日本でも緊急事態宣言発令以降、「強制在宅ワーク」とも言えるリモートワーク状態が今までにないスピード感で実装・運用され、オフィスワーカーを中心に徐々にこの新しい働き方が一般化してきていることを実感します。
また緊急事態宣言解除後も、この潮流は色濃く残ると考えられます。
こうしたリモートワークの浸透は、通勤のストレスを解消などポジティブな側面もありますが、一方で、対面でのコミュニケーションや物理的な運動時間の減少などのネガティブな影響も及ぼしています。
家庭のあるビジネスパーソンにおいては、お子さんがいる環境での仕事にはなかなか今までと勝手が違う感覚を持たれている方も多いのではないかと思います。
そのような変化の中、従業員の皆さんには新しい、見えないストレスが蓄積しています。
また今まではオフィスで気づいて解決できたことが、在宅になったことにより気づく機会がなくなってしまい、解決できる問題の総量も減ってきていることも事実です。
今回このような多くの人間が初めて目の当たりにする「新しいストレス社会」に対する対応について考えるべく、最新技術でストレス課題を解決するスタートアップ「テックドクター」の代表を招いて、最新のストレスマネジメントについてレクチャーいただきます。
【登壇者情報】
2020年6月19日 (金)
大学発・最先端医療系ベンチャーに聞く!
テレワーク時代の最新メンタルストレスソリューションとは?
■スピーカー
湊 和修
株式会社テックドクター 代表取締役
~略歴~
慶應義塾大学文学部卒業
サイバーエージェント 広告代理店部門 メディア局長
2012年より米国サンフランシスコにて新規事業 副社長
2014年データ新規事業「AIRTRACK」起案 立ち上げ
位置情報広告事業AIRTRACK事業責任者
米国Twitter社イノベーションチャレンジ 最優秀賞受賞
2018年より慶應義塾大学医学部 研究員
慶應IoT健康経営プロジェクト プロジェクトマネジャー
2019年より 株式会社テックドクター 代表取締役
■モデレーター
渡邊 大介
株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジー(Geppo)
取締役
~略歴~
青山学院大学国際政治経済学部卒業
2006年、株式会社サイバーエージェントに入社。
広告部門にてアカウントプランナー、マーケティング部門の立ち上げを歴任。
大手メーカー、外資通信企業の大型コミュニケーションを担当。
2011年より新規事業部門に異動し、複数のB2Cアプリケーションのマネジメントを統括。
2014年より同社人事採用責任者に就任し、HRとマーケティングの融合を目指す。
2016年にリクルートとサイバーエージェントの合同新規事業プランコンテスト「FUSION」においてグランプリを受賞し、翌年株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジーを設立し、現在に至る。
データで調子を可視化する
湊 先ほど簡単に自己紹介させていただいたのですが、テックドクターはデータから自分の中のことが色々見えるよねっていうことをやっている会社です。
「How are you?」や「調子どう?」という挨拶をするように、人間というのは何となく相手の顔色とか調子を分かったうえでコミュニケーションを始めているんだなと思います。
この調子をデータで、自分でマネジメントして良くしていけるようになったらいいなということを考えています。
今日は、精神センシングデータを活用したオフィスの研究というのをやっているので、その研究結果のお話と、生産性を向上させたいという話が非常に多いので、そのために何をやっていけばいいかということを研究結果からお話しします。
あとは、ウェルビーイングという言葉を聞いたことがある方は多いかもしれませんが、ストレスとウェルビーイングがどのように関係しているかという話、自立型マネジメントのポイントについて、ツールとその方法についてお話をしたいと思っています。
会社で働いている人の多くは軽度のうつ症状!?
湊 心のパーソナルトレーニングをはじめよう、ということをやっていまして、アンケートを取ってみると実は週の半分以上調子が悪いと答えている人が41%いることが分かりました。
うつ病のサーベイを取ってみると職場環境の中で50%以上の人が軽度のうつ傾向があるというような結果が出ました。
確実な診断ではないですが、そういった傾向があるというような答えをしています。
精神的な状態というは1日の中でも随分変化があり、朝良くても夜悪いなど色々あるのですが、職場で聞くと結構うつの傾向があるという風に思っています。
エンゲージメント?
湊 ワークエンゲージメントという言葉を科学的に定義しているものを調べてみたのですが、仕事に熱意や誇り、やりがいを感じたり、仕事に没頭している、熱心に取り組んでいるっていうことと、その仕事から活力を得て生き生きとしている状態が高いということらしいです。
渡邊 広告と同じく人事業界にもこういうバズワードというか、毎年トレンドになる言葉って結構あると思うんですけど、そういう言葉の中では結構エンゲージメントって根強く残っている言葉の1つだと思うんですよね。
僕らがこの会社を作る前からエンゲージメントという言葉は少なくとも聞いていたので、3,4年は生き残っている言葉かなと思いますし、これ自体が悪いという人はあんまりいないと思うんですよ。
言葉で定義すると、熱意とか没頭とか活力とかそういったものは確かにイメージとして違和感はあまり生まれないかなと思うのですが、実際どうやって計測してどうなったらエンゲージメントが高い状態なのか、なかなか分からないというのが正直なところかなと思います。
湊 そうですよね。
エンゲージメントが高いと、恐らく会社の中ではテンションが高かったり、やる気のある人が多いというような何となくの状態は考えると思うのですが、
活動水準と仕事への態度・認知の4象限で切った時に、右上がワーク・エンゲージメントと言う状態で、よく働いていても気持ち的には沈んでいるというのがワーカホリックという状態なのかなと思います。
今日のお話としては、こういった状態というのをデータでどういう風に捉えられるのかということをお話ししたいと思います。
身体データと状態の分析
慶応の医学部で、実際に働いている人の脈拍や音声、発汗などの色んなデータを取って、抑うつとストレスとウェルビーイングに関する質問との相関を見るという研究をやってきました。
アンケートでストレス度合いが高い上位25%と低い25%を、交感神経の度合いで比較してみた時、ストレスが高い人 (赤) のほうが緊張しているような状態がやはり多いという風に捉えられます。
逆に、仕事を生き生きとできている人は交感神経の活発度合いをコントロールできているという風に考えることが出来ます。
こういったデータが取れて、明らかに有意差があるということが分かりました。
さらに、心拍の1個前と1個後でどれぐらい差があるのかということに着目してみると、緊張しているとバラツキが小さくなり、逆にリラックスしているとバラツキが大きくなることが分かりました。
スポーツ選手がゾーンに入っているというのは、もちろん活動量は非常に多い状態なんですけど、適切に心拍の揺れ動きがあって、自分のリズムでやれているというイメージになるのかなと思います。
要するに、生産性が高くてイノベーティブな状態というのは、心拍が上がって揺れが大きい状態ということが言えるんじゃないかなと思っています。
色んな企業さんに行くとストレスは高いが仕事は好きだしやりがいあるよ、といったことを生き生きと話す方が結構多くて、実は仕事の量とか負担とかを減らすとストレスをコントロールしやすい状況になるのですが、ストレスを下げればウェルビーイングや生産性が上がるのかというとそういうことはないのです。
ウェルビーイングには、周りの支援だったり周りから応援されている、サポートされているというようなことが非常に大事だということが分かりました。
渡邊 例えば、湊さんや僕らが出会った頃のサイバーエージェントとかを思い浮かべると、基本的に上の象限にいたと思うんですよ。
人によっては、ワーカホリックっぽくなっちゃってた人もいたと思いますし、一部の人は多分右の1番いい状態でゾーン入ったように仕事をしているみたいな、同じ職場でも分かれていた気がするんですけど、それを分かつものって何なんですか?
湊 今、色んな会社さんとお話ししていてもそうなんですけれども、カルチャーがすごく大きく影響しているなという風に思っています。
先ほどサポートっていうのが1つポイントだと言ったのですが、サイバーエージェントだと働かせるっていうのと同時に、例えば総会っていうイベントがあったり表彰が多かったりとかして、短期的にはすごく自分がみんなから応援されている、サポートされているっていうのを仕組みとしてあったんじゃないかなと思います。
渡邊 支援が組織として結構点在していたということですね。
僕が入社したころって、やっぱりちょっと少なかったと思っていて、ワーカホリック寄りだったと思うんですけど、確かにある時ぐらいから、大きめのイベントでモチベートしたり、表彰をたくさん作ったりとか、やりすぎなぐらいやっていたイメージがあるんですけど、それは間違ってなかったということなんですかね?
湊 うまくできてるなっていうのは思いました。
渡邊 リクルートもそういうモチベートするようなイベントはたくさん持っていますし、特によく働く会社なんかはそういったものがセットで存在しているといいのかもしれないですね。
湊 逆に言うと、サーバーエージェントやリクルートさんがやっているようなことっていうのは、どの会社でもできる訳ではないので、そういうもの以外でサポートとか支援を増やすということを考えるといっぱいあると思うんですよね。
前回お話しされた産業医の先生のサポートっていうのもやっぱりすごく大事だと思いますし、支援というのを仕組みとしてどうやって増やすのかという風に考えていくと、他の方法もあるんじゃないかなと思っています。
渡邊 ありがとうございます。
今、中国で働かれている方から質問を頂いているのですが、今の研究って日本での話だと思うのですが、日本型の雇用形態とは異なる流動性が高い環境と比べて何か違いがあったりするんでしょうか?
湊 皆さんがよく知っている話で言うと、幸福感が日本人は比較的に低めだっていう風に言われていて、ウェルビーイングに関してもやはりそういった傾向があるんじゃないかと思っています。
海外のほうがこういった研究は進んでいるし多いと思うのですが、日本人はどうしても仕事や職場の比重がちょっと高いんじゃないかなと思っています。
渡邊 確かに、人生における仕事のウェイトがちょっと高いイメージは確かにあるので、より職場の意義みたいなものが大きいかもしれないですね。
湊 日本でもフリーランスや副業をする人が増えてきたりすると、個人的な意見としては、自分の健康とかモチベーションをこれまでは会社に依存してきたと思うんですが、今後は自分でやっていかなきゃいけなくなるんじゃないかなと思います。
渡邊 支援する対象が会社の中にいなければなかなか難しいですもんね。
湊 そうですね。
ご質問もありがとうございます。
(続)
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