離職率は、企業の実情を示すものとしてとても重要な数値です。
しかし、計算方法や定義に関しては、法律で定められているなど、一意になっていません。
そのため、まずは一般的な離職率の計算方法を理解しておくことが、その企業の労働環境を知るうえでの一歩目になります。今回は、離職率の計算方法について紐解いていきます。
離職率の計算式は?
「離職率」とは、企業の全従業員のうち、その年に新たに離職した人数の割合を指すのが一般的です。
離職率の計算方法は法律上定められてはいませんが、一般的な企業では、「企業が定める一定期間内の離職者数÷起算日の在籍者数×100(%)」の計算式を用いる場合が多いようです。
一方、厚生労働省の雇用動向調査で使われている離職率の計算方法は、「離職者数を1月1日の常用労働者数で割り100を掛ける(%)」というものです。
どちらが正解でどちらが誤りということはないので、1)既に算出された離職率を参考にする場合はいずれの定義かを確認する 2)これから離職率を算出する場合はいずれの定義にするかを決める ことが必要になるでしょう。
【一般企業で用いられることが多い、離職率の計算式】
企業が定める一定期間内の離職者数÷起算日の在籍者数×100(%)=離職率
【厚生労働省の雇用動向調査で用いられている、離職率の計算式】
離職者数÷1月1日時点の常用労働者数×100(%)=離職率
離職率を計算するときに注意しなければならないことは?
計算方法が法律で定められていないとはいえ、離職率を計算したり参考にする際に注意しなければならないことがあります。
それは、該当する期間内に入社し、かつ期間内に離職した人数は(前述の一般的な計算方法では)計算に含まれないということです。
<例>
2020年4月1日の社員数が100名だった会社で、在籍していた100名のうち10名が、2021年4月1日までに離職した場合の離職率を、一般的な計算方法である「企業が定める一定期間内の離職者数÷起算日の在籍者数×100(%)」で計算すると、以下のようになります。
10(名)÷100(名)×100(%)=離職率10%
この計算方法を用いた場合、離職率は起算日(上記の場合、2020年4月1日)時点に在籍していた社員が対象になります。
たとえば、上記の場合、2020年4月2日以降に入社し、2021年4月1日までに離職した人は計算に入らないということです。
また、「一定期間内」の「一定」とは、1年または3年など、企業が独自に設定することができます。
つまり、離職率は「一定期間」として定める期間の長さによって、高い数値になったり低い数値になったりするものなのです。
そのため、複数の業界や企業で離職率を比較検討したい場合は、計算式や期間といった前提条件をそろえる必要があります。
「定着率」の定義と計算方法
「離職率」と併せて覚えておきたい言葉の一つが、「定着率」です。
「定着率」とは、「企業に入社した人が、ある一定期間においてどれくらい定着しているか(=離職していないか)を表す指標」のことです。
定着率は、離職率同様、社員の動向を示す一つの指標となります。
こちらも算出するための一意的な計算式はありません。
たとえば、「入社○年後の定着率は○%」という場合、入社○年後の離職率を100%から引いた数字を定着率として示すことが可能です。
一方で、別の計算方法もあります。
前述のような在籍人数ではなく、入社人数を対象にした計算方法です。
たとえば同じ日に10名が中途入社して、1年後まで勤めていたのは7名だとすると、「1年間の定着率」は、【1年間で退職しなかった社員7(名)】÷【入社人数10(名)】×100=70%となります。
このように、離職率と同じく定着率も企業側が計算の定義を決めることになるため、前提条件をまず確認することが重要といえます。
離職率・定着率には“適正な値”や“基準”は存在しない
上記で解説したとおり、離職率や定着率には計算方法が法律上定められておらず企業ごとに定義がさまざまなため、“適正な値”や“基準となるパーセンテージ”などはありません。
また、離職率・定着率の背景に何があるのか、も企業を適切に評価するうえでは必要になります。
たとえば離職した人材が誰か―、団塊世代が定年退職で多く離職するケースと、新卒社員が定着せずに多く離職するケースでは、同じ離職者数だったとしても企業の実情が全く異なります。
このように、企業を評価する際には、離職率・定着率の数値をそのまま短絡的に解釈することにはリスクがあります。
数値だけでなく、その数値の前提条件を確認することや、数値の背景に目を向けることではじめて有用な情報になるといえるでしょう。
離職率・定着率は、求職者から見られている
離職率や定着率の計算方式は一定ではなく、あくまでも一つの指標でしかないとはいえ、求職者が離職率や定着率をチェックしていることもまた事実です。
最近では、企業が独自に発表する情報以外に、さまざまな口コミサイトやSNSが点数やランキングを付けることが増えています。
たとえ企業が離職率を公表していなくても、少し調べればすぐにわかる時代になってきているといえます。
しかも、調べた結果、離職率が高ければ、「ブラック企業」だとみなされてしまうこともしばしば。
実際には「ブラック企業」とみなされるような環境でなかったとしても、離職率や定着率をもとにした評価が独り歩きしてしまうこともありえます。
そうした事態を防ぐためにも、離職率を下げる/定着率を上げるための最低限の努力や工夫は重ねていきたいものです。
離職率を下げる/定着率を上げるためにはどうすればいい?
では、どうすれば離職率を下げる/定着率を上げることができるのかを見ていきましょう。
- 採用時のミスマッチを防ぐ
入社前に抱いていたイメージとかけ離れていたことが原因で離職する人を減らすためにも、まずは採用時のミスマッチを無くすことが大事です。
「どんな仕事を任せてもらえるのか」「どんな顧客と仕事できるのか」「新人であってもアイデアを活発に出していけるのか」など、求職者が気にかけていることに関しては、募集要項で伝えるだけでなく、面接時にもしっかり伝えていくことが大切です。
- 募集要項や面接でいいことばかり謳わない
たとえば「福利厚生充実」「年収1,000万円以上可能」などの文言に惹かれる求職者は多いかもしれません。
しかし、実際は福利厚生が利用しづらい風土だったり、年収1,000万円を超えるためには相当なハードワークをこなさなければならなかったりすると、入社後に「募集要項に書いていたことと違う」「面接で聞いていたイメージと違う」と不信感を抱く新入社員も少なくないでしょう。
募集要項や面接時の質疑応答では、聞こえのいいことばかりでなくリアルな側面もきちんと伝えることが大事です。
- 従業員のワークライフバランスを考える
従業員がワークライフバランスを取りやすい環境を整えることも大切です。
たとえば(極端な例かもしれませんが)、毎日深夜まで仕事して土日も休めないような環境だとしたら、退職したいと思わないほうがおかしいと考えるべきでしょう。
さらには、従業員だけでなくその家族の心身の健康も守れる企業が理想的といえます。
- 直属の上司と1on1で話せる機会を定期的に設ける
「わからないことがあれば随時聞いてほしい」と思っている上司は多いかもしれません。
しかし、人によっては質問すること自体にためらいがあることも。
「こんな簡単なことを聞いて怒られないだろうか?」という不安から、質問できないまま失敗したり、仕事が遅れたりしてしまうこともあります。
新入社員へのフォローとして、定期的な面談はもちろん、上司のほうから困っていることはないか適宜尋ねるようにするとよいでしょう。
- 従業員のやる気を育てることを意識する
やりがいのない仕事ばかり与えられていると、キャリアアップのためやよりやりがいのある仕事を求めて転職を考えたくもなるでしょう。
一人ひとりの特性を見ながら、責任を感じられる仕事を任せることも大切です。
- 適切な配置を行う
同じ会社、同じ部署の人間であっても、一人ひとり適性が異なれば、思い描くキャリアも異なります。
それぞれがどんなキャリアを歩みたいと考えているのかに目を向け、会社や上司が実現への道筋を一緒に考えていくことも大切です。
- 公正・公平な評価に努める
がんばっても認められない、賞与もなく給与アップもないとなると、社員のモチベーションは下がってしまうもの。
また、同じだけがんばっている他の同僚だけが評価されたとなると、不公平だと感じて不満が噴出することもあるでしょう。
そうした事態を防ぐためにも、公正・公平な評価ができるよう、給与や賞与などに関しては一定のルールを設けておくことが必要になります。
離職率と一口にいっても、計算方法や計算条件はさまざま。
企業を評価する一つの要素に過ぎず、それだけですべてを推測することはできません。
とはいえ求職者にとっては気になる数値でもあるため、離職率を課題とおく場合には、上記に挙げた観点で見直してみることが有効だと考えられます。
【監修者プロフィール】
吉田 寿
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
指名・人財ガバナンス部 フェロー
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。
富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパル、ビジネスコーチ常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを経て、2020年10月より現職。
“人”を基軸とした企業変革の視点から、人財マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織・人財戦略コンサルティングを展開。
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2008年~2019年)。
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。
主要著書『働き方ネクストへの人事再革新』(日本経済新聞出版)等多数。