「人」という経営資源である社員の判断をする人事面談。採用面接や、社員の評価面談、1on1などさまざまあります。
そのなかでも今回は、個別またはグルーブごとに目標を設定し、それに対する達成度で評価を決める「目標管理制度(MBO)」を取り上げます。半期や年間の評価フィードバックをする人事面談ですが、社員が評価に納得できず揉めてしまうケースもあれば、面談を経てモチベーションが高まるケースもあります。
与えられた評価が給与の増減や昇降格に直結しますから、社員は人事面談に真剣な心持ちで臨んでいるはずです。社員が評価に納得性、公平性を感じ、翌期に向けてモチベーションを高めてくれるためにはどうすればよいのでしょうか。MPO評価フィードバック面談の方法や、質問例、注意すべきポイントをご紹介します。
■人事(MBO)面談の目的
「人事面談」は、目標管理制度(MBO)を適切に運用するために行われます。社員育成のための目標管理制度と密接な関係のある人事面談。その目的を具体的に見ていきましょう。
●評価結果を共有する
目標を定め、一定の期間、目標を達成するために社員は業務に取り組みます。上司はプロセスや結果についての評価を行い、共有することが人事面談の目的の一つです。社員が自身の成果や自己評価を上司に伝え、上司は客観的に判断した評価の結果を伝えます。
目標の達成基準が具体的・定量的でない場合、往々にして上司評価と部下の自己評価にギャップが生じます。もし、社員と上司の認識にギャップが生じるようであれば、客観的な事実や定量的な数値をベースに認識を合わせ、お互いに納得するまで話し合うことが大切です。
●会社と社員のベクトルを合わせる
会社は社員にやってほしい仕事や、期待している役割があります。一方で、社員にはやりたい仕事や、やるべきと思っている役割があるでしょう。
人事面談は評価結果に応じて、給与の増減や昇降格をフィードバックする場ですが、半期や1年間の結果を伝えるだけにとどまらず、社員が考えている今後のキャリアのこと、やってみたい仕事などをじっくり聞き取りましょう。
会社と社員の思惑が100%一致していることは多くはないでしょうが、人事面談を通じて両者のベクトルを合わせることが重要です。仮に多少方向が違っていたとしても、面談を通じてベクトルの重なる部分を共有できれば、よいパートナーシップを築いていけるはずです。
●振り返りを行い、社員の成長につなげる
評価結果で現状を理解したところで、次回の目標の設定になります。
前回よりも成果を出すためには、社員がどう成長していけばよいのかを共有することも人事面談の目的の一つです。前期はどのような部分で成果を出せ、なぜ成果を出せたのか、どのような部分で成果を出すことができず、なぜ成果を出せなかったのかを振り返り、今の立ち位置を確認します。翌期の目標達成や業務遂行のために、能力やスキルアップの必要があれば、上司としてサポートしてあげることが重要です。
●モチベーションを上げる
人事面談は、評価の結果と処遇を伝えるだけではなく、翌期に成果を出せるように、前向きなアドバイスや激励をして、社員のモチベーションをあげる機会でもあります。評価が良かったからと慢心しないように、一方、評価が悪かったからと翌期までひきずらないようにサポートしてあげましょう。
部下の育成は、管理職者の最も大切な業務のひとつです。業務分担や会社からの目標の伝達の場にせず、社員のやりたいことや伸ばしたい能力などを聞き出し、翌期に部分的にでも携われるようにサポートしましょう。
会社からの期待の伝達や社員のキャリアプラン、仕事についてじっくりと話せる人事面談は、社員の成長を促す重要な機会となります。翌日からモチベーション高く業務に取り組めるよう、上司はしっかり準備をして面談に臨みましょう。
社員がどのように成長するかは、人事面談のフィードバックによって決まるところも大きいものです。人事面談の目的をしっかり把握し、実行できるように、人事担当者は評価者向けの研修を行うのもよいでしょう。
■人事(MBO)面談で準備すべきこと
人事面談を行うにあたり、上司は事前に準備をしておくべきことがあります。どのような準備をすればよいのか、詳しく見てみましょう。
●面談時間、場所の確保
一定期間における社員の成果を評価し、結果を伝える場です。面談時間は、お互いが納得いくまでしっかりと話せる時間と場所を確保しましょう。
多くの部下をかかえる上司は、面談が続くと、どうしても「スケジュールどおりに済ませたい」と考えがちになりますが、大切なことは社員が評価のフィードバックに納得できたかどうかです。時間がきたからと途中で切り上げたり、納得していないまま面談が終わってしまったりしては、社員からは「自分は軽く見られている」と思われかねません。
面談の時期にはスケジュールに空き枠を用意し、面談の延長や時間をおいて再面談をできるようにしておきましょう。面談場所に関しても、社員のプライバシーに配慮して、安心して話せる会議室を確保する必要があります。フィードバックの効果を下げないために、早期のスケジューリングを心がけましょう。
●評価結果を伝える準備
目標管理制度(MBO)に基づく評価のため、上司は次のことをしっかりと理解しておく必要があります。
- 会社や部署の方針や目標
- 目標の達成度合いに影響を与えたポジティブ/ネガティブな事象
- 成果指標となる定量的なデータや客観的な事実
- 部下の行動と成果の因果関係
上述の「会社と社員のベクトルを合わせる」で説明したとおり、個人の成果は、会社や部署の方針とベクトルが合っているからこそ評価されるものです。会社や部署の方針がどのようなものなのか、そして部下の成果や努力が会社や部署の方針と結びつくものなのかを説明できるようにしておく必要があります。
また社員がどれだけ頑張っても、会社やチームの戦略や方針の変更の影響を受けた結果、個人として目標を達成できないことも起こりえます。社員の目標達成度合いに影響を与えたポジティブ・ネガティブな事象を調べ、公平に評価できるようにしておきましょう。
評価の時期になって急に部下を観察するのではなく、目標を設定した翌日から、日々部下の行動や努力を書き留め、面談時に伝えてあげられるとよいでしょう。
●翌期の目標と期待する役割を用意
前期にできたこと、できなかったことの振り返りと評価フィードバックを行ったうえで、翌期の目標の設定になります。
部下に割り振る目標数値や業務について、ある程度の方針は上司が決めるものです。しかし、事細かに決めてしまうのではなく、幅を持たせた目標の方向性やテーマだけ与えて、具体的な業務や目標数値は部下に考えさせるなどして成長を促しましょう。
前期の目標の達成度合いや行動結果の延長に、翌期のやるべきことや目標数値があります。会社の成長には社員の成長が欠かせないため、社員が成果を出すために、何が必要なのか、回答を社員自身が導き出せるように、伝えることや質問をまとめておきましょう。
目標達成のために外部パートナーや会社の他部門の協力が必要な場合、協力体制がとれるかどうかを調べておくと、さりげないアドバイスに役立ちます。
社員の成果を評価し、さらなる成長を促すための人事面談です。しっかりとした準備を行い、社員との面談にのぞむようにしましょう。
■人事(MBO)面談の流れ
人事面談の事前準備ができたら、次は面談当日の流れについて考える必要があります。次のポイントを意識して面談にのぞみましょう。
1. 雰囲気づくり
すぐに評価の話をするのではなく、ちょっとした雑談から入り、お互いの緊張を和らげて、話しやすい雰囲気をつくることが大切です。評価が悪かったとしても、突然「ダメだったね」などと話し始めるのは、論外です。
2. 社員による評価の報告
先に上司から評価を伝えてしまうと、評価の良し悪しにかかわらず、部下の自己評価は上司からの評価結果に引っ張られ、本音が引き出せません。まずは社員の自己評価を聞きましょう。
目線を落とし、書類を見ながら社員の話を黙々と聞くのではなく、相槌を打ちながら、ときには目を合わせて、社員の話をしっかりと聞きましょう。途中で口を挟みたくなる場合でも、最後まで話をさせて、気になる部分はメモをとり、後で質問をします。
3. 評価のしくみを伝える
自社での評価のしくみを伝えます。会社により評価の基準や評価方法は異なります。新入社員や中途社員などのその会社で初めて評価を受ける人や、上司が変わった人などには特に注意して説明を行いましょう。
4. 評価結果と理由を伝える
最終的な人事評価結果を伝えます。まず、良かった点から伝え、社員が結果を受け入れやすくします。
次に、マイナス評価について伝えます。そのなかでも、社員自身も納得してマイナス評価にしているものから伝えるようにしましょう。そして最後に、社員の評価と上司の評価でギャップのあるマイナス評価を伝えます。何が要因なのかを社員が理解し納得できるように、その理由を行動や事実に基づいて客観的かつ具体的に説明します。その際、社員のモチベーションを下げたり、反発したりしたくなるような言い方をしないように意識することが大切です。
5. 今後の課題を考える
評価結果から浮かび上がった今後の課題を共に考え、その課題をクリアするためには、次回の目標をどのようにするのかを話し合います。社員が自発的に課題を明確にし、行動目標を考えることがポイントとなります。
限られた人事面談の時間のなかで、効果的な面談を行うには、人事面談の一連の流れを把握したうえで、事前の準備が必要です。上司は、その場の雰囲気で話をするということはせず、事前に流れをシュミレーションしておくことが大切です。
■人事(MBO)面談で使える質問例
上述したとおり、人事面談では、上司が一方的に評価を説明するだけでは良い人事面談とは言えません。上司は社員が考えていることを話しやすくする質問を事前に用意しておきましょう。場面や用途に分けて、質問例をご紹介します。
●目標の評価・成果に関する質問例
- 目標に対してどのような成果を出せましたか?
- 目標に対してどのようなアプローチをしましたか?
- 成果の結果は、なぜそうなったと思いますか?
- うまくいった仕事は何ですか?
- うまくいかなかった仕事は何ですか?
- 目標設定は妥当なものでしたか?
- 目標達成に向けて、会社からのサポートは足りていましたか?
- 部署や会社にどのような貢献をしましたか?
●キャリアに関する質問例
- 今後どのようなキャリアを形成することを考えていますか?
- そのキャリアの形成のために必要なことは何だと思いますか?
- 現在の仕事へのモチベーションはどれくらいありますか?
- ほかの仕事への興味はありますか?
- 現職務で適性や能力が生かされていると感じていますか?
●能力開発における質問例
- 自分の能力のうち、最大の武器は何だと思いますか?
- 今後身に付けたいと考えている能力はどのようなものですか?
- 強みを伸ばすにあたり、会社からどのようなサポートが必要だと思いますか?
- 能力開発にあたり、独自で工夫していることはありますか?
●次回の目標に関する質問例
- 現状の課題は何ですか?
- 課題を解決するための方法はどのようなものがありますか?
- 次に挑戦したいと考えていることは何ですか?
- 目標達成のために必要なことは何です?
- 次回の目標を達成するには、どれくらい難しいと感じていますか?
上記はあくまでも一例です。社員が考えていることをしっかりと汲み取るための質問を考えて、話しやすい質問を投げかけることが大切です。
■人事(MBO)面談で気を付けるべきポイント
最後に、人事面談で気を付けるべきポイントをご紹介します。
●話しやすい場をつくる
上述したように、評価面談はプライバシーにも関わります。したがって、落ち着いて話せる会議室などを確保しましょう。また、社員が委縮しないように、話しやすい雰囲気をつくることも大切です。
●ほかの人と比較しない
社員の能力や設定されている目標は、それぞれ違います。ほかの社員と比べることのないようにしましょう。ほかの社員と比較されることで、奮起する人もいるかもしれませんが、多くの人は反発を覚えたり、委縮してしまったりします。特に比較する必要がなければ、個人の評価にとどめるようにしましょう。
●客観的に話す
事実や行動について客観的な話をしましょう。事実に基づいていない推測の話や、上司の主観的な話、また感情的に話すことは避けましょう。評価を受ける社員が、素直に評価を受け入れられなくなります。
効果的な人事(MBO)面談で社員の成長を促す
人事面談のなかでも、今回はMBO評価フィードバックの人事面談の方法や、質問例、注意すべきポイントをご紹介しました。効果的な人事面談を行うことは、社員のモチベーションが上がり、社員の成長にもつながります。ぜひ、参考にして面談を行ってみてください。