従業員のエンゲージメントを高めることで、企業の組織力強化や生産性向上に役立ちます。今回は、従業員のエンゲージメントを高める方法や事例をご紹介します。
■従業員のエンゲージメントとは
まずは、企業において従業員エンゲージメントが必要とされるようになった背景や従業員エンゲージメントを高めることで得られるメリットについて確認しましょう。
●従業員のエンゲージメントとは
従業員のエンゲージメントとは、会社の目標や戦略を理解したうえで、従業員が会社に対して愛着を持ち、信頼を抱いている状態で、従業員が自発的に貢献しようという意欲を表す指標です。従業員エンゲージメントを構成する具体的な要素として、次の3つが挙げられます。
○会社の方向性に対する理解
会社が目指している方向性を従業員が理解し、それを正しいと信じることが要素の1つです。同じ方向に向かって進んでいこうと従業員が思えれば、従業員エンゲージメントの向上につながります。
○帰属意識
会社に対する帰属意識があり、会社に対して誇りや愛着心を持っていることも重要です。愛社精神や思い入れがあることにより、従業員自身が会社に所属しているという意識を高められます。
○行動意欲
会社から求められている仕事はもちろん、それ以上のことも進んで行おうとする意欲を従業員が持っていることも要素の1つです。あくまで強制ではなく、従業員が進んで行動したいと思うかどうかがポイントです。
●従業員満足度との違い
従業員エンゲージメントが注目される前は、「従業員満足度」が注目されていました。しかし、従業員満足度は、従業員が会社や仕事、職場環境や人間関係に対して、どの程度満足しているかというものです。
従業員満足度は、従業員が自発的に行動して会社の業績に影響を与えるなどといった会社との関係性は明確にはありません。そこで、次第にその関係性を示す指標である「従業員エンゲージメント」が取り上げられるようになりました。
○従業員エンゲージメント:
従業員が会社の目指している方向性を理解し、会社や職場、同僚などとの人間関係に価値を感じて、会社に対して積極的に貢献したいと考えているかを示す指標
○従業員満足度:
従業員が、会社や仕事、職場の環境や人間関係などにどのくらい満足しているかを示す指標
●従業員エンゲージメントが必要とされるようになった背景
日本の従業員エンゲージメントは、多くの国際調査で10年以上もの間、諸外国と比べて低いと指摘されています。それ以前の日本では、終身雇用制度や年功序列の給与体系により、勤続することで確実に安定を得ることができ、勤めている会社に貢献しようという従業員が多く存在し、従業員エンゲージメントが高い状態でした。わざわざ会社が従業員エンゲージメントを高める施策を重視する必要もなかったのです。
しかし、バブル崩壊やリーマンショックといった経済の危機を経たことで状況は一変しました。非正規雇用や中高年の退職勧奨、賃金のカットが多くの会社で行なわれるようになり、従業員は会社に長く勤めても、安定が得られなくなったのです。新卒で入社した会社で一生懸命仕事をすれば、定年まで働け、安心した老後を迎えられるという時代ではなくなりました。
会社側も単純に従業員の満足度を上げるだけでは十分でなくなり、従業員エンゲージメントを重視し、エンゲージメントを高める施策を取り入れ、積極的な貢献を引き出す必要が増えてきたのです。
仕事内容や人間関係などを充足させて生涯の雇用を約束する時代から、会社の目指している方向性を共有し、従業員それぞれが積極的にベストなパフォーマンスを発揮してもらうためにエンゲージメントが必要な時代となったのです。
●従業員エンゲージメントを高めるメリットとは
近年、従業員エンゲージメントを重視するようになってきたのは、従業員エンゲージメントを高めることで会社がさまざまなメリットを得られることがわかったからです。ここからは、従業員エンゲージメントを高めることにより、得られるメリットを確認しましょう。
○離職率の低下
従業員エンゲージメントが高いということは、会社に思い入れを持って勤務する従業員が多いということです。人材の流動性が高い現代において、会社への愛着心を強めることは離職率の低下につながります。今後少子高齢化に伴う労働力人口の低下により、人材の確保はますます重要な課題となります。従業員に愛着心を持ってもらい、離職せずに長く勤めてくれる人材を確保することが大切です。
○生産性向上
従業員エンゲージメントを高めることで、生産性の向上にもつながります。自発的に会社に貢献しようという意欲を持つ従業員は、自ら能力開発に勤しみ、会社の業績を高めようとします。この関係は、モチベーションエンジニアリング研究所が行なった従業員エンゲージメントに関する研究からもわかります。同社の研究では、従業員エンゲージメントは、生産性や営業利益にプラスの影響をもたらすという結果が出ています。
○組織力強化
会社を形作っているのは、すべて「人」の活動によるものです。したがって、従業員エンゲージメントを高めることで、組織力の強化につながり、会社の成長が促されるというメリットを得らます。
時代の変化とともに必要とされるようになった従業員エンゲージメントは、会社への愛着心を強め、離職率を下げ、従業員が自発的に貢献することで生産性も高まり、そして組織力を強化するというメリットをもたらします。自社の成長のために大切な従業員エンゲージメント。人事担当者としては、自社の従業員エンゲージメントの高さが気になるところです。次に従業員エンゲージメントの調査方法についてご紹介します。
■従業員のエンゲージメントの調査方法と高め方
まずは、従業員エンゲージメントの調査方法をご紹介します。
●従業員エンゲージメントの調べ方
従業員エンゲージメントを調べるには、アンケート調査を行います。アンケート調査は、頻度や質問数の違いによって大きく2種類に分けられます。
○アンケート調査
従業員エンゲージメントを調べるためのアンケート調査の例として、「エンゲージメントサーベイ」や「パルスサーベイ」が挙げられます。
エンゲージメントサーベイ
調査頻度は少ない代わりに、質問数は多くなっています。会社を誇りに思っているか、会社の目標や戦略を理解しているかといった包括的な内容を問う質問が多いのが特徴です。
頻度:年次(半年に1回~2年に1回程度)
質問数:50~100問程度
パルスサーベイ
調査は高頻度で行なわれるため、設問数は少なくなっています。2~3分あれば回答が完了します。頻繁に調査することで、現在の状況や満足度を詳しく知れるのが特徴です。1日を振り返ったときの気分や上司のサポート体制などを細かく把握できます。
頻度:日次(1日に1回、1週間に1回、1か月に1回)
質問数:1~10問程度
○指標について
従業員エンゲージメント調査の指標として、近年注目されているのがeNPSと呼ばれるものです。eNPS(Employee Net Promoter Score)は、仕事のやりがいや会社への愛着、業務に対する満足度など従業員の意識を数値で把握できます。数値で表すことで、自社の従業員エンゲージメントが可視化され、把握や比較がしやすくなります。
eNPSは、従業員のコンディション変化発見ツール『Geppo』でも把握できます。『Geppo』では、基本の「仕事満足度」「人間関係」「健康」の3つの質問とフリーコメントのほかに、4問目の追加質問としてeNPSの設問を設定できます。これらの質問に回答した従業員のデータを、Geppoのオペレーターが分析してレポートを作成し、人事担当者にお渡しします。
●従業員エンゲージメントを高める方法
従業員エンゲージメントの度合がわかったところで、自社の従業員エンゲージメントを高めるために人事担当者ができることをご紹介します。
○従業員の価値観の把握
多様性を尊重し、従業員一人ひとりの価値観を把握し、理解することで、従業員エンゲージメントは高まります。
<アプローチ例>
・上司が部下にキャリアカウンセリングやコーチングを行いながら従業員の価値観を理解します。1対1で話しやすい環境を作り、定期的に相談や指導に対応するようにしましょう。従業員は自分のキャリア形成について、会社や上司が支援してくれると理解します。
・子育て中の従業員には、育児休暇や時短勤務などの制度をつくったり、現場でもサポートする雰囲気を出したりする取り組みを行いましょう。従業員は、作業的にも心理的にも会社や同僚からサポートしてもらえると感じます。
○リーダーシップの発揮
上司や管理職員がリーダーシップを発揮することが必要です。会社に貢献するための道へ従業員を誘導することが求められます。
<アプローチ例>
・チームが目指すべき先を示して、明確な目標を与える、協力体制を促す研修を行うといった方法が効果的です。会社のミッション・ビジョンに共感して、従業員を導くことで、存在意義や帰属意識を持たせられます。
○タレントマネジメントの活用
従業員を適材適所に配置するタレントマネジメントによっても従業員エンゲージメントを高められます。人は誰しも得意分野と苦手分野を持っており、得意分野の業務に従事することで満足度や生産性を高めらます。
<アプローチ例>
・従業員の能力が発揮されるポジションに配置し、成果を出してもらい、適切に評価するというのも一つの方法です。適切な人事評価がされることにより、従業員は会社に貢献していると感じ、エンゲージメントが高まります。
従業員のエンゲージメントを高めて満足して働ける会社を目指す
従業員エンゲージメントが高く、仕事や会社に満足し、愛社精神を持ちながら自社に貢献しようと行動することで、離職率の低下や組織力の向上につながります。従業員の価値観の把握やタレントマネジメントの活用を行うことでさらに従業員エンゲージメントは高められます。