている。