新しいマーケティング手法として注目されているクラウドファンディング。国内のクラウドファンディングサービスの中でも大きな成果を挙げているのが、「Makuake(マクアケ)」だ。
クラウドファンディングは、プロジェクトの実行者と支援者をつなぐプラットフォームであるが、Makuakeが提供する価値はそれだけにとどまらない。
情報の拡散、プロジェクトのPRのためにメディア各社と連携し、金融機関100社以上とも連携することでプラットフォームとしての力を着実に蓄えている。その結果、1,000万円以上の支援が集まったプロジェクトは200件を超え、名実ともに国内最大級のクラウドファンディングに短期間で成長した。
今回はその成功の秘訣を、取締役である坊垣佳奈氏に伺った。
■「なんでも屋」経験がスタートアップの垂直立ち上げを可能にした
-坊垣さんの今までのキャリアを聞かせてください。
坊垣氏:新卒でサイバーエージェントに入社して、立ち上がったばかりのサイバー・バズという子会社に配属されました。立ち上げたばかりのカオスな環境の中、商品開発、営業、バックオフィス業務までとにかくなんでもできることに必死になっていました。完全になんでも屋時代。
その後、サイバー・バズの営業担当役員に昇格。ソーシャルゲーム部門の子会社立ち上げや経営経験を経て株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング(現・株式会社マクアケ)の立ち上げに参画し、取締役に就任しました。
-その頃の経験で現在の会社経営に生きていることはありますか?
坊垣氏:たくさんありますが・・・まずはとにかくなんでもやっていた経験が身にしみているので、いわゆるHARD THINGSをHARD THINGSと感じない耐性は身についていたかもしれません(笑)。立ち上げた当初2年が経つくらいまでは、資金ショートしそうになったり、(新しいものなので)営業に行っても相手にされなかったり・・・いろいろとあったと思いますが、私にとっての社会人人生はほぼすべてそんな感じだったので、ほとんど気にならなかったですね笑
あとは、ビジネスモデルの点でしょうか・・・サイバー・バズの当時のビジネスモデルは、いわゆるインフルエンサー(主に影響力のあるブロガー)をネットワークしつつ、その影響力を企業のマーケティングに活かしてもらう、というビジネスをしていて、その両側面(インフルエンサーとクライアント企業)を大きくしていくことがビジネスKPIでした。インフルエンサーが増えれば増えるほど、多くの企業が利用してくれるし、多くの企業が利用してくれればその分インフルエンサーが集まる。リクルートでいう「リボンモデル」ですね。
クラウドファンディングも実行者(プロジェクトオーナー)と、支援者のマッチングモデルで、双方の質と量がプラットフォームの力を決めていきます。そういう意味で、はじめた当初から「勝ちのポイント」が見えていたのは大きかったな、と。このバランス感覚は今に生きてますね。
■Makuake、急成長の仕掛けは圧倒的な「事例」と「広報」
-実際Makuakeが後発ながら国内最大規模のクラウドファンディングプラットフォームになれた理由は何なのでしょうか?
坊垣氏:最初から意識していたのは2つ。
- 良い事例、圧倒的な成果の創出
- PRへの注力
まずこういった新しいサービスは、とにかく事例の創出がファーストエンジンになります。とにかくシンボルになるようなプロジェクトに注力しました。
幸運だったのはそうした事例が同時期に集中したことですね。会員制馬肉料理屋の「ローストホース」やMade in Japanのカスタムオーダーリストウェアブランド「Knot」、当時日本のクラウドファンディング最高額を記録したメンズフェイシャルエステ「バルクオム」などのプロジェクトが2014年~15年の間で成立してきて大きな話題になりました。振り返ってみると、このあたりからクラウドファンディングというものが、先端を行くギークのためのものではなく、一般の人にも受け入れられるメジャー感のあるものになったタイミングだったと思います。
もう一つ注力していたのはPRですね。クラウドファンディングというものの性質上、実行者にPRのノウハウがあることは少なく、プラットフォーマーとして価値を提供できるところだな、と当初から感じていました。
なので、立ち上げ当時から広報の担当責任者として私(坊垣)が担当し、広報チームを垂直立ち上げしました。このあたりにも新卒時代の「なんでも屋」経験が生きたかもしれませんね。
現在では広報・マーケティングチームも大きくなっており、PR会社顔負けの仕事ができていると思います。今のMakuakeの大きな強みにつながっていますね。
プラットフォームである以上、Makuake自体に力がないといけないと思っています。実行者がたまたまネットワークが広くて、そのネットワークから調達できてもMakuakeを使う意味はない。Makuakeを使うからそのネットワーク以上の調達ができる、そんなところを目指しています。
■スタートアップだからこそこだわり続けた目標設定と個別ミーティング
-新しいこと、新しい組織づくりと非常に高難易度のことをこなしていると思うのですが、組織面で気をつけていることはありますか?
坊垣氏:これは私のこだわりにも近い物があるのですが、目標設定と個人ミーティング(1on1)は昔から力を注いでいます。まず目標設定ですが、組織目標→部門目標→個人目標とかなり精緻に落とし込みをしています。ここにかなりの時間を費やしていますね。
昔サイバーエージェントが活用していた目標設計シートがとてもしっくり来ており、それを多少カスタマイズしながらもずっと活用しています。特に目標管理ツールとかを導入することはなく、EXCELでシート管理をしていますが、重要なのは徹底して運用を行うことかな、と。
-どのような運用をしていますか?
坊垣氏:スタートアップなので、実は一番ころころ代わりやすいのが「組織目標」なんですね。経営者は常に波乗りをしているわけで、環境に合わせて目標を変えていかなければいかないし、目標自体が変わらなくても重要度が変わることもあります。したがって、目標には「柔軟性」が必要なんです・
そこでもう一つ重視しているのが個人ミーティング(1on1)です。毎週の個人ミーティングを現場とMGRが実施し、月に一回の個人ミーティングを私(坊垣)と月初か月末に実施しています。
ここで上位概念である組織目標や部門目標とのベクトル合わせや、微調整を細かくしているんですね。
スタートアップなので採用している人間が頑張る性質なのは基本当たり前で、その頑張りをきちんと成果に結びつけてあげるのがマネジメントの重要な仕事だと思っています。
-個人ミーティング(1on1)で意識していることは何なのでしょうか?
坊垣氏:ちょっと言葉だけだと説明しづらいのですが・・・例えば個別の失敗があった時にそれを指摘し続けても意味があまりないんですよね。例えば昔、最後の最後でどうしても手を抜いてしまうメンバーがいました。普段はやる気があるのに、最後までやりきれない。
ここで普通のマネージャーだと、「なんで最後までできないんだ!」と指摘をしてしまうと思うのですが、これではその時は解決したように見えても、本質的なところは解決されずまた再発してしまいます。そしてこういうことが長く続くと、お互いの信頼関係を崩してしまうことにもなりかねない。
大切なのは、なぜそうなってしまうのか、という本人も気づいていないようなマインドの部分まで一緒に考えてあげることなんです。いわゆる原体験、ですが、このメンバーの場合は掘り下げていくと、「全力を出したのに結果につながらなかったらどうしよう」という恐怖感があった。無意識のうちに言い訳づくりをしてしまっていたんですね。
これに気づいてからは一気にパフォーマンスは向上し、今でも活躍してくれています。
ポイントは事象の指摘ではなく、その事象の裏に隠れているマインドは何なのか。これを一緒に掘り下げて上げることだと思います。
■まとめ
マクアケはサイバーエージェント発のスタートアップの中でも郡を抜いて成長を続けており、オフィスは活気に満ちていました。従業員のマインドやモチベーション、コンディション管理には早くから取り組んでおり、Geppo(ゲッポウ)の導入もかなり早いタイミングで決断してもらっています。
スタートアップはどうしてもビジネスモデル先行で経営をしてしまいがちですが、こういった目標設計や1on1など、人と向き合った組織施策が中長期的な強みにつながってくるのです。