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少子高齢化に伴い、今後ますます労働力が不足していくことが予想されます。そうした状況下において離職率の高い企業は今後ますます人手不足におちいる可能性があります。

では、離職率を下げるためにはどんなことが有効なのでしょうか?

 

人事担当者ならぜひ知っておきたい、離職率を下げるための6つの対策について解説していきます。

 

そもそも「離職率」とは?

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はじめに、離職率の定義と計算方法について解説します。

離職率とは、ある時点の企業の在籍人数に対して、一定期間(一般的には1年から3年程度)のうちにどれだけの人が離職したかを示す割合のことです。

ただし、離職率の算出に使用する期間について、法的に定められた定義はないため、一概に「離職率」で企業を比較することはできません。

企業によっては、後述のパターン2,3のように、「離職率」の計算の対象が新規入社社員のみとされているケースなど、自社にとって都合のいい条件で算出している場合もあるため、定義の確認が必要です。

 

離職率の算出条件によって見え方が異なる例を3パターン挙げますので、見比べてみましょう。

 

●パターン1:特定の1年間に離職した社員の割合を計算

社員100名の企業で、ある年の起算日(年度初め)までに1年間で10名が退職。

計算式は、期間内に新たに採用した人数を含めず、「起算日から1年間の離職者数÷起算日の在籍者数×100」と定め、10名÷100名×10010となり、離職率は10%となります。

 

●パターン2:新卒社員が3年以内に離職した割合を計算

社員100名の企業で、新卒社員を10名採用。3年以内に5名が退職した場合、「5名÷10名=50」となり、離職率は50%となります。

 

●パターン3:過去5年間において、中途社員が1年以内に離職した割合を計算

社員100名の企業で、2010年から2015年までの5年間にかけて計10名を採用。

そのうち5名が1年以内に離職したとすると、5名÷10名=50となり、離職率は50%となります。

このように、離職率の計算にはいくつかの計算方法が用いられており、計算方法によって結果が大きく異なるので、数字だけにとらわれないよう注意しましょう。

なお、厚生労働省は離職率を「常用労働者数に対する離職者の割合」と定義しているため、これに則って計算するのであれば、パターン1の計算式を使うことになります。

 

業界によって離職率に差はある?

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離職率は、業界によっても大きく異なります。

厚生労働省が公表している「雇用動向調査結果の概要※」によると、令和2年上半期における(業界横断で算出した)離職率は8.5%です。

これを業界ごとの離職率で見てみると、業界によって大きな差があることがわかります。

 

≪主な業界ごとの離職率≫

鉱業・採石業・砂利採取業:2.9%

建設業:4.8%

製造:5.1%

電気・ガス・熱供給・水道業:7.9%

運輸業・郵便業:8.0%

不動産業・物品賃貸業:8.1%

医療・福祉:8.8%

宿泊業・飲食サービス業:15.3%

教育・学習支援業:12.2%

生活関連サービス業・娯楽業:10.2%

 

離職率が全体平均8.5%と比べて特に低いのは、離職率2.9%の鉱業・採石業・砂利採取業や離職率4.8%の建設業、離職率5.1%の製造業でした。

建設業や製造業においては、需要が伴えば業務内容としては比較的安定している業種・業態のため、安心して働き続けられるという点で、離職率の低さに影響していると考えられるでしょう。

一方、離職率が高いのは、離職率15.3%の宿泊業・飲食サービス業や、離職率12.2%の教育・学習支援業、離職率10.2%の生活関連サービス業・娯楽業などです。

これらは、一般消費者を相手とする対面接客を基本とするため、クレーム対応を余儀なくされるなど気を遣う場面が多く、ストレスが溜まりやすい仕事の一つです。

それ相応の待遇が保証されていればよいですが、そうではない場合も多いため、離職率が高くなる傾向にあるといえるかもしれません。

 

また、離職率が低い業界と高い業界を比べてみると、離職率が高い業界のほうが、アルバイトやパート採用が多い業界であるといえるでしょう。

その点も、人の入れ替わりが激しくなる一つの要因として考えられます。

 

※厚生労働省「令和2年上半期雇用動向調査結果の概況」P13 図3-1

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-1/dl/gaikyou.pdf

 

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離職率が高い=企業にとって悪い?

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短期間で離職する、離職せざるを得なくなることは働き手にとって大きなデメリットですが、企業側にはどんなデメリットがあるのでしょうか? 

主なデメリットは以下です。

 

●ブラック企業とみなされがち

どれだけ働きやすい環境であっても退職者はいるものなので、離職率はあくまでも指標の一つでしかありません。

しかし、中には「離職率が高い=ブラック企業」という印象を持ってしまう人もいます。

つまり、離職率が高いイメージがついてしまうと「求職者から選ばれにくい企業」になってしまうリスクがあるといえます。

 

●採用・教育にかかるコストがかさむ
人材が減れば、それを補うために新たな人材を雇うことが必要になります。

人材を募集するとなると、求人誌や求人サイトへの掲載費や、採用決定時の成功報酬といったコストがかかります。

また、採用した人材の研修や教育に伴う大きなコストが都度かかることになります。

 

●ノウハウなどが流出する恐れがある

離職した社員が競合他社に転職すれば、転職先で、自社で培ってきたノウハウを流出してしまう恐れがあります。

 

「どんどん育てて社員の独立を支援する」という会社や、「優秀な社員だけ会社に残ればOK」という会社でない限り、離職率が高いことは企業にとってデメリットが大きいことがわかると思います。

もちろん、結婚や出産などによるライフステージの変化、またはキャリア観の変化などにより離職する人もいるので、離職率0%を達成することは現実的ではありません。

ただし、同業他社と比較してあまりにも離職率が高い場合には、離職率を下げるための対策を講じることが有用です。

 

離職率を下げるための6つの対策

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厚生労働省が公表している「雇用動向調査結果の概況※」によると、離職者が辞めた理由としては、契約期間満了などを除くと、男性は出向や「給料等収入が少なかった」が最も高く9.7%。女性は「職場の人間関係が好ましくなかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」がともに 12.5%で最も高いことがわかります。

 

この結果も踏まえたうえで、離職率を下げるために有効な6つの対策について解説していきます。

 

労働時間の見直し

前述のとおり、労働時間や労働条件が女性の退職理由の上位となることがわかりました。

個々人やご家庭の事情にもよりますが、家事や育児との両立が難しいケースが出てくるのかもしれません。

労働時間を理由とする退職者が続くことを防ぐためにも、社員の業務量が適切であるかどうかを適宜見直すことはとても大切です。

どれくらいの業務量をこなせるかは個人の能力やスキルにもよるので、一人ひとりの適性を見極めながら、定時内で終えられる業務量に調整していくことを心がけましょう。

 

 

ただし、適性を見極めた結果、仕事ができる社員にばかり業務が集中してしまうこともよくありません。

一人で大量の仕事を抱えていることによる業務量の不公平感を理由に退職する人が出てくる可能性もありますし、そうなると一気に業務が回らなくなることが考えられます。

 

一部の人材に大きな負担が集中するのを防ぐために、AI(人工知能)やRPARobotic Process Automation)、IoTInternet of Things)といったテクノロジーを積極的に取り入れるのも一つの手段です。

導入にいたるまでには、コスト面などでさまざまなハードルがあるかもしれませんが、結果的に業務が効率化されて生産性も向上し、人がより働きやすい環境にできる可能性があります。

 

人事担当者や上長との1on1面談を定期的に実施する

職場内の人間関係や待遇など、働くうえでの悩みはさまざまですが、誰にも相談できずに一人で思い悩んだ結果、退職にいたるケースは意外と多いものです。

本人が「退職」という結論を出してしまった後では手遅れですが、まだ悩みの浅いうちであれば打開策を見つけてあげられる可能性もあります。

そのために役立つのが、人事担当者や上長との定期的な1on1面談です。

いうまでもなく、面談においては、悩みを相談しやすい雰囲気づくりを心がけることがとても大切です。

 

相談窓口の設置、各種ハラスメント防止のための研修実施

上司や先輩社員のパワハラやセクハラに耐えきれず、退職する人も中にはいます。

上司や先輩社員にハラスメントの意識がなくても、そうした行為を受けた側、言葉を浴びた側がハラスメントだと感じる場合も少なくありません。

このようなハラスメント被害や加害を防ぐためには、相談窓口を設置することと併せて、ハラスメント対策のために研修を行うことが望ましいでしょう。

研修を行って、「こういう言動はハラスメントととらえられる可能性がある」という共通認識を社員全員が持つことができれば、「そんなつもりではなかったのに」というケースも減ってくるでしょう。

 

 

また、相談窓口を設置すれば、人事担当者や上長に直接伝えにくいことも相談できるので、問題の早期発見・解決につながりやすくなります。

 

人事制度の見直し

コロナ禍によってテレワーク(リモートワーク)が推進されていることもあり、働き方の多様性について考える企業が増えています。

また、男性の育休を取り入れている企業に注目が集まるなど、働く側も、自分たちの生活に合った働き方ができるかどうかを厳しくチェックする時代に突入しています。

育児休暇や介護休暇などの休暇制度のみならず、時短勤務やフレックスタイム制なども取り入れている会社であれば、離職率は自ずと低くなるはず。

子育てや介護に限らず、さまざまな事情を抱えた人がいることに目を向け、人事制度を見直すことが今後ますます重要になってくるでしょう。

 

また、人事制度の整備と併せて考えるべきなのは、「制度の利用のしやすさ」。

育児や介護を支援する制度があるものの、実際にその制度を利用する人がほとんどいない、利用しようとすると上司や同僚に白い目で見られる、あるいは制度を利用したことによって待遇が下がったりするようでは、制度を設けている意味がありません。

「利用しづらい」といった声が上がることのないよう、制度が利用しやすい仕組みづくり・社内風土の醸成をしていくことが望ましいでしょう。

 

評価基準の明確化

給与をはじめとする待遇に不満がある場合、転職を考えるのは自然なことです。

中でも、「こんなにがんばっているのに評価されない」「自分より仕事をしていない人のほうが高い給与をもらっているのはなぜ?」といったストレスは、転職への大きな引き金となりえます。

有能な社員の突然の退職を防ぐためにも、明確な評価基準を設けて、待遇について納得してもらうことが重要です。

評価する側の裁量によって社員の評価が決められている場合などは、明確なルールを設けることが重要です。

また、上長や経営陣の評価に加えて、同僚や部下などの評価も加味するなど、客観的かつ公平な評価制度を取り入れていくのも一つの手といえるでしょう。

 

評価基準を明確化することは、離職率を下げることにつながるだけでなく、社員のやる気を引き出すことにもつながります。

あいまいな評価基準や時代にそぐわない制度が残っている場合には、早期に見直すことをおすすめします。

 

人材育成制度の整備

働く理由について、「生活のため」と割り切っている人もいますが、そうではなく、「仕事が生きがい」という人もいます。

そうしたモチベーションが高い社員が退職や転職を考えるようになる理由には、「自分の能力や個性を活かせない」「やりがいのある仕事を任せてもらえない」というものがあるかもしれません。

また、資質があるのに十分な研修を受けずに現場に出た結果、顧客からクレームを受けたり、上司から叱責されたりして、やる気を失ってしまうケースもあるかもしれません。

そうした事態を防ぐためにも、人材育成の体制を整えていくことが大切だといえます。

 

多様化が重視される現代社会において、誰にとっても働きやすい環境を整えるためには、一人ひとりがどんな悩みを抱えていて、企業側にどんなことを求めているのかを知ることがとても重要です。

社員一人ひとりをきちんとケアすることは、離職の防止に効果を発揮すると同時に、仕事へのモチベーションアップ、さらには企業の業績向上にもつながっていきます。

 

まずは、離職率を課題発見の一つの切り口として、調査および競合他社と比較してみるのがよいかもしれません。

 

※ 厚生労働省「令和2年上半期雇用動向調査結果の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-1/dl/gaikyou.pdf

 

【監修者プロフィール】

 

吉田 寿

HRガバナンス・リーダーズ株式会社 

指名・人財ガバナンス部 フェロー 

BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ

 

早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。

富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパル、ビジネスコーチ常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを経て、202010月より現職。

“人を基軸とした企業変革の視点から、人財マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織・人財戦略コンサルティングを展開。

中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2008年~2019年)。

早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

主要著書『働き方ネクストへの人事再革新』(日本経済新聞出版)等多数。

 

 

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