サイバーエージェントが採用するユニークな家賃補助制度「二駅ルール」

■「二駅ルール」とはなにか?

サイバーエージェントでは、自分が出勤しているオフィスの最寄駅から2駅圏内に住んでいる正社員に対して、月額3万円の家賃補助を支給しており、「二駅ルール」の名前で親しまれている。著者が入社した2006年にはすでに制度として確立、浸透しており、形骸化することなく現在まで利用されている福利厚生制度だ。

少し古い記事なるが、藤田代表のブログにもこのように書かれている。

満員電車などの通勤のストレスから開放されて、リフレッシュして働いて欲しいという想いからスタートした制度です。

実は通勤交通費やタクシー代と比較すると、会社の負担はさほど変わらないことや、長く働く上での勤続メリットも考慮してます。

会社の福利厚生は、形骸化するものも多い。でも、このわかり易い制度は単身の若者が多い当社では大ヒットしました。

「どこでもルール」
https://ameblo.jp/shibuya/entry-10015113675.html

さらに、5年以上継続勤務した社員に対しては、「二駅」の制約が解除され、どこに住んでいても月額5万円が支給される「どこでもルール」が適用される。

一般的な大企業において、家賃補助制度は珍しいものではないが、2000年代前半、ITバブルが弾けた直後からこのような福利厚生を導入しているITベンチャーは珍しく、二駅を三駅に変更したり、支給金額を変更するなど、多くのベンチャーのモデルとなっている制度でもある。

■たんなる「家賃補助制度」ではなく「二駅ルール」

また同社は新しく人事制度を作るとき、その「ネーミング」「浸透手段」に非常にこだわるところがある。サイバーエージェントの人事の基本的な行動原則に「企画2割、運用8割」というリーンスタートアップ的な考え方があるが、まさにその考え方を踏襲している。

日本の人事は課題を多く抱えており、それを解決するための企画に時間をかけてしまいがちだが、そこに時間をかけすぎてしまうがゆえに、浸透施策に頭が回らず、絵に描いた餅で終わってしまうことが多いように思う。

「あした会議」「休んでファイブ」「CA8」・・・上げればキリがないが、「言の葉」に乗せることをきちんと考える、「言葉の開発力」を重視しているのは同社の特徴であり、「二駅ルール」はその象徴のような制度で、その利用率も非常に高い物となっている。

■「二駅ルール」の効用は?

まず大きな効用は、流行の発信基地である「渋谷」に「職」も「住」もどっぷり浸かることができる点であろう。サイバーエージェントに務める正社員の9割は渋谷周辺のオフィスに勤めている。

そして、サイバーエージェントが提供するサービスのターゲットとするユーザーは、基本的に「若者」が中心。オフィスを渋谷に置き続けているのも、その若い世代のニーズや動向を肌で感じ、プロダクト開発や番組企画に活かすためにほかならない。

こうした「職住近接」スタイルについて、藤田代表は以下のようにインタビューに答えている。

道玄坂でサイバーエージェントの社員とすれ違うと、何となく分かるんですよ、今は。起業した当時は会社の信頼性が大事なので、どうしても円山町界隈だけは避けたかったんです。その後しばらくして会社の社会的な認知度も広がったので、どうでもいいやと(笑)。社員も違和感を感じていない。シリコンバレーのお客さまがこの会社に来たら、周囲の状況をみて「ここはどうなっているんだ」と(笑)。でもむしろ、そういった猥雑さから生まれるこの会社のコンテンツやクリエイティブは信じているところでもあるんです。

本当のことをいうと、サイバーエージェントの社員も大人になってきたので、表参道か代官山の並木道を歩くような雰囲気になってきている。だから「表参道に引っ越したいね」と社員に言うと、みんな「いいですね」と喜ぶんです。特に女性社員が。でも、一方で道玄坂の「雑多感」も捨てられないんですね(笑)。

「渋谷ではたらく社長」の渋谷への想い~ 藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表取締役社長)
https://www.fuze.dj/2017/09/cyberagent_fujita_susumu.html#a01

また、サイバーエージェントのミッションステートメントには「謙虚であること」が明記されているが、ITメガベンチャーとして成功してもおごらず、こうした雑多な環境でものづくりをしようとする代表の姿勢も、同社からベンチャー的な精神が消えない所以なのかもしれない。

さらにもう一つ大きな利点としては、「人間関係維持・強化」に大きく貢献しているであろう。渋谷に勤務する社員たちは、三軒茶屋、池尻、中目黒、恵比寿、目黒といったエリアに居住することが多いが、それぞれに「三茶会」「恵比寿会」といった非公式のコミュニティが存在する。

同期や部署、という横や組織図上のつながりだけでなく、こうした居住エリアごとに企業内コミュニティが存在するのもこの制度の利点と言えるだろう。実際同社のGeppoのスコアを見ていると、「人間関係」におけるスコアが群を抜いて高い、という特徴がある。

 

 

元々は社員の通勤ストレスを減らす、という目的で作られた制度だが、長く運用される中で様々な意味を含有し、単なる家賃補助にとどまらない重要な人事制度になってきているのは間違いない。

 

Geppo製品イメージ

サイバーエージェントの事業成長を支える、社員のコンディション発見ツール
「Geppo(ゲッポウ)」をご紹介しています

Geppoの紹介ページを見る

関連記事

BUY On HUBSPOT