新卒で入社し、広告営業部門を経て、動画広告を専門とした戦略子会社「株式会社サイバーブル」を社内創業した中田氏。
立ち上げ直後から急速な成長を遂げるものの、一転して成長鈍化、人材の流出などのハードシングスを多く味わってきた。伸び悩んでからが経営者としての勝負所。経営者として多くの苦難を経験してきた社内起業家はどのように考え、どのように克服してきたのか。
■期待通り、社内ベンチャーの急成長
-現在のサイバーブルについて教えて下さい。
中田氏:サイバーブルは現在5期目に入りました。売上は約40億円、従業員も40人程度。既存事業の成長鈍化が見えてきているので、現在店頭連動の新規事業に投資をし始めています。勝負所、組織の大きな転機だと捉えています。
-創業当初のサイバーブルはものすごい勢いを感じました。
中田氏:そうですね、絶好調でした(笑)初年度、立ち上げから半年で売上1億円を達成し、二期目で18億に到達。サイバーエージェントグループの全社総会でも表彰され、正直全能感がありました。
このままの勢いで、一気に100億まで行くぞ!と、調子に乗っていましたね。
■急降下と経営者の孤独
-実際甘くはなかった?
中田氏:甘くなかったですね(笑)3年目までは順調に成長をしていったのですが、4年目くらいから成長が鈍化していった。
それだけならまだ良かったんですが、時同じくして社内(サイバーブル内)の中心人物、しかも幹部層が外部の企業に流出してしまった。この時は本当に慌ててしまいました。社員の顔色を伺うようになってしまっていたり、正直経営者として褒められたものではなかったと思います。
-実際そのような状況に陥って、どのように脱したんですか?
中田氏:少し振り返ると、経営者としてこの時期は悩んでいました。サイバーエージェントの名物会議である「あした会議」で指名され、期待を掛けられてスタートを切り、順風満帆な時期を過ごしていました。もしかしたら過信もしていたのかもしれません。
しかし、その自信はもろくも崩れ去りました。
様々な苦難に直面し、自分のやっていることが本当に正しいのか。従業員は本当についてきてくれているのか。毎日そのようなことに思い悩んでいたのですが、小さなプライドは残っていて。自分(=経営者)が悩んでいるところを社員に見られたくなかった。ひた隠しにしていた。そうしていたら、徐々に従業員との間にも溝ができてしまったんですね。社長が何を考えているかわからない、社長の本音が見えてこない、というような声もあったみたいです。
よく「経営者は孤独だ」と言いますが、この時期は本当に孤独でした。
-なるほど、厳しい状況ですね。そんな中、何から手を付けていったのでしょうか。
中田氏:色々と考えた結果、この状況からの復活を第二創業期と捉え、ビジョンと行動指針を策定しました。ビジョンはリーダーである僕自身が一人で考え、行動指針は皆で考えました。
ビジョンを一人で決めたのは、やはりそれがリーダーの仕事であると思ったからです。ここが組織の魂であり、核心の部分。ここから逃げては行けないと思い、必死になって言葉を紡ぎました。この経験は非常に大きかったと思います。
一方で行動指針は、どういうチームでやりたいのか、どういう人と働きたいのかというころを皆で議論して作り上げました。サイバーブルを自分の会社、自分と会社は一心同体だと思ってほしかった。
だから目指すべき方向性はその代表である自分が責任を持って決め、自分たち(=従業員)がいる場所についてのルールは皆で決めるという手法を採用しました。行動規範は「RED CODE」という名前でまとめており、1年~1年半に1度アップデートをかけるようにしています。
-他に行ったことはありますか?
中田氏:僕がどうしても攻撃型の人間なので、みんなのコンディションや悩みを吸い上げたり、人事制度を整えてくれたりする人物の必要性を感じていて、現在取締役の木村を説得してサイバーブル専属の担当になってもらったのは大きな出来事だったかもしれません(木村は当時サイバーブルだけでなく、複数のサイバーエージェント配下のスタートアップを担当していた)。
彼女にまかせている役割は、組織の健康管理。スタートアップ当初はこうしたことに目が行かず、ただただ成長だけを追い求めて来ましたが、第二の成長期を迎えるに当たり非常に重要な役割を果たしてくれています。
-最後に、中田社長の考えるマネジメント論を教えて下さい。
中田氏:色々な考え方がありますが、シンプルに考えることが大切です。リーダーや組織への「信頼」を前提として、加えてビジョンへの共感が必要だと考えています。この2つができていれば、多くの組織課題は解決するのではないでしょうか。
創業当初の僕は、事業成長にばかり目が行ってしまっており、この信頼関係の醸成や、ベクトル合わせや組織のコンディション把握に時間を使えてなかった。だから何か困難に直面した時に脆かったんだと思います。
言い方は変かもしれませんが、せっかく経営者として必要な困難を経験できたので、第二の創業期とも言える今は、同じ轍を踏まないように、万全の準備をして臨みたいと思います。必ず圧倒的な成長を遂げてみせますよ。