せっかく苦労して社員を採用しても、「すぐに辞めてしまうことが多い」「なかなか定着してくれない」など、社員の退職について悩んでいる会社は少なくありません。離職率が高い企業と低い企業との間には、どのような違いや傾向があるのでしょうか。まずは離職率の定義から詳しく紹介していきます。
■離職率とは
そもそも離職率というのは、どのようなものなのでしょうか。厚生労働省によると、年初にいた労働者がどれ位の割合で辞めたのかを示す指標であると定義しており、計算式としては「離職率 = 離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数×100(%)」となります。
たとえば、年初に労働者数が100人いてそのうち5人が辞めてしまった場合、離職率は5%となります。同省の調査によると、平成29年度の日本の企業の離職率は14.9%と公表をしており、ここ数年はおおよそ15%前後で推移しています。
多様な働き方が推奨され、人材の流動性も高まる中、離職率が高いことがすなわち悪いことではありません。しかしながら離職率が低い理由は何なのかを考え議論することは、良い会社を作るための第一歩となり得るほど重要なことなのです。
■離職率が高い業界と低い業界の特徴と原因
離職理由について深く考察していくために、業界別の離職率ランキングをまずは見ていきましょう。離職率が高い業界にはいくつかの特徴があるのです。
●業界別離職率ランキング
厚生労働省の「平成29年雇用動向調査結果の概況」によると、離職率が高い業界・低い業界のランキングは次の通りです。
<離職率が高い業界>
1位 宿泊業・飲食サービス業 30.0%
2位 生活関連サービス業・娯楽業 22.1%
3位 サービス業 18.1%
<離職率が低い業界>
1位 複合サービス事業 7.7%
2位 建設業 8.4%
3位 製造業 9.4%
●離職率が高い業界の特徴
離職率が高い業界のトップ3は、「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」「サービス業」となり、「高離職率」の観点から、これらの業界にはいくつかの共通項が存在します。
特徴1 不規則な就業時間、休日の取得困難さ
特徴2 顧客接点において発生するストレス
特徴3 低い賃金と将来への不安
まず第1に「勤務時間が不規則」であるという点です。これらの業界・業種は大型連休や土日祝日が繁忙期にあたることが多く、カレンダー通りに休日が取りづらくなる傾向があります。また24時間営業の業態においては、始業時間が早朝であったり、終業時間が深夜にまでおよぶことがあり、非常に身体的負荷も高いと言えるでしょう。
またビジネスの性質上、常に顧客・消費者との接点にさらされるのもこの仕事の特徴です。お客様から「ありがとう」と感謝されることがやりがいにつながる一方、クレーム対応など非常にストレスがかかる側面もあり、精神的な疲労の蓄積に繋がります。
さらに同省の「平成29年賃金構造基本統計調査の概況」によると、正社員の賃金は低い順に「宿泊業・飲食サービス業(262.5千円)」「サービス業(285.3千円)」「生活関連サービス業・娯楽業(285.7千円)」となっており、他業界に比べて給与水準が低い傾向にあります。
こうした特徴があるがゆえに、経営者はこうした前提に立った働き方改革に踏み出さなければなりません。
●離職率が低い業界の特徴
一方、離職率が低い業界の特徴としては、1位は郵便局や協同組合といった組織としての規模が大きく安定性のある業態を指す複合サービス事業、2位には土木や建築にかかわる工事を請け負う建設業、3位に原材料を加工して製品を生産する製造業となっています。比較的歴史のある企業群が多く、その分長時間労働の抑制や福利厚生の充実にいち早く取り組んでいることが考えられますが、一方で他業界に比べ賃金がとりわけ高い業界ではありません。
少し視点を絞って、企業単位で考えてみましょう。
東洋経済新報社の『CSR企業総覧』2018年版のデータを見てみると、社員数が1,000人以上の会社で離職者の低い会社ランキングは下記のとおりです。TOP10を見渡すとそのほとんどが製造業、建設業となります。
1位 北川鉄工所 7人
2位 大日精化工業 9人
2位 三井不動産 9人
2位 エフ・シー・シー 9人
5位 ダイヘン 11人
6位 日本曹達 12人
7位 ツムラ 13人
7位 不二製油グループ本社 13人
7位 三機工業 13人
7位 キッツ 13人
7位 小林製薬 13人
1位の北川鉄工所、同率2位の大日精化工、三井不動産、エフ・シー・シーは1年間を通じて退職者は10人以下と0.6%~0.8%の離職率でした。算出方法に違いはあるため単純比較はできませんが、それでも冒頭の厚生労働省公表の離職率14.9%と比べると驚愕の水準であることがわかります。
調査データやランクインした各企業のコーポレートサイトから特徴を探っていくと、「仕事と家庭の両立支援」「有給休暇の取得奨励」など社員の働きやすさを考えた仕組みづくりや、人材育成のための「研修制度」に力を入れていることがわかります。つまりビジネスモデルや構造上の問題によって離職率は左右される一方、福利厚生の充実や、社員の成長・教育への投資を増やすことによっても離職率は変わってくるということです。
会社の成長には社員の成長が不可欠であり、社員を財産ととらえ大切にしている企業であるといえるのではないでしょうか。
■新入社員(3年以内)の離職率
厚生労働省の調査「新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況)」によると、大卒者における新入社員の3年内離職率は、31.8%という結果でした。なお、高卒採用者においては、39.3%とさらに高い割合となっています。
決められた期間の中で高卒や大卒の求人活動を行う「新卒一括採用」は、学生を集客するためにかかる費用、選考の会場費用や人的費用、内定後のフォローアップなど、入社前に多大なる費用がかかっています。
また、入社後も長期にわたり研修を行い早期戦力化をはかるために投資をしており、戦力となる前に離職されては、採用や人材育成にかけた費用を回収することができません。そして、新たに人を採用するために追加費用が発生します。新入社員の早期離職は、教育コスト改修の観点、そして追加採用コストの発生の観点、双方から見て食い止めるべき対象なのです。
社員との対話を通じて働きやすい環境を構築し離職率を抑えよう
離職率が高い事自体は、必ずしも悪いことではありません。転職してキャリアアップする、独立・起業をするという考えが浸透している業界は離職率が高い傾向にあります。また社員の平均年齢が高い場合は、定年退職の影響を受けていることもあるでしょう。
しかしながら離職率が高くなり、その離職の理由が業務や人間関係のストレスに起因するものであれば、中長期的には企業イメージの低下や、それに紐づく採用力の低下などの悪影響につながる恐れがあります。
離職率の高低だけにとらわれず、良い会社を作っていくためには、なぜ自社の社員は辞めてしまうのか、どんな不満を抱えて離職の決断に至るのか。その本当の理由、原因に常に敏感にある必要があります。
そのためには、経営陣が心の底から「人が重要」であることを認識し、その才能を開花することができる制度や仕組みの構築はもちろんのこと、日頃から密にコミュニケーションを取り、本音が言い合える職場環境を作っておくことが大切となってきます。最近では従業員のヒアリングシステムとして「Geppo(ゲッポウ)」を活用し、定期的に現場の生の声を広い、経営に活かす事例も増えてきています。
ぜひ自社の離職率を下げる対策を練ってみてはいかがでしょうか。