カテゴリー: 人事基礎知識

パーパスブランディングとGeppo2019年に入り、ソニーが長期的な視点で社会価値を創出するために「パーパス(存在意義)」という言葉をはじめて使用しました。この記事では企業が自社の考えやサービスに込める思いを示すために使用するパーパスという言葉について説明します。

また、実際にパーパスを用いてブランディングを行う企業の事例についても紹介し、企業が重要視しているメッセージがブランディングやプロモーションにどのように表れるのかを考えていきたいと思います。

①パーパスとは?

purposeという言葉を辞書で調べると、多くの場合、「目的」と訳されています。しかし、パーパス・ブランディングにおけるパーパスという言葉が持つのは「存在意義」という意味合いです。

パーパスは、「なぜその企業/ブランド/サービスが存在しているのか」を示すものであり、現在のありかたをベースに企業の考え方を言語化したものです。このメッセージがうまく顧客に伝われば、顧客は商品やサービスに対してより高い価値を感じられるようになります。

また、企業の内側にいる従業員は、パーパスによってその会社で働くことや商品の生産・サービスの運営に関わることに、より大きなやりがいや意義を感じられるようになりなります。企業はパーパスを通じて、顧客や従業員と重要な価値観を共有し、信頼関係を構築することができるのです。

そしてこのように、企業が今大切にしている考えや思いを社内外に発信し、共感者を獲得していくことをパーパス・ブランディングと呼びます。

②パーパス・ブランディングを行うことで得られるもの

パーパス・ブランディングは、商品やサービスのメリットよりも企業の考え方を前面に押し出すものです。そのため、ブランディングでありながら、利益と直結せず、相反する場合もあります。ブランディングは本来利益拡大のための行動であり、この点が企業が従来発信してきたメッセージとは異なるものです。

昨今では、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたように、利益を求めることだけが企業活動・経済活動とされているわけではありません。

耳触りのよいプロモーションを行うのではなく、時に自社よりも社会やより大きな共同体の中で意義を果たすこと、また、本業を通じて社会貢献を行うことをパーパスとして掲げ、実際に行っている企業にこそ消費者からの支持が集まるのです。


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  • これまでのメッセージとの違い

企業はそれぞれに独自の考え方を持ち、顧客や従業員、社会全体と共有しようとしています。これまでそのような考えは「理念」や「ビジョン」、「バリュー」といった言葉で言語化されてきました。

しかし、近年様々な表現の中で「パーパス」という言葉を選ぶ企業が増えてきています。それは、私たちの身の回りに、モノやサービスがあふれているからではないでしょうか。

企業が「なぜその商品を作ったのか」、「そのサービスにどんな思いをこめているのか」を伝えようとするだけでなく、私たち消費者も商品やサービスに存在意義や存在理由を求めているからだと考えられます。

私たちは多すぎる選択肢から納得できるものを選ぶために、商品・サービスにこめられた思いや考えといった企業の独自性を必要としているのかもしれません。そしてこのような消費者と企業の間をつなげるのがパーパスなのです。

③グローバル企業のパーパス・ブランディング事例

近年、様々な場面で「パーパスは長期的な事業成長に必要なもの」、「有名企業はパーパスを定め、ブランディングに活用している」という認識が広まりを見せています。Webで「パーパス」もしくは「パーパス・ブランディング」と検索すれば、様々な企業のパーパスが紹介されています。

興味深いのは、パーパスに基づくプロモーションによって企業が一時的に利益を損なった事例も含まれていることです。企業にとって、パーパスは一時的な利益よりも重要なものであるということを示す1つの事例を紹介します。

●ネガティブな反響を呼んだナイキのメッセージ

世界的スポーツ用品メーカーのナイキは、2018年に「Just do It.」というスローガンの採用から30周年を迎えました。この年ナイキは「DREAM CRAZY」というプロモーションを展開。そのなかで、アメリカのプロフットボールリーグ(NFL)で活躍していたコリン・キャパニック氏を広告に起用しました。

キャパニック氏は2016年の公式戦で、人種差別に抗議するために国歌斉唱中に膝まずく姿勢を示し、多くの議論を巻き起こした結果、NFLを追放されることになりました。ナイキはこのような背景を持つキャパニック氏を起用し、下記のようなメッセージを発信したのです。

NIKE パーパス<出典>https://news.yahoo.co.jp/byline/kawajirikoichi/20190719-00134845/

 

Believe in something. Even if it means sacrificing everything.

<筆者訳>信じ抜け。たとえ全てを犠牲にしても。

 

このプロモーションはアメリカでナイキ製品の不買運動を巻き起こし、一時的にナイキの株価を3%低下させます。ナイキはなぜこのようなマイナスと捉えられてしまうプロモーションを行ったのでしょうか。

●ナイキの姿勢を示すパーパス

ナイキがキャパニック氏を支持するプロモーションを行った背景にあるのは下記のような同社のパーパスです。

NIKEのパーパス<出典>https://purpose.nike.com/

 

<ナイキのパーパス>Our purpose is to unite the world through sport to create a healthy planet, active communities and an equal playing field for all.

<筆者訳>私たちのパーパス(存在意義)は、スポーツを通じて世界を結束させること。それはすべての人々にとって健全な星をつくり、活発な共同体をつくり、そして平等な競技場をつくることである。

 

さらにナイキのパーパスについて読み進めていくと、「Standing Up For Equality(平等のために立ち上がる)」や「Breaking Barriers Through Sport(スポーツを通じて障壁を打ち壊す)」というメッセージがあり、同社が「平等であること」を重要視していることがわかります。

NIKEのパーパス-1<出典>https://purpose.nike.com/standing-up-for-equality

●プロモーションのその後

上記のパーパスのもと、ナイキはNFL公式戦で人種差別問題を訴えたキャパニック氏を支持しました。ナイキは一時的に株価を下げ、利益を損なうことになりますが、このプロモーションはのちに多くの人々の共感を呼びます。

SNSで多くの有名人や一般ユーザーがナイキのメッセージに対して支持を表明。結果的にナイキの株価はV字回復を見せ、史上最高値を記録したのでした。そして、このようなプロモーションは国際的なクリエイティブの祭典「カンヌ・ライオンズ」でも評価されることになります。

キャパニック氏の起用を含む、ナイキが行った一連のプロモーション「DREAM CRAZY」は2019年にカンヌ・ライオンズのアウトドア部門でグランプリを獲得。このことは一時的な利益を損なってでも、パーパスを貫くブランディングが有効であるということの証明になるでしょう。

 

<参考>

https://www.canneslions.com/about/news/cannes-lions-2019-first-winners-announced

https://forbesjapan.com/articles/detail/28134/1/1/1

●その他の企業のパーパスについて

パーパスは必ずしも「長期的な成長のために一時的な不利益をとる」ためのものではありません。ナイキの例から読み取れるのは、世界中で消費者に支持される企業はパーパスにそれほどまでに重要なメッセージを込めていること、そして、正しいメッセージは最終的に多くの共感を得るということです。

次にその他の企業が掲げるパーパスについて、着目してみましょう。それぞれの企業が掲げるパーパスからは、異なるメッセージを読み取ることができます。

●パーパス・ブランディングの例(ネスレ)

ネスレのパーパスブランディング<出典/上記画像および下記パーパス>https://www.nestle.co.jp/aboutus

 

ネスレのパーパスは「ネスレは、創業者アンリ・ネスレの精神を受け継ぎ、栄養を中心としたネスレの価値観に導かれ、生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献する製品、サービス、知識を個人と家族の皆さまにお届けするためにパートナーとともに取り組みます」というものです。

同社の公式サイトでは「持続可能な開発目標(SDGs)」と連動する長期目標の前に上記パーパスが掲げられています。同社が様々な食品を取り扱い、世界中に供給する事業を通じて社会に貢献する姿勢が表れているといえるでしょう。

●パーパス・ブランディングの例(ソニー)

ソニーのパーパスブランディング<出典/上記画像および下記パーパス>https://www.sony.co.jp/SonyInfo/

 

記事冒頭でも紹介しましたが、ソニーが初めてパーパスという言葉を用いたのは2019年になってからのことです。2018年4月に就任した吉田憲一郎社長が、ソニーのパーパスとバリュー(価値観)を再定義するために、海外を含む社員の意見を聞いて、2019年1月に社内外に発表したのでした。

パーパスの具体的な表現は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というもの。「パーパス」という言葉を用いたのは、社員が同じベクトルで業務に取り組めるように考慮した際に、1番フィットすると考えたからだといいます。

そのような経緯があることもあり、この短いパーパスは社外だけでなく、社内の仲間に対しても重要な共通価値として、認識されているそうです。ソニーはこのパーパスを従業員が結束するための共有できる考え方として活用していると考えられます。

▼ソニーのパーパスについての詳しい情報は下記をご覧ください。

http://www.alterna.co.jp/28418

●パーパス・ブランディングは企業の姿勢を示すもの

上記のようなパーパス・ブランディングは売上やシェアがどのくらいあがったかというような直接的に効果を計測しにくいものでしょう。しかし、紹介した3社はそれぞれの分野で際立った存在感を示す企業です。

パーパス・ブランディングを行う意味は企業の姿勢を示すことであり、その姿勢は顧客や従業員を潜在的に引き付け、賛同者にするものなのかもしれません。

④まとめ

今回はパーパス・ブランディングの広まりに注目しました。パーパスは企業が大事にしている考え方を示すものであり、そこで働く人や商品・サービスを選ぶ消費者にとって、選択の指針となるメッセージです。

様々な商品を手軽に購入できる現在の社会で、モノを選ぶ理由を提供するパーパス・ブランディングが浸透していくことは、企業にとっても消費者にとっても自然な流れなのかもしれません。

そして、「どんな思いを込めて商品・サービスを作り、提供しているのか」という要素は、働き手にとっても企業選びの重要な基準です。パーパス・ブランディングは社内外に支持者を増やす役割を果たすものだといえるでしょう。


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