あした会議とは、サイバーエージェント内で半期に一度(あるいは場合によっては一年に一度)開催される、最重要経営会議である。
代表取締役の藤田晋を除く7人の役員(2018年より役員交代制度「CA8」が廃止されたため、以降の運用は不明)が、社内からエース社員を5名前後ずつ選出し、チームを組閣。その時、ないし中長期的な同社の抱える経営課題や、大型の人事、新規事業・新規会社の設立提案などを行う会議体である。
あした会議は2006年から開始され、その効果が認められ続けているため、現在も(形を変えながらではあるが)重要な位置づけとして運用されている。
■「あした会議」の基本的な会議運営ルール
あした会議は、通常「1泊2日」の合宿型を採用して行われる。ただし、提案内容はその合宿中だけで考えられるのではなく、チームが組閣されたからの約一ヶ月間で熟考を重ねられたものである。
通常業務と切り離し、サイバーエージェントの未来(あした)に集中するため、箱根や軽井沢などの遠方を選んで開催される。その他、細かな基本ルールは以下の通り。
- 藤田晋を除く役員が、サイバーエージェント社内から5名のエース社員をドラフト制で指名する
- チームの組閣を決める「ドラフト会議」は「あした会議」開催の約1ヶ月~1ヶ月半前(チーム組閣からあした会議当日までが提案を練るための時間となる)
- 1チーム3案、選りすぐりのアイデアを提案する
- 審査員は藤田晋1名
- 提案は0点~15点まで点数化され、3案の合計点数が高いチームが優勝となる(一種のゲーミフィケーションだが、金銭的な報酬はなく、あくまで同社が重要視する「感情報酬」のみ)
- 提案した後に、「ブラッシュアップ」する時間が設けられ、再提案時の点数が最終特典となる
※あした会議の運営ルールは時代とともに変化してきており、あくまで著者が認識している2019年4月現在のものを記載。
※あした会議を運営するのは「業務推進室」というCA特有の特殊人事チームである。
■あした会議で提案される内容
あした会議によって生まれた結果は凄まじく、サイバーエージェントの経営、人材育成を大きく推進している。
同会議にて提案される内容に制限、制約事項は特にないが(サイバーエージェントの明日につながる、サイバーエージェントが抱えている課題を解決するもの、であれば良い)、ざっくりと整理してみると、
①新規事業、新会社、新部署の設立
②大型の人事異動
③横串の人事制度、改革案(採用戦略なども含む)
④既存事業、会社の統廃合
⑤役員の担当分掌整理
上記のようなカテゴライズとなる。新規事業や新規子会社の発案の場、としての認知が高い「あした会議」だが、実は半分以上が②~⑤の提案で占められることが通常である。
■「あした会議」によって生まれた成果
あした会議は役員+その時々のエース社員の時間を長時間拘束するものであり、大きなリターンが求められる施策である。同社の人材科学センターの算出によると、
- あした会議で設立が決まった子会社は28社
- あした会議で生まれた会社による売上は累計で約700億円、営業利益は約100億円。サイバーエージェント・クラウドファンデイング(クラウドファンディングプラットフォーム「Makuake」を運営)やサムザップ(ゲーム企業、代表的なタイトルは「戦国炎舞」など)などの企業が含まれている。
上記のような成果が確認されている。その他定着率の向上(新しい福利厚生制度や文化強化施策などに寄る)や、モチベーションの維持など、隠れた効果効能も期待されている。
また何を隠そう「Geppo(ゲッポウ)」もこの会議体で生まれたものである。当時急激に増えた社員に対して、タレントマネジメント、人材の適材適所を行うために自社内製ツールを開発・運用されることがジャッジされ、2013年より実装された。
参考ブログ:タレントマネジメントのデータベース
https://ameblo.jp/dekitan/entry-11566794128.html
【編集長・渡邊が考える、ここがポイント】
実際「あした会議」に何度も参加した身として感じるのは、サイバーエージェント全社からみた「あした会議」の格の高さである。
今やグループ連結正社員が5000人を超える同社において、その役員らと1ヶ月以上も膝を突き合わせて会社の未来を考え続ける機会は貴重以外の何物でもない。若手社員から見れば、もちろん「あした会議」で決議してもらえるような鋭く効果的な提案をすることも非常に重要だけれども、それ以上にこの役員やその他エース社員らとの時間が何よりも貴重なのである。
実際、サイバーエージェントにおいて、ある一定のグレード以上の昇進・昇格は役員会で決議されるのだが、その決議の場において、きちんと名前とその能力を認識されていることは、その昇格判断に対して大きく影響を及ぼすことは想像に難くない。そういう意味においても、「あした会議」に参加すること、そして参加し続けることは、同社で活躍し続ける上で、非常に(大変だが)肝要なのである。
また別の視点として、同会議の「実効性の高さ」にも注目したい。他の企業でも似たような会議体を開催している話は聞くのだが、あした会議は「決議=即実行」のため、「実効性」において群を抜いている。
ポイントは、
- 代表である藤田がきちんとその場で決議する(他者に押し付けない)
- 判断に必要な材料(=情報)を持っているエース社員が同席している
- 何をやるか、だけでなく、誰がやるか(あるいは誰と誰がやるか)までを決めきる
- 大きく人が動く場合は、その後任までをきちんと議論する(これがなく、決議後にひっくり返る事項は多々あるので要注意)
- 決議事項をきちんと役員会で定期進捗チェックする
上記のような点であり、これらがきちんと行われているからこそ、机上の意思決定では終わらない会議体として成り立っているのである。